学位論文要旨



No 127936
著者(漢字) 林,由記
著者(英字)
著者(カナ) ハヤシ,ヨシノリ
標題(和) 非定常効果による磁気リコネクションの高速化機構の実験的検証
標題(洋)
報告番号 127936
報告番号 甲27936
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7704号
研究科 工学系研究科
専攻 電気系工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小野,靖
 東京大学 教授 小田,哲治
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 教授 根本,孝七
 東京大学 准教授 井,通暁
 東京大学 准教授 小野,亮
内容要旨 要旨を表示する

1.序論

磁化プラズマ中では高い導電率のため磁力線はプラズマに伴って運動するが,この磁束凍結を破り磁力線がつなぎ変わる現象が磁気リコネクションである.磁気リコネクションは宇宙プラズマや実験室プラズマにおいて,磁場の構造が変化する時共通して見られる物理現象である.

磁気リコネクション現象によって磁力線に蓄えたエネルギーから熱エネルギーや運動エネルギーへの変換が起こる. 1991 年に打ち上げられた太陽観測衛星「ようこう」により太陽コロナにおけるフレア爆発といったダイナミックな現象は磁気リコネクションによって引き起こされていることが明かになった.「ようこう」の硬 X線望遠鏡はリコネクションに伴う激しい局所的な加熱現象をとらえている. 2006 年には「ようこう」の後継となる新たな観測衛星「ひので」が打ち上げられ,すでに太陽プラズマのさらに詳細なデータを我々に与えつつある.「ひので」によりコロナの下層にあたる彩層では至る所で小規模なフレアが見つかり,磁気リコネクションが発生していることが確認された.これら無数の磁気リコネクションにより磁場エネルギーが開放されコロナの加熱につながるといったシナリオが考えられている.

太陽フレアやコロナから放出されたプラズマは太陽風として地球に押し寄せ,磁気圏プラズマとの相互作用を起こす.太陽側の磁気圏境界や夜側の磁気圏尾部ではリコネクションが起こっている.これは磁気嵐やサブストームなどとも関係がある.磁気閉じ込め核融合においても磁気リコネクションが問題になる.トカマク内部の高温部分が放出される鋸歯状震動や,磁気島を作りプラズマ電流を低下させてしまうテアリング不安定,あるいは逆転磁場ピンチの緩和振動等でもリコネクションによる磁場構造の変化が起こっている.またリコネクションによる加熱を利用して高温,高なプラズマ配位を作る研究も成されている.磁気リコネクションはプラズマの一部で起こるローカルな現象であるが,グローバルな影響を与えるため,その機構の解明は重要である .観測,シミュレーション,実験を通じて様々な研究が成されてきているが,いまだに未解明な部分も多く残っている.

Sweet,Parkerはリコネクションの起こる拡散領域に長方形の電流シートが形成されることを仮定した 2 次元リコネクションモデルをそれぞれ提唱した.拡散領域外部ではプラズマは理想 MHD的に振る舞うと仮定し,電流は拡散領域のみに存在すると考える.つまり拡散領域の外では抵抗率が 0 とおく .ここで拡張されたオームの法則 E + v × B = μjから電場の連続条件を考えると vin =η/μ0Δが得られる.さらに連続の式より Lvin = Δvoutが得られ, vin = √voutη/μ0Lというインフロー速度とアウトフロー速度の関係が得られる.アウトフロー速度は磁気圧との釣り合いから B^2/μ0で表される Alfven 速度 VAに達することがわかる.この場合インフロー速度は拡散領域の抵抗率によって支配される事になり, vin =√VAη/μ0L= VA√Rmとなる. Rmは磁気レイノルズ数である .抵抗 MHDによる Sweet-Parkerモデルではリコネクション速度は Sで表されることが分かったが,実際のプラズマ中の Sはかなり大きい .太陽フレアでは 10^10-10^14 であり.これからリコネクションにかかる時間を推計すると 0.1-1年程度となり,実際に観測されている現象が 1 時間程度のオーダーであるのに対しはるかに大きくなっている .磁気圏プラズマや核融合プラズマにおいても Sweet-Parkerモデルから得られる時間より速い緩和現象が観測されており,その高速化の機構の解明が磁気リコネクション研究における課題となっている.この様な高速リコネクションに体する説明の一つが異常抵抗の存在である.電流シート中で何らかの散逸がおこれば実効的に抵抗値が上がり,リコネクション速度が増加する.

