No | 128323 | |
著者(漢字) | 岩崎,浩太郎 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イワサキ,コウタロウ | |
標題(和) | (-)-Chartelline C の合成研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128323 | |
報告番号 | 甲28323 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 博薬第1418号 | |
研究科 | 薬学系研究科 | |
専攻 | 分子薬学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【背景.目的】 (-)-Chartelline C (1) は1985 年Christophersen らによって北海近辺のホヤ群Chartella papyracea より単離された天然物である1。本天然物は顕著な生理活性を示すという報告はなされていないが、中心となる10 員環骨格にイミダゾール、インドレニン、スピロ.-ラクタムといった複素環を有しており、その特異な分子構造により多くの合成化学者の興味を引きつけてきた。しかしながら全合成の報告はBaran らによるラセミ体での合成の一例に留まっている2。筆者は不斉合成へと展開可能な効率的な1の合成法を確立すべく研究を行った 【逆合成解析】 逆合成解析をScheme 1 に示す。本天然物はインドレニンとイミダゾールとがπ 積層相互作用しているためその立体配座は「コ」の字型をとっていることがX線結晶構造解析によって明らかにされている1。我々はこの特徴に着目し、天然物の1 位と2 位とを逆合成的に切断し、Ns 基を利用した光延反応によって10 員環を構築しようと考えた。環化反応の際にインドールとイミダゾールとの間に同様の相互作用があると仮定した場合、インドールが紙面手前側に位置する配座(3a)と、紙面奥側に位置する配座(3b)とが考えられる。3b に関してはメチル基とアルコキシ基との立体反発が大きいことから環化反応はより安定な立体配座3a を経由すると予想できる。そして10 員環に対し、凸面からのアルキル化反応によってスピロβ-ラクタムの構築を行えば立体選択的な主骨格の構築が可能であると期待した。インドール3 位への窒素官能基の導入は、当研究室での(-)-Mersicarpine の全合成3で見いだされた条件を参考に行うものとし、その前駆体4 はインドール5 とイミダゾール6 とのカップリング反応を経て導けるものと考え研究に着手した。 【結果・考察】 ラセミ体のイミダゾールユニットを用いた検討結果を以下に記す(Scheme 2)。文献既知のイミダゾール74に対し、二当量のNIS を作用させることでイミダゾールの2,5 位をヨウ素化した後、亜硫酸ナトリウムを作用させることで2 位の選択的な還元を行い8 を得た。窒素原子の保護に引き続きStille カップリングによってイミダゾール5 位にビニル基を導入した後、四酸化オスミウムを用いたオレフィンのジヒドロキシ化、生じた1,2-ジオールのTBS 基による保護を経て10 へと変換した。最後にエステルを足掛かりとして末端アルキンへと導きイミダゾールユニット11 の合成を完了した 合成したイミダゾール11 と別途調製したインドール55との薗頭カップリングはインドール2 位選択的に進行し、高収率にて12 を与えた。得られたカップリング成績体12 をBoc 基の除去と内部アルキンの部分還元を経て13 へと変換した(Scheme 3)。インドール3 位への窒素官能基の導入はジアゾカップリングを用いる方法が有効であり、アゾ基の還元、アミノ基のノシル化を経てノシルアミドを得た。最後に酸性条件下第一級水酸基選択的な脱保護を行い光延反応前駆体16 へと導いた。なお、アゾ化合物14 及びアミノインドール15 は不安定ではあるものの中性シリカゲルによる精製が可能であり、導入したアミノ基をノシルアミドとすれば室温で長期保存可能であることが分かった。続いてNs 基を用いた10 員環への変換を経て主骨格の構築を行った(Scheme 4)。検討の結果、環化前駆体16 を角田らによって開発された光延反応の条件6に付すことで良好な収率にて10 員環化合物17 を得ることに成功した。得られた環化体17 はNs 基を除去した後、ブロモ酢酸と縮合することで18 へと導いた。このものを塩基性条件下加熱すると速やかに.-ラクタム19 へと変換することができた。そしてTBAF を用いてTBS 基を除去しアルコール20 を得た。なお、.-ラクタム19 は単一の異性体として得られており、アルコール20 に対するNMR 及び計算化学を用いた解析結果からその立体化学は下記のものが最も妥当であると考えている。 次に二級水酸基を足掛かりとし、脱水反応に続く求電子的な塩素化反応によりβ-クロロエナミドを得るべくエナミドへの変換を検討した(Scheme 5)。常法に従いアリルセレニル基を導入した後、セレニド21 を酸化条件に付したが予想に反し元のアルコール20 と、メタクロロ安息香酸置換体22 の混合物が得られるのみだった。その理由としてイミダゾールからの電子供与がエナミドへの変換を妨げているものと考え、イミダゾールの窒素原子の保護基をSEM基から電子吸引性のBz 基へと交換することとした。その結果、23 に対するセレノキシド脱離反応は円滑に進行し、所望のエナミド体24 を高収率にて得ることに成功した。。 