学位論文要旨



No 128067
著者(漢字) 玉那覇,綾子
著者(英字)
著者(カナ) タマナハ,アヤコ
標題(和) 東京の繁華街における歩行者空間と滞留空間に関する研究
標題(洋)
報告番号 128067
報告番号 甲28067
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3783号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 森林科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀,繁
 東京大学 教授 下村,彰男
 東京大学 教授 永田,信
 東京大学 准教授 小野,良平
 東京大学 教授 齋藤,馨
内容要旨 要旨を表示する

地方都市中心部、特に商店街の疲弊が激しい。その理由として人口減少、郊外型大規模店舗の進出、駐車場を含む脆弱な交通体系、利便性など、外的要因がよくあげられるが、商店街の空間自体が楽しくないからという内的要因もあるのではないだろうか。だとすると、魅力的な楽しい商店街づくりが模索されてしかるべきである。一方で東京の繁華街は居住者だけでなく、遠方からの来訪者も多く集め、賑わっている。交通利便性や商品の魅力なども間違いなくあろうが、楽しくなければ人は行かないのでまち自体の魅力も大きいと思われる。人はまちで飲食や買物の間に「歩く」と「休む」の2つの行動をとり、その2つが楽しいと自然と人が集まり、飲食や買物等も積極的に行われる。そのため「歩くための空間」と「休むための空間」が重要だが、地方の商店街と東京の繁華街とでは、この2つの公共的な空間に違いがあり、それが両者の集客力の違いに影響しているのではないだろうか。以上を問題意識として、本研究は東京の代表的な繁華街で街の魅力に資する公共的な空間である「歩行者空間」と「滞留空間」の現状を把握しようとしたものである。(第1章)

東京の繁華街における歩行者空間「第I部(第2章~第5章)」

第I部では、「歩行者のための空間」という観点から東京の繁華街の道路が、どのような空間構成となっているか、実態把握を行い、分析してその特徴を整理した。東京の代表的な7つの繁華街(新宿、渋谷、浅草、上野、池袋、原宿、銀座)を対象に、鉄道線路や首都高速道路等によるエリアの分断や町境界を基準に繁華街の範囲を設定した。その中に含まれるすべての路線計344本(区道が320、国や基礎自治体の所管となる幹線道路が24路線)を抽出し、現地踏査と写真撮影による記録を行い、幅員のデータ等を各自治体の所管の道路台帳を参照し調べた。

本章では、「歩行者空間」と道路空間構成の関係について、既存研究における歩道や歩行者通路の定義、概念を整理した。そのうえで本研究における「歩行者空間」を、道路空間構成や車両流入規制等の取決めによって変化する、より流動的な意味合いを備えた空間と考え、歩車道を問わず歩行者がまちを見て歩ける空間と定義した。(第2章)

全路線について、路線ごとの距離と繁華街ごとの路線本数密度を計測した。各繁華街における平均路線本数は49本であり、平均距離は190mで、路線の約3/4が「一般に街を飽きることなく歩行し続けられる連続直線距離」内に収まる延長200m以下であることがわかった。距離の短い路線は通行車両の進入軽減や速度緩和につながりヒューマンスケールな道路空間をつくるが、距離の短さが東京の繁華街の1つの特徴といえる。渋谷、新宿には延長50m内外のより短い道が顕著に多かった。単位面積当たりの路線数の平均は1.60本/ haで、浅草(2.40本/ ha)、新宿(2.55本/ ha)が多かった。全体として、局所的に延長の短い道路の集積が複数箇所ともにみられ、この集積がシークエンスの転換と歩行者の街並み体験の機会を増やす契機となっているのではないかと考えられた。

次に、繁華街の魅力を少なからず左右する中心路(メインストリート)を対象に、それが繁華街の中でどのような位置づけにあるか整理したところ、原宿の表参道(約1.1km)や銀座の中央通り(約1km)は繁華街を突き抜けているのに対し、浅草の仲見世(200m)や池袋のサンシャイン60通り(235m)は目的地までの短いアプローチ道路であった。また、渋谷(センター街、スペイン坂通り等)、新宿(新宿中央通り、歌舞伎町中央通り、モア街等)は複数の道による中心路網を形成しており、同じ中心路でも性格が異なっていた。地方の商店街では突抜け型が多いが、アプローチ型や路網型の意識的な形成の有効性が示唆される。

