No | 128270 | |
著者(漢字) | 上田,高志 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ウエタ,タカシ | |
標題(和) | 加齢黄斑変性のリスク因子に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128270 | |
報告番号 | 甲28270 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3929号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 要旨 論文前半 <背景>加齢黄斑変性(AMD)は先進国を中心に世界的に途中失明の主な原因となっている。AMD発症のメカニズムは複雑で、遺伝、環境、既往の影響を受けていると考えられている。これまでにも多くのpopulation-based studyが世界中で施行され、結果にばらつきが大きいものの、心血管リスク因子との関連があると広く認知されている。しかし、そもそもAMDは異なる病期、病態、サブタイプ群から構成されており、これらを一まとめに議論するのには限界があると考えられる。本論文の前半では、本邦の滲出型AMDの中で大部分を占めている2つのサブタイプ、狭義滲出型AMD(typical AMD)とポリープ状脈絡膜血管症(PCV)の心血管リスク因子と頻度の高い眼疾患の既往について相違を検討した。 <方法>typical AMD患者89人とPCV患者138人とで年齢、性別、BMI、高血圧、糖尿病、高脂血症、虚血性心疾患、脳卒中、光線暴露、中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)、白内障手術歴、緑内障について分布を比較検討した。その後、CSCについて更に検討を加えるため症例数をtypical AMD患者148人とPCV患者170人についてCSC既往、ステロイド剤使用歴、また、眼底所見として網膜色素上皮萎縮によるatrophic tractや後極の局所光凝固瘢痕についてデータを収集した。Logistic regression modelにて統計解析を行った。 <結果>typical AMDとPCVで多くの因子で分布は一致していた。しかし、糖尿病既往はtypical AMD患者に有意に多く(24.7% vs 13.0%; p=0.027)、CSC既往はPCV患者に有意に多い(3.4% vs 14.7%; p=0.0005)ことが分かった。眼底でCSC既往を示唆すると考えられるatrophic tractや局所光凝固瘢痕もPCV患者に有意に多かった(0.7% vs 7.6%; p=0.002)。 <結論>typical AMDとPCVのリスク因子の分布は同等ではない。糖尿病既往がtypical AMDに多く、CSC既往がPCVに多いことが明らかになった。 論文後半 <背景>滲出型AMDに対する抗VEGF(vascular endothelial growth factor)療法は近年第一選択の治療法となった。しかし、全身合併症としてATE(arterial thromboembolic events)が懸念されているものの、関連性は不明とされている。 <方法>滲出型AMDに対するranibizumab療法の、Phase III RCT(randomized controlled trials)における脳血管障害イベントと心筋梗塞イベントについてmeta-analysisを行った。 <結果>心筋梗塞イベントについてはシャム投与群と実薬群とで有意差を認めなかった。しかし、脳血管障害イベントについては、実薬群において有意に高い発生頻度を認めた(p=0.045; OR,3.24; 95%CI, 0.96-10.95)。 <結論>滲出型AMDに対するranibizumab療法には脳血管障害のリスクが伴うことが明らかになった。 | |
審査要旨 | 本研究は、先進諸国で主要な失明原因となっている滲出型加齢黄斑変性(AMD)におけるリスク因子について理解を深めるために臨床研究を行ったものである。これまでのepidemiologic studyの結果と、また、本邦を含めたアジア人口ではポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が滲出型AMDの多くを占める特徴とを踏まえ、滲出型AMDのサブタイプ診断に基づく、リスク因子の比較検討を試みた。また、滲出型AMDと心血管リスクの関係性は広く議論されているが、滲出型AMDに対する抗VEGF療法との関連性は未だ不明であり、本研究で解析を試みた。本研究により下記の結果を得ている。 1. 東京大学医学部附属病院眼科通院中の滲出型AMD患者を対象に統一されたプロトコールによる心血管リスク因子と眼科的因子の既往についてアンケート調査を実施した。調査項目は年齢、性別、BMI、高血圧、糖尿病、高脂血症、虚血性心疾患、脳卒中、光線暴露、中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)、白内障手術歴、緑内障であった。結果、多くの因子でPCVとtypical AMD間でこれらの因子の分布は同等であったが、糖尿病既往はtypical AMDに多いという結果であった(24.7% vs 13.0%, p=0.027)。また、眼科的因子であるCSCの既往歴がPCVに特に高頻度という結果であった(2.2% vs 12.3%, p=0.017)。 2.CSC既往と滲出型AMD発症の関連性についてはこれまで議論されてきたものの不明とされていた。本研究の調査でとくにPCVとの関連が示唆されていたが、さらに慎重に検討を行った。つまり、(1)サンプル数を増やしてより正確に検討し、(2)CSCとAMDは時に鑑別が困難となることがあるため、この可能性を除外し、(3)交絡因子を除外し、(4)患者アンケート以外により客観的な所見の比較を行う、という作業を追加した。具体的には、(1) n=227からn=318、(2)50歳以降にあったとされるCSC既往の報告はそれと見なさず、(3)ステロイド使用歴に差がないことを確認し、(4)CSC既往が推測される客観的な眼底所見(atrophic tractと光凝固治療瘢痕)の調査を行った。結果、(2)CSC既往はそれでもPCV群に多く(2.7% vs 11.2%, p=0.0041)(4)客観的な眼底所見もPCV群に有意に高頻度であった(0.7% vs 7.6%, p=0.002)。よって追加調査の結果もCSC既往がPCVにより高頻度に存在することを示唆するものであった。 3.1で述べた結果から、滲出型AMDと心血管リスクの関連性はそのサブタイプに関わらず重要であることが示唆された。一方近年急速に流布した滲出型AMDに対する抗VEGF療法は本来的に心血管リスクを有する治療法であるが、AMD患者に対する治療では十分検討されていなかった。そこで、米国で行われたphase III trialのmeta-analysisを行って関連性を検証した。結果、治療群では有意に脳血管障害の頻度が高く(p=0.045, OR; 3.24, 95%CI; 0.96-10.95)、心筋梗塞の発症頻度には有意差はなかったことが分かった(p=0.193)。 以上、本論文は滲出型AMDにおけるリスク因子について心血管的因子と眼科的因子を検討した。これまで未知であった、typical AMDとPCVとの相違点や抗VEGF療法による全身的合併症リスクについて明らかにしており、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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