No | 127920 | |
著者(漢字) | 金森,正史 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カナモリ,マサシ | |
標題(和) | 特性曲線理論に基づくCFD解析結果からの衝撃波可視化・同定法 | |
標題(洋) | Shock wave visualization and identification based on the theory of characteristics from CFD data | |
報告番号 | 127920 | |
報告番号 | 甲27920 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7688号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 航空宇宙工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 衝撃波の検出及び可視化は数値流体力学(CFD)における課題のひとつである.実際,衝撃波が適切に検出・可視化されることで,衝撃波全体の形を明確に理解できるようになる,といった利点がある.更に,これを利用した計算法,例えば解適合格子の生成や衝撃波適合法への応用が期待される.しかしながら,CFDにおけるこれまでの研究の多くは,等高線を用いて衝撃波を可視化する手法が広く用いられてきたが,この方法では衝撃波がどこで途切れているのかをはっきりさせることができない上に,3次元では衝撃波の全体像を把握することは容易ではない.このような観点から, CFD解析結果から衝撃波を抽出する方法が提案されてきた.その一例として,圧力勾配方向のマッハ数成分を用いるものがある.すなわち,圧力勾配が衝撃波面に垂直になるという仮定の下,その方向のマッハ数が1を跨げば衝撃波が存在すると考える.この方法は非常に簡潔である半面,その仮定が厳密に成立するという保証が無い上,数値誤差から来る誤検知を防ぐための手立てが必要になる等の問題が指摘されている.圧力勾配に依らない方法として,1次元リーマン問題の解をあてはめる方法も提案されている.この方法は,各セルとその近傍の値を用いて1次元非定常のリーマン問題を考え,その解を用いることによって,そのセル内に存在する波動を検出する方法である.この方法は衝撃波以外の波動も検出できるという利点を持っているが,2次元以上の流れ場に対して適用する際には,流れが1次元的に扱える方向を探す必要があり,その方向が必ずしも定義される保証はない.そのため,最も関心のある多次元流れに対して応用が難しいといえる.更に,これらの方法はいずれも経験的な閾値を伴うフィルタリングを行っており,その値を変えることによって可視化結果が変わる恐れがある. これに対して,本論文では特性曲線に基づいた衝撃波検出手法を提案する.これは,同種の特性曲線同士の衝突によって衝撃波が発生する,という定義に基づき,特性曲線の衝突部分を抽出する方法である.2次元定常の超音速流れには,2種類の特性曲線C+およびC-が存在することが知られており,それらの方向ベクトルは,その点におけるマッハ数及び流れの転向角のみによって決定されることが知られている.このことは,特性曲線がそのベクトル場の積分によって得られるということと等価である.本研究では,線形なベクトル場に対して,その積分曲線が収束する部分が臨界線というかたちで解析的に求められるという点に着目し,特性曲線のベクトル場を局所的に線形化して衝撃波を抽出する方法を提案した.その結果,鈍頭物体の前方に発生する弓型衝撃波のような,非常に強い衝撃波だけでなく,転向角の小さい楔から発生する付着衝撃波のような弱い衝撃波も適切に検出することができた.この方法の利点は,衝撃波の定義が厳密であるから,検出される結果が正しい衝撃波となる,という点である.更に,ここで提案する方法は,検出の過程で経験的な定数,あるいは閾値といったものを一切用いていない.その結果,利用者は閾値の調整等を行うことなく可視化結果が得られる,という点は注目に値する. 以上の方法は2次元定常流れに対してのみ適用可能な方法であり,衝撃波検出手法としては不十分なものである.そこで本稿では,先に示した特性曲線に基づく衝撃波検出手法を,次の3種類の流れ場へと応用する方法を示し,この検出法を完成させた. 一つ目は非定常衝撃波の検出である.非定常流れでは,衝撃波自体が超音速で移動する場合,先に示した定常流れに対する方法では,衝撃波が検出されない可能性がある.実際,衝撃波がある程度の速さで移動すると,その衝撃波前後の領域がいずれも亜音速になる場合がある.このような現象は定常流れではありえないことから,定常流れの方法が利用できないと考えられる.