次に、歩行者空間としての特徴をみるために道路の空間形状(平面形状、幅員構成、路面舗装、横断構成の幾何構造)を調べた。平面形状では、直線路が最も多く(218/344、63%)、屈折路が111本(32%)、曲線が15本(5%)であった。渋谷(35/70、50%)・原宿(30/47、64%)では屈折路・曲線路が多く、全体の52%が両繁華街に集中していた。短距離路線の多さをあわせて考えると、渋谷の道路空間では車が通りにくく、歩行者空間としての機能が高いと考えられる。道路幅員の全幅では、5~10m未満の狭幅員が最も多く(155/344、45%)、どの繁華街においても約3割から5割強を占めた。5m未満の幅員が次いで多く(127、37%)、これらをあわせた10m未満の路線数は全体の約8割にも及んだ(282、82%)。比較的ヒューマンスケールな幅員である路線が大多数を占めるということになる。10~20m未満の幅員は全体の12%、20~30m未満は3%、30m以上の広幅員は2%で、多様なスケールで構成されていることもわかった。原宿は表参道(36m)等の広幅員道路を有する一方、極狭い5m未満の幅員の道路が唯一過半数以上(68%)であったが、そのような多くの狭い道がまちの奥行き感を深めるものと考えられる。さらに歩車道幅員比(両側歩道/車道)をみると、0.5以上1.5以下かつ幅員10m~20mである路線が歩車分節された通りに多く、分布をみると、どの繁華街においても1付近の幅員比が集中してみられたことから、歩車分節のある道路空間では相対的に車道に対して歩道が広く確保されている傾向にあるといえる。その他、路面舗装、幾何構造の分析を行った。(第3章)

ソフトマネジメントによる歩行者空間の創出状況をみるため、車両通行規制による歩車分離状況を調べた。時間帯の操作による規制の有無、時間帯と実施範囲をまとめ、歩行者空間の創出への影響と、その規模、立地について考察を行った。結果、時間帯の操作による車両通行規制は、その規模や実施する時間帯にばらつきはあるものの、各繁華街で実施されていることがわかった(平均16路線、正午から夕方6時まで、または翌朝までの設定が多かった)。浅草は総路線数に占める時間的規制を行う路線の割合が高く(約8割で導入)、しかも時間帯を繁華街規模で統一しており、そのようにして展開する道路空間のネットワークは、歩くのに快適な(車に邪魔されないで歩きまわれる)時間制歩行者専用通り(区域)に近い領域を形成していると考えられた。その他にも街区のまとまりごとや商店街規模で実施路線を集中させ、規制エリアを限定的に創出して車両通行の排除に成功している場所が複数あった。東京の繁華街では、時間制歩行者専用通りの運用規模(単路線、街区のまとまり、繁華街規模)ごとに、集中的に歩行者空間の創出が行われていることが明らかとなった。(第4章)

本章では第I部をまとめた。東京の繁華街の歩行者空間の特徴を整理し、歩行者空間がまちの魅力の創出にどのような影響を与えるかという観点から中心市街地活性化に効果的な道路整備方法のいくつかを明らかにした。車両通行による影響を極力減らす道路空間構成や、歩車道が視覚的に一体として見えるよう調整した歩行しやすさの演出等が、快適な歩行体験を生み出していると考えられたことから、このような道路デザインをうまく活かし、まちを遊歩できる歩行者空間を積極的に導入していくことが望ましいという結論を得た。(第5章)

東京の繁華街における滞留空間「第II部(第6章~第10章)」

第II部では、休む、憩う、飲食するといった「座る」ことを前提とした人々のアクティヴィティをまちの興味対象として捉える観点から各繁華街の滞留空間の実態を把握し、特徴を明らかにした。調査は前述の7つに日本橋を加えた8箇所の繁華街で行った。屋外での滞留者の動向を4月下旬から7月上旬、曜日はいずれも土・日曜日の晴れた日に、午後1時から6時まで観察した。滞留が行われている場所を地図上にプロットし、その滞留者の点の集合を1まとまりとし、同じ場所に展開する滞留行為が見られた場をつくる空間ユニットを滞留空間として363箇所抽出した。

