学位論文要旨



No 127906
著者(漢字) 菱田,寛之
著者(英字)
著者(カナ) ヒシダ,ヒロユキ
標題(和) 構造解析を用いた骨格CT画像領域分割
標題(洋)
報告番号 127906
報告番号 甲27906
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7674号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,宏正
 東京大学 教授 佐久間,一郎
 東京大学 准教授 近藤,修
 東京大学 准教授 大竹,豊
 理化学研究所 チームヘッド 横田,秀夫
内容要旨 要旨を表示する

(本文)遺伝子の運動に及ぼす影響を,定量評価することを考えれば,筋肉モデルと骨モデルを作成し,これらを融合させる必要がある.筋肉モデルは,モーションキャプチャから構築可能であり,手法は確立されている.一方,骨の情報はX線CT計測で取得可能であるものの,画像から硬骨(皮質骨に囲まれた骨)に該当する画素を検出する必要があり,このプロセスが自動化されていないために,骨モデル作成に多大な時間を要している.骨モデル作成プロセスが自動化されれば,運動モデルの作成が効率化され,遺伝子解析に寄与する.

本研究では,X線CT計測を用いる骨モデル作成プロセスの効率化を行うために,骨に該当する画素から構成される画像を,軟骨(関節において皮質骨に挟まれている骨)に該当する部位で,分割するアルゴリズムを構築することを目的とする.

ヒトのX線CT画像を対象とする硬骨の検出は, Snakes法,Graph-cut法,Watershed法などの画像処理技術を応用し,硬骨が画像において示す特徴を関数として表現することで,行われる.しかし,画像の変化に対する頑健性は低く,自動化の観点から考えれば決定的な手法は存在しない.また,本研究で対象とするマウスの骨格CT画像の解像度は,ヒトのそれよりも低い.

一方,実際に骨格の分割を行う際には,引張りや曲げを行い,軟骨部分を破壊する.この行為は構造解析であり,この行為を画像に対して行うことを考える.すなわち,CT画像を密度が反映された画像とみなせば,骨格に相当する画像前景は構造体そのものであり,構造体に適切な境界条件を設定すれば,軟骨は最適化された形状を持つ硬骨より構造上弱いために,大きなvon Mises相当ひずみ(以後ひずみと略記)が発生する.構造解析には,画像を入力とすることから,画素と有限要素が一対一対応する画像ベースCAEを用いる.ひずみを画素値としてもつ解析結果(ひずみの分布)において,大きなひずみが発生している部位を軟骨とみなし,当該画素の画素値を0にする.これら構造解析と画素値を0にする処理を繰り返すことで,画像前景には構造上強い部位である硬骨のみが残る.このアイデアを実装し,各種骨格CT画像に適用した結果,良好な分割結果を得ることに成功し,アイデアの妥当性の検証が行えた.一方で,境界条件を設定する際に試行錯誤を伴う問題が発生し,以後境界条件の自動設定を行う問題に取り組む.ここで,境界条件は荷重条件と拘束条件の2種類のみ考慮する.

荷重条件の自動設定は,最適化問題として解く.望ましい荷重条件を与えれば,軟骨に相当する画素において大きなひずみを発生させることができるものとする.このとき問題は2つあり,軟骨に相当する画素が厳密にはわからないこと,そして,荷重条件からひずみを計算することができないことである.前者については,軟骨に相当する画素とこれに隣接する画素は,目視で判断可能とみなし,これらをROIとしてユーザが入力する.後者については,ひずみから荷重条件を直接計算することができないために,ROIに属する画素の持つひずみの二乗和を最大化させる.制約条件として,加重条件の大きさを固定し,そして,加重条件を画像前景の双対を作成することで得られる節点のうち,背景に接している節点に限定する.このアルゴリズムを,先の構造解析を用いた骨格CT画像領域分割手法と組み合わせ,実際のマウス骨格CT画像に適用したところ,良好な領域分割結果を得ることができた.このことから,荷重条件の自動設定手法は妥当なものであることが立証された.

続いて,拘束条件の自動設定を,最適化問題として解く.すなわち,目的関数は良いひずみの分布を得ることであり,制約条件は荷重条件と拘束条件を設定することになる.まず,マウスの骨格CT画像における軟骨に対応する画素が線分(扁平)状に並ぶ前提の元に,ひずみの分布において高いひずみを示す画素の並びを評価することで,ひずみ分布の評価とする.また,境界条件の組み合わせ削減のために,表面節点を連結節点(フラグメント)の集合とみなし,これらフラグメントに対して拘束条件か荷重条件を設定する.さらに,境界条件の組み合わせのうち,変位が生じにくい組み合わせを除外する.全ての境界条件の組み合わせの中で最もひずみ分布の評価が高かった組み合わせを,最適な境界条件とみなし,これまでの構造解析を用いた骨格CT画像領域分割手法と組み合わせる.実際のマウス骨格CT画像に適用したところ,良好な領域分割結果を得ることができた.このことから,拘束条件の自動設定手法は妥当なものであることが立証された.

