No | 128131 | |
著者(漢字) | 黒川,淳 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | クロカワ,ジュン | |
標題(和) | アポトーシス抑制因子AIMを基盤としたメタボリックシンドローム病態形成機構の解明 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128131 | |
報告番号 | 甲28131 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3790号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 分子細胞生物学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | メタボリックシンドロームは、近年の生活環境の著しい変化に伴い急速に表面化した現代病であり、内臓脂肪型肥満とインスリン抵抗性を基礎とし、糖尿病や動脈硬化性疾患などの制御困難な疾患が連鎖的に発症する。従来、これらの疾患群に対し、肥満の改善を目的とした食事療法や運動療法、血糖値・血圧・コレステロール値などの改善を目的とした投薬療法が行われてきた。しかしながら、生活様式の急激な変化や高齢化社会への移行の状況を鑑みれば、これまでの対症療法ではなく、メタボリックシンドロームの病態形成機構に基づく予防法および根本的な治療法の開発が求められている。 メタボリックシンドロームの病態形成を理解する上で極めて重要なイベントは、脂肪組織リモデリングと慢性炎症の惹起・増悪である。脂肪組織は、実質細胞である脂肪細胞だけではなく、脂肪前駆細胞、血管構成細胞、線維芽細胞、免疫細胞などの間質細胞により構成されている。肥満に伴い、脂肪組織では、脂肪細胞の肥大化、マクロファージやリンパ球などの免疫細胞の浸潤・蓄積、細胞外マトリックス過剰生産などに特徴づけられる脂肪組織像のダイナミックな変化が認められ、これは脂肪組織リモデリングと呼ばれている。脂肪組織リモデリングの過程において、脂肪組織に浸潤・蓄積したマクロファージは、脂肪細胞と相互作用し、IL-6、IL-1β、TNFαなどの炎症性サイトカインやMCP-1などのケモカインを産生することにより脂肪組織に慢性炎症を引き起こし、正常な脂肪組織の機能に大きな影響を与える。 脂肪組織は、余剰のエネルギーをトリグリセリドとして蓄積する貯蔵器官であると同時に、アディポサイトカインと総称される生理活性物質を分泌する内分泌器官としての側面を持つ。組織リモデリングに伴う慢性炎症により、内分泌器官としての機能に異常を来たした脂肪組織は、全身性のインスリン抵抗性をもたらし、2型糖尿病や脂肪性肝疾患の発症リスクを上昇させるだけでなく、動脈硬化病変を増悪させ脳・心血管イベント引き起こすと考えられる。 病巣部位のマクロファージは、炎症性サイトカインやケモカインに限らず様々な生理活性物質を産生している。AIM (apoptosis inhibitor of macrophage) は、マクロファージが特異的に産生する分泌タンパク質であり、マクロファージ自身を含めた様々な細胞のアポトーシスを抑制する機能を持つことが知られている。動脈硬化病巣の泡沫化マクロファージは、AIMを強く発現し、自身のアポトーシス抵抗性を著しく高めるため、病巣での泡沫化マクロファージの蓄積が促進され、動脈硬化症を増悪させる。実際に、AIM欠損(AIM-/-)マウスでは動脈硬化病変が著しく減少する。また、AIMは、肝疾患を含む様々な疾患において血中濃度が上昇すること、多機能タンパク質としての側面を持つことが示唆されており、動脈硬化症だけではなく、メタボリックシンドロームを含む様々な疾患の病態形成機構に関与することが予想される。 すなわち、マクロファージとAIMに着目した研究を展開することで、メタボリックシンドロームの病態形成機構の一端を明らかにできる可能性がある。 