No | 128278 | |
著者(漢字) | 侯,剣剛 | |
著者(英字) | HOU,JIANGANG | |
著者(カナ) | コウ,ケンゴウ | |
標題(和) | IL-12発現型ヘルペスウイルスを用いた泌尿器系癌(膀胱癌及び腎癌)のウイルス療法 | |
標題(洋) | Intelligent therapy for urinary tract cancer (bladder cancer and renal cell carcinoma) using the IL-12-expressing third-generation oncolytic HSV-1 virus | |
報告番号 | 128278 | |
報告番号 | 甲28278 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3937号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 外科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 癌に対してウイルスを投与して治療するウイルス療法の試みは1920年代から報告されているが、副作用のため実用化には至らなかった。近年になり、遺伝子工学技術の進歩に伴ってウイルス療法の開発は飛躍に発展し、数多くの臨床試験が実施されるまでになった。ウイルスゲノムを遺伝子工学的に改変し、癌細胞でのみ選択的に複製するよう作製されたウイルスを用いた治療が最近,注目されてきている。 単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)を用いたウイルス療法は、抗癌作用の強さと高い安全性から、ウイルス療法の中でも有望性が高く非常に注目されている。1箇所の遺伝子を改変した遺伝子組換えHSV-1を第一世代とすると、G207は代表的な第二世代組換えHSV-1である。γ34.5遺伝子の欠失に加えて、lacZ遺伝子挿入によるICP6遺伝子の不活化という2箇所に遺伝子操作が行われている。現在欧米で複数の臨床試験が、悪性脳腫瘍、悪性黒色腫などを対象として検証されている。さらに、γ34.5遺伝子の欠失、lacZ遺伝子挿入によるICP6遺伝子の不活化に加えて、α47遺伝子を欠失された三重変異を有する第三世代のG47Δ(デルタ)が開発された。G47Δは、第二世代の安全性を保ちつつ、ウイルス複製能と抗腫瘍効果が著しく向上している。本研究で使用したT-01ウイルスはG47ΔのICP6遺伝子の不活化変異を欠失変異に改良し、さらに安全性を向上させた第三世代遺伝子組換えHSV-1である。 現在、治療効果をさらに高めるための外来治療遺伝子を組み込んだウイルスの開発が精力的に進められている。我々はT-01を土台として、ICP6領域にマウスIL-12遺伝子を挿入し,第三世代の安全性とウイルス複製能を保ちつつ、IL-12の強力な抗腫瘍効果を併せ持つ増殖型ウイルス( T-mfIL12 )を開発した。本研究において、T-01とT-mfIL12の抗腫瘍効果を検討した。 膀胱癌は人口10万人あたり毎年6~8人発生し、年々増加傾向にある。50歳以上に好発し、男性が女性の2~3倍の頻度で発生する。泌尿器科を受診する未治療膀胱癌の約30%は筋層浸潤膀胱癌かあるいはそれ以上に進展した進行癌である。内視鏡治療であるTUR-Bt後のBCG膀胱内注入療法は高リスク癌に対して再発のみならず進展も抑制することが確認されている。問題はその副作用であり,強い副作用のため1コース完遂できない例もしばしば遭遇する。転移を認めた膀胱癌に対しては、シスプラチンを軸にした抗癌剤治療が標準的治療である。ただ、生存期間は延長する効果は認めるが、CR(完全奏功)を達成できる症例は非常に少なく、最終的には癌死する。 HSV-1を使用した抗癌治療が膀胱癌に対して有効であるかを検討するため、まずin vitroにおいてT-01の膀胱癌に対する殺細胞効果を評価した。2種類のマウスと4種類のヒト膀胱癌細胞株を2×105個ずつまき、MOI (multiplicity of infection) =0.01または0.1のウイルスを感染させた。37℃で培養し、24時間ごとに生存する細胞数を測定し、mock感染群における生存細胞数に対するパーセント表示で評価した。 膀胱癌においてもT-01の抗腫瘍効果が期待出来ると考え、次にin vivoでの実験を行った。最初に皮下腫瘍モデルを使用してT-01の抗腫瘍効果を検討した。