学位論文要旨



No 128273
著者(漢字) 金子,雅子
著者(英字)
著者(カナ) カネコ,マサコ
標題(和) 定量的CTによる有限要素法を用いた骨強度診断法の実用化に関する臨床研究
標題(洋)
報告番号 128273
報告番号 甲28273
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第3932号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鄭,雄一
 東京大学 講師 三浦,俊樹
 東京大学 教授 芳賀,信彦
 東京大学 講師 門野,夕峰
 東京大学 講師 小川,純人
内容要旨 要旨を表示する

「骨粗鬆症は骨強度の低下(compromised bone strength)を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患」と再定義された。骨強度=骨密度+骨質であり、骨強度の低下が骨粗鬆症と定義されたが、現在、骨強度の明確な定義や評価の方法は臨床的に広く確立されていない。

定量的CTデータを基にした有限要素法(CT /FEM)を用いて、患者固有の骨の形態や構造、不均一な力学特性分布を考慮した骨強度の正確な定量予測が可能である。

本研究においては、CT/FEMによる骨強度解析を広く臨床応用する有用性を示すために

・CT/FEM解析方法とCT撮像機種の検討

・骨強度値に関して年齢別の基準値に関する研究

・大腿骨近位部骨折の骨折発生予測に関する研究

・骨粗鬆症の治療薬剤介入による効果の判定感度に関する研究

以上の研究を行った。

・CT/FEM解析方法とCT撮像機種の検討

予備的な研究として、今回の3つの研究の中で用いたCT機種の違いがCT/FEMによる骨強度値へ与える影響の検討を行った。

方法

本研究で使用した Toshiba, GE, Phillipsの3社4機種に対して、大腿骨の摘出標本をアクリル樹脂包埋したものを、患者データ撮影時と同様の条件で骨量ファントムと共に6回撮影し、それぞれのCT Digital Imaging and COmmunication in Medicine(DICOM) Dataで、大腿骨近位部立位条件の骨強度の解析を行った。

結果

各機種における%CVは1.04~1.48で、DXAと同等の再現性であった。骨強度値のDunnet検定を行ったところ、4機種間で有意な差はなく、他機種で採取したデータと同等に扱うことが可能であるといえる。

・骨強度値に関して年齢別の基準値に関する研究

本研究では、検診目的で撮像された大腿骨近位部と第2腰椎のCT DICOM Dataを用い、CT/FEMによる大腿骨近位部の立位・転倒条件、第2腰椎の骨強度値解析を行い、それぞれの骨強度値と年齢の分布図を作成し、骨強度値と年齢、身長、体重、腹囲、BMIとの関係の検討を行った。

方法

当院にて検診を受けた40歳以上男女、大腿骨近位部は男性553名、女性273名、第2腰椎は男性 602名、女性342名を対象とした。検診CTを骨量ファントムと共に撮影し、記録・保存されたDICOM Dataから解析ソフトを用いた。3次元有限要素モデルを作成し、非線形解析により骨強度値を求めた。荷重条件・骨折条件は、大腿骨近位部の立位条件・転倒条件、第2腰椎の単軸圧縮とした。検診時、身長、体重、腹囲を計測し、BMIを計算した。線形単回帰分析(男女別、骨強度値と年齢)、年間減少率の検討、性別に40‐44歳での骨強度の平均値を100とした中年成人平均値(MAM:Middle Adult Mean) (%)を用いてMAM%の計算を行った。得られたデータより一元配置分散分析(5歳毎の年齢区分での男女の比較、各年齢帯の相関)、重回帰分析(従属変数:骨強度値、独立変数:年齢、身長、体重、BMI)を行った。

結果

大腿骨近位部の骨強度値は、男性の立位条件で年齢と有意な相関があったが、転倒条件では有意な相関はなかった。女性は立位・転倒条件とも年齢と有意な相関があった。骨強度値の年間減少率は、男性では立位条件 42 N/年、転倒条件 1.8 N/年、女性は63 N/年、16 N/年であった。70-74歳の年齢帯におけMAM%を計算すると、男性は立位条件 90%、転倒条件 99% 、女性は70%、77%であった。一元配置分散分析を行うと、女性は立位条件で40-44歳と55歳以上の各群間に、転倒条件で40-44歳の群と65歳以上の各群間に有意差があった。重回帰式は、男性の立位条件では年齢と体重によってあらわされ、転倒条件では体重のみであらわされた。女性では、立位・転倒条件ともに年齢、 体重で表された。

第2腰椎の骨強度値においても女性が男性に対し同一年齢帯において有意に低かった。第2腰椎の骨強度値は、男女とも年齢とともに有意に減少し、女性では、骨強度値は身長やBMIと有意に相関した。第2腰椎骨強度値と年齢との単回帰を行うと、骨強度値の年間減少率は、男性では54N/年、女性では134 N/年であった。また、性別ごとに5歳毎の年齢区分で1次元配置分析を行うと、骨強度は年齢帯とともに減少傾向があり、男性では40-44歳と60歳以上の各群間で、女性では、45-49歳と50歳以上の群間で有意差があった。骨強度におけるMAM(%)で表すと、男性70-74歳で73%、女性 70-74歳で49%であった。