滞留空間数は、平均45.4箇所、原宿(91)で最も多く、日本橋(8)で少なかった(約1/5)。繁華街の集客(人出)に滞留空間数が少なからず影響していると推察された。また、密度を調べたところ、滞留空間数が多いところは密度も高いことがわかった(平均0.6箇所/haに対して浅草は1.8箇所/ha、原宿は1.1箇所/ ha)。(第6章)

立地の特徴を把握するために、滞留空間を公共空間(道路・公園・広場)と民間の敷地(公開空地・店舗前面部・その他の民地)とに分けて、滞留空間数と割合について繁華街ごとに分析したところ、店前などの公共整備による滞留空間が比較的多いことがわかった(公共203箇所、民間160箇所)。特に道路における滞留空間が約4割を占め、滞留空間の最も生じている場所は道路空間であることが明らかとなった。知見として街への賑わい効果が期待できるのは、道路中央部に一箇所にまとまって飲食等して座れるもので、あまり整備費をかけず創出可能なため、商店街や中心市街の活性化等でも有効な手段に成り得ると考えられた。ただし、道路選定に際して(1)車両交通を遮断しても交通機能に支障のない非幹線道路、または時間帯規制やゾーニングによる歩車分節を行う、(2)歩行者導線と滞留空間が分節される十分な幅員が確保できる道路、(3)囲繞感の大きい道路空間、または公開空地部分を部分的に利用した形での接道部等といった点に留意する必要がある。このように道路空間の広場化によって創出された滞留空間は、街並みがよく見え、地域を認識する装置として機能するため、来訪者に街を理解してもらうという意味においても効果的といえる。また、滞留空間の立地は周辺部の興味対象資源とあわせた選択的な配置が有効であることがわかった。(第7章)

滞留空間の空間構成を把握するために、建物との関係から建物一体型 (138箇所、38%)、非一体型 (225箇所、62%)とに分けた。店舗形態、歩行者導線との関係性等からさらに整理すると、建物一体型には敷地完結型のほか、内部領域拡大型(道路との一体性が高い街の賑わいに効果的であるタイプ)、店舗前面部型(民間側に敷地がない、あるいは狭小敷地でも道路空間接道部の活用によって店前部分に内部領域拡大型の滞留空間が展開可能なタイプ)等、多様なタイプがあった。非一体型(独立型)は構造物付属型のほか、植栽施設付属型(植栽構造物に付随して生じているタイプ)が多く、公共空間において滞留行動に大いに寄与しているということがわかった。(第8章)

滞留空間のうち「見る-見られる」の関係など、空間相互につながりがある場合を複数の箇所にまとめ《複合滞留空間》として27箇所を抽出し、その組合せ、特徴について繁華街ごとに分析した。その結果、7つの繁華街で複合滞留空間が存在し、それらの一箇所集積による街区の賑わい効果が考えられた。店舗前面部型の滞留空間の集中によるものが浅草や上野で顕著であった。また官民一体の複合滞留空間整備による、賑わいある通りの創出の可能性が示された。そのような場合には道路整備のポイントとして公共側では道路整備の際に民間側の店舗で飲食等が可能な空間との組合せによる休憩施設の設置場所や、視軸線を阻害しない街路樹の配置、高さのある構造物等の抑制に配慮すべきと考えられた。(第9章)

第II部のまとめとして、東京の繁華街における滞留空間の特徴を整理した。滞留空間の立地に関して、公共で担保されている空間が大半を占め、道路空間で最も多く生じていることがわかった。また空間のタイプは上野・浅草で内部領域拡大型、店舗前面部型が多く、池袋・原宿で植栽施設付属型が多いなど街によって異なるバリエーションがあることがわかった。多様な空間タイプの滞留空間を集中して街中に配置する等してまちの魅力づくりを牽引しうること、また滞留空間の立地を周辺の地域資源の有効性を認識した上で選択的に配置することが効果的な滞留空間創出に重要と考えられた。(第10章)