宇宙プラズマや核融合プラズマにおいて磁気リコネクションが重要な役割を果たしていることがわかっても,それを詳細に調べるには様々な制約が伴う.太陽観測では地球との距離のため 2 次元分布しか得ることができないため,磁場等の 3 次元構造を調べることは難しい.磁気圏観測衛星はその場計測なので様々なパラメータについて詳細にわかるが観測点は多くても数点に限られてしまう.核融合プラズマはプローブ計測ができず,現象をコントロールすることもできない.よってこれらの物理現象の解明のためには磁気リコネクション専用の室内実験によるアプローチが重要になってくる.こうした背景から 70 年代後半から磁気リコネクション現象を模擬した実験がいくつか開始された.当時の実験の多くはは電極間の放電により電流シートを直接駆動する直線型であった.直線型のリコネクション実験は電流シートや磁場が開いた形になり境界条件の問題が生じる.また,高い温度、密度を得ることは難しく磁気レイノルズ数にも限界がある.この様な条件をクリアするための新しい実験としてトーラス合体を用いた手法がとられるようになった.これは 2つのトーラスプラズマを同軸上に合体させることで軸対称な磁気リコネクションを起こす方法である.直線型実験と違いリコネクションは 2 次元的になるので計測が容易であり,プラズマの閉じ込め性能が高いためより高密度,高温が得られやすいという利点がある.本研究で用いる TS-4 装置もこのトーラス装置の一つである.

Sweet-Parkerモデルの予測するリコネクション速度は,太陽フレアのようなリコネクションによって発生していると考えられる現象のよりはるかに速く,多くの場合実際の現象を説明できない.このような高速リコネクションの機構が長年研究されてきている.リコネクション速度はプラズマの抵抗率に依存するため, 2 流体不安定性や乱流などによる局所的な異常抵抗の発生が予想され,実証されてきた.実験室プラズマで異常抵抗による高速リコネクションが発生する条件は電流シートの幅がイオンの特徴的な長さに由来する臨界値を下回った場合であると考えられている.本研究では縦磁場を加え,イオンのラーマ半径を 1cm程度とし電流シート幅(5-10cm)以下に抑え,異常抵抗の発生を抑制して実験を行った.このとき異常抵抗がなくとも,強いインフロー駆動により非定常的なリコネクションが発生し,過渡的な高速リコネクションが発生することが示された.

磁気リコネクション現象は核融合プラズマ装置や宇宙プラズマで共通して見られる現象であり,互いに比較することでより理解を深めることができる.特にプラズマ合体実験と太陽コロナ、彩層では密度,磁場,温度など共通するパラメータが多い.太陽観測では HINODE衛星により彩層や光球表面での詳細な磁場ベクトル分布も明かになってきている.そこで太陽観測で見つかった磁気リコネクション現象とにた磁場配位を実験的に再現し,リコネクション機構を調べる実験を行い観測結果と比較を試みた.磁気リコネクションの特徴は短期間でのエネルギー変換による自発的なプラズマ加熱である.これは核融合プラズマの立ち上げ,及び初期加熱に非常に有効である.磁気リコネクションを利用したプラズマ立ち上げとして本研究室を含めプラズマ合体法が研究されている.中でもイギリス Culham研究所の MAST装置は世界最大の合体装置で,リコネクション加熱も顕著である. MASTの実験データからリコネクション加熱や非定常効果との関係を調べた.

以上のように本研究では (i)非定常リコネクションの発生機構, (ii)太陽プラズマでの磁気リコネクションとの比較,(iii)高速リコネクションとプラズマ加熱機構の関係に着目した.