Scheme 1 Scheme 2 Reagents and conditions: (a) NIS, DCE, rt; Na2SO3, EtOH-H2O, reflux; (b) SEMCl, i-Pr2NEt, TBAI, DCE-THF, 80°C, 94% (2 steps); (c)H2C=CHSnn-Bu3, Pd(PPh3) 4, o-xylene, reflux, 96%; (d) OsO4, NMO, acetone-H2O, rt, 93%; (e) TBSOTf, Et3N, CH2Cl2, 0 °C, 91%; (f) DIBAL,CH2Cl2, -78℃; (g) Bestmann's reagent, K2CO3, MeOH, rt, 87% (2 steps). Scheme 3 Reagents and conditions: (a) Pd2(dba) 3・CHCl3, Ph3P, CuI, n-BuNH2, toluene, reflux, 87%; (b) NaH, THF-MeOH, 0℃, 79%; (c) Zn, conc. HCl,MeOH, reflux, 72%; (d) PhNNBF4, NaH, THF-DMF, 0°C; (e) Zn, NH4Cl, EtOH, rt, 62% (2 steps); (f) p-NsCl, pyridine, CH2Cl2, 0 ℃, 81%; (g) CSA,MeOH, 50℃, 89%. Scheme 4 Reagents and conditions: (a) TMAD, n-Bu3P, toluene, reflux, 75%; (b) HSCH2CO2H, DBU, MeCN, rt; (c) BrCH2CO2H, EDCl, rt, 95% (2 steps); (d)Cs2CO3, MeCN-THF, 50℃; (e) TBAF, THF, rt, 74% (2 steps). Scheme 5 Reagents and conditions: (a) o-NO2C6H4CN, n-Bu3P, THF, rt, 82%; (b) mCPBA, CH2Cl2, rt; (c) TfOH, CH2Cl2, -78 to 0 °C; (d) BzCl, Et3N, DMAP,CH2Cl2, rt, 52% (2 steps); mCPBA, CH2Cl2, rt, 80%. | |
審査要旨 | (一)-Chartelline C(1)は1985年Christophersenらによって北海近辺のホヤ群Chartellapapyraceaより単離された天然物である。本天然物は顕著な生理活性を示すという報告はなされていないが、中心となる10員環骨格にイミダゾール、インドレニン、スピロ住ラクタムといった複素環を有しており、その特異な分子構造により多くの合成化学者の興味を引きつけてきた。しかしながら全合成の報告はBaranらによるラセミ体での合成の一例に留まっている。岩崎は不斉合成へと展開可能な効率的な1の合成法を確立すべく研究を行った。 まず、岩崎はイミダゾールユニット7の合成を行った(Scheme1)。文献既知のイミダゾール2に対して2,4位のヨウ素化を行った後、ワンポットにて亜硫酸ナトリウムを作用させることで2位選択的な還元を行い5-ヨードイミダゾール3を得た。次にイミダゾールの窒素原子をSEM基にて保護し、得られた4に対してトリブチルビニルチンとのStilleカップリングを行いビニルイミダゾール5とした。四酸化オスミウムを用いたオレフィンのジヒドロキシ化は円滑に進行し、生じた1,2-ジオールのTBS基による保護を経てジシリルエーテル6へと変換した。最後にエステルを足掛かりとして末端アルキンへと導きイミダゾールユニット7の合成を完了した。 次に岩崎はインドールとイミダゾールとのカップリング反応を経て光延反応前駆体の合成を検討した(Scheme2)。上記のイミダゾール7と別途調製したインドール8との薗頭カップリングはインドール2位選択的に進行し、高収率にて2-アルキニルインドール9を与えた。得られたカップリング成績体9をBoc基の除去と内部アルキンの部分還元を経て10へと変換した。インドール3位への窒素官能基の導入はジアゾカップリングを用いる方法が有効であり、アゾ基の還元、アミノ基のノシル化を経てノシルアミド13を得た。最後に酸性条件下第一級水酸基選択的な脱保護を行い光延反応前駆体14へと導いた。なお、アゾ化合物11及びアミノインドール12は不安定であるものの中性シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる精製が可能であり、導入したアミノ基をノシルアミドとすれば長期保存可能であることを見出している。 次に岩崎はNs基を用いた分子内光延反応を経て主骨格の構築を行った(Scheme3)。検討の結果、環化前駆体14を角田らによって開発された光延反応の条件に付すことで良好な収率にて10員環化合物15を得ることに成功した。得られた環化体15はNs基を除去した後、プロモ酢酸と縮合することで16へと導いた。このものを塩基性条件下加熱すると速やかにβ-ラクタムへと変換することができた。そしてTBAFを用いてTBS基を除去しアルコール17を得た。なお、(R)一ラクタムは単一の異性体として得られており、アルコール17に対するNMR及び計算化学を用いた解析結果からその立体化学は表記のものが最も妥当であると考えられる。続いて岩崎は(R)-クロロエナミド部位の構築を検討した。膨大な検討の結果、岩崎はイミダゾールの保護基を交換することにより水酸基の脱水反応が首尾よく行えることを見いだした。即ち、常法に従いアリルセレニル基を導入した後、イミダゾールの保護基をSEM基からBz基へと交換し19とした。このものに対してmCPBAを作用させると速やかにセレノキシド脱離が進行し、エナミド20を得た。 以上、岩崎はChartelline C(1)の効率的な主骨格構築法を確立した。β-ラクタム17が単一の異性体で得られたことから、岩崎が確立した合成経路はイミダゾールユニット7を光学活性体で合成することで不斉合成へと展開可能な独創性の高いものである。この成果は薬学研究に寄与するところ大であり、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。 | |
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