最後に、I・II部の結果を整理し、歩行者空間と滞留空間からみる東京の各繁華街の特徴についてまとめた。

集約的な短距離道路の配置と、時間制車両流入規制の拡充の組み合わせによって歩行者空間を創出している繁華街(渋谷・新宿・池袋)がある一方、幹線道路から囲うようにして繁華街の大部分で交通量を排除する領域をつくり、歩行者が車両通行から受ける安全性に対するリスクを低減するエリアデザインと、歩車道一体的な道路空間形状を採用している繁華街(浅草・上野)があることがわかった。どちらも独自の道路空間の骨格構造を踏まえたうえでタイプの異なる歩行者空間を創出している。このような「歩行者のための時間と歩行環境」を積極的にデザインするという視座は、賑わい創出にとって不可欠であり、まちづくりや中心市街地再整備の際にはかならず配慮すべきポイントであるといえよう。

得られた知見をもとに都市計画・デザイン的観点から疲弊した地方都市商店街への示唆を行った。車の乗り入れが自由になっている車中心の場所がよく見受けられるが、まちの魅力という観点からは人中心の空間への再構築が考えられてよい。「歩行者のための空間」という意図が明確に伝わるような道路空間設計が重要であり、特に幅員は人と車とどちらを大事にしているかまちの姿勢が伝わるので、歩車道幅員比が1:1に近づくような割合の設定や、部分的に不等幅員を導入する等して変化に富んだ幅員構成とすることを検討したいところである。車両よりも人間を中心とした道路空間構成がともかく重要である。施設帯については、歩車境にある道路附属構造物が極力歩車境で歩行者の視領域を阻害しないよう低く、あるいは目立たなくする等、歩車領域を遮断しないしつらえのディテールに配慮するとよい。路面舗装は親しみある通りの印象と歩車領域認識への影響を考え、歩車道の境界が視覚的に調和され歩車領域が一体的に見えるような歩車同一素材、同系統色相の舗装にし、それらの時間制歩行者専用通りでの選択集中的採用が有効である。また街区のまとまりや商店街などの規模で、限定的な時間制歩行者専用通りの状態を創出することに成功している例があったことから、運営や立地選定の工夫次第で、歩行者空間創出が速やかに行える可能性が示唆された。このような場所には滞留空間の多様なバリエーションが存在し、通りの賑わいに貢献していたことからも、街区を選んだ重点的歩行者・滞留空間エリアの計画は中心市街地の活性化等に効果的であると考えられた。これまでの大規模な集客施設、開発計画等とは異なった発想による、資金力の少ない自治体や第三者が主体でも活性化につながる街の魅力づくりの方法のひとつとして滞留空間に着目することは意義がある。今後の都市空間における道路整備政策を考えるにあたり、道路のストックの時代は終わり、これからはどのようにしてまちと一体となった地域に資するもてなしを発揮できる場所をつくるかという観点からの道路改修、手直しの時代に入る。それに伴い、公共空間の再編成や見直しの重要度が高まっており、公共空間の新しいフェーズを考える時期にさしかかっているともいえる。地方都市の観光政策やまちづくりのなかで、来訪者をもてなすためのまちの公共空間を考える際に、具体的にどのような工夫を凝らして改修すればいいのかという着眼点として歩行者空間と滞留空間をあわせて街中に配備するという発想が将来的に有効な手段たり得るのではないだろうか。公共空間で担保できる歩行者、滞留空間は公共整備で創出可能であり、まちの実情にあわせた整合のとれた整備計画が望まれる。(第11章)

審査要旨 要旨を表示する

地方都市商店街の疲弊が恒常化するなか、まちの魅力とそれに係る公共空間整備は地方都市の喫緊の課題となっている。一方、東京の繁華街は人を集めている。魅力があるからで、それには公共空間も大きく係っていると考えられる。