重回帰分析では、第2腰椎の骨強度は年齢に大きく依存し、体格(身長、体重、BMI、腹囲)の影響が少ないことが明らかになった。

・大腿骨近位部骨折の骨折発生予測に関する研究

本研究では近年、本邦でも増加している大腿骨近位部骨折の骨強度における骨折リスク評価についてなされた研究はなく、骨折リスクを早期に評価し、治療介入をしていくためには、骨強度のcut off値が不可欠である。本研究では、CT/FEMを用いて、高齢女性における大腿骨近位部骨折リスクを評価・検討をおこなった。

方法

歩行が可能であった大腿骨近位部の転倒による新規脆弱性骨折を起こした高齢女性50人(平均年齢82.1歳)と、外来を受診した大腿骨近位部における骨折などの病変がない自立歩行可能な高齢女性、非骨折群312人(平均年齢 79.7歳)を対象として、倫理委員会の承認のもと対象者の書面による同意を得て行った。CTを撮影し、CT/有限要素法により大腿骨近位部の立位条件、転倒条件の2条件で強度値を解析し、CT/有限要素法が大腿骨近位部骨折リスク評価に有用かを検討した。大腿骨近位部の脆弱性骨折をスクリーニングする強度値をreceiver operating characteristic(ROC)解析により求めた。

結果

対象者の高齢女性において骨折群は平均年齢82.1±6.2歳(平均値±標準偏差)、非骨折群は平均年齢79.7±2.9歳であった。解析した平均大腿骨近位部の強度値は立位条件で骨折群が2592±535N、非骨折群が3916±845Nで、転倒条件では骨折群が873±239N、非骨折群が1332±314Nとなり、立位・転倒条件ともに非骨折群が有意に高値となった。

ROC解析により検討した結果、大腿骨近位部脆弱性骨折を効率よく判別できる至適カットオフ値は、立位条件の強度値が3150Nで感度80%・特異度84.3%であった。転倒条件の強度値が1050Nで感度80%・特異度80.7%であった。ROC曲線した面積(AUC)は立位条件で0.91865、転倒条件で0.87840であった。

CT/FEMによる骨強度値は、骨強度を反映する要素のうち骨密度分布、立体構造を評価でき、大腿骨近位部における骨折リスクを感度高く評価することのできる方法である。

・骨粗鬆症の治療薬剤介入による効果の判定感度に関する研究

本研究では,CT/FEMを用いて、高齢者女性における骨粗鬆症患者に対すアレンドロネートの効果を評価し、DXA(Lunar GE Health care Japan)によるaBMD、また、CTによる骨密度L2(volumetric bone mineral density:vBMD QCTpro(R))と比較・検討した。

方法

原発性骨粗鬆症の診断基準を満たし、除外基準に該当しない75歳以上の女性を対象とし、35mg/週のアレンドロネートを投与した。DXAにより第1~4腰椎、大腿骨近位部のaBMDを計測、第2腰椎、大腿骨近位部のCTをアレンドロネート投与開始前、および投与開始後6、12ヵ月時に撮影し、CT DICOM dataを用い、第2腰椎、大腿骨近位部の骨強度解析を骨強度解析と第2腰椎のvBMD解析を行った。投与前および投与開始後6、12ヵ月時に血清NTxと骨型ALPを測定した。骨強度解析において、第2腰椎は単軸圧縮、大腿骨近位部は立位条件、転倒条件の2条件における骨強度値の定量評価を行った。

結果

75-85歳(平均79.5歳)の女性31名で検査を行った。0、6、12か月がすべて解析可能であったのは、大腿骨近位部 31例、腰椎 25例であった。(第2腰椎に既存骨折が6例あり除外)それぞれの平均変化率は、第2腰椎の骨強度値が6ヵ月で+8.4%、12ヵ月が+10.1%、aBMD(L1-4)では+3.5%、+4.7%、vBMD(L2)で+3.3%、2.6% 増加していた。大腿骨近位部では骨強度値は立位条件において6カ月で+3.5%、12カ月で+3.3%、転倒条件では+0.36%、 -0.33%、大腿骨頚部aBMDでは+1.7%、+2.0%、大腿骨近位部全体のaBMDでは+2.0%、+1.8%増加していた。

本研究では椎体の骨強度値はaBMDおよびvBMDよりも有意に感度が高く、大腿骨近位部においてもaBMDよりも感度高い傾向がみられた。骨粗鬆症の薬剤効果の判定に既存の検査法にくらべ感度高く有用な検査法である。

本研究により、臨床で広く用いていくために骨強度値の目安となる基準値、骨折リスク判定の目安となるカットオフ値、薬物効果を感度高く評価することができることが示された。

