学位論文要旨



No 127882
著者(漢字) 林,明寛
著者(英字)
著者(カナ) イム,ミョンクァン
標題(和) 高周波誘導加熱方式を用いた鉄筋コンクリート部材の解体技術開発に関する研究
標題(洋)
報告番号 127882
報告番号 甲27882
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7650号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 野口,貴文
 東京大学 教授 久保,哲夫
 東京大学 教授 岸,利治
 東京大学 准教授 清家,剛
 東京大学 講師 北垣,亮馬
内容要旨 要旨を表示する

2000年の「循環型社会形成推進基本法」の成立後に整備されてきた各種リサイクル法の中で、2002年5月の「建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律」(いわゆる建設リサイクル法)が施行された。これをきっかけに、解体技術は大きく変わり始めたところである。

建設リサイクル法の要点は、特定建設資材(現時点ではコンクリート、木材、アスファルトなど)の分別と再資源化や解体工事の届け出などが義務づけられたこと、解体工事業者の登録制度が創設されたことなどであり、これらによって適切な解体工事が法律上義務づけられたことになる。また、今後特定建設資材の指定が増えていけば、さらに詳細な分別解体が義務づけられることになる。このような法令の内容から、今後解体工事が大きく変わることになると想像される。

しかし一方で、解体工事についてはまだまだ課題は多く、現状では建設リサイクル法で決められた最低限のことを行うのにとどまることがほとんどで、現時点では建設リサイクル法が施行されて日が浅く、解体技術はまだまだ発展途上の分野である。

新築時には現場でさまざまな道具を使用して解体を行っている。しかし、解体現場では、現在のところ限られた道具で解体が行われており、分別の可能性を制約している。また、工事の騒音や安全性の確保についても、重要な点であるにもかかわらず、まだまだ未成熟であると言わざるをえない。現状はリサイクルできるものを分別する程度であるが、不法投棄の防止や、リサイクル技術の発達を考えると、すべてのものを容易に分別する解体技術が必要となる。

基本的な解体技術としては、より安全で粉じんや騒音を出さない解体技術の開発が望まれる。具体的には分離したり切断したりはがしたりする小型の道具や機械が開発されれば、さまざまなものが容易に解体できる可能性がある。高機能の道具の開発により、解体しにくいといわれる湿式のモルタルなとの接合部も、粉じんを出すことなく解体できることが望ましい。また、現場での運搬の道具などの整備も望まれる。適切に分別化解体を行っても、現場内運搬が不自由だと、分別の徹底ができないからである。こうした技術が開発されれば、解体工事現場は安全で清潔になり、現場の環境が改善されることと、ゴミが少なくなることで処理の難しい混合廃棄物が削減できることといった利点がある。さらにこうした方法で発生する解体材は、当然分別のレベルも高いと考えられるので、各部材・材料のリサイクルの可能性も高くなるといえる。

一方で、これら基本的な技術開発だけでなく、解体工事の設計やマネージメントの技術、つまりソフトの技術開発も必要である。

これまでに様々な解体技術開発に関して研究がなされてきたが、誘電加熱方式の場合、部材に適用するための高い設備費用の問題があるし、加熱範囲の選択が自由ではない。また、加熱効率においても内部摩擦による加熱方式でコンクリート部材の脆弱化温度まで昇温させるための効率において問題になる。

高周波誘導加熱に関する研究の場合、いくつの研究が行われたが、既存研究の場合、ただ抵抗による金属発熱の可能性を確認するのに止め、誘導加熱を利用する場合による多くの因子に対する糾明がなかった。また、既存RC部材の鉄筋を導電性抵抗体として利用し、誘導加熱後のひび割れを発生させるまでの基礎的な研究は行われたが、加熱によるコンクリート内部の脆弱化特性に対する明確化及びひび割れ以後の完全分離までの方法に対する研究は進行されなかった。

現場に適用するためには多くの要因による検証が必要であるが、これを実験ですべてを対応することは難しい。従って、実際実験とプログラムを利用した検証を通じ、現場に適用するためのシミュレーションは必ず必要であり、なお、経済性及びこれによる親環境等に対する検証もしなければならない。

そこで本研究では高周波誘導加熱技術を一般的に使用されてきた鉄筋コンクリート構造物内部の鉄筋を導電性抵抗体と利用し、選択的加熱を通じた分別解体方式を提案することで、低騒音、低公害、省エネルギー型解体技術の開発を目的とし、さらに分離された鉄筋コンクリート部材内部の鉄筋の完全リサイクル技術を共に提案して、建築廃棄物のリサイクル率を高め、鉄筋回収による2次工程を最小化してエネルギー使用量の削減まで達成することをその目的とする。