【目的】 先に述べたように、肥満に伴い脂肪組織へ浸潤・蓄積したマクロファージは、脂肪組織を構成する様々な細胞と複雑な相互作用を起こし、慢性炎症やインスリン抵抗性を惹起することで内分泌器官としての正常な脂肪組織機能を破綻させ、メタボリックシンドロームの病態形成に深く関与する。しかしながら、より根本的な原因である、肥満に伴い脂肪組織へのマクロファージ浸潤を誘導する機序については明確な解答が得られておらず、メタボリックシンドロームの病態形成機序には依然として議論の余地がある。 また、多機能タンパク質としての側面を有するAIMは、動脈硬化症に限らず様々な疾患に関与する可能性があり、メタボリックシンドロームの病態形成においても重要な役割を果たしている可能性が示唆される。 ゆえに、本研究では、メタボリックシンドローム病態形成におけるAIMの役割の解明を目的とし、研究を展開した。 【結果】 ≪第1章 脂肪細胞に対するAIMの新規機能の同定≫ 脂肪組織におけるAIMの機能や役割については、これまで報告がなく不明であった。そこで、本研究では、まず脂肪組織におけるAIMの機能と役割の解明を試みた。詳細な解析の結果、AIMが脂肪細胞に対して直接作用すること、アポトーシス抑制以外の新規機能を持つこと、さらに、それらを支える分子メカニズムの一端を明らかにした。 ・脂肪組織へ浸潤したマクロファージはAIMを強く発現する AIM+/+マウスに、高脂肪食 (HFD) を20週間負荷し、脂肪組織へ浸潤したマクロファージにおけるAIMの発現を評価した。非肥満状態の脂肪組織ではAIMの発現はほとんど認められないが、肥満に伴い脂肪組織へと浸潤したIL6陽性のM1マクロファージではAIMの発現が認められた。また、脂肪細胞ではAIMの発現が認められなかった。 ・AIMはCD36を介したエンドサイトーシスにより脂肪細胞に取り込まれる AIMの遺伝子発現はM1マクロファージに限定されていたが、免疫組織化学による解析では脂肪細胞にもAIMのシグナルが認められた。この知見は、マクロファージから分泌されたAIMが、近傍の脂肪細胞に対して何らかの影響を与える可能性を示唆させるものであった。そこで、脂肪細胞に対するAIMの作用を詳細に解析した。免疫蛍光染色ならびに免疫電子顕微鏡観察により、AIMは脂肪細胞内部にエンドサイトーシスにより取り込まれることを明らかとした。また、AIMは初期エンドソームに局在するが、後期エンドソームやリサイクリングエンドソーム、リソソームなどには局在しないことから、初期エンドソームから後期エンドソームへの成熟過程で細胞質へと局在を変化させることが示唆された。さらに、CD36-/-マウスやCD36中和抗体を作用させた脂肪細胞ではAIMのエンドサイトーシスによる取り込みが認められないことから、AIMのエンドサイトーシスを仲介する分子は、脂肪細胞表面に発現するスカベンジャー受容体CD36であると結論付けた。 ・AIMは脂肪酸合成酵素 (FAS) インヒビターとして機能し、脂肪細胞にLipolysisを誘導する AIMがエンドサイトーシスにより脂肪細胞に取り込まれることから、脂肪細胞内で何らかの因子と相互作用し機能する可能性が示唆された。そこで、IP-MSによる網羅的解析などにより脂肪細胞内でAIMと相互作用する因子を探索したところ、脂肪酸合成酵素 (fatty acid synthase: FAS) と結合することを見出した。また、AIMはFASと結合し、機能的・構造的にその酵素活性を抑制することを明らかとした。さらに、AIMによるFAS酵素活性阻害は、脂肪前駆細胞の成熟脂肪細胞への分化を抑制することや成熟脂肪細胞に対してLipolysisを誘導し油滴サイズを減少させることを明らかとした。また、AIM-/-マウスではAIM+/+マウスよりもHFD負荷による肥満が亢進すること、AIMを投与したAIM-/-マウスではこの表現系が抑制されることを見出した。すなわち、AIMはマクロファージに対するアポトーシス抑制能以外に、内在性FASインヒビターとしての側面を持ち、脂肪細胞に対してLipolysisを誘導する新規機能を持つことが明らかとなった。 ≪第2章 メタボリックシンドローム病態形成におけるAIMの役割≫ 第1章で述べたように、本研究の結果から、AIMは脂肪細胞に作用しLipolysisを誘導する機能を持つことが明らかとなった。