2.実験概要

本研究で使用した TS-4(Tokyo University Spherical Torus No.4)装置は,直径 1600[mm],全長 1600[mm]の真空容器中で二つのトーラスプラズマを生成し,合体させる事のできる装置である.フラックスコイル内部にはポロイダルフィールド(PF)コイル,トロイダルフィールド(TF)コイルがそれぞれ入っている.真空容器内であらかじめグロ-放電を行い,封入気体を弱電離させた状態でこれらのコイル電流を急速に振ることで,誘導電流が流れ,そのエネルギーで残りの中性ガスも電離しほぼ完全電離のプラズマが生成される. TS-4 装置における磁気リコネクション実験ではプルモード,プッシュモードと呼ばれる 2 種の磁場配位が可能であり,この後の手順はそれぞれによって違う.まずプッシュモードの場合は生成されたプラズマはフラックスコアから切り離され,真空容器中央に押し出される.この時に二つのプラズマ間で磁気リコネクションが発生し最終的には一つの磁場配位に緩和する.合体時に加速コイルでプラズマを押し付けることで強いインフローを駆動することができる.プルモードでは生成されたプラズマをフラックスコアから切り離さずに PFコイル電流を徐々に減少させることで,インフローを誘起し二つのプラズマを切り離す方向にリコネクションを発生させる.上記の用にプッシュモードとプルモードではリコネクションにおけるインフローとアウトフローの向き,及び電流シートの向きが逆になっている.プッシュモードではプルモードに比べて強いインフロー,高い密度が得られる.プルモードではインフローが比較的弱いためリコネクションが遅く,電流シートを長時間観測することができる.生成されたプラズマはトーラスの断面上のポロイダル方向成分(Bp),中心軸を回る方向のトロイダル方向成分(Bt)の 2 成分の磁場を持つ.このうち再結合するのはポロイダル成分のみで、トロイダル成分は縦磁場として磁気リコネクションに影響する.トロイダル磁場は主に外部トロイダル (exBt)コイルにより印加されており,容易に値を変動させることができる.縦磁場を,Bt=Bp = 1-5 程度の範囲で変動させることが可能で,磁気リコネクションにおける縦磁場効果が検証可能になる.封入ガスは得に断りの無い場合主に水素を用いているが,イオンの慣性を変えるためにヘリウム,ネオン,アルゴン,クリプトンも使用している.封入ガス圧は 0.3-2[mTorr]である.

TS-4 装置内部には r-z平面上に 10 × 9 チャンネルの磁気プローブが配置されている.各プローブは直径 5mmのピックアップコイルで磁場の変化を拾い、その信号を積分器、増幅器を通して計算機で取り込む.各点で Bt,Bzの 2成分を測定している. TS-4 装置のプラズマは軸対称であることが軸周り配置された磁気プローブ (n プローブ )により確かめられており,軸対称を仮定して Bt,Bz以外の物理量を算出する.まず Bzの径方向積分 2π∫Bzdrからポロイダルフラックス Ψが計算される.この Ψは再結合磁場に相当する.さらに Br=∂Ψ/∂z/2πから残りの磁場成分が求められる.マクスウェル方程式∇ × E = -∂B/∂t,∇ × B = μ0jより,電界および電流密度のトロイダル方向成分は, Et = -∂Ψ/∂t/2πとなる. X点付近でのプラズマのポロイダル面の速度はほぼ 0 とみなせば,拡張されたオームの法則から, ηeff =Et/jtとして,リコネクション領域における実効抵抗率を求めることができる.電流シートにおけるフロー速度は,フラックスの移動速度 Vr =(∂Ψ/∂t)/(∂Ψ/∂z),Vz=(∂Ψ/∂t)/(∂Ψ/∂r)より求めている.磁気プローブ以外には静電プローブを用いて電子温度,電子密度,プラズマ流速を計測した.みっどプレーンにおける径方向密度分布計測には CO2レーザ干渉計を使用した.

