No | 128210 | |
著者(漢字) | 石澤,健一 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イシザワ,ケンイチ | |
標題(和) | クロファージと炎症 : 鉱質コルチコイド受容体と低分子量G蛋白Rac1の役割 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128210 | |
報告番号 | 甲28210 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3869号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本研究では、マクロファージにMRを介する炎症経路が存在することを示し、LPSによって生じる腎臓の炎症にマクロファージのMRが関与していることを、マクロファージ特異的MR欠損マウス(MΦMRKO)を用いて実証した。すなわち、MΦMRKO とflxo controlマウスを用いてLPS腹腔投与による急性腎障害モデルを作製したところ、MΦMRKO ではLPSによる血清BUN、Cr上昇と、腎臓のM1(炎症性)サイトカインの発現上昇は抑制され、M2(抗炎症性)サイトカインであるArg1の発現上昇を認めた。腎組織のマクロファージ浸潤数はむしろ増加し、M1サイトカイン減少のみならず、M2極性のマクロファージの増加による腎保護効果が示唆された。MR欠損マウスの知見を裏付けるためにLPS誘発性急性腎障害モデルにMR拮抗薬の投与を行ったところ、LPSによるM1サイトカインは著明に抑制されたが、その際腎臓へのマクロファージの浸潤自体が抑制されていた。すなわち、MR拮抗薬の腎保護作用にマクロファージ浸潤抑制を介する機序の関与が示唆された。in vitroでは、ラット腹腔マクロファージを採取し、炎症刺激であるLPSを用いて、炎症性サイトカインの分泌にMRが関与しているか否か検討した。LPSによるTNFα、IL-6,IL-1β、MCP-1のmRNA発現上昇は、MR拮抗薬であるスピロノラクトンで抑制された。スピロノラクトンの非特異的な効果を懸念し、MR特異的siRNAを用いて検討したところ、LPS刺激時にはsiMR群で有意にTNFα、IL-6,IL-1β、MCP-1のmRNA発現を抑制した。これらの結果より、マクロファージのMRが炎症に関与していることがin vivoの腎臓、in vitroで示された。 我々の研究室では、低分子量G蛋白Rac1が、MRをリガンド非依存的に活性化することをin vitroとin vivoの腎臓で示しているが、その原因となる細胞や部位は特定できていない。その原因の一端がマクロファージにある可能性を考え、マクロファージのRac1、MRと炎症の関係も含めて検討した。 in vitroでLPS刺激がRac1を活性化すること、LPSがMR活性を増強し、それがRac阻害薬EHT1864で抑制されること、実際Rac阻害薬によりLPS誘導性M1サイトカイン産生が減少することから、LPSがRac1を介してMRの炎症原性シグナルを賦活化する可能性が示唆された。さらに上述のLPS誘発性急性腎障害モデルにRac阻害薬を投与すると腎臓のM1サイトカイン発現、マクロファージ浸潤が抑制された。すなわち、Rac阻害薬の腎保護効果にもマクロファージが関与する可能性が考えられた。 本研究では、マクロファージのMRの炎症への関与をin vitro、in vivoの両面で示し、マクロファージ特異的MR欠損により腎臓の炎症抑制効果を示した。MRとRac1がin vitro、in vivoの両方で炎症に関与していることを示したが、これらは今後の腎臓の炎症に対する治療戦略の発展のために有用な知見であると考えられる。 | |
審査要旨 | 本研究では、マクロファージのMRを介する炎症経路の存在と低分子量G蛋白Rac1の関与をin vivo,in vitroで示すことを試みたものであり、下記の結果を得ている。 1. マクロファージ特異的MR欠損マウス(MΦMRKO)と、flxo controlマウスを用いてLPS腹腔投与による急性腎障害モデルを作製したところ、MΦMRKO ではLPSによる血清BUN、Cr上昇と、腎臓のM1(炎症性)サイトカインの発現上昇は抑制され、M2(抗炎症性)サイトカインであるArg1の発現上昇を認めた。腎組織のマクロファージ浸潤数はむしろ増加し、M1サイトカイン減少のみならず、M2極性のマクロファージの増加による腎保護効果が示唆された。これらの結果から、LPSによる腎臓の炎症にマクロファージのMRが関与していることが示された。 2. MΦMRKOの知見を裏付けるためにLPS誘発性急性腎障害モデルにMR拮抗薬の投与を行ったところ、LPSによるM1サイトカインは著明に抑制されたが、その際腎臓へのマクロファージの浸潤自体が抑制されていた。すなわち、MR拮抗薬の腎保護作用にマクロファージ浸潤抑制を介する機序の関与が示唆された。 3. in vitroのラット腹腔マクロファージでは、LPSによるTNFα、IL-6,IL-1β、MCP-1のmRNA発現上昇は、MR拮抗薬であるスピロノラクトンで抑制された。さらにMR特異的siRNAを用いて検討したところ、LPS刺激時にはsiMR群で有意にTNFα、IL-6,IL-1β、MCP-1のmRNA発現を抑制した。これらの結果より、マクロファージのMRが炎症に関与していることがin vitroで示された。 4. 低分子量G蛋白Rac1がMRを活性化している可能性を考え、in vitroでLPS刺激がRac1を活性化すること、LPSがMR活性を増強し、それがRac阻害薬EHT1864で抑制されることを示した。Rac阻害薬によりLPS誘導性M1サイトカイン産生が減少することから、LPSがRac1を介してMRの炎症原性シグナルを賦活化する可能性が示唆された。 5.LPS誘発性急性腎障害モデルにRac阻害薬を投与すると腎臓のM1サイトカイン発現、マクロファージ浸潤が抑制され、Rac阻害薬の腎保護効果にもマクロファージが関与する可能性が考えられた。 以上、本研究では、マクロファージのMRの炎症への関与をin vitro、in vivoの両面で示し、マクロファージ特異的MR欠損により腎臓の炎症抑制効果を示した。MRとRac1がin vitro、in vivoの両方で炎症に関与していることを示したが、これらは今後の腎臓の炎症に対する治療戦略の発展のために有用な知見であると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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