上記の目標を達成するために以下3つの詳細課題について検討する。

1)既存解体技術に対する現況調査および解体に付随する環境問題および経済性の評価

既存の解体工法および廃棄物処理に関する文献調査を通じて、解体技術の現状と鉄筋コンクリート構造物への適用、そして廃棄物処理に必要とされる環境への負担や問題点について分析を行う。既存の解体技術では,ミンチ解体と分別解体の2つに大きく分類できる。

ミンチ解体方式では,ほとんどの場合、重装備や発破などで解体をした後、廃棄物をリサイクルするために再分離作業を行うという手順がとられている。分別解体方式も工程のほとんどで重装備が使われているため、重装備の移動や使用時のエネルギー消費が問題点として指摘されている。また、構造物の崩壊による人的被害や、騒音、振動など環境的にも多くの問題点が指摘されている。このような既存の解体技術に対する調査および環境問題や経済性について調査を行った。特に高周波誘導加熱方式を用いた既存研究や文献を調査し、解体技術の開発に必要な要素と問題点を補完して本技術の有効性を検証する。

2)高周波誘導加熱方式を用いた解体技術開発

今まで研究されてきた高周波誘導加熱技術は金属部材の加工や変形を実現するための技術であるために、本技術を建築物に適用した研究はほとんど無い。高周波誘導加熱技術の場合、被加熱体との磁界形成および熱伝達率によって様々な変化が起こると予想され、また一般的に使用されてきた鉄筋を導電体抵抗体として使用するため、既存構造物に直接適用できるなどの利点が期待される。構造体は現場によって数多くの変数を持つため、検証実験でもこれらを考慮しなければいけない。それを念頭において検証実験を行うことで、技術の現場での適用性を最大化できると判断される。

本研究では既存コンクリート構造物に使用される異形鉄筋を使い、様々な変数による変化を明確にして検証する。これらの検討に基づき開発された技術に対し解析ツールを用いて再検証することで、現場での適用性を最大化することを目標にし、さらに解体後に鉄筋とコンクリートとの完全分離を可能にして構造物のリサイクル性能を最大化する技術を提案ことを目的とする。

3)技術開発における環境・経済的面からの効果を分析

本研究では,開発された技術を既存解体技術と環境・経済的面から比較分析し、建設廃棄物において再分別作業を必要とする鉄筋コンクリートの回収性能を評価した上で、高周波誘導加熱方式を使った鉄筋コンクリート部材解体技術を提案する。

本論文では、全8章で構成され、各章の概要及び主な内容を下記のようにまとめる。

第一章では、高周波誘導加熱を用いた既存鉄筋コンクリート部材の解体技術開発の重要性、その評価寸法の現状、研究の背景及び目的、位置づけ及び範囲、構成を論じた。

第二章では、既往の文献調査により、既存解体技術の現状及び問題点、解体に関する一般的な考察、既存解体工法の現状、加熱方式を用いた既存解体技術に関する研究との関連を中心にまとめた。

第三章では、高周波誘導加熱に関する技術について明確に述べ、鉄筋を導電性抵抗体に使用した加熱メカニズムを提案した。また、鉄筋の直径および配筋と使用周波数の変化および加熱距離の変化による昇温特性と温度特性実験を行い、誘導加熱による磁界形成と加熱効率を検証した。

第四章では、高周波誘導加熱方式を利用した鉄筋コンクリートの脆弱化モデルを提示し、実際に試験体を製作し、実験を行った。鉄筋コンクリートの場合、第3章で実施された実験因子と同一レベルで実験を行い、第3章で検証した内容を元にコンクリート内部での挙動を比較評価し、以後誘導発熱する鉄筋の熱膨張圧と鉄筋に発生した熱がコンクリートに伝達されて発生するコンクリートの 脆弱化特性について分析・考察した。

第五章では、第3章と第4章で実施した実験を元に解析ツールを用いた磁界解析を行った。これにより様々な要因による特性や変化について検証を行い、以後検証されたデータに基づき、実際部材の解析を行うことで解析ツールの現場適用性能を評価した。

第六章では、第3,4,5章を元に脆弱化した鉄筋コンクリート部材から鉄筋を完全分離する手順を検討するため、静的破砕剤を利用する方法と打撃方法の2つの方法で実験を行った。各方法によるエネルギー消耗量を評価し、現場での適用性を検討した。