マウス膀胱癌細胞株MB49皮下腫瘍モデルにおいて、T-01を4 x 104, 2 x 105, 1 x 106pfu(plaque forming unit)ずつ段階用量的に腫瘍内投与して検討したところ、T-01は1 x 106pfuにて有意な抑制効果を認めた。同じモデルで、T-01およびT-mfIL12を1 x 106pfu腫瘍内投与して抗腫瘍効果を比較したところ、T-mfIL12はT-01に比べて有意に腫瘍の増大を抑制した。次にヒト膀胱癌細胞株RT-4の皮下腫瘍モデルにおいて、G47Δウイルスを4 x 104, 2 x 105, 1 x 106pfuずつ段階用量的に腫瘍内投与した。最も低い投与量である4 x 104pfuにおいても有意な腫瘍抑制効果を認めた。 臨床的に再発リスクを減少させるため、術後膀胱内に抗がん剤やBCGを注入して癌の治療あるいは再発予防をはかる治療の場合も多い。しかし、効果は充分でなく有効な抗癌治療の確立が望まれている。このような背景から、T-mfIL12とBCGとの併用療法を試みた。まず、マウスの膀胱内にマウス膀胱癌細胞株MB49を注入してマウス膀胱内モデルを開発した。マウス膀胱内モデルでT-mfIL12を2 x 105, 1 x 106, 5 x 106pfuずつ段階用量的に膀胱内投与し、生存期間を観察した。T-mfIL12を1 x 106 もしくは 5 x 106pfu投与した群にて、有意にマウスの生存期間を延長した。また、この膀胱癌の膀胱内モデルにおいて、T-mfIL12とBCG膀胱内注入の併用による抗腫瘍効果を検討した。その結果、T-mfIL12とBCGの併用群では有意に生存期間を延長した。 次に、マウスにおいて膀胱癌の肺転移モデルを作成した。マウスの尾静脈からマウス膀胱癌細胞株MB49を経静脈的に注入して肺転移を形成させた。T-01とT-mfIL12を5 x 106pfu静脈内投与して、生存期間について評価した。T-01およびT-mfIL12は対照群のmockに比べ有意にマウスの生存期間を延長し、かつT-mfIL12はT-01と比較しても有意にマウスの生存期間を延長させた。 転移を認めた膀胱癌に対する抗癌剤治療は、生存期間は延長する効果は認めるが、CRを達成できる症例は非常に少なく、最終的には癌死する。ゲフィチニブ(Gefitinib)は、上皮成長因子受容体 (EGFR) のチロシンキナーゼを選択的に阻害する内服分子標的治療薬であり、新規の膀胱癌治療法として注目を集めている。ウイルス療法は分子標的薬と作用機序が異なり、同時併用にて相加もしくは相乗効果が期待できないかと考えた。ヒト膀胱癌細胞RT-4の皮下腫瘍モデルにおいて、G47Δとゲフィチニブの併用投与による抗腫瘍効果を検討した。まず、ゲフィチニブ2mg/kgの単独投与では、有意な腫瘍抑制効果を認めた。次に、ゲフィチニブ2mg/kgを腹腔内投与し、G47Δウイルスを4 x 104pfu腫瘍内投与したところ、併用群で有意な抗腫瘍効果を認めた。 以上の実験結果より、ウイルス療法は膀胱癌に対して有効な治療法であると考えられた。特にIL-12を産生するウイルスはその抗腫瘍効果を増強すると考えられた。今後、BCG治療抵抗性膀胱癌や転移性膀胱癌に対しても、IL-12を産生するウイルスが効果を示すかもしれないと示唆された。 腎細胞癌は成人における全悪性腫瘍疾患の約2~3%を占め、現在増加傾向にある。一般に腫瘍が腎に限局していれば5年生存率は73~93%,腎周囲脂肪組織に浸潤するものでは63~77%,腎静脈・下大静脈内塞栓のあるものまたは所属リンパ節転移のあるものでは38~80%,遠隔転移のあるものでは11~30%と報告されている。放射線治療や抗癌剤治療は一般的に奏功率が低いと報告されている。腎癌は免疫療法に比較的に反応することが注目され、主にインターフェロン(IFN)およびインターロイキン2(IL-2)などを単独、または併用で用いる治療が行われている。IL-2が単球、NK細胞およびT細胞を含むさまざまな免疫細胞を刺激することは知られている。IL-2は細胞性免疫反応を刺激するために用いられ、転移性腎癌を有する患者における標準治療として認可されている。しかし、その効果は20~40%くらいで、効果の持続する期間は数ヶ月と短い。最近では、分子標的薬が導入され、有意な生存期間延長効果を認める薬剤も開発されているが、治療成績にはやはり限界がある。このように、転移性腎細胞癌の治療は新たに高い治療効果を有する治療法が求められている。 以前、我々のグループの福原らが抗IL2-抗体投与によって、抗腫瘍効果を示すという報告を行っており、最近、IL-2/抗IL2-抗体複合体が、in vivoでメモリーCD8+T細胞およびNK細胞の増殖を刺激することが報告された。