2部構成の11章よりなる本論文は、銀座、渋谷、浅草など東京の7つの代表的繁華街を対象に、来訪者が街中の公共空間で行う基本行動の「歩行」と「滞留」に着目して「歩行者空間」と「滞留空間」を分析し、東京の繁華街の空間の特徴を明らかにし、さらに地方都市への示唆を得ようとしたものである。

第1章では、研究の背景と目的、既往研究との関係、構成と方法をまとめている。

歩行者空間を扱った第I部の第2章では、「歩道」や「歩行者用通路」と異なる「歩行者空間」を、車両通行との関係等周辺の状況によって変化する、より流動的な空間として捉えることを提案し、その重要性を指摘している。

第3章では、歩行者空間の形状を調査分析し、全344路線の73.8%が200m以内でたいへん短いこと、幅員が10m未満の路線が全体の82.0%、5m未満が36.9%で、ヒューマンスケールな道路空間が多いことを明らかにし、歩行者の歩きやすさ、居心地良さの要因となる線形等についても考察を行っている。

第4章では、時間帯車両通行規制を繁華街ごとに整理し、全体では109路線(31.7%)で導入されていること、時間帯の統一や集中選択的な範囲設定などの取組が組合わされている場合に歩行者空間としての効果が大きいことなどを明らかにしている。

第5章では、第I部のまとめとして、短距離路線の集約的配置と時間帯車両流入規制の拡充の組合せによって歩行者空間を創出している繁華街(渋谷・新宿・池袋)がある一方、街の大部分で交通量を排除する領域をつくり、歩行者が車両通行から受けるリスクを低減するエリアデザインと歩車一体的道路形状を採用している繁華街(浅草・上野)があるなど、繁華街によって歩行者空間の特徴に違いがあることを明らかにしている。分析結果を踏まえ、良好な歩行者空間創出には、道路整備と車両通行規制をうまく組み合わせることが重要であるなどの提言を行っている。

滞留空間を扱った第II部の第6章では、「滞留空間」の概念を整理し、第I部の7つに日本橋を加えた8つの繁華街で合計363箇所の滞留空間を抽出し、数と密度の相関を考察している。

第7章では、立地を分析し、公共空間にあるものが57.3%と多く、その中でも道路空間にあるものが43.3%で最も多いことを明らかにしている。また、植栽で囲われ見にくい公園のベンチなどよりも、道路端で目立つ街路樹防護柵などのほうがよく使われていたことから、道路整備での滞留空間創出の有用性とその手法などについて考察している。

第8章では、空間タイプを建物一体型、敷地完結型、構造物付属型などに整理し、形態の多様性を分析し、道路との一体性や街の賑わいへの影響について考察している。また、繁華街別にみると浅草では内部領域拡大型が、原宿・池袋では植栽施設付属型が多い等、繁華街によって滞留空間形成に違いがあることを明らかにしている。

第9章では、複数の滞留空間が集まった複合滞留空間という概念を提示して再整理し、滞留空間の型の組合せを調べ、店舗前面部型同士の組合せが多いこと、連続的に集中することで賑わい感が発生すること、公共の道路と民間の沿道との一体型が強い魅力となることなどを明らかにしている。

第10章では、第II部のまとめとして、繁華街ごとの滞留空間の特徴を整理し、道路施設など公共整備型が中心の繁華街と、民間整備の店舗前面部型が散在する繁華街、その両方がある繁華街などに類型化し、滞留空間創出の手法を整理している。

第11章では、I部とII部の結果を再整理し、歩行者空間と滞留空間からみた東京の繁華街の特徴について総合考察を行い、地方都市への提言として、道路空間の広場化の重要性、滞留空間配置に関する位置選択のポイントなど両空間の整備のあり方と創出方法を論じている。

以上、本論文は、東京の代表的繁華街の歩行者空間と滞留空間の特徴を明らかにするとともに、地方都市の公共空間整備への示唆を整理したものである。本論文で得られた知見は、空間の魅力づくりに関する研究、実践に大きな影響を与えると考えられ、学術上、応用上貢献することが少なくない。よって、審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

UTokyo Repositoryリンク