第七章では、開発された高周波誘導加熱方式を利用した鉄筋コンクリート部材の解体技術について、既存の解体技術と比較評価し、経済性と新環境性を分析し、最終的に技術開発に対する結果を整理した。

第八章では、本研究の成果および以後の課題について総括して述べた。

審査要旨 要旨を表示する

林明寛氏から提出された「高周波誘導加熱方式を用いた鉄筋コンクリート部材の解体技術開発に関する研究」は、現在、東京やソウルのような成熟した近代都市において徐々に問題となりつつある鉄筋コンクリート構造物の解体に伴って発生する環境負荷を低減することを目的として、高周波電磁誘導技術を用いて鉄筋を加熱することによって、その体積膨張でかぶりコンクリートのひび割れを誘発させるとともに、その熱で鉄筋周辺のコンクリートの脆弱化を図ることにより、解体に伴う粉塵の発生を抑制できるとともに、解体段階での不純物の混入を容易に阻止でき、さらに、短時間かつ低エネルギー・低騒音・低振動で鉄筋コンクリート部材を解体できる技術の基礎を開発したものである。本技術の実用化研究が進められ、実構造物への適用が図られるようになれば、資源循環型社会の形成がいっそう加速されるものと考えられる。

本論文は8章から構成されており、各章の内容については、それぞれ下記のように評価される。

第1章では、本研究の背景・目的および論文の構成が適確に述べられている。

第2章では、本論文に関連する社会的な問題および研究・技術の現状、すなわち、鉄筋コンクリート構造物の解体に伴って発生する環境問題の把握、鉄筋コンクリート構造物に対する各種解体技術の長所・短所の整理、鉄筋加熱による鉄筋コンクリート構造物の解体技術に関する研究の現状の整理などが適確になされており、鉄筋コンクリート構造物の解体に関する現在の実用化技術の問題点および研究課題を明らかにするとともに、本研究で明らかにすべき内容が明確に述べられている。

第3章では、高周波誘導加熱による鉄筋の昇温特性を明らかにするために、裸鉄筋を用いて綿密な実験が行われており、鉄筋の昇温特性に対する加熱コイルへの交流通電量、加熱コイルと鉄筋との距離、鉄筋径、配筋状態などの影響、およびそれらの要因の複合効果が明らかにされており、現実にはコンクリート中に埋め込まれている鉄筋の加熱に適した条件を探るための基礎資料が得られている。

第4章では、コンクリート中に埋め込まれた鉄筋を対象に、高周波誘導加熱による鉄筋の昇温特性、鉄筋周囲のコンクリートの脆弱化状態およびひび割れの発生状況、および鉄筋とのコンクリートとの付着特性を明らかにするための綿密な実験が行われている。その結果、高周波誘導加熱による鉄筋とコンクリートとの分離・分解性に対して、鉄筋の径、配筋状態およびかぶり厚さ、ならびにコンクリートの強度および含水率の影響が明らかにされるとともに、鉄筋周囲のセメント硬化体の微視的観察および化学分析の結果、ならびにひび割れ発生状況から、鉄筋とコンクリートとを容易に分離・分解するための知見を得ている。

第5章では、汎用的な3次元定常電磁場解析ソフトウェアを用いて、高周波誘導加熱による鉄筋の昇温性状、鉄筋からコンクリートへの熱伝達性状、およびこれらによってコンクリートに発生する応力を予測する手法の実用化可能性についての検討がなされ、実験結果を十分に予測できることが示されている。また、高周波誘導加熱による鉄筋の温度上昇に伴って、コンクリートに発生する応力を予測する解析手法が提案されており、高周波誘導加熱による鉄筋コンクリート部材の解体計画に資する内容が示されている。

第6章では、高周波誘導加熱解体技術の実用化に向けてのもう一つの課題である構造物の易分解性を評価するために、高周波誘導加熱後の鉄筋コンクリートにおいて、鉄筋とコンクリートを容易に分離する方法について、実験による検討がなされており、静的破砕材の併用は困難であること、ハンマーによる打撃が有効であり、解体に必要な消費エネルギーを高周波誘導加熱によって低減できることが明らかにされ、高周波誘導加熱解体技術の実用化の可能性が示されている。

第7章では、高周波誘導加熱解体工法の経済性および親環境性について、ケーススタディを通じて、従来の圧砕機による解体工法との比較がなされており、高周波誘導加熱工法の経済性・新環境性については、工期を除けば従来工法よりも優位であることが示されている。

第8章では、各章で得られた知見の取り纏めがなされ、本論文の結論として適確な総括がなされている。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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