No | 127917 | |
著者(漢字) | サイスッチャリット ポンサトーン | |
著者(英字) | Saisutjarit Phongsatorn | |
著者(カナ) | サイスッチャリット ポンサトーン | |
標題(和) | マルチテザーによる遠心力展開型柔軟構造物上の移動ロボットの誘導制御 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 127917 | |
報告番号 | 甲27917 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7685号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 航空宇宙工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 宇宙空間で大面積を必要とする場面が年々増えている。将来の宇宙太陽発電衛星をはじめ、超大型の宇宙アンテナ、発熱が大きい衛星の放熱膜やデブリ掃除膜などはその大規模構造物の代表的な例である。しかし宇宙空間での大規模構造物の建設は、輸送手段、コスト、建設と制御技術、大電力の確保などの様々な課題が残されている。特に輸送コストが一番大きな課題となっている。そのため、高収納率、軽量な展開型構造物が採用される場合がほとんどである。 宇宙空間で大面積を必要とするミッションにおいては、折り畳んで収納された大きな網や膜等を、軌道上でスピンさせて遠心力で展開させる方式が有力である。さらに、網や膜の隅に衛星を配置し、大面積を獲得すると同時に向きや軌道の制御を行う「ふろしき衛星」のアイデアも提案され、観測ロケットでの宇宙空間実験なども実施されている。その応用として、網や膜のいくつかの場所に表が太陽電池、裏がマイクロ波送信機のパネルを配置することで太陽発電衛星やフェイズドアレイアンテナを構成するアイデアも検討されている。 そのようなシステムを実用化するためには、軌道上での建設・保守システムが必要不可欠であると考えられる。軌道上の太陽発電衛星の太陽電池、あるいは宇宙アンテナのアンテナモジュール等をハンドリングするシステムにおいて、作業ロボットが一つの候補としてあり得ると注目されている。しかし、従来の宇宙ロボットの移動手段の多くは、手足による移動、あるいは飛行タイプのものがほとんどであり、ふろしき衛星のような用途に対しては応用することが困難である。また、網構造物上に移動するCRAWLINGタイプのロボットも提案されているが、網とロボットの足の絡み、網形状の変形、移動する速度の遅さ、そしてロボットの位置推定が難しいなどの問題があった。 上記のような問題への解決方法として、端の衛星とつないだ複数のテザーをロボットが手繰ることで任意の場所に移動する方式を本論文では提案している。テザーを用いることでロボットを任意の位置へ高速移動でき、網の張力が保たれていれば網形状の変形は小さい。さらに、テザーの長さからロボット位置推定が可能であり、燃料不要であるという利点が挙げられる。同様のロボットの移動機構は、ISS上で実験予定のJAXAのREXJによって提案されている。REXJは、テザーの端点が固定点でロボットの動作も慣性系でのダイナミクスとみなせるのに対し、「ふろしき衛星」のように回転する柔軟構造プラットフォームは、端の衛星が自由端でありテザーにかけられる張力に制限が加わる点、回転する系でのコリオリ力や遠心力を考慮しないといけない点などから、全く異なったダイナミクスを持っており、それに対応する誘導・制御アルゴリズムが要請される。 本研究は、 「ふろしき衛星」を回転させて網や膜を展開するシステム上をテザーを手繰って移動するロボットにおいて、回転系・自由端システムのダイナミクスを新規に定式化、その位置の誘導・制御アルゴリズムを確立することを目的とする。本研究はこのような回転系・自由端システムのダイナミクスと制約条件を定式化し、特定の位置にロボットを誘導しそこに維持する誘導・制御アルゴリズムを提案している。誘導に関しては、数値解法、最大原理、ポテンシャル法、PID制御等を利用した導出を実施し、その性能を比較して、PID法が優れていると結論している。また、定点にロボットの位置を保持するバーシング制御手法、面外の振動を止める制御手法も提案しており、それらを統合して本移動方式のフィージビリティを確認している。 本論文は以下のような流れで構成される。 第1章では、大規模宇宙構造物が必要とされている理由を述べ、軌道上で大面積を確保できる遠心力展開型柔軟性構造物の軌道上構築の自動化の手段の1つとして提案されている作業宇宙ロボットの概念や従来の移動機構とその問題点について言及し、研究目的を明確にしている。 第2章では、宇宙ロボットの移動手段の現状、テザーを移動手段として用いたこれまでの研究について概観し、REXJとの相違点を明らかにしながら「ふろしき衛星」をプラットフォームとする複数テザーを用いたロボットの移動制御システムを提案している。 第3章では、回転系・自由端システムのダイナミクスを定式化し、テザーの柔軟性やダイナミックスを考慮に入れる場合に用いるモデル化手法やテザーの回収・進展メカニズムなどについて述べている。数値シミュレーションで固定端及び自由端システムの動力学特性について比較考察している。 第4章では、誘導問題としてとらえたときの連続低推力システムとの類似性について議論し、「ふろしき衛星」上を移動するロボットの最適制御問題として定式化している。静止系及び回転系における最短時間や消費パワー最小のそれぞれの場合の解軌道を数値解法によって求め、システムパラメータへの感度について考察している 第5章では、従来の宇宙機との類似性を利用した誘導方法や仮想ポテンシャル法及びPID制御による面内での誘導方法について比較考察し、PID法が優れていると結論している。また、定点にロボットの位置を保持するバーシング制御手法を提案し、数値シミュレーションでその有効性を示している。 第6章では、テザーは弾性体として扱う際、面外方向に微小振動が発生することを理論的に示し、運動エネルギーの観点から既存のセンサーを利用した面外振動の制御手法を提案している。また、数値シミュレーションで提案手法の有効性を示している。 第7章では、本論文の結論と今後の課題について述べる。 | |
