学位論文要旨



No 128340
著者(漢字) 幾尾,真理子
著者(英字)
著者(カナ) イクオ,マリコ
標題(和) 薬剤耐性黄色ブドウ球菌MRSA の病原性抑制機構の解明
標題(洋)
報告番号 128340
報告番号 甲28340
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1435号
研究科 薬学系研究科
専攻 機能薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 関水,和久
 東京大学 教授 新井,洋由
 東京大学 教授 一條,秀憲
 東京大学 准教授 武田,弘資
 東京大学 准教授 東,伸昭
内容要旨 要旨を表示する

【導入】

感染症は現代においてもヒトの死亡要因の第一位を占める。薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌MRSA (Methicillin resistantStaphylococcus aureus)による感染症は抗生物質では治療できず、臨床上大きな問題となっている。従来、病院において分離されるMRSA (HA-MRSA: hospital associated MRSA) は免疫力の低下した患者に感染する。しかし近年では、健常人に対しても高い病原性を示す市井感染型MRSA (CA-MRSA: Communityacquired MRSA) が出現し脅威となっている。しかしこれまでCA-MRSA とHA-MRSA の病原性の差の原因は不明だった。本研究において私は、両者の病原性の違いを導く原因因子として新規機能性RNA psm-mec を同定した。

【結果と考察】

HA-MRSA が持つ薬剤耐性遺伝子領域S CCm e c 上の遺伝子p sm- m e c は黄色ブドウ球菌の病原性を抑制する。

MRSA は遺伝子領域SCCmec の獲得により薬剤耐性となる。HA-MRSA とCA-MRSA の持つSCCmec領域を比較すると、CA-MRSA はpsm-mec 遺伝子を含む領域を欠損していた。私はpsm-mec 遺伝子がHA-MRSA の病原性を抑制していると考え検討した。CA-MRSA にpsm-mec 遺伝子を導入すると、敗血症モデルにおいてマウス殺傷能が低下した(図1)。この結果はHA-MRSA の薬剤耐性遺伝子領域SCCmec 上に存在するpsm-mec 遺伝子がCA-MRSA の動物殺傷能を抑制すること、すなわちHA-MRSA とCA-MRSA の病原性の差がpsm-mec 遺伝子の存否によって導かれることを示唆している。psm-mec 遺伝子導入株の表現型を解析したところ、好中球を溶解する毒素PSMαの発現量が減少し(図2B)、バイオフィルム形成能が上昇した (図2C)。敗血症モデルでは毒素PSMαが重要な役割を果たすことから、psm-mec 遺伝子を導入した黄色ブドウ球菌におけるPSMαの発現量の低下がマウスに対する病原性の低下を導くと考えられる。

p sm- m e c 遺伝子の翻訳産物はバイオフィルム形成を促進し転写産物はR N A として細胞溶解毒素P SMαの発現を抑制する。

2010 年に海外のグループからpsm-mec 遺伝子産物が毒素活性を有することが報告された。しかし私たちが見出したpsm-mec 遺伝子の病原性抑制効果はPSM-mec タンパク質の毒素活性では説明できない。この点を説明するため最初に私は、PSM-mec タンパク質が病原性抑制効果を持つかどうか検討した。終止コドンを導入した変異型psm-mec 遺伝子(図2A)はバイオフィルム形成促進活性が低下したが(図2C)、好中球溶解毒素PSMαの発現抑制活性は維持された(図2B)。よってPSM-mec タンパク質はバイオフィルム形成促進活性を有するが、PSMα発現の抑制効果を持たないことが示唆された。次に、sm-mec 遺伝子のPSMα発現抑制効果がpsm-mec RNA によるかを検討した。psm-mec 遺伝子のプロモーター領域に変異を導入すると(図2A)、PSMαの発現抑制効果が失われた(図2B)。したがってpsm-mec 遺伝子の転写産物がPSMαの発現を抑制することが示唆された。この点についてさらに検証するため、塩基配列を同義コドンに置換したpsm-mec 遺伝子を作成した(図2A)。同義コドン置換型psm-mec 遺伝子においては、RNA 配列は変化するが野生型PSM-mec タンパク質と同じアミノ酸配列を有するタンパク質が翻訳される。同義コドン置換型psm-mec 遺伝子は、野生型psm-mec 遺伝子と同程度のPSM-mec タンパク質を発現したが、PSMα発現抑制活性は低下していた(図2D-1)。また野生型psm-mec 遺伝子または同義コドン置換型psm-mec 遺伝子をアンハイドロテトラサイクリン(ATc)誘導性プロモーターに接続すると、野生型psm-mec 遺伝子導入株ではATc の添加によりPSMαの発現が抑制されたが、同義コドン置換型psm-mec 遺伝子導入株においてはATc を添加してもPSMαの発現はほとんど抑制されなかった(図2E)。以上の結果は、psm-mec 遺伝子の翻訳産物ではなく、転写産物が機能性RNA として細胞溶解毒素PSMαの発現を抑制することを示唆している。