3 実験結果

プルモード実験では電流シート中に閉じた磁気面が発生した.このようなプラズマの塊をプラズモイドと呼ぶ.成長したプラズモイドは拡散領域に止まる場合と,のように拡散領域から放出される場合があった.特にプラズモイドが放出される場合は同時にリコネクション速度の増加が確認された.プラズモイド放出のある場合と無い場合について電流シートのパラメータの比較を行なった.電流密度の時間発展をみるとる,プラズモイド放出なしの場合は電流密度が徐々に減衰しているのに対し,プラズモイド放出ありの場合は初め上昇した後急激に現象している.プラズモイドの放出によって,プラズマ密度も減少するため同時に電流も減っていると考えることができる.リコネクション電場,インフロー速度の時間発展ををると,プラズモイド放出なしの場合は変化が小さいのに対し,プラズモイド放出有りの場合は放出のタイミングでリコネクション速度が上昇していることが分かる.実効抵抗はプラズモイド放出後に大きくなっている.

パイルアップ効果を検証するためにインフローフラックスとアウトフローフラックスの比較を行なった.プラズモイド放出無しの場合ではインフローとアウトフローの差は小さい.それに対しプラズモイド放出のある場合はインフローがアウトフローの数倍になっている.つまりプラズモイド放出は電流シートの抵抗率が小さくパイルアップが発生した場合に起こっていることがわかる.

プラズモイドの動きとリコネクション速度の相関性を調べるため,ポロイダル磁気面での O点をプラズモイド位置とし,プラズモイド速度,加速度を算出したところリコネクション速度はプラズモイド加速度と同じ付近でピークしている.プラズモイドが動きだす加速度の大きい時点で大きなリコネクション電場が誘起されていると言える.プッシュモード実験ではプルモードと違いプラズモイドは発生しないかった.しかし分解能を上げた磁気プローブ計測により電流シートがリコネクション領域から放出される現象が見られた.この電流シート放出によりリコネクション速度は増加した .プッシュモードでプラズモイドができないのは,電流シートの向きがコアプラズマの電流と逆向きであるためと考えられる.

TS-4 装置におけるプラズモイド放出はプラズマの抵抗率が低く定常的なリコネクションの発生しにくいケースで起こっていた.プルモードのため能動的なインフロー駆動を行なわなければリコネクションは自発的に進行する.プルモードのような抵抗の上昇はみられにくく,抵抗がある程度小さいとリコネクションによるエネルギー拡散が遅く,磁束のパイルアップが発生する.パイルアップにより電流シートの電流密度,磁束密度が増加し,限界に達したところでプラズモイドが放出されたと考えることができる.

従来の室内磁気リコネクション実験では,同じサイズの磁気ループの合体によるものがほとんどである.しかし,太陽コロナ等のリコネクションは様々な曲率の磁力線が異なった密度,磁場のプラズマ間でも発生している.これらの現象を理解するために太陽フレアの磁場構造に近い実験を考案し,磁気リコネクションの特性を調べた.太陽の黒点の周囲の浮上磁場領域では,光球内で形成された螺旋状の磁場が磁気浮力により浮上してくる.上空のコロナ中に磁場が存在する場合,浮上磁場とコロナ磁場の間で磁気リコネクションが発生し,これが太陽コロナで観測される X線ジェットやフレアとなって観測されていると考えられている.一般的にコロナ磁場に比べ浮上磁場は強度が強く曲率も大きい磁場でプラズマ密度も大きい.この太陽フレアを模擬した STとコイル磁場合体実験ではリコネクション期間は 10[μs]程度でリコネクション速度は最大 0.08[1/μs]程度である.同じ STを合体させた場合に比べリコネクション速度は増し,短時間で終了している.本実験では太陽フレアで見られるような過渡的なリコネクションが発生することが分かった.