肥満に伴う脂肪組織へのマクロファージ浸潤を誘導する機構については不明であるが、近年、脂肪細胞のLipolysisなどにより放出される飽和脂肪酸が、肥満に伴うマクロファージ浸潤・蓄積に関与することが報告されている。そこで、AIMによるLipolysisがメタボリックシンドロームの病態形成に重要な脂肪組織へのマクロファージ浸潤・蓄積にどのような影響を与えるか検討した。 ・AIMは肥満に伴う脂肪組織へのマクロファージの浸潤および蓄積に関与する HFDを12週間負荷したAIM+/+およびAIM-/-マウスの脂肪組織におけるマクロファージの浸潤と蓄積を評価したところ、AIM-/-マウスの脂肪組織では肥満に伴うマクロファージの浸潤と蓄積が著しく抑制されていることを見出した。AIMと脂肪組織へのマクロファージ浸潤・蓄積の関係を詳細に解析するため、HFD負荷時におけるAIM+/+およびAIM-/-マウスの血中グリセロール濃度、血中FFA濃度を経時的に解析したところ、AIM-/-マウスではHFD負荷に伴う血中グリセロール濃度、血中FFA濃度の上昇が抑制されていた。また、AIM+/+マウスにおいて、HFD負荷に伴い血中AIM濃度が著しく上昇することを見出した。さらに、非肥満および肥満したAIM-/-マウスへのAIM投与により、脂肪組織へのマクロファージ浸潤・蓄積が誘導されることを明らかとした。これらの結果から、肥満に伴う血中AIM濃度の上昇とLipolysisの亢進が脂肪組織へのマクロファージ浸潤・蓄積に大きな影響を与えることが示唆された。 ・AIMによるLipolysisは脂肪細胞においてTLR4シグナル伝達経路を活性化しケモカインの産生を亢進する AIMによる脂肪組織へのマクロファージ浸潤を誘導する機構を解明するため、AIMおよびAIMを作用させた脂肪細胞培養上清のマクロファージ走化能を評価した。その結果、AIMにはマクロファージ走化能が認められなかったが、AIMを作用させた脂肪細胞の培養上清には強いマクロファージ走化能が認められた。AIMによる脂肪細胞のLipolysis亢進とマクロファージ走化能の関係について詳細に解析したところ、AIMを作用させた脂肪細胞ではMCP-1を含むケモカインの産生が著しく亢進していることが明らかとなった。さらに、脂肪細胞におけるケモカインの産生亢進は、Lipolysisにより放出された脂肪酸が、脂肪細胞のTLR4シグナル伝達経路を活性化するためであることを明らかとした。また、AIMを投与したTLR4-/-マウスでは、Lipolysisが亢進するにも関わらず、脂肪組織へのマクロファージ浸潤は誘導されないことを明らかとした。ゆえに、AIMによるLipolysisは、脂肪細胞においてTLR4シグナル伝達経路を活性化しケモカインの産生を亢進することで脂肪組織へのマクロファージ浸潤を誘導すると考えられる。 ・AIM-/-マウスでは肥満に伴う慢性炎症およびインスリン抵抗性が改善される 肥満AIM-/-マウスの脂肪組織では、マクロファージの浸潤および蓄積が抑制されることから、脂肪組織おける慢性炎症ならびにインスリン抵抗性が改善されている可能性が示唆された。そこで、肥満AIM-/-マウスにおける炎症とインスリン感受性について解析した。AIM-/-マウスの脂肪組織では、AIM+/+マウスの脂肪組織と比較してtnfα、IL-6、IL-1βの遺伝子発現が有意に抑制されていた。また、血中TNFおよびIL-6濃度が有意に低下していた。さらに、AIM-/-マウスでは脂肪組織におけるケモカイン遺伝子(mcp-1, mcp-2, mcp-3, ccl5/rantes) の発現および血中MCP-1濃度の上昇が有意に抑制されていた。また、耐糖能試験(Glucose Tolerance Testおよび Insulin Tolerance Test)においても、AIM-/-マウスではAIM+/+マウスと比較して良好な応答性が認められた。これらの結果から、AIM-/-マウスでは、肥満に伴う慢性炎症およびインスリン抵抗性が改善され、正常なインスリン感受性が維持されることが明らかとなった。 【総括】 本研究の結果から、AIMは、脂肪細胞に対してLipolysisを誘導する機能を持つこと、この機能がメタボリックシンドロームの病態形成に極めて重要なイベントである、脂肪組織へのマクロファージ浸潤を誘導するトリガーであることを明らかとした。本研究から得られた知見は、AIMを標的としたメタボリックシンドロームの新しい予防法や治療法の開発につながるものと期待される。 | |