薬剤耐性遺伝子領域S CCm e c 上のp sm- m e c 遺伝子は表皮ブドウ球菌においてもバイオフィルム形成を促進し、細胞溶解毒素P SMβの発現を抑制する

表皮ブドウ球菌もSCCmec 領域を獲得して薬剤耐性表皮ブドウ球菌となる。表皮ブドウ球菌はバイオフィルム形成能が強く医療用器具への付着が問題となる。私は黄色ブドウ球菌での結果をふまえ、psm-mec 遺伝子が表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成を増強しているのではないかと考えた。薬剤感受性型表皮ブドウ球菌にpsm-mec 遺伝子およびその変異型遺伝子 (図2A)を導入した。野生型psm-mec 遺伝子はPSMαと同じファミリ-に属する毒素であるPSMβの発現を抑制する一方(図2F)、バイオフィルム形成能を上昇させた(図2G)。終止コドンを導入したpsm-mec 遺伝子はPSMβ発現抑制活性を維持していたが(図2F)、バイオフィルム形成促進活性は低下していた(図2G)。プロモーター部位に変異を導入したpsm-mec 遺伝子はこれらの活性を失っていた(図2 F,G)。またpsm-mec 遺伝子を導入した表皮ブドウ球菌においては分泌タンパク質の発現パターンが変化した(図2H)。終止コドンを導入したpsm-mec 遺伝子も分泌タンパク質の発現パターンを変化させたが、プロモーター部位の変異を導入したpsm-mec 遺伝子は分泌タンパク質の発現パターンをほとんど変化させなかった。(図2H)。以上の結果は、表皮ブドウ球菌においてもpsm-mec 遺伝子が機能すること、PSM-mec タンパク質がバイオフィルム形成を促進すること、psm-ec RNA が細胞溶解毒素PSMβを含む分泌タンパク質の発現を調節することを示唆する。

p s m - m e c 遺伝子はa g r の発現を抑制する。

次に私は黄色ブドウ球菌においてpsm-mec RNA が細胞溶解毒素PSMαの発現を抑制する機構について検討した。一般に機能性RNA は、標的RNA の安定性、翻訳効率を制御して翻訳産物の発現量を変えることが知られている。この点を検証するため私は、psm-mec 遺伝子によって発現量が変化するPSMα以外のタンパク質を探索した。psm-mec 遺伝子の導入により、D-乳酸脱水素酵素 (Ddh)、プロテインA (Spa)の発現量が上昇した (図3A)。黄色ブドウ球菌のAgrA は、Ddh とSpa の発現を抑制し、PSMαの発現を促進する転写因子である。psm-mec 遺伝子は、AgrA の発現を抑制して、Ddh とSpa の発現の上昇とPSMαの発現の低下を導くと私は予想した。psm-mec 遺伝子はagrA 遺伝子のプロモーター活性とmRNA 量には影響しなかったが、AgrA タンパク質の発現量を低下させた(図3B)。さらにpsm-mec 遺伝子の導入によりAgrA タンパク質に融合させたルシフェラーゼの発現が低下した(図3C)。以上の結果はm-mec 遺伝子がagrA 遺伝子の翻訳を抑制して黄色ブドウ球菌の病原性を抑制することを示唆する。