黒点暗部には時々明るい筋状の構造 (ライトブリッジ)が見られる .ライトブリッジが現れると,黒点はやがて粉々に分裂して消滅する.これは黒点の磁束の分裂,崩壊の過程を解き明かす上で重要な現象であると考えられている.ライトブリッジは 1 日以上の非常に長い期間観測されている.またライトブリッジからは間欠的に高速のプラズマジェットが出ていることが確認された.

この様なジェットは磁気リコネクションによって引き起こされていると考えられるが,通常磁気リコネクションは短時間終わるもので,このように長期間間欠的につづくとは考えられていなかった.ひのでの SOTによる分光偏光計測により,光球表面の磁場ベクトルマップを得ることができる.上段はライトブリッジが存在している時間帯で,下段は消滅後である.磁場 3 成分から光球面での垂直方向電流を計算するとライトブリッジが存在するときはそれにそって強い電流が存在することが分かる.また Gバンド画像は光球面での水平磁場が強いところが明るく表示される.つまりこれは光球中から浮上してきた螺旋状の磁場と黒点暗部の垂直な磁場の間で磁気リコネクションが生じていることを示している.らせん磁場と縦磁場のリコネクションが一ヶ所で起きても磁力線がすべてつなぎ変わるわけではないため,間欠的なリコネクションが続いていると考えられる.このような磁場構造をすフェロマックを使って再現する実験を行った.

リコネクションの加熱効果を調べるために大型のプラズマ合体装置での実験の解析を行った.イギリス Culham Center for Fusion Energyの球状トカマク実験装置 MASTは TS-4 でのプッシュモードと同様の手法でプラズマが合体により球状トカマクを生成する事ができる.プラズマの大半径は約 1m,トロイダル磁場は 0.5Tで, TS-4 より大きく,リコネクションによる加熱が大きいことが期待される. MASTでの合体を用いない実験と合体させた場合を比べると,合体ありの場合は従来の手法に比べ早い時間で温度が上昇している事がわかる.よってリコネクション加熱が効果的であると言える.

磁気リコネクション前後での温度プロファイルを比較すると加熱効果はより顕著である. 4.8ms付近で磁気リコネクションによる磁場揺動のスパイクが現れるが,この時間の前後で電子温度を比較すると 0.5msの間に 10eVから 80eVまで上昇している.同時に密度の時間発展をみると,リコネクション時に一時的な上昇が見られる.これは TS-4でリコネクション中のプラズマパイルアップと放出がある時の計測結果とよく似ている事がわかった.

4.結論

トーラスプラズマ合体実験において,磁気リコネクションの準定常的な場合とインパルス的な場合との比較を行った.プラズモイドが成長し拡散領域から放出されるケースではリコネクション速度の高速化が見られた.プラズモイド放出が起こる場合と起こらない場合では磁気リコネクションの特徴は大きく違っていた。プラズモイド放出が無い場合は Sweet-Parker的な準定常リコネクションであったがプラズモイド放出のある場合はパイルアップが発生したのちにプラズモイドが放出され,瞬間的にリコネクション速度の増加する過渡的なリコネクションが発生した.プラズモイドの移動速度,加速度をもとめリコネクション速度と比較したところ,プラズモイド加速度が最大のときにリコネクション速度も最大となっていた.この様なインパルス型の磁気リコネクションは強い縦磁場下で運動論的効果や二流体効果による異常抵抗が小さい場合でも高速化を説明することができ,宇宙プラズマ等で見られる過渡現象に適応できることが期待される.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「非定常効果による磁気リコネクションの高速化機構の実験的検証」と題し、東京大学で考案されたプラズマ合体法を用いて磁気中性点を形成し、磁気リコネクション現象の非定常効果をはじめて実験的に明らかにした。同現象は居所現象でありながら、宇宙プラズマから核融合プラズマまですべての磁場配位の構造変化を決める基礎現象である。その挙動はSweet-Parkerモデルを初めとする定常モデルで記載されてきたが、太陽や磁気圏、核融合プラズマの磁気リコネクションはダイナミックに変化しており、実験的にも理論的にも非定常リコネクションの解明は必要性・新規性が高い。