審査要旨 | 修士(工学)サイスッチャリット・ポンサトーン提出の論文は、「マルチテザーによる遠心力展開型柔軟構造物上の移動ロボットの誘導制御」と題し、7章からなっている。 宇宙太陽発電衛星をはじめ、超大型の宇宙アンテナ、発熱が大きい衛星の放熱膜やデブリ掃除装置など、宇宙空間で大面積を必要とする構造物が将来重要になってくると予想される。そのような大面積宇宙構造物の実現法の一つとして、折り畳んで収納された大きな網や膜等を、軌道上でスピンさせて遠心力で展開させる方式が有力であり、すでに、ソーラーセイル用の軽量な膜を展開する技術は、2010年にIKAROSにより宇宙空間で実証されている。さらに、網や膜の隅に衛星を配置し、大面積を獲得すると同時に向きや軌道の制御を行う「ふろしき衛星」のアイデアが提案され、観測ロケットを使っての宇宙空間での網の展開実験などが実施されている。その応用として、網や膜のいくつかの場所に表が太陽電池、裏がマイクロ波送信機のパネルを分散配置することで太陽発電衛星を構成するアイデアは、レトロディレクティブ方式の通信技術と相まって、太陽発電衛星の有力な候補として注目されている。また、上記のパネルを送受信アンテナに変えることで、フェイズドアレイアンテナ方式の大規模通信衛星への応用も検討されている。 そのような分散されたパネルに配置・修理・取替えなどの各種サービスを実施するには、網や膜面上を移動するロボットが必須であり、特にその移動方式の研究が重要である。その一つの方策として、端の衛星とつないだ複数のテザーをロボットが手繰ることで任意の場所に移動する方式を本論文では提案している。同様のロボットの移動機構は, 国際宇宙ステーション上で実験予定のJAXAのREXJによって提案されている。しかしREXJでは、テザーの端点が固定点でロボットの動作も慣性系でのダイナミクスとみなせるのに対し、「ふろしき衛星」のように回転する柔軟構造プラットフォームは、端の衛星が自由端でありテザーにかけられる張力に制限が加わる点、回転する系でのコリオリ力や遠心力を考慮しないといけない点などから、全く異なったダイナミクスを持っており、それに対応する誘導・制御アルゴリズムが要請される。 本研究はこのような回転系・自由端システム上での移動ロボットのダイナミクスと制約条件を定式化し, 特定の位置にロボットを誘導しそこに維持する誘導・制御アルゴリズムを提案するものである。誘導に関しては、数値的な最適解の導出、仮想ポテンシャル法、PID制御の応用など複数の手法を提案して比較検討し、また、定点にロボットの位置を保持するバーシング制御手法、面外の振動を止める制御手法も提案し、シミュレーションにより確認している。最後にそれらを統合して、本移動ロボットのフィージビリティを検証している。 第1章では、大規模宇宙構造物が必要とされている理由を述べ、軌道上で大面積を確保できる遠心力展開型柔軟構造物の概念をまとめている。また、大規模宇宙構造物の軌道上構築用として提案されている各種宇宙作業ロボットの概念やその移動機構の概要と問題点について言及し、ロボットの移動方法の検討が必須であると、研究目的を明確にしている。 第2章では、宇宙ロボットの移動手段の一つとして、テザーを手繰って移動するロボットの概念を取り上げ、JAXAのREXJを発展させる形で、回転する柔軟構造物上での移動を行うMTR(Multi Tethered Robot)を提案し、その特徴やREXJとの相違点をまとめている。 第3章では、MTRの回転・自由端システム上でのダイナミクスを定式化し、テザーの柔軟性やダイナミクスを考慮に入れたモデル化手法を詳細に述べている。また、そのモデルを使った数値シミュレーションにより本システムのダイナミクス上の特徴を明確化している。 第4章では、ロボットの誘導問題を、宇宙機を連続低推力システムで移行させる際の誘導問題との類似性について議論した後、まず、最適制御問題として定式化している。静止系及び回転系における最短時間や消費パワー最小などの最適解軌道を数値解法によって求め、システムパラメータへの感度について考察している 第5章では、従来の宇宙機の誘導問題との類似性に基づいた誘導方法や仮想ポテンシャル法及びPID制御を応用した面内での誘導方法を提案し、それらを比較考察してPID法が優れていると結論している。また、定点にロボットの位置を保持するバーシング制御手法を提案し、数値シミュレーションでその有効性を示している。 第6章では、MTRに面外方向の微小振動が発生することを理論的に示し、運動エネルギーの観点から既存のセンサーを利用した面外振動の制御手法をシミュレーションで検証している。 第7章は、結論であり、本研究で得られた成果をまとめ、今後の課題と展望を述べている。 以上要するに、本論文は、ふろしき衛星のような柔軟で大規模な網や膜を回転させて展開するシステム上をテザーを手繰って移動するロボットの概念を提案し、回転系・自由端システム上でのダイナミクスを新規に定式化し、その誘導・制御アルゴリズムを体系的に構築しており、宇宙工学上貢献するところが大きい。 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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