学位論文要旨



No 128170
著者(漢字) 城戸内,孝
著者(英字)
著者(カナ) キドウチ,タカシ
標題(和) IVR時の皮膚被ばく : 放射線インジケーターによる実測
標題(洋)
報告番号 128170
報告番号 甲28170
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3829号
研究科 医学系研究科
専攻 生体物理医学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 平田,恭信
 東京大学 准教授 宮田,哲郎
 東京大学 教授 宮川,清
 東京大学 准教授 阿部,裕輔
 東京大学 准教授 國松,聡
内容要旨 要旨を表示する

【背景】

多施設(3施設)において複数機種(6機種)の血管造影装置を用い、心房細動(Af)を含めた頻拍性不整脈に対する心臓カテーテルアブレーション時の患者皮膚線量(ESD)を放射線感受性インジケーターを使用し、評価する。また、各機種においてMax-ESDと面積線量(DAP)間、Max-ESDと総透視時間(TFT)間の関係を評価する。心臓カテーテルアブレーション手技におけるMax-ESD、DAP、TFTをAf group(AfおよびPaf)とnon-Af group間で比較する。

【方法】

基礎実験としてPhantomを使用し、吸収線量と放射線感受性インジケーター (RadiMap; 日油技研工業株式会社, 埼玉)の色差の関係を従来より低い線量域で求めた。RadiMapは吸収線量の増加に伴い色が変わる機能性色素を用いており、色調の変化により吸収線量を推定することが可能である。色調の変化は色差として色彩色差計で数値化できる。

3施設において頻拍性不整脈 (Af;n = 34、non-Af;n = 65)に対して心臓カテーテルアブレーションを施行された99人を対象とした。non-Af groupとしては心房粗動(AF)、心房頻拍(AT)、発作性上室性頻拍(PSVT)、心室頻拍(VT)、心室性期外収縮(VPC)、心房性期外収縮(APC)、房室結節回帰性頻拍(AVNRT)、WPW症候群を含む。3施設中2施設でAf と non-Afの両方に対してアブレーションが施行された。 ESDは患者のジャケットの背面に5cm間隔で100個取りつけられたRadiMapを用いて測定した。統計解析として、3施設間でのTFT、Max-ESD、DAPそれぞれの比較にはKruskal-Wallis検定を用いた。Stepwise重回帰分析にて従属変数(Max-ESD)と独立変数群(DAP, TFT, BMI, etc))の相関の強さを検討した。TFTとMax-ESD間およびDAPとMax-ESD間の相関はPearson相関検定を用いた。2施設においてAf groupとnon-Af group間のTFT、DAP、Max-ESDをMann-Whitney検定にて比較した。P < 0.05を有意とし、相関の強さはR値を用いた。

【結果】

放射線インジケーター・RadiMapの色差と吸収線量の回帰式を得た(R = 0.9997)。測定可能範囲は0.04-2.8 Gyである。

放射性皮膚障害の閾値2Gyを超えるのは3件のみであった。TFT、DAP、Max-ESDの平均はそれぞれ49.9±28.2 min、71.2±73.7 Gycm2、0.57±0.51 Gyであった。Kruskal-Wallis検定を用いてTFT、DAP、Max-ESDを各施設間で比較したところ有意差が認められた(TFT;p = 0.0091、DAP;p < 0.0001、Max-ESD;p = 0.0001)。Stepwise重回帰分析にてDAP はMax-ESDに対して有意に相関していた (p < 0.0001)。6機種中5機種の血管造影装置でTFTとMax-ESDの間には有意な相関があった。また、DAPが測定可能であった3機種全てにおいてDAPとMax-ESDの間には有意な相関があった。

1施設において、TFT、DAP、Max-ESDにはAfとnon-Af groupとでは有意差がみられた(TFT;p = 0.0002、DAP; p < 0.0001、Max-ESD; p < 0.0001)。

【結論】

線量計として放射線感受性インジケーター・RadiMapを使用し、色差からESDを求めるための回帰式を従来より低い線量域で作成し、心臓カテーテルアブレーション時の患者皮膚線量を調査したところ、概ねESDは皮膚障害の閾値以下であった。

心臓カテーテルアブレーション時の患者皮膚線量の推定にはDAPの測定(不可能な場合はTFTの測定)が有用である。

DAPとMax-ESD(TFTとMax-ESD)の関係は施設間で異なるため、個々の施設・機種におけるDAPとMax-ESD(TFTとMax-ESD)の相関を把握しておくこと必要である。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、多施設(3施設)において複数機種(6機種)の血管造影装置を用い、心房細動(Af)を含めた頻拍性不整脈に対する心臓カテーテルアブレーション時の患者皮膚線量(ESD)を放射線感受性インジケーター・RadiMapを使用して評価し、各機種において最大皮膚線量(Max-ESD)/ 面積線量(DAP)間、Max-ESD / 総透視時間(TFT)間の関係の評価、Max-ESD、DAP、TFTについてAf group(AfおよびPaf)/ non-Af group間の比較を行ったものであり、以下の結果を得ている。

1.放射線インジケーター・RadiMapの色差と吸収線量の回帰式はD = 1.4496×10-5DE*3 - 4.6198×10-4DE*2 + 2.2306×10-2DE* - 0.0405, R = 0.9997,(D: 吸収線量 (Gy) 、DE*: インジケーターの色差)であった。

測定可能範囲は0.04-2.8 Gyである。

2.Max-ESDが放射性皮膚障害の閾値2Gyを超えたのは3件のみであった。TFT、DAP、Max-ESDの平均はそれぞれ49.9 ± 28.2 min、71.2 ± 73.7 Gycm2、0.57 ± 0.51 Gyであった。

3.Kruskal-Wallis検定を用いてTFT、DAP、Max-ESDを各施設間で比較したところ有意差が認められた(TFT;p = 0.0091、DAP;p < 0.0001、Max-ESD;p = 0.0001)。

4.Stepwise重回帰分析にてDAP はMax-ESDに対して有意に相関していた(p < 0.0001)。6機種中5機種の血管造影装置でTFT / Max-ESD間には有意な相関があった。また、DAPが測定可能であった3機種全てにおいてDAP / Max-ESD 間には有意な相関があった。

5.1施設において、TFT、DAP、Max-ESDにはAf / non-Af group間で有意差がみられた(TFT;p = 0.0002、DAP; p < 0.0001、Max-ESD; p < 0.0001)。

以上、本論文は、線量計として放射線感受性インジケーター・RadiMapを用い、心臓カテーテルアブレーション時の患者皮膚線量を評価したところ、概ねESDは放射線皮膚障害の閾値以下であったこと。心臓カテーテルアブレーション時の患者皮膚線量の推定にはDAPの測定(不可能な場合はTFTの測定)が有用であること。その際、 DAP / Max-ESD(TFT / Max-ESD)の関係は施設間で異なるため、個々の施設・機種におけるDAP / Max-ESD(TFT / Max-ESD)の相関を把握しておく必要があるということを明らかにした。本研究は、Afも含めた頻拍性不整脈に対する心臓カテーテルアブレーション手技における被ばくを多施設で評価した点、線量計として吸収線量により変色する機能性色素を用いた放射線感受性インジケーター・RadiMapを使用して100カ所の皮膚面で患者皮膚線量を広範囲かつ空間的に評価した点が新しく、学位の授与に値するものと考えられる。

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