審査要旨 | 本研究は、メタボリックシンドローム病態形成機構の解明を目的として、マクロファージ由来の分泌タンパク質AIM(Apoptosis Inhibitor of Macrophage)の脂肪細胞に対する機能解析ならびにメタボリックシンドロームの発症および増悪におけるAIMの役割の解明を試みたものであり、下記の結果を得ている。 1.高脂肪食(High Fat Diet; HFD)負荷により食餌誘導性肥満モデルマウスを作製し、脂肪組織におけるAIMの発現を定量PCR法および免疫組織化学法により解析した結果、肥満に伴い脂肪組織に浸潤した炎症性マクロファージ(M1マクロファージ)がAIMを強く発現することが示された。また、脂肪組織を構成する脂肪細胞や非肥満状態の脂肪組織ではAIMの発現が認められなかった。 2.免疫組織化学法による解析から、マクロファージから分泌されたAIMが、近傍の脂肪細胞に対して何らかの影響を与える可能性が示唆されたため、脂肪細胞に対するAIMの作用を免疫染色法ならびに免疫電子顕微鏡法により解析したところ、AIMは脂肪細胞内部にエンドサイトーシスにより取り込まれることが示された。さらに、CD36-/-マウスやCD36中和抗体を作用させた脂肪細胞ではAIMのエンドサイトーシスによる取り込みが減少することから、脂肪細胞表面に発現するスカベンジャー受容体CD36がAIMのエンドサイトーシスを仲介する分子のひとつであることが示された。 3.IP-MSによる網羅的解析により脂肪細胞内でAIMと相互作用する因子を探索したところ、脂肪酸合成酵素 (Fatty Acid Synthase; FAS) が候補因子として見出された。共免疫沈降法やFAS酵素活性測定などの生化学的解析から、AIMはFASの特定のドメイン(DHドメイン、CCドメイン、ERドメイン、TEドメイン)と結合し、酵素活性を低下させることが示された。すなわち、AIMは脂肪細胞においてFASインヒビターとして機能している可能性が示唆された。 4.AIMによるFAS酵素活性阻害は、脂肪前駆細胞(3T3-L1細胞)の成熟脂肪細胞への分化を抑制することや成熟脂肪細胞に対してLipolysisを誘導し油滴サイズを減少させることが示された。また、脂肪細胞に対するAIMの効果はFAS阻害剤であるC75と同様のものであった。 5.AIM-/-マウスではAIM+/+マウスよりもHFD負荷による肥満が亢進すること、AIMを投与したAIM-/-マウスではこの表現型が抑制されることが示された。また、AIM+/+マウスおよびAIM-/-マウス間における基礎代謝値に有意な差は認められなかった。さらに、AIM-/-マウスではHFD負荷に伴う血中グリセロール濃度や血中遊離脂肪酸濃度の上昇が抑制されていた。これらの結果から、AIMは脂肪細胞にLipolysisを誘導することで過剰な栄養素の摂取などにより増加する脂肪組織重量を調節する生理的役割を持つ可能性が示唆された。 6.HFD負荷AIM+/+マウスおよびAIM-/-マウスの脂肪組織におけるM1マクロファージの浸潤と蓄積を免疫組織化学法により解析した結果、AIM-/-マウスの脂肪組織ではM1マクロファージの浸潤とそれに続く蓄積が抑制されることが示された。 7.非肥満およびHFD負荷により肥満したAIM-/-マウスへのAIM投与により、脂肪組織へのM1マクロファージの浸潤とそれに続く蓄積が誘導されることが示された。また、AIM+/+マウスにおいてHFD負荷により血中AIM濃度が著しく上昇することが示された。これらの結果から、血中AIM濃度の上昇が脂肪組織へのM1マクロファージの浸潤とそれに続く蓄積に大きな影響を与えることが示唆された。 