第1章 は、「序論」であり、研究の背景となった磁気リコネクション研究の歴史を解説している。太陽コロナ、地球磁気圏プラズマを中心とする宇宙プラズマにおける磁気リコネクション現象の重要性を述べた後、核融合プラズマを急速加熱する反面、熱エネルギーの損失を引き起こして善玉にも悪玉にもなる同現象が全ての磁気プラズマの構造形成と加熱の解明に必要不可欠であり、定常性を暗黙に仮定した従来の磁気リコネクションの解釈を現実に合わせて非定常に拡張することが現象解明の飛躍につながることを述べている。

第2章 は、「実験概要」と題し、トーラスプラズマ合体実験TS-4実験装置の詳細が述べられており、トーラスプラズマ合体法による磁気リコネクション実験手法をまとめるとともに、現状解明の鍵となる2次元計測として、磁気プローブ計測、イオンドップラー・トモグラフィー計測、CO2レーザ干渉計則、静電プローブ計測による、それぞれ磁界、イオン温度、電子密度、電子温度の計測について述べている。

第3章 は、「トーラスプラズマ合体(プッシュモード)を用いた磁気リコネクション実験」と題し、真空容器内コイルによって2つのトーラスプラズマを生成して合体させて、プライベート磁束からコモン磁束への磁気リコネクションを発生させ、外部からのインフローの駆動およびガイド(トロイダル磁場)の加減がリコネクション速度へ与える影響を2次元計測によって明らかにしている。その結果、インフローが大きいと電流シート付近にパイルアップが発生して、リコネクション速度が高速化すること、さらにインフローを大きくするとパイルアップしたプラズマが電流シート外へ放出される電流シート(プラズモイド)放出現象が発生してリコネクションが間欠的に高速化される非定常効果が明らかにした。さらにリコネクション高速化はアウトフロー速度の増加を通じてプラズマ急速加熱につながることを証明した。最終的にこのアイデアを世界最大規模の英国MAST実験に適用し、それぞれ1.2keV、0,8keVに達する大きなイオン加熱、電子加熱を得ることに成功した。

第4章 は、「トーラスプラズマ分離(プルモード)を用いた磁気リコネクション実験」と題し、TS-4実験装置で形成した合体途中の2個のトーラスプラズマを再び分離し、コモン磁束からプライベート磁束に変換する磁気リコネクションを検証した。長い電流シートを形成できる利点を生かした結果、高インフローでは閉じた磁力線を持つプラズモイドが生成され、それが放出される際にリコネクションが高速化し、その高速化のタイミングはプラズモイドの加速度が最大になった時点であることを見出した。

第5章 は、「太陽模擬実験」と題し、太陽コロナおよび彩層ライトブリッジを室内実験で模擬することに成功し、前者でリコネクションの非定常効果と区別すべきプラズマの平衡遷移現象が発生すること、後者では観測と一致するリコネクションジェットが発生することを明らかにし、合体実験を用いた実験室天文学の先駆けとなった。

第6章は、「結論」であり、トーラスプラズマの合体と分離を用いた2つの実験を有機的に結合して明らかにした非定常リコネクションの物理と核融合プラズマ加熱および実験室天文学への応用をまとめている。

以上要するに、本研究は、磁気リコネクションの解釈を定常から非定常に拡張する実験研究をはじめて行い、トーラスプラズマの合体と分離を用いて同現象の高速化を担う2つの非定常効果、即ち、電流シートにおけるプラズマパイルアップ効果、プラズモイドの放出効果を初めて見出し、さらにそれらを応用して、世界最大規模の英国MAST装置で磁気リコネクション急速加熱実験に成功するとともに、太陽コロナ・彩層の非定常磁気リコネクションを室内実験で模擬して実験室天文学の先駆けとなった研究であり、プラズマ理工学、核融合工学、天文学、電気電子工学への貢献は大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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