一方で,移動衝撃波が止まって見えるような座標系を導入し,そこから衝撃波を観測すれば,定常流れにおける衝撃波と同様に移動衝撃波を扱うことが可能になると考えられる.そこで本研究では,全エントロピー保存則を用いた局所的に衝撃波が静止して見える座標系への座標変換を導入し,変換後に定常流れの衝撃波検出法を適用する方法を考案した.更に,これに対してランキン・ユゴニオ条件を用いて,衝撃波速度を推算し直す方法を付け加えることによって,より精度よく移動衝撃波を検出することに成功した. 二つ目は,衝撃波の端の明確化である.遷音速流れ中におかれた翼型の上面には垂直に近い衝撃波が発生することが知られているが,それがどこで途切れるかについては深く知られてはいない.そこで本研究では,衝撃波検出手法によって衝撃波の端を適切に表現する方法を開発した.本研究では,まず初めに,圧縮波が集積して衝撃波が形成される問題を理論的に考察して,衝撃波発生点を解析的に導出した.次に,この衝撃波発生点が数値解析結果において正しく表現されるかどうかを調べた.その結果,これまでに開発した衝撃波検出手法をそのまま適用すると,衝撃波だけでなく圧縮波まで検出されてしまうことがわかった.これは,衝撃波と圧縮波で特性曲線の収束の度合いが実際には異なっているが,この検出法ではその違いを判別できないためであった.そこで,収束度合いを判別する方法として,ベクトル場の曲率という概念を導入した.これは,ベクトル場が互いに強く収束している場合に大きな値をとることから,衝撃波と圧縮波を曲率の大小によって判別できると考えられる.実際,数値解析結果に対して曲率を計算し,その結果と衝撃波発生点の解析解を比較したところ,曲率が7より大きい領域を衝撃波とすることによって,解析解を適切に表現できるということを発見した.更に,この閾値は一様流マッハ数などの条件に依存せず,十分な解像度を持った格子に対しても依存しないということを確認した. 三つめは3次元流れへの拡張である.3次元流れの場合,2次元流れの特性曲線の概念は双特性曲線という概念に拡張される.これが幾何学的には局所マッハ円錐の母線と等価であることは理論的に導出できるが,特性曲線同士の対応関係は,2次元の場合のように簡単に与えることはできない.すなわち,2次元の場合特性曲線は2種類しか存在せず,それらのうち同じ種類同士が衝突することで衝撃波が発生する,ということは知られているが,3次元の場合,どの母線同士が同じ種類の特性曲線なのかが知られていない.そのため,どの母線同士の衝突を考えることで衝撃波が発生するのかが明らかでない.そこで本論文では,3次元流れにおいて衝撃波の発生に寄与する特性曲線を定義した.これは2次元流れや軸対称流れにおける流線,そして衝撃波の法線方向との関係を考察することによって得られる.実際,2次元の場合は紙面,軸対称の場合は対称軸を含む平面をそれぞれ考えると,その面内で出発する流線はその面内にとどまり続ける.そしてその面内における衝撃波の法線は,やはりその面内に含まれる.従って,多次元流れの場合でも,衝撃波を含む現象は,流線の変化を記述できる平面内で2次元的に捉えることが可能になると予想される.本稿ではそのような平面を流線の運動平面と名づけ,その面内に含まれるマッハ円錐の母線を,衝撃波発生に寄与する特性曲線と定義した.これを用いて,2次元の場合と同様に局所的に線形化して臨界面の形で特性曲線の収束部分を求めた.その結果,迎角を持った鈍頭円錐周りの流れのように,流れ場が軸対称でない,真に3次元的な衝撃波も適切に検出することができた.また,デルタ翼周りの粘性超音速流れに対しても,この方法を適用した結果,翼背面の特徴的な衝撃波を検出することができただけでなく,これまで詳細に語られることのなかった衝撃波の分岐現象を捉えることができた. 以上のように,特性曲線に基づいた衝撃波検出手法は,実際に考えられる様々な形態の衝撃波を取り扱うことに成功した.実際,移動する衝撃波や3次元的な衝撃波は流体現象として頻繁に現れるものである.また,衝撃波を可視化する方法には必須であると考えられる,衝撃波の端を適切に捉え,同時に圧縮波のような類似しているが異なる波動を判別する事にも成功した.このように,本検出手法が衝撃波の厳密な定義に基づいて衝撃波のみを適切に検出できる方法であることから,これが単なる可視化法を超えた,衝撃波同定法と呼ばれるに値するものと考える. | |
