学位論文要旨



No 127965
著者(漢字) 荒木,俊雄
著者(英字)
著者(カナ) アラキ,トシオ
標題(和) Mg合金と鋼の反応型液相拡散接合とその界面形成に関する研究
標題(洋)
報告番号 127965
報告番号 甲27965
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7733号
研究科 工学系研究科
専攻 マテリアル工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小関,敏彦
 東京大学 教授 鈴木,俊夫
 東京大学 教授 榎,学
 東京大学 教授 柳本,潤
 東京大学 准教授 井上,純哉
内容要旨 要旨を表示する

自動車などの移動構造体は燃費の向上を目的とした軽量化が進められ、これまでもアルミニウム合金や樹脂製品といった軽量材料の使用によって達成してきた。しかし、環境意識の高まりから更なる燃費向上が求められる現在、より軽量な構造体が必要とされるようになってきている。この構造体軽量化への要求に応えるために期待されている材料がマグネシウム合金である。マグネシウム合金は実用金属材料の中で最軽量であり、高比強度、高剛性を示す。そのため構造体の強度を維持しつつ、軽量化を行うことが可能である。また、豊富な資源量や高いリサイクル性など、構造材料として高いポテンシャルを持っている材料である。マグネシウム合金の適用は既に行われており、自動車のエンジンクレードルやギアボックスなどに使用されているが、構造体をより軽量にするためには、ボディフレームやパネル部といった構造体フレーム部への適用が必要となる。マグネシウム合金の適用範囲の拡大には、マグネシウム合金と異種金属材料との接合が不可欠であり、特に主要な構造部材である鉄鋼材料との接合は避けられないプロセスとなる。しかし、マグネシウムと鉄の組み合わせは、融点差が約900℃と非常に大きく、相互にほとんど固溶しない・反応しないことから、溶融接合・拡散接合といった従来の技術による接合は極めて困難であり、その接合に関する検討は限られている。近年になって、摩擦攪拌接合を用いた接合の検討が行われるようになり、高い接合強度が得られているが、面と面の接合や小さな部材もしくは曲面などの複雑な形状を持つ部材への適用が困難である。マグネシウム合金の適用範囲を拡大するためには、様々な形状、サイズに適用可能なマグネシウム合金/鋼の接合法の開発が必要である。

そこで本研究では、マグネシム合金と鋼の接合を達成する新しい手法の開発に取り組んだ。接合を達成させるために開発した手法は、接合界面に新しい相を形成させるというものであり、マグネシウム合金と鋼はこの相を介して接合されると考えた。そして、このような相を形成させる接合モデルを構築するとともに、接合部組織と接合強度の関係と接合部組織形成について評価を行い、開発した手法を用いてマグネシウム合金と鋼の接合を達成するため指針を得た。

まず、マグネシウム合金/鋼の接合界面に、新しい相を形成させる接合モデルを考えた。この相は、接合母材であるマグネシウム合金と鋼の合金添加元素を利用し、それらの反応によって形成させることとした。この反応相を接合面全体で均一に生じさせるためには、接合面全域が密着していること、接合面全域で反応する元素濃度が均一であることが必要と考えられ、そこで接合部間隙を埋めると共に接合面全域で均等な濃度を保ちうる液相を接合に利用することとした。液相は残留・凝固すると母材と異なる組織を形成するため、接合完了時には残らないことが重要となり、この条件を満たすために、液相拡散接合(TLP:Transient Liquid Phase)の概念を利用することとし、次のような接合モデルを構築した。

・マグネシウムと共晶反応を生じかつマグネシウムに固溶する金属を接合界面にインサートし、共晶温度以上に加熱し液相を形成させる。

・この液相の存在下において反応元素の拡散を促し、マグネシウム合金と鋼の接合界面に均一な反応相を形成させる。形成した液相はTLPプロセスに従い、インサート金属が接合母材に拡散することによって消失していく。