以上から,境界条件の最適化を伴う,骨格CT画像領域分割における構造解析の有用性が実証でき,マウスの骨格CT画像領域分割CT画像の領域分割が半自動で行えるようになり,遺伝子解析プロセスにおける問題の一部解消が行えた.併せて,解析手法の画像処理への応用が示された.

審査要旨 要旨を表示する

菱田 寛之提出の本論文は「構造解析を用いた骨格CT画像領域分割」と題し,全6章よりなり,特にマウス全身のCT画像から、その骨格を関節で分離しセグメンテーションを行う問題を扱っている.

第1章では、序論として本問題の背景と本研究の課題を設定している。本研究は遺伝子改変によって奇形した動物の運動機能の解析を行う研究に資することを背景としている。小動物の X 線 CT(Computed Tomography) 計測により得られる CT 画像から骨の検出ができれば,計算機上で骨の比較が可能になるために,遺伝子と骨の関係が定量化できる.この遺伝子解析のためには,どの骨で変異が生じているか不明であることが多く,全身CT ボリュームモデルから骨格モデルの中首都とスクリーニングを行う必要がある.しかし現在この作業はマニュアルで行われており、多大な時間を要するために研究のボトルネックとなっており、また俗人的な差異も発生するために、計算機による自動化が望まれていた。本研究はこの自動処理を行う手法を開発することを目的とした。

また、本研究で対象とするCT画像の画質の特性について議論している。本研究では,マウスの全身CT画像を扱うために、特定の関節に絞ってCT 計測することで解像度の高いCT 画像を得ることができず,解像度の低い画像によって骨の検出を行う必要がある.すなわち、骨に挟まれた滑液等からなる部位(接合部)が数画素程度の幅しかない,不明瞭な骨格 CT 画像から,極力自動的に骨を検出することのできるアルゴリズムの構築を目指している。

このような問題に対応するために、本研究では構造解析によって、骨に荷重をかけたときの歪分布を計算し、歪の大きいところで分離を行うというアイデアを基本としている。そのためCT画像を入力としてボクセルベースの有限要素解析を適用する。これによって関節の接合部分に歪の高いところが発生し、それをもとに分離を行うというアイデアである。

第2章では、関連研究について述べている。画像のセグメンテーションについては、膨大な研究が行われており、それらをサーベイし、また本研究で対象とする低解像度の画像を対象とするセグメンテーションへの適用可能性を議論している。その結果、このような対象へ適用できるような手法はまだ確立されていないことを示している。

第3章では、上記のアイデアの実行可能性を確認するために、市販のボクセルベースCAEシステムを用いて、境界条件等を設定して実験を行っている。マウスの関節部分のCT画像を入力として、このシステムによってvon Mises 相当ひずみを計算し、その大きい部分の画素を削除する処理を繰り返した。この結果、良好な結果を得、手法の実行可能性を示している。

第4章では、境界条件設定の自動化問題を扱っている。構造解析を行うには、荷重条件と拘束条件とを設定する必要があるが、特に3次元ではこの作業は面倒なものとなり、これを自動化できないと直接セグメンテーションを行う作業に比べたメリットが失われてしまう。そこで本章では、拘束は全節点を一様に拘束することにし、その条件の下で荷重条件を自動設定する手法を提案している。またユーザーに接合部をROIとしてラフに設定させる。これによってROIの内部の歪が大きくなるような荷重条件を最適化問題を解くことによって求めている。この手法を確認するために2次元と3次元の問題に適用し、セグメンテーションへの有効性を示した。

さらに第5章では、拘束条件の自動設定について試みている。上記と同様の考え方で拘束条件を最適化問題として定式化している。しかし、どの節点を拘束するかという問題で組み合わせの数が節点数に対して指数的に増えるため、いくつかのヒューリスティックスを導入して、組み合わせ数を提言させ、総当り的に最適解を求めている。つまり、境界条件を割り振る組み合わせを作成し,この全てについて von Mises 相当ひずみを計算し,最良の von Mises 相当ひずみの分布を得る境界条件の組み合わせを選択する.分布の評価の指標も提案している。これを2次元及び3次元の例題に適用している。

第6章では、本研究の結論と将来課題について述べている。本論文の貢献は,構造解析を導入して CT 画像の領域分割を行う新しいフレームワークを提案したこと,このフレームワークに限定して境界条件設定問題を解いたことにある。構造力学を用いるために構造力学的特徴をもつ骨格CT 画像の領域分割が可能であることを示したのは新しい知見といえる。また、実現上の課題として境界条件が半自動で設定できる手法を提案している。

以上を要約するに,本研究により、従来の手法では困難であったマウス全身 CT 画像からの骨検出が半自動化され、遺伝子研究分野の一領域に対して有用な手法を提案した。また構造解析を統合した画像のセグメンテーションという新しいアプローチも示しており、両分野に関して大きな貢献をしたと言える.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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