審査要旨 | 修士(工学)金森 正史 提出の論文は、「Shock wave visualization and identification based on the theory of characteristics from CFD data (和訳: 特性曲線理論に基づくCFD解析結果からの衝撃波可視化・同定法)」と題し、本文8章および付録3項から成っている。 航空機や宇宙機など超音速で大気中を飛行する物体周りの流れ場を理解する際、衝撃波の構造を正しく把握することは重要である。数値流体力学(CFD)解析において、得られた結果から衝撃波の位置や形状などの構造を正確に抽出することができれば、その理解を飛躍的に向上させるものと期待される。筆者は、特性曲線理論に基づいた新しい衝撃波検出方法の開発に成功している。 第1章は序論であり、本論文の目的と意義を明確にしている。CFD解析結果から衝撃波を抽出する手法として、圧力など衝撃波で急変する物理量の等高線の観察、圧力勾配方向のマッハ数が1となる面の検出、1次元リーマン問題解析解の当てはめなど、これまでに提案された手法を概観し、解釈に恣意的フィルターが入ること、数値誤差から来る誤検出の除去、多次元への拡張性、などに問題があると指摘している。特性曲線理論を応用した方法は、定義の厳密性、経験的パラメータの排除などの点で優れていると述べている。 第2章では解析対象の流れ場を得るためのCFD解析手法が、第3章では提案する手法の基礎となる特性曲線理論の数学的導出が、詳細に説明されている。 第4章では、2次元定常流れCFD解析結果からの衝撃波同定手法が詳しく説明されている。まず、衝撃波を同種の特性曲線の衝突として定義し、特性曲線のベクトル場を局所的に線形化して衝撃波を抽出する方法を提案している。2次元定常の超音速流れには、2種類の特性曲線C+およびC-が存在するため、そのどちらかの積分曲線が収束する臨界線として衝撃波を捉えることができる。CFD解析では各格子点における流れ場の物理量が得られるため、それを用いて特性曲線のベクトル場を局所的に線形化すれば、解析的に臨界線を抽出することが可能である。CFD解析結果に適用した例を示し、鈍頭物体前方の離脱衝撃波のような強い衝撃波だけでなく、転向角の小さい楔から発生する付着衝撃波のような弱い衝撃波も適切に検出することを実証している。さらに、検出精度の計算格子依存性についても明らかにしている。 第5章は2次元非定常衝撃波流れへの拡張である。局所的に移動衝撃波が止まって見える動座標系を導入していけば、第4章で述べられた定常流れにおける衝撃波捕獲と同じ手法を適用することができる。全エンタルピー保存則を用いた座標変換を導入し、ランキン・ユゴニオ条件を用いて衝撃波速度を推算し直すことで、精度よく移動衝撃波を検出することに成功している。 衝撃波発生の端点や端線を捕獲することは、流れ場物理量の等高線観察では得ることができない本法の優れた点である。第6章は、円弧と直線で形成された2次元定常非粘性斜面流れについて、圧縮波が集積して衝撃波が形成される問題を扱う。衝撃波発生点を解析的に導出して本法による数値解析結果と比較することで、その妥当性を論じている。その結果、本法では衝撃波だけでなく圧縮波まで検出されてしまう問題を指摘している。これは、衝撃波と圧縮波で異なる特性曲線の収束度合いを判別していなかったためで、その対策として特性曲線の曲率を導入している。適切な閾値を設定すれば、特性曲線が収束し、かつ、そこでの曲率が閾値より大きな場合のみ衝撃波として認識することで圧縮波を適切に除外することが可能となる。多数の数値実験により、この閾値は一様流マッハ数などの条件に依存せず、計算格子が十分な解像度を持っていれば、格子に対しても依存しないということなどを確認している。 第7章は、3次元定常流れへの拡張である。まず、流線とその曲率中心方向を含む面を流線の運動平面と名づけ、その面内に含まれるマッハ円錐の母線を衝撃波発生に寄与する特性曲線と定義する。2次元の場合と同様に特性曲線のベクトル場を局所的に線形化し、3次元空間において特性曲線が収束していく臨界面の形で衝撃波面を捉える方法を提案している。まず、迎角のある鈍頭円錐流れのCFD解析結果に適用し、その妥当性を実証している。さらに、大迎角デルタ翼周りの粘性超音速流れに適用し、本法によって翼背面の特徴的な衝撃波を検出することができること、衝撃波の分岐現象が明確に捉えられること、粘性流と衝撃波の干渉が強くない場合は、粘性流CFD解析結果に対して本法を適用しても妥当な結果が得られること、などを見出している。 第8章は結論であり、本研究で得られた知見をまとめている。 付録は3項から成り、線形ベクトル場の解曲線の数学的性質に関するまとめ、ベクトル場の解曲線を得る数値積分アルゴリズム、CFD解析結果から渦中心を同定する方法、について述べている。 以上要するに、本論文は、CFD解析結果から衝撃波を抽出する特性曲線理論に基づく精度の高い手法を提案し、非粘性の2次元定常および非定常流、3次元定常流、3次元粘性流への適用性を示したものであり、衝撃波流れ構造の理解を大きく向上させる点で、航空宇宙工学、特に高速空気力学上、貢献するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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