No | 128185 | |
著者(漢字) | 篠崎,宗久 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | シノザキ,ムネヒサ | |
標題(和) | 脊髄損傷モデル動物における,赤外線センサーを用いた新しい運動機能評価法 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128185 | |
報告番号 | 甲28185 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3844号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 脳神経医学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 論文の概略 当論文は,著者が大学院在籍中に学会誌に発表した論文,投稿中の論文,及び執筆中の論文を元に,大幅に加筆を加えて1つの論文としたものである. 脳や脊髄などの中枢神経は,長年に渡り再生しない臓器として認知されてきた.しかし近年,成人脳の中にも自己複製能,多分化能を持つ神経幹細胞の存在が明らかとなり,その再生可能性が模索されている.脊髄損傷は日本では100万人に20人-30人の割合で発生し,うち2割は損傷部位以下の完全な運動麻痺を呈し重篤な障害を残す.脊髄損傷に対する治療法は既に多くの治験が始まっているものの根治には程遠く,現在も世界中で研究が続いている. 脊髄損傷の治療において,殆どは頸髄損傷や胸髄損傷のモデルマウスやラットを用いたものであり,その後肢機能が重視される.後肢機能の評価として,観察者が目視にて肢の動きをscoringするopen field scoreが主流であるが,主観性を拭えない為に補助的な客観的評価の併用が必要である.当論文は,opne field scoreに併用すべき評価法として,既存の下肢機能評価法の様々な短所を埋めるべく赤外線センサーを用いて開発した新たな評価法に関する論文である. 論文の構成 要旨 序文 1部目的 方法 BMS 赤外線センサー 組織解析 統計解析 結果組織学的評価 BMS 赤外線センサー BMSと赤外線センサーの相関 速度と加速度の特徴 考察 2部目的 方法脊髄損傷 BBB score 赤外線センサー 統計解析 結果BBB scoreと最大速度,最大加速度の相関 速度と加速度と運動要素 ブレーキ性能と後肢機能 活動性や不動性と後肢機能の相関 任意の時刻での運動と後肢機能の相関頁 考察 3部目的 方法脊髄損傷とVEGF-R2中和抗体の投与 BMS 赤外線センサー 組織解析 染色切片の定量解析 統計解析 結果BMS 組織学的評価 赤外線センサー 考察 全体の考察 結語 謝辞 引用文献 論文の要旨 序文の項目では,当論文の背景,および赤外線センサーの背景について述べている.既存のデバイスである赤外線センサーのデータを独自に解析することで,一定時間内での最大速度と最大加速度を求め,これらについての検証が成されることが述べられている.また当論文が3部構成にて新しい評価法の検証を行うことが述べられている. 第1部では,異なる種類の脊髄損傷モデルマウスによって最大速度と最大加速度が異なるかどうか検証されている.まず方法として,切断モデル,圧挫モデル,コントロール郡の脊髄損傷の作成方法が詳しく述べられる.また動物を扱うための倫理規定についても言及される.マウスのopen field scoreであるBMSについて説明される.そして赤外線センサーの構造,仕組み,既存のパラメーター,今回新規のパラメーター(速度,加速度)について詳しく述べられる.次に結果の項目では各モデルマウスの代表的組織学切片が提示された後,BMS,既存のパラメーター,最大速度,最大加速度の経過について記載される.特に慢性期において最大速度と最大加速度がモデルマウス群間で異なる事が記される.また統計学的評価はなされていないが,BMSと最大速度,最大加速度が相関する可能性が示される.また5分という測定時間の妥当性について言及される.さらに最大速度を出す直前の最大速度,最大加速度の様子について記される.考察においては,以前の報告との比較や,メスを用いていることについての理由が述べられている. 第2部では,圧挫損傷モデルラットにおいて,open field scoreと最大速度や最大加速度に統計学的な相関があるかどうか検証されている.