しかし、「骨強度 = 骨密度 + 骨質」の骨質の部分に関してはまだ不明な点が多い。今後の研究により骨質と言われるものの、骨強度への関与が明らかになっていくことを期待した。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、骨粗鬆症の定義となっている骨強度の評価を行うことできる定量的CTデータを基にした有限要素法(CT /FEM)を用い、患者固有の骨の形態や構造、不均一な力学特性分布を考慮した骨強度の正確な定量予測方法が臨床診断に有用であることを示したものであり、下記の結果を得ている。

1.CT/FEM解析方法とCT撮像機種の検討

本研究で使用した Toshiba, GE, Phillipsの3社4機種に対して、大腿骨の摘出標本をアクリル樹脂包埋したものを、患者データ撮影時と同様の条件で骨量ファントムと共に6回撮影し、それぞれのCT Digital Imaging and COmmunication in Medicine(DICOM) Dataで、大腿骨近位部立位条件の骨強度の解析を行った。各機種における%CVは1.04~1.48で、DXAと同等の再現性であった。骨強度値のDunnet検定を行ったところ、4機種間で有意な差はなく、他機種で採取したデータと同等に扱うことが可能であるといえる。

2.骨強度値に関して年齢別の基準値に関する研究

当院にて検診を受けた40歳以上男女、大腿骨近位部は男性553名、女性273名、第2腰椎は男性 602名、女性342名を対象とした。

大腿骨近位部の骨強度値は、男性の立位条件で年齢と有意な相関があったが、転倒条件では有意な相関はなかった。女性は立位・転倒条件とも年齢と有意な相関があった。重回帰式は、男性の立位条件では年齢と体重によってあらわされ、転倒条件では体重のみであらわされた。女性では、立位・転倒条件ともに年齢、 体重で表された。

第2腰椎の骨強度値は、男女とも年齢とともに有意に減少し、女性では、骨強度値は身長やBMIと有意に相関した。重回帰分析では、第2腰椎の骨強度は年齢に大きく依存し、体格(身長、体重、BMI、腹囲)の影響が少ないことが明らかになった。

3.大腿骨近位部骨折の骨折発生予測に関する研究

骨折群は平均年齢82.1±6.2歳(平均値±標準偏差)、非骨折群は平均年齢79.7±2.9歳であった。解析した平均大腿骨近位部の強度値は立位条件で骨折群が2592±535N、非骨折群が3916±845Nで、転倒条件では骨折群が873±239N、非骨折群が1332±314Nとなり、立位・転倒条件ともに非骨折群が有意に高値となった。ROC解析により検討した結果、大腿骨近位部脆弱性骨折を効率よく判別できる至適カットオフ値は、立位条件の強度値が3150Nで感度80%・特異度84.3%であった。転倒条件の強度値が1050Nで感度80%・特異度80.7%であった。ROC曲線した面積(AUC)は立位条件で0.91865、転倒条件で0.87840であった。CT/FEMによる骨強度値は、骨強度を反映する要素のうち骨密度分布、立体構造を評価でき、大腿骨近位部における骨折リスクを感度高く評価することのできる方法である。

4.骨粗鬆症の治療薬剤介入による効果の判定感度に関する研究

高齢者女性における骨粗鬆症患者75-85歳(平均79.5歳)の女性31名に対しアレンドロネート35mg/週を投与し、大腿骨近位部 31例、腰椎 25例の解析を行った。それぞれの平均変化率は、第2腰椎の骨強度値が6ヵ月で+8.4%、12ヵ月が+10.1%、aBMD(L1-4)では+3.5%、+4.7%、vBMD(L2)で+3.3%、2.6% 増加していた。大腿骨近位部では骨強度値は立位条件において6カ月で+3.5%、12カ月で+3.3%、転倒条件では+0.36%、 -0.33%、大腿骨頚部aBMDでは+1.7%、+2.0%、大腿骨近位部全体のaBMDでは+2.0%、+1.8%増加していた。本研究では椎体の骨強度値はaBMDおよびvBMDよりも有意に感度が高く、大腿骨近位部においてもaBMDよりも感度高い傾向がみられた。骨粗鬆症の薬剤効果の判定に既存の検査法にくらべ感度高く有用な検査法である。

以上、本論文は、これまで、存在しなかった広範囲の年齢における骨強度の分布をしめした。これらは、臨床で広く用いていくために骨強度値の目安となるものである。骨粗鬆症性大腿骨近位部骨折リスク判定の目安となるカットオフ値が解析されたことで、骨密度の基準値と合わせ、骨強度値から骨折リスクの高い患者に対する治療介入をしていくことが可能である。薬物効果をDXAよりも感度高く評価することができることを明らかにし、治療効果の判定にCTを活用していく可能性がしめされた。本研究は、骨強度の臨床応用の可能性の高さを示し、今後の骨粗鬆症の診断、治療に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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