学位論文要旨



No 128244
著者(漢字) 柳井,敦
著者(英字)
著者(カナ) ヤナイ,アツシ
標題(和) IL-27は転写因子Egr2、Blimp-1を介してCD4陽性T細胞にIL-10産生を誘導する
標題(洋)
報告番号 128244
報告番号 甲28244
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3903号
研究科 医学系研究科
専攻 内科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山下,直秀
 東京大学 准教授 石川,昌
 東京大学 准教授 門野,岳史
 東京大学 准教授 本田,賢也
 東京大学 講師 土肥,眞
内容要旨 要旨を表示する

CD4陽性T細胞は、病態に応じたエフェクターT細胞サブセットに分化し、獲得免疫系において病原体に対する免疫応答の中心的役割を担う一方、免疫抑制能をもつ制御性T細胞(regulatory T cells:Treg)サブセットへも分化し、過剰な、あるいは不適切な免疫応答の制御を行っている。T細胞の分泌するInterleukin-10(IL-10)は、過剰な免疫応答を抑制する機能を持つ重要なサイトカインであるが、CD4陽性T細胞にIL-10産生が誘導されるメカニズムについての知見は不明な部分が多い。転写因子Blimp-1は、胸腺から分化するnaturally occurring TregにおいてIL-10プロモーター領域に結合し、転写活性化に働くことが明らかにされていた他、IL-10の高産生を特徴とするTregであるLAG3陽性Tregにおいて、転写因子Early Growth Response Gene-2(Egr2)が、IL-10誘導に重要な役割を果たすことが分かっていた。今回、Egr2によるIL-10誘導メカニズムの解明を目的として実験を行った結果、CD4陽性T細胞にIL-10産生を誘導するサイトカインとして近年注目されているIL-27が、Egr2を誘導することが判明した。IL-27存在下に刺激されたCD4陽性T細胞は、Egr2、Blimp-1を発現し、これらの転写因子がIL-10誘導に不可欠であることを、それぞれのT細胞特異的conditional knockout(CKO)マウスを用いて示した。その際に、IL-27によって誘導されたEgr2がBlimp-1プロモーター領域への結合を介してBlimp1を誘導し、IL-10産生を促すことを示唆する結果を得た。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、免疫応答の制御に重要な役割を果たすサイトカインIL-10が、その主な産生細胞の一つであるCD4陽性T細胞において誘導されるメカニズムを明らかにすることを目的として行った。IL-10高産生を特徴とするT細胞サブセットであるLAG3陽性制御性T細胞において転写因子Egr2がIL-10を誘導することが示唆されており、転写因子Egr2を発現させたCD4陽性T細胞においては、Blimp-1(遺伝子名Prdm1)、IL-10のmRNAが誘導されることが明らかにされている。この転写因子Egr2がIL-10を誘導するメカニズムを検討し、下記の結果を得ている。

1. Eαペプチド特異的T細胞受容体を持つTEαマウスのCD4陽性ナイーブT細胞に対して、Eαペプチドを用いてT細胞受容体刺激を行った。その際にIL-10誘導能の報告されている各種物質を添加し、IL-10およびEgr2のmRNA誘導能について定量的PCRにより検討した。結果、IL-27が、Egr2を最も強く誘導し、またIL-10も誘導されたことから、IL-27によるIL-10産生誘導にEgr2が関与している可能性が示唆された。なお、IL-27添加時には、LAG3のmRNA発現も誘導されていた。

2. C57BL/6マウスのCD4陽性ナイーブT細胞において、抗CD3抗体および抗CD28抗体刺激下でIL-27がIL-10産生を同様に誘導することを確認した。また、培養したCD4陽性T細胞について、Egr2タンパクを細胞内染色し、FACS解析を行ったところ、T細胞受容体刺激後、Egr2タンパクは一過性に高発現した後、Day5には低下傾向が確認されたが、IL-27を添加した場合には、Day5においても高い割合でEgr2タンパクの発現が保持されていた。細胞表面上に発現しているLAG3タンパクについても染色し確認したところ、Egr2タンパクを発現している細胞群においてLAG3タンパクも発現していることが確認された。

3.CD4-Creマウスと、Egr2-loxPマウス、もしくはBlimp-1-loxpマウスを用いて、T細胞特異的Egr2ノックアウトマウス(Egr2-CKOマウス)およびT細胞特異的Blimp-1ノックアウトマウス(Blimp-1-CKOマウス)を作製した。C57BL/6マウス由来CD4陽性ナイーブT細胞においてIL-27存在下にT細胞受容体刺激をした際、Blimp-1、およびIL-10のmRNA発現の亢進が定量的PCRにより確認できたが、それぞれのCKOマウス由来CD4陽性ナイーブT細胞では、IL-10のmRNA発現の亢進が消失していた。培養上清中のIL-10濃度をELISA法を用いて測定した結果、同様に、それぞれのCKOマウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞においては、Il-27添加時のIL-10産生の亢進が認められなかった。またEgr2-CKOマウス由来のCD4陽性ナイーブT細胞においては、Blimp-1のmRNA発現の亢進も消失していたことから、IL-27によるBlimp-1誘導が、Egr2を介していることが示唆された。

4. 293T細胞を用いて、Egr2タンパクを発現するpMIG-Egr2ベクター、およびBlimp-1のプロモータ領域の配列を挿入したホタルルシフェラーゼ発現ベクターである、pGL3-(-1500Blimp-1)-LUCベクターをcotransfectionさせた際の、ルシフェラーゼ活性を検討した。内部コントロールとしてcotransfectionさせたphRL-TKベクターの発現するレニラルシフェラーゼ活性に対する比を用いた。pMIGベクターをcotransfectionさせた場合と比較して、pMIG-Egr2ベクターをcotransfectionさせた場合に、ホタルルシフェラーゼ活性が約2倍上昇したことから、Egr2タンパクがBlimp-1プロモータ領域に対して転写活性を持つことが示唆された。

5.C57BL/6マウス脾細胞を抗CD3抗体で24時間刺激後、ネガティブセレクションでCD4陽性T細胞を回収、抗Eg2抗体を用いてChIPアッセイを行った。得られた沈降抽出物に対して、IL-10、LAG3、Prdm1の各プロモータ領域の配列を用いて定量的PCRを行ったところ、Prdm1の-1000bp付近のプライマー配列で、コントロールIgG抗体による沈降抽出物を用いた場合に比較して、有意な上昇が確認された。このことから、Egr2タンパクがPrdm1プロモータ配列に結合することが明らかとなった。4の実験結果と合わせて、Egr2がBlimp-1のプロモータ領域に結合し、転写活性を有していると考えられた。

以上、本論文はマウスCD4陽性ナイーブT細胞をIL-27存在下に抗原刺激をした際にIL-10が誘導されるメカニズムにおいて、転写因子Egr2が重要な役割を担うことを明らかにした。また、Egr2が、Blimp-1プロモータ領域に結合、転写活性を有することを明らかにし、これによりIL-10が誘導することを示唆する結果を得た。本研究は、これまでアナジー形成への関与について報告されてきたEgr2が、CD4陽性T細胞におけるIL-10発現に果たす役割について具体的に明らかにしたものであり、今後、IL-10発現制御メカニズムの解明に貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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