・液相が完全に消失することで接合が完了し、マグネシウム合金と鋼が接合される。

本研究では、この接合モデルによる手法を、反応型液相拡散接合法と呼ぶこととした。この接合法が実現可能であるかについて、(1)液相形成および消失、(2)反応相形成および(3)達成される接合強度をポイントとして検討を行った。(1)については、AgおよびZnをインサート材として用いることで液相が形成されるとともに、TLPプロセスで予測される液相消失が確認された。(2)については鋼/液相界面組織に接合母材と異なる相の形成が見られ、この相はFe-Alの金属間化合物であるFe2Al5であり、マグネシウム合金中のAlが鋼と反応したことが示された。また界面全域において均一に形成される結果も得られた。(3)については、液相が消失した条件において接合部強度を行うことで評価し、Alを含有しない純マグネシウム/鋼の接合やマグネシウム合金/鋼の固相接合の強度と比べて、反応型液相拡散接合は非常に高い引張強度を示した。これらの結果から、構築した反応型液相拡散接合法を用いることで、マグネシウム合金と鋼の高強度接合が可能であることを示唆する結果が得られた。

次に、接合強度と接合部組織の関係について検討した。反応型液相拡散接合法によって得られた接合強度は、接合部に形成されたFe-Al金属間化合物組織によって変化した。Fe-Al金属間化合物は鉄とアルミニウムの接合において必ず形成され、非常に硬く脆い相である。そして化合物が厚くなると接合強度の著しい劣化を引き起こすことが報告されており、本研究においても同様の結果が得られた。しかしながら同時に、化合物厚さ以外にも接合強度に影響を及ぼす因子の存在が示唆された。そこで、接合界面に形成される金属間化合物組織が接合強度に及ぼす影響について詳細な検討を行った。接合強度測定後に得られた破断面を観察したところ、破断形態が変化する様子が見られ、接合強度が低くなるにしたがい、平滑な破断形態となった。き裂断面の観察から、この平滑な破断形態は化合物内の破断によって生じていること、この化合物内破断はFeAlとFe2Al5の界面で生じていることが示された。接合界面に形成される金属間化合物が複相化することにより接合強度は低下したと考えられる。また、FeAlとFe2Al5の界面の破壊靱性値を評価すると非常に弱い強度の界面である結果が得られた。接合強度に及ぼすFe-Al金属間化合物組織の影響として従来は化合物厚さのみが検討されてきたが、化合物組織の形態、化合物相の複相化によっても接合強度は影響されることが考えられる。

このような金属間化合物の変化は、化合物の形成にマグネシウム合金中のAlを使用する点から、Alの供給量が影響すると考えられる。Alは固相マグネシウム中の拡散で供給されるため、時間とともにその供給量は変化する。化合物がFe2Al5単相で形成される場合では十分な量のAlが供給されているが、FeAlが形成され化合物が複相化する場合はAlの供給が不足しているとみなすことができる。供給Al量とFe2Al5単相を形成するために必要な消費Al量の比較を行うと、一定時間を超えると必要Al量が供給Al量を超える結果となる。この時間は、接合試験において接合強度が著しく低下する時間と同程度となり、接合強度低下を起こす複相化はAlの供給が不足した場合に生じることが示唆された。高強度接合を達成するためには、十分なAlが供給される条件化において接合を完了する必要があると考えられる。反応型液相拡散接合法の接合完了時間は、インサート材の拡散から予測することが可能である。化合物が単相で形成される時間内に接合プロセスが完了するようにインサート材厚さを設定することで、界面に形成される組織を制御し、高強度接合が得ることが可能であると言える。

本研究で開発した反応型液相拡散接合法は、接合界面において意図的に反応相を形成させる新しい接合法である。この接合法は、従来の接合技術では困難とされていたマグネシウム合金と鋼マグネシウム合金の高強度接合を可能にし、マグネシウム合金の適用範囲の拡大とそれに伴う構造体の更なる軽量化へ寄与すると期待される。

