No | 128010 | |
著者(漢字) | 鈴木,ちひろ | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | スズキ,チヒロ | |
標題(和) | スカイシャイン線量評価手法の高度化に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128010 | |
報告番号 | 甲28010 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7778号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 原子力国際専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.背景と目的 現行のスカイシャイン線量評価手法には、精度検証のためのベンチマーク問題が限られている、施設周辺の環境要因の影響に関する考察が少ない、線源が限定的等の課題が存在する。本研究は、これらの課題を踏まえ、以下の4点を研究目的とする。 (1)高エネルギー中性子・高エネルギーガンマ線スカイシャインの効率的評価および線源孔の二次元的強度分布評価を目的として測定器を選定し、その特性を評価することで、従前の測定評価手法に新たな検討を加える。 (2)高速中性子源を線源とした中性子スカイシャインの実測と解析を実施し、中性子スカイシャインのベンチマークデータを提供する。 (3)スカイシャイン線量の擾乱要因として、大気と地表面の状況が与える影響について考察する。 (4)原子力発電所シビアアクシデント時のスカイシャイン挙動について考察する。 2.スカイシャイン測定を目的とした検出器の特性評価 2.1.中性子検出器とその特性評価 中性子スペクトルを効率よく測定する測定器として、液体有機シンチレータに着目した。液体有機シンチレータは中性子とガンマ線の弁別能力や検出効率に優れている。一般的に用いられる液体有機シンチレータは直径3インチ、厚さ3インチ以内であるが、本研究では、高エネルギー放射線場への適用と高効率化をめざし、直径8インチ、厚さ4インチの検出器を用意し、その応答特性を評価した。応答関数の評価は、まずSCINFUL-QMDによるモンテカルロ計算によって行った。その後、計算結果にRIガンマ線の実測によって求められた分解能関数[1]を適用し、検出器の応答関数とした。次に、日本原子力研究開発機構の中性子標準施設を用いて、5 MeV及び14.8 MeV単色中性子を検出器に照射した。計算の結果、計算値が、最大10%の精度で実測を良く模擬していることを示しており、整備された応答関数が妥当であることが示された。 2.2.二次元型検出器とその特性評価 スカイシャイン放出源の放射線強度分布の二次元的情報を精細に得るための検出器として、イメージングプレート(以下IP)に着目した。IPは輝尽性蛍光を利用した二次元積分型の放射線検出器であり、放射線の二次元的な分布の様子を精細に描くことができる。本研究では、従来評価の乏しいIP応答のエネルギー依存性及び入射角度依存性を、実験及び計算により正確に評価した。 応答関数の計算には、モンテカルロ粒子輸送計算コードEGS5を用いた。5 keVから100 keVまでの光子ビームをIPに垂直に入射させ、有感領域である蛍光体層内における放射線の沈着エネルギーを算出した。実験値は、高エネルギー加速器研究機構放射光科学施設にて生成された単色光子を、IPに直接照射することで得た。 計算値と実験値の比較の結果、計算値と実験値の比が、エネルギーとともに大きくなる様子が確認された。そこで、計算値と実験値の不一致の改善のため、計算手法の再検討を行った。IP読取時のレーザーと発光が、蛍光体層内で散乱され、蛍光体層内のより深い位置に放射線のエネルギーが沈着した場合に、応答が小さくなると考えた。そこで、計算時に蛍光体層を複数層に分割してそれぞれの層における応答を算出し、応答が深度方向に指数関数的に減少すると考えて、以下の式により応答を再評価した。 ここで、Rc (E)revは新しく評価されたIP応答の計算値、kは実験条件によって決まる定数、αは読取に関連した光の減衰係数、ε(i,E)は第i層におけるエネルギー沈着、x(i)は蛍光体層表面からの距離を表す。 再評価されたIP応答の計算値と実験値とを比較したところ(図1)、αを0.013 μm(-1)、i(max)を23としたときに計算値と実測値が約3%の誤差でよく一致しており、応答特性の妥当性を検証できた。 2.3.ガンマ線検出器とその特性評価 高エネルギーガンマ線を効率よく測定する測定器として、BGOシンチレーション検出器に着目した。原子力施設のスペクトルモニタリングにはNaI(Tl)シンチレーション検出器が通常用いられるが、BGO検出器はNaI(Tl)検出器と比較して、高い効率と高い放射線エネルギー吸収能力を有している。本研究では、このシンチレータについて、その応答関数と入射角度依存性を評価した。 