p sm- m e c 遺伝子の発現には病原性制御領域a g r が必要である

最後に私は、psm-mec 遺伝子自身の発現がどのように制御されるかについて検討した。臨床分離されたMRSA 株の中には、psm-mec 遺伝子を持つにもかかわらず、PSM-mec タンパク質を発現しない株が存在し、PSMα毒素の発現も見られなかった。これらの株においては、agr 領域が変異しているためにPSM-mec 及びPSMαが発現していないのではないかと私は考えた。psm-mec 遺伝子を持つHA-MRSA 25 株中6 株において、agr 領域中にagr の機能を失わせる変異が見出された。これら6 株ではPSM-mec タンパク質は発現していなかった。さらに実験株のagr 領域を欠損させると、psm-mec 遺伝子のプロモーター活性が低下した(図4)。従って、病原性制御領域agr はpsm-mec 遺伝子の発現に必要であると考えられる。

【まとめ】

本研究で私は、可動性遺伝子領域SCCmec に存在するpsm-mec 遺伝子が、薬剤耐性ブドウ球菌の病原性の強弱を決定することを明らかにした。さらにpsm-mec 遺伝子の転写産物自身が病原性抑制機能を有することを明らかにした。psm-mec 遺伝子の機能はSCCmec が伝播する表皮ブドウ球菌でも保存されていた。psm-mec 遺伝子はagr 領域によって正の発現調節を受け、発現したpsm-mec 遺伝子はagr 領域の発現を抑制する(図5)。この仕組みは、ブドウ球菌属において毒素の発現を適度に抑制する機構であると解釈できる。宿主動物を殺傷せずに共生をはかることを可能にするこの仕組みは、ブドウ球菌属とSCCmec 領域双方にとって利益をもたらしてきたと考えられる。

1) Ikuo M, Kaito C, Sekimizu K. Microb Pathog. 2 0 1 0 , 49(1-2):1-7.2) Kaito C, Saito Y, Nagano G, Ikuo M, Omae Y, Hanada Y, Han X, Kuwahara-Arai K, Hishinuma T, Baba T, Ito T, Hiramatsu K, Sekimizu K. PLoS Pathog. 2 0 1 1 , 7(2) :e1001267.

表1 HA-MRSAおよびCA-MRSAの病原性とpsm-mec遺伝子の存否

図1 psm-mec遺伝子は黄色ブドウ球菌の動物殺傷能を抑制する

CD-1 マウス静脈内にCA-MRSAおよびそのpsm-mec遺伝子導入株(2×10(8)CFU)を注射した。

図2 ブドウ球菌属における、psm-mec遺伝子の翻訳産物によるバイオフィル形成の促進と、転写産物による細胞溶解毒素PSMα・βおよび分泌タンパク質の発現調節

図3 psm-mec遺伝子による病原性制御因子AgrAの発現変化

図5 モデル図

審査要旨 要旨を表示する

感染症は現代においてもヒトの重大な死亡要因の一つである。薬剤耐性を獲得した黄色ブドウ球菌MRSA (Methicillin resistant Staphylococcus aureus)による感染症は抗生物質では治療できず、臨床上大きな問題となっている。従来、病院において分離されるMRSA (HA-MRSA: hospital associated MRSA) は免疫力の低下した患者に感染する。しかし近年では、健常人に対しても高い病原性を示す市井感染型MRSA (CA-MRSA: Community acquired MRSA) が出現し脅威となっている。ところが、これまでCA-MRSAとHA-MRSAの病原性の差を説明することはできていなかった。薬剤耐性菌の病原性制御機構の理解は、薬剤耐性菌感染症の治療に貢献する重要な課題である。本研究において申請者は、両者の病原性の違いを導く原因因子として新規機能性RNA psm-mecを同定し解析した。