まず方法にて,ラットのopen field scoreであるBBB scoreについて説明される.またBMSやBBB scoreで共通に使われている段階的な運動要素について述べられている.さらに,ブレーキ性能,活動性,不動性,および平均速度の定義が成される.次に結果にて,BBB scoreと最大速度,最大加速度の経過が示され,各タイムポイントにおいてそれらが有意に相関することが述べられる.また最大速度や加速度がより良い運動要素,特にplantar steppingによって増加する傾向のあることが記される.さらにブレーキ性能もBBB scoreと相関のあることが示される.また活動性,不動性,平均速度はBBB scoreと相関の無いことが示される.考察においては,活動性,不動性,平均速度の結果をふまえ,いくつかの既存の評価法では精神的な要素を見てしまっていること,および動物の最大のパフォーマンスを捉えられてない可能性があることを指摘している. 第3部では,治療研究への応用を探るために薬剤投与マウスの検証がなされている.目的においてVEGF-R2中和抗体を用いる理由か述べられている.方法では薬剤の投与量と方法,および組織解析方法について詳しく述べられている.結果においてはVEGF-R2中和抗体投与群ではコントロール群と比較してBMSが有意に低下していること,また組織評価において有意に残存組織および残存髄鞘が低下していることが示される.そして赤外線センサーにおいては,最大加速度にてVEGF-R2中和抗体投与による下肢機能の低下を捉えられたことが示されている.そして考察においては,1部より重い圧挫損傷モデルを用いた理由が示されている. 全体の考察において,赤外線センサーが倫理性および簡便性の点より既存の方法より優れている可能性が述べられる.またopen field scoreと異なり完全に客観的であることが述べられている.赤外線センサーの性質上問題となる尻尾の要素について言及され,また今後垂直方向の動きを検証する必要性について述べられている.赤外線センサーの限界,また検証すべき内容について記されている. | |
審査要旨 | 本研究は脊髄損傷治療の研究において問題となる下肢機能評価法において,open field scoreに併用すべき妥当な方法を探るため,既存の赤外線センサーのデータを独自に解析し,一定時間内の最大速度と最大加速度を検証したものであり,下記の結果を得ている. 1. 5分の測定時間における最大速度と最大加速度を解析した.それらを脊髄切断モデルマウス,脊髄圧挫モデルマウス,およびコントロールマウスにて6週間経時的に記録すると,特に慢性期に3群間で有意差を示した.また圧挫モデルマウスにおいて,open field soreとの相関が示唆された. 2. ラットの脊髄圧挫モデルにおいて,最大速度と最大加速度を6週間経時的に観察した.それらは常にBBB scoreと有意に相関した.またopen field scoreに用いられている段階的な運動要素,ankle extension,weight support,plantar steppingが可能になるに従って最大速度と最大加速度は増加する傾向にあり,特にplantar steppingによる増加幅が大きかった.またブレーキ性能として減速度も計算され,経過中BBB scoreと有意に相関した. 3. ラットの活動性,不動性,および5分の間での平均速度が解析された.それらのいずれもBBB scoreと相関が無いことが示され,活動性や不動性の要素を内包する既存の評価法の問題点が明らかとなった. 4. 治療研究への応用を探るため,VEGF-R2中和抗体が脊髄圧挫モデルマウスに投与された.VEGF-R2中和抗体投与によって.脊髄損傷後に下肢機能,残存組織が悪化することが明らかとなった.最大加速度がVEGF-R2中和抗体投与群における下肢機能の悪化を捉えるのに有用であった. 以上本論文により,脊髄損傷モデルrodentにおいて,赤外線センサーを用いた最大速度と最大加速度がopen field scoreに併用する評価法として妥当であると考えられる.本研究は脊髄損傷の治療研究において客観性,倫理性,簡便性の観点から既存の評価法より優れた貢献をなすことが期待され,学位の授与に値するものと考えられる. | |
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