まず、モンテカルロ粒子輸送計算コードEGS5を用いて応答関数を計算し、計算値にRIガンマ線の実測によって求められた分解能関数を適用した。求めた応答関数の検証のため、日本原子力研究開発機構のガンマ線標準施設を用いて、137(Cs) (662 keV)及び60Co (1173 keV、1333 keV)のガンマ線を照射し、応答の実測値を得た。計算の結果、計算値は実測を良く模擬しており、整備された応答関数が妥当であることが示された。 入射角度依存性の評価は、EGS5を用いて入射角度を10°ずつ変化させて光子を照射することで行った。計算の結果(図2)、入射角度によって、応答が数十%異なる様子が確認された。また、照射光子のエネルギーが小さいほど、入射角度依存性が大きくなる様子が確認された。スカイシャイン線測定の際には、直接線やバックグラウンド放射線の影響を避けるため、検出器の下方及び横方向に鉛等の遮へい材を設置し、放射線の入射方向を制限する場合が多い。こうした場合には、入射角度別の応答を入射立体角に応じて組み合わせることで、精度良い評価が期待できる。 3.中性子スカイシャインの実測と解析 東京大学研究炉「弥生」を線源として用いた。測定は、炉心部から上方に貫通した 直径10 cmのグローリー孔及び建屋屋上の直径60 cm天井プラグを開孔して行った。中性子線量の測定には中性子レムカウンタを使用し、中性子スペクトルの測定には寸法の異なる4個のポリエチレン減速球(直径8.1~23.1cm)と3He比例計数管からなるボナー球スペクトロメータを使用した。ガンマ線スペクトルの測定には、先に校正したBGO検出器を使用した。 計算には、モンテカルロ粒子輸送計算コードMCNPXを用いた。放射線源には、実験で測定された線源放出孔で測定された中性子スペクトルを用い、線源中心から上空に放出角2.7°で放出させた。水平距離0~850 mまでの中性子及びスカイシャイン線線量の水平分布を得た。 実験と計算による中性子線量分布(図3)より、評価点20~25 m地点における評価値の不連続は、半径22 mに及ぶ原子炉建屋の影響と考えられる。また、320 mより後方におけるスカイシャイン線量の誤差は、競合する環境放射線(約5 nSv/h)の影響と考えられる。実験の結果から、25 mより遠方に置いては、実測値とMCNPXによる計算値の減衰傾向がよく一致していることがわかる。このことから、スカイシャイン線量の減衰傾向を表すために、MCNPXを用いることが妥当であることが示唆される。また、20 mより近傍では、計算値が実測値を下回っているが、これは計算時に建屋を直接透過する放射線を模擬しなかったためと考えられる。 4.スカイシャイン線量評価における擾乱要因 本研究では、スカイシャイン線量を変化させるパラメータのうち、地表面と大気条件の影響に着目した。 異なる大気条件がスカイシャイン線量に与える影響の違いを検証するために、大気密度、大気中水分量の異なる9つの大気条件下における、1 MeVの中性子及び662 keVのガンマ線を線源とするスカイシャイン線量分布を、MCNPXを用いて計算した。 計算の結果、中性子スカイシャイン線量は近傍では大気の密度に、遠方では大気中の水分密度により大きく依存することが確認された。また、ガンマ線スカイシャイン線量は、大気中の水分密度の影響はほとんど見られず、単純に大気の密度に依存することが確認された。そしてこれらの影響により、大気を標準大気で模擬した場合、施設境界(300mと仮定)付近で評価値に約20~50%の誤差が生じる可能性があることが分かった。 5.原子力シビアアクシデント時スカイシャインに関する考察 原子力シビアアクシデント発生時のスカイシャイン挙動について、そのフェーズごとに簡易モデルを用いてMCNPXによる計算を行った。その結果、線源中心の移動とともに、スカイシャイン線量が減少する様子を確認した。 6.まとめ 本研究における成果を以下にまとめる。 (1)高エネルギー中性子、高エネルギーガンマ線スカイシャイン並びにスカイシャイン放出孔における放射線強度分布の測定を目的として、大容量液体有機シンチレータ、BGOシンチレーション検出器、イメージングプレートに着目し、スカイシャインへの適用に向け応答特性を評価した。 (2)研究用原子炉「弥生」を用いて中性子線スカイシャインの測定と解析を行った。 (3)スカイシャイン線量の擾乱要因として地表面及び大気の影響に着目し、これらの影響についてモンテカルロ計算によって考察した。 (4)原子力発電所シビアアクシデント発生時のスカイシャイン挙動について、モンテカルロコードを用いた計算により考察した。 図 1 IP応答の計算値と実測値との比較 図 2 6MeVガンマ線に対するBGO検出器応答関数の入射角度依存性 図 3 スカイシャイン中性子線量の水平分布 | |