審査要旨 要旨を表示する

環境負荷低減や省エネルギーといった観点から、燃費向上のため自動車などの移動構造体の軽量化が積極的に進められており、軽量化を進める上で実用金属材料中で最軽量であり高比強のマグネシウム合金への期待は大きい。マグネシウム合金を移動構造体に適用する場合は、他の構造材料、とりわけ鉄鋼材料との接合が不可欠であるが、マグネシウムと鉄は融点差が極めて大きく、相互の固溶もほとんどないことから溶融溶接による接合は困難であり、固相拡散接合や摩擦撹拌接合などが試みられてきたが、未だこの異種金属材料の接合法は確立していない。本論文は、低融点共晶の液相を用いた液相拡散接合に接合界面での反応相生成を加え、マグネシウム合金と鋼の新たな接合法の開発を行うとともに、その基礎である接合界面での冶金反応ならびに界面の力学挙動の解明を進めた結果をまとめたものであり、以下の章から構成される。

第1章は序論であり、マグネシウム合金の性質、マグネシウム合金と鉄鋼材料の接合に関する従来の知見ならびに課題をまとめるとともに、従来の手法では極めて困難であることを示し、新しい接合法の必要性について述べ、本研究の目的を明らかにしている。

第2章では、マグネシウム合金と鉄鋼材料を接合する新しい接合手法として、反応型液相拡散接合法を考案し、その実現性を実験的に検証した結果を述べている。本接合法は、Mgと共晶反応を生じ、かつ、マグネシウム合金に固溶する金属としてAgならびにZnをインサート材に用い、マグネシウム合金と鋼の間でMgとの共晶反応による液相を接合部に形成させ、その中でマグネシウム合金中の反応元素であるAlの鋼界面への拡散を促し、鋼と液相の界面にFe-Al金属間化合物の反応相を形成させるというプロセスである。これにより接合完了時、接合部においてナノオーダーの均一なFe-Al反応層を形成し、接合を達成する。液相拡散接合プロセスの発現を検証し、そのプロセス中に反応層が形成する機構を解明するとともに、構築した接合法を用いることで、マグネシウム合金と鋼の高強度接合が可能であることを示している。

第3章では、高強度の接合部を得るための指針の構築に向けて、Fe-Al金属間化合物組織を含む接合部組織と接合強度の関係について詳細に検討している。Fe-Al金属間化合物は非常に硬く脆い相であり、接合界面において生成量の増加は接合強度の低下を引き起こすが、これが生成層厚みだけでなく、Fe-Al系化合物の種類や結晶粒径によって異なること、特にFeAlとFe2Al5の複相が生成する場合はその界面が低強度破壊の選択的なパスになることを示している。そして、これらの解析結果を検証するため、鋼板表面に様々なFe-Al金属間化合物を膜状に形成し、その引張試験時に入る亀裂間隔から、Fe-Al金属間化合物薄膜の破壊靱性値を評価する手法を確立し、化合物の種類、結晶粒径、複相化の影響を明らかにするとともに、FeAlとFe2Al5の複相の界面がもっとも低い破壊靱性であることを明らかにしている。

第4章では、第2章、第3章の実験および解析の結果を受け、接合部特性確保するための接合界面における組織制御について検討している。接合時間およびその時間内にマグネシウム合金から供給されるAl量はインサート金属の厚みで決まるが、これにFeAlとFe2Al5の複相化を避けFe2Al5単相の界面反応層を形成するために必要な消費Al量を考慮することで、接合条件の最適化を図っている。これによって、接合部特性に優れた反応型液層拡散接合の条件設計を可能としている。

第5章では、本論文の総括である。本研究で新たに確立したマグネシウム合金と鉄鋼材料の新たな異種金属の接合法である反応型液層拡散接合法についてまとめるとともに、接合部特性の最適化に必要な界面組織およびその制御についての研究の成果を総括している。

以上のように、本論文は、高い接合強度を可能とするマグネシウム合金と鉄鋼材料の新しい接合プロセスを提案し、その基盤となる界面組織形成と制御、接合界面強度の機構を解明した研究をまとめたものであり、今後の安全で安心な様々な軽量構造体に向け工学的に大きく貢献するものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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