MRSAは遺伝子領域SCCmecの獲得により薬剤耐性となる。HA-MRSAとCA-MRSAの持つSCCmec領域を比較すると、CA-MRSAはpsm-mec遺伝子を含む領域を欠損していた。このことから申請者はpsm-mec遺伝子がHA-MRSAの病原性を抑制していると考えて検討を行った。CA-MRSAにpsm-mec遺伝子を導入すると、敗血症モデルにおいてマウス殺傷能が低下した。この結果より、HA-MRSAの薬剤耐性遺伝子領域SCCmec上に存在するpsm-mec遺伝子がCA-MRSAの動物殺傷能を抑制すること、すなわちHA-MRSAとCA-MRSAの病原性の差がpsm-mec遺伝子の存否によって導かれることを申請者は示唆している。さらに、psm-mec遺伝子を導入すると好中球を溶解する毒素PSMαの発現量が減少し、バイオフィルム形成能が上昇した。敗血症モデルでは毒素PSMαが重要な役割を果たすことから、psm-mec遺伝子を導入した黄色ブドウ球菌におけるPSMαの発現量の低下がマウスに対する病原性の低下を導くと申請者は考察している。

psm-mec遺伝子が病原性を制御する機構を理解するために、まず申請者はpsm-mec遺伝子の翻訳産物であるPSM-mecタンパク質が病原性抑制効果を持つかどうか検討した。終止コドンを導入した変異型psm-mec遺伝子はバイオフィルム形成促進活性が低下したが、好中球溶解毒素PSMαの発現抑制活性は維持された。よってPSM-mecタンパク質はバイオフィルム形成促進活性を有するが、PSMα発現の抑制効果を持たないと申請者は考えた。次に、psm-mec遺伝子のPSMα発現抑制効果がpsm-mec RNAによるかを検討した。psm-mec遺伝子のプロモーター領域に変異を導入すると、PSMαの発現抑制効果が失われた。したがってpsm-mec遺伝子の転写産物がPSMαの発現を抑制することが示唆された。この点についてさらに検証するため、塩基配列を同義コドンに置換したpsm-mec遺伝子を作成した。同義コドン置換型psm-mec遺伝子においては、RNA配列は変化するが野生型PSM-mecタンパク質と同じアミノ酸配列を有するタンパク質が翻訳される。同義コドン置換型psm-mec遺伝子は、野生型psm-mec遺伝子と同程度のPSM-mecタンパク質を発現したが、PSMα発現抑制活性は低下していた。また野生型psm-mec遺伝子または同義コドン置換型psm-mec遺伝子をアンハイドロテトラサイクリン(ATc)誘導性プロモーターに接続すると、野生型psm-mec遺伝子導入株ではATcの添加によりPSMαの発現が抑制されたが、同義コドン置換型psm-mec遺伝子導入株においてはATcを添加してもPSMαの発現はほとんど抑制されなかった。以上の結果から、psm-mec遺伝子の翻訳産物ではなく、転写産物が機能性RNAとして細胞溶解毒素PSMαの発現を抑制することを申請者は示唆している。

SCCmec領域は黄色ブドウ球菌以外のブドウ球菌属である表皮ブドウ球菌にも存在し、薬剤耐性表皮ブドウ球菌をうむ。表皮ブドウ球菌はバイオフィルム形成能が強く、カテーテルや心臓弁などの医療用器具への付着が問題となる。申請者は黄色ブドウ球菌での結果をふまえ、psm-mec遺伝子が表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成増強の原因となっているのではないかと考えた。薬剤感受性型表皮ブドウ球菌にpsm-mec遺伝子およびその変異型遺伝子を導入した。野生型psm-mec遺伝子はPSMαと同じファミリ-に属する毒素であるPSMβの発現を抑制する一方、バイオフィルム形成能を上昇させた。終止コドンを導入したpsm-mec遺伝子はPSMβ発現抑制活性を維持していたが、バイオフィルム形成促進活性は低下していた。プロモーター部位に変異を導入したpsm-mec遺伝子はこれらの活性を失っていた。またpsm-mec 遺伝子を導入した表皮ブドウ球菌においては分泌タンパク質の発現パターンが変化した。終止コドンを導入したpsm-mec遺伝子も分泌タンパク質の発現パターンを変化させたが、プロモーター部位の変異を導入したpsm-mec遺伝子は分泌タンパク質の発現パターンをほとんど変化させなかった。以上の結果から、表皮ブドウ球菌においてもpsm-mec遺伝子が機能すること、PSM-mecタンパク質がバイオフィルム形成を促進すること、psm-mec RNAが細胞溶解毒素PSMβを含む分泌タンパク質の発現を調節することを申請者は示唆している。