審査要旨 | 本論文は、原子力施設での周辺公衆の防護のためのスカイシャイン評価における線量評価手法の高度化を目的としている。現行のスカイシャイン線量評価手法には、高エネルギー・低線量場での測定、ベンチマーク問題、周辺環境の擾乱効果等の検討に不十分な点があり、考察が不足しているなどの課題を抱えている。本論文は、従来の研究結果をふまえ、これらの課題の解決のための実測及び計算を行い、その知見をまとめてスカイシャイン線量評価の高度化を図ろうとするものである。 第一章は、スカイシャイン線量評価手法の現状と課題について述べた。これまでのスカイシャイン評価研究の流れを整理し、代表的なスカイシャイン源について触れた。そのうえで、スカイシャイン線量評価の現状をまとめ、その課題を指摘し、その解決のための本研究の展開、つまりスカイシャイン線量評価手法の高度化について述べた。 第二章は、スカイシャイン線量の測定評価を目的とした検出器の選定とその特性の評価について述べた。まず、測定の難しい高エネルギー中性子の低線量領域の測定のために大容量液体有機シンチレータを選んだ。合わせて大容量化による高効率化も図った。SCINFUL-QMDモンテカルロ計算により4-20MeVの領域で応答関数を求め、標準校正場における絶対値校正実験により応答関数を精度良く評価した。 またスカイシャイン放出源の線源強度分布の測定のためにイメージングプレート(IP)を選定した。EGS5モンテカルロ計算によりエネルギー応答を求め、KEK-PFの単色光子ビームチャンネルによりその検証を行なった。その結果よりIP読取り時のレーザー光、輝尽性蛍光のIP内部での減衰補正が必要であることを発見し、その補正を加えることにより各段に高い精度の応答特性を得、放射線強度の正確な評価が可能となった。 さらに、BWR施設から環境に放出される高エネルギーガンマ線の測定のためにBGO検出器を選んだ。EGS5モンテカルロ計算により0.5-10 MeVまでの応答関数を求め、標準校正場における絶対値校正実験により応答関数を精度良く評価した。本検出器の高エネルギーガンマ線場での有用性は、NaI(Tl)検出器との応答特性の比較、及びBWR原子力発電所での実測により示した。これらを含め、スカイシャイン放射線場におけるBGO検出器の適用法と有用性について論じた。 第三章は、各種計算コードの精度検証のために実施されたベンチマーク実験とその解析の結果について述べた。高速中性子源炉「弥生」を線源としたスカイシャイン線について、ボナー球・レムカウンタを用いた実測と、MCNPXモンテカルロ計算を用いた解析が実施された。計算体系に建屋を模擬した結果、MCNPXによる計算値を5-40mの建屋構造近傍にまで拡張でき、実測値とよく一致させることができるようになった。この実測・計算の方法・手順をベンチマーク解析の手法としてまとめた。 第四章は、スカイシャイン線量評価時の、周辺環境の擾乱要因、(つまり地表面、大気密度、大気中水分密度)と、その効果について述べた。典型的なスカイシャイン線源におけるこれらの効果について、MCNPXによる計算によって評価した。まず、地表面(土壌、アスファルト、水、半無限大気)の効果について評価した。この結果、地表面の効果は遠方で一定となることがわかった。細かくは、1MeVの中性子スカイシャインにおいては、従来法(半無限大気)と比較し、水・アスファルトは200m以遠で1.4倍、土壌は300m以遠で1.9倍となることがわかった。662keVのガンマ線スカイシャインは、100m以遠で土壌・アスファルトは1.4倍、水は1.5倍となることがわかった。 次に、大気密度と大気中水分密度の効果を評価した。その結果、従来法では、中性子スカイシャインは施設境界(300m)で常に過大評価(最大2.7倍)となることがわかった。また、ガンマ線スカイシャインは従来法では最大15%の誤差が生じることがわかった。これらの効果を半経験式としてまとめた。 第五章は、特殊な状況でのスカイシャインで、原子力施設のシビアアクシデント時のスカイシャインの特徴をまとめた。冷却材喪失事故でコアメルトダウンを想定した。簡単なモデル化ではあるが、事故の進行に伴い、線源(炉心)の位置が変化することとした。これをモンテカルロ法により解析し、線源位置によるスカイシャイン線量の変化を見た。溶融炉心が圧力容器外部、格納容器底部へ移動する最悪の場合、敷地境界におけるスカイシャイン線量は1桁程度増大する。 第六章は、結論である。3つの検出器の応答特性評価により高エネルギー・低線量場での測定評価の高度化が可能となった。中性子スカイシャインベンチマーク問題をここで設定し、施設近傍における精度検証を可能とした。周辺環境の擾乱要因として地表面・大気密度・大気中水分密度の効果を解析しこれらを組み込んだ線量評価を可能とした。これらによりスカイシャイン線量評価手法の高度化が可能となった。 本論文は、スカイシャイン線量の評価手法に実測や理論計算に基づいた新たな考察を加え、その適用法を提示している。これは本論文の重要な成果であり、原子力施設における周辺環境の公衆の被ばく管理の最適化に有効で、工学の進展に寄与するところが少なくない。 以上のことから、本論文は新規性、有用性、学術的価値及び進捗度の観点から審査した結果、本審査は合格と認められる。 | |
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