また、我々のグループの釣巻らがT-01が腎癌に有効であることを報告している。さらに、T-mfIL12がT-01と比較して有意に抗腫瘍効果を増強させることを報告している。 本研究ではまず、腎細胞癌皮下腫瘍モデルにおいて、IL-2/抗IL2-抗体複合体とT-mfIL12併用療法を試みた。併用により、より強力な抗癌効果が得られるかどうかを検討した。BALB/cマウスの左側腹部に、マウス腎癌細胞株RENCA 1 x 105を皮下注射して皮下腫瘍を作製し、最大腫瘍径が5mm大になったとき(day0)、2x 105pfu のT-mfIL12をday0およびday3に腫瘍内投与し、IL-2/抗IL2-抗体複合体をday0に腹腔内投与した。さらに、同様のプロトコールで、day14にマウスを安楽死させ、腫瘍を摘出した。摘出した腫瘍は凍結させて、クリオスタット切片を作製してCD4およびCD8抗体を染色した。IL-2/抗IL2-抗体複合体とT-mfIL12併用群では、IL-2/抗IL2-抗体複合体およびT-mfIL12単独投与群と比較して、腫瘍体積およびCD4、CD8免疫染色に有意差を認めた。 次に二つの腎癌の肺転移モデルを使用して、in vivoにおけるT-mfIL12とIL-2/抗IL2-抗体複合体の併用による抗腫瘍効果を検討した。BALB/cマウスの尾靜脈よりRenCa細胞1 x 105を靜脈内投与した(day0)。2x 105pfu のT-mfIL12をday1,3,5に靜脈内投与し、IL-2/抗IL2-抗体複合体をday0に腹腔内投与した。day14にマウスを安楽死させ、肺の転移数を評価した。同様のプロトコールで別に生存期間についても評価した。T-mfIL12およびIL-2/抗IL2-抗体複合体は対照群に比べ有意にマウスの生存期間を延長し、肺転移数も減少させた。かつ併用した場合、IL-2/抗IL2-抗体複合体およびT-mfIL12の単独投与群と比較して、マウスの生存期間を有意に延長させ、肺転移数は有意に減少させた。 本研究において、T-mfIL12は、直接のウイルス投与部位のみだけでなく、遠隔の癌病巣においても効果が期待できることを確認した。また、肺転移モデルにおける実験で、T-mfIL12の静脈内投与によっても効果が得られることを見出した。また、T-mfIL12とIL-2/抗IL2-抗体複合体を併用すると、有意により強力な抗腫瘍効果が達成されることが示された。 | |
審査要旨 | 本研究は第三世代の単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)T-01と増殖型ウイルスT-mfIL12を用いた泌尿器系癌(膀胱癌及び腎癌)での抗腫瘍効果を検討した。下記の結果を得ている。 1.in vitroにおいてT-01の殺細胞効果を検討したところ、2種類のマウスと4種類のヒト膀胱癌細胞株において、細胞が死滅することを確認した。 2.in vivoでマウス膀胱癌細胞株MB49皮下腫瘍モデルにおいて、1 x 106pfuのT-01腫瘍内投与にて有意な腫瘍抑制効果を認めた。同じモデルで、T-01およびT-mfIL12を1 x 106pfu腫瘍内投与して抗腫瘍効果を比較したところ、T-mfIL12はT-01に比べて有意に腫瘍の増大を抑制した。 3.マウス膀胱内モデルで、T-mfIL12を1 x 106 もしくは 5 x 106pfu投与した群にて、有意にマウスの生存期間が延長した。また、この膀胱癌の膀胱内モデルにおいて、T-mfIL12とBCGの併用群では有意に生存期間を延長した。 4.マウス膀胱癌の肺転移モデルにおいて、T-01およびT-mfIL12は対照群のmockに比べ有意にマウスの生存期間を延長し、かつT-mfIL12はT-01と比較しても有意にマウスの生存期間を延長させた。 5.腎細胞癌皮下腫瘍モデルにおいて、IL-2/抗IL2-抗体複合体とT-mfIL12併用群は、IL-2/抗IL2-抗体複合体単独もしくはT-mfIL12単独投与群と比較して、腫瘍体積およびCD4、CD8免疫染色に有意差を認めた。 6.腎癌の肺転移モデルにおいて、T-mfIL12とIL-2/抗IL2-抗体複合体の併用群は、対照群に比べ有意にマウスの生存期間を延長し、肺転移数も減少させた。また、併用群は、IL-2/抗IL2-抗体複合体およびT-mfIL12の単独投与群と比較して、マウスの生存期間を有意に延長させ、肺転移数は有意に減少させた。 | |
UTokyo Repositoryリンク |