次に申請者は黄色ブドウ球菌においてpsm-mec RNAが細胞溶解毒素PSMαの発現を抑制する機構について検討した。一般に機能性RNAは、標的RNAの安定性、翻訳効率を制御して翻訳産物の発現量を変えることが知られている。この点を検証するため申請者は、psm-mec 遺伝子によって発現量が変化するPSMα以外のタンパク質を探索した。psm-mec 遺伝子の導入により、D-乳酸脱水素酵素 (Ddh)、プロテインA (Spa)の発現量が上昇した。黄色ブドウ球菌のAgrAは、DdhとSpaの発現を抑制し、PSMαの発現を促進する転写因子である。psm-mec 遺伝子は、AgrAの発現を抑制して、DdhとSpaの発現の上昇とPSMαの発現の低下を導くと申請者は予想した。psm-mec遺伝子はagrA遺伝子のプロモーター活性とmRNA量には影響しなかったが、AgrAタンパク質の発現量を低下させた。さらにpsm-mec遺伝子の導入によりAgrAタンパク質に融合させたルシフェラーゼの発現が低下した。以上の結果から、psm-mec遺伝子がagrA遺伝子の翻訳を抑制して黄色ブドウ球菌の病原性を抑制することを示唆している。

最後に申請者は、psm-mec遺伝子自身の発現がどのように制御されるかについて検討した。臨床分離されたMRSA株の中には、psm-mec遺伝子を持つにもかかわらず、PSM-mecタンパク質を発現しない株が存在し、PSMα毒素の発現も見られなかった。これらの株においては、agr領域が変異しているためにPSM-mec及びPSMαが発現していないのではないかと申請者は考えた。psm-mec遺伝子を持つHA-MRSA 25株中6株において、agr領域中にagrの機能を失わせる変異が見出された。これら6株ではPSM-mecタンパク質は発現していなかった。さらに実験株のagr領域を欠損させると、psm-mec遺伝子のプロモーター活性が低下した。従って、病原性制御領域agrはpsm-mec遺伝子の発現に必要であると申請者は考察している。

本研究において、可動性遺伝子領域SCCmecに存在するpsm-mec遺伝子が、薬剤耐性ブドウ球菌の病原性の強弱を決定することを申請者は明らかにした。さらにpsm-mec遺伝子の転写産物自身が病原性抑制機能を有することを明らかにした。psm-mec遺伝子の機能はSCCmecが伝播する表皮ブドウ球菌でも保存されていた。psm-mec遺伝子はagr領域によって正の発現調節を受け、発現したpsm-mec遺伝子はagr領域の発現を抑制する。この仕組みは、ブドウ球菌属において毒素の発現を適度に抑制する機構であると解釈できる。宿主動物を殺傷せずに共生をはかることを可能にするこの仕組みは、ブドウ球菌属とSCCmec領域双方にとって利益をもたらしてきたと考えられる。HA-MRSAとCA-MRSAの病原性の違いの原因を明らかにし、新規機能性RNAとしてpsm-mec RNAを同定しその病原性調節機構について明らかにした本研究は、薬剤耐性菌を原因とする感染症の理解及び治療法の開発に大きく貢献するものである。よって申請者は、博士(薬学)の学位を受けるに十分な資格を有すると判定した。

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