8.AIMおよびAIMを作用させた脂肪細胞培養上清(AIM-Conditioned Medium: AIM-CM)のマクロファージ走化能を解析した結果、AIM自身にはマクロファージ走化能が認められなかったがAIM-CMには強いマクロファージ走化能が認められた。 9.AIMを短時間作用させた脂肪細胞ではIκBαの分解を指標としたTLR4シグナル伝達経路の活性化が認められなかったが、AIM-CMを作用させた脂肪細胞ではTLR4シグナル伝達経路の活性化が認められた。また、TLR4シグナル伝達経路のメディエーター分子であるTIRAPの阻害剤を用いることにより、AIM-CMによるTLR4シグナル伝達経路の活性化が抑制された。 10.AIMおよびAIM-CMを作用させた脂肪細胞におけるケモカイン(MCP-1, MCP-2, MCP-3, CCL5/RANTES)の産生を定量PCR法およびELISAにより解析した結果、AIMを短時間作用させた脂肪細胞ではこれらのケモカインの産生は亢進されなかったが、AIM-CMを作用させた脂肪細胞ではこれらのケモカインの産生が有意に亢進された。また、TLR4シグナル伝達経路のメディエーター分子であるTIRAPの阻害剤を用いることにより、AIM-CMによるケモカイン産生の亢進が抑制された。 11.Lipolysisにより脂肪細胞から放出されることが知られているパルミチン酸やステアリン酸を用いて、脂肪細胞を刺激し、TLR4シグナル伝達経路の活性化およびケモカイン産生の亢進を評価した。その結果、TLR4シグナル伝達経路の活性化およびケモカイン産生の亢進が認められた。 12.AIMを投与したTLR4-/-マウスでは、Lipolysisの亢進(血中グリセロール濃度および血中遊離脂肪酸濃度の上昇、油滴構成タンパク質関連遺伝子の発現低下)が認められたにも関わらず、脂肪組織におけるJNKのリン酸化を指標としたTLR4シグナル伝達経路の活性化、ケモカイン産生の亢進、脂肪組織へのマクロファージ浸潤の増加は認められなかった。 13.8 ~ 12に記した結果より、AIMによるLipolysisは脂肪細胞においてTLR4シグナル伝達経路を活性化しケモカインの産生を亢進させることで脂肪組織へのマクロファージの浸潤を誘導する可能性が示唆された。 14.肥満AIM-/-マウスにおける炎症とインスリン感受性について解析したところ、肥満AIM-/-マウスの脂肪組織では、肥満AIM+/+マウスの脂肪組織と比較して炎症性サイトカイン遺伝子 (tnfα、IL-6、IL-1β) の発現が有意に抑制されていた。また、血中TNFαおよびIL-6濃度が有意に低下していた。さらに、肥満AIM-/-マウスでは脂肪組織におけるケモカイン遺伝子 (mcp-1, mcp-2, mcp-3, ccl5/rantes) の発現および血中MCP-1濃度の上昇が有意に抑制されていた。また、耐糖能試験(Glucose Tolerance Testおよび Insulin Tolerance Test)においても、AIM-/-マウスではAIM+/+マウスと比較して良好な応答性が認められた。これらの結果から、AIM-/-マウスでは、肥満に伴う慢性炎症およびインスリン抵抗性が改善され、正常なインスリン感受性が維持されることが示された。 以上、本論文はAIMがマクロファージに対するアポトーシス抑制能以外にも脂肪細胞に対してLipolysisを誘導する機能を持つこと、Lipolysisの促進により脂肪細胞から放出された脂肪酸が脂肪細胞自身のTLR4シグナル伝達経路を活性化させ、ケモカイン産生を亢進させることで、メタボリックシンドロームの病態形成に極めて重要なイベントである脂肪組織へのマクロファージの浸潤を誘導することを明らかとした点で重要であり、メタボリックシンドローム病態形成機構の解明に貢献するものであると考えられる。また、本研究から得られた知見は、AIMを標的としたメタボリックシンドロームの新しい予防法や治療法の開発につながるものと期待され、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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