学位論文要旨



No 128366
著者(漢字) 宮島,真理
著者(英字)
著者(カナ) ミヤジマ,マリ
標題(和) アロマターゼ阻害剤の中枢移行性を規定する諸要因の解析
標題(洋)
報告番号 128366
報告番号 甲28366
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1461号
研究科 薬学系研究科
専攻 生命薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 関水,和久
 東京大学 准教授 楠原,洋之
 東京大学 准教授 伊藤,晃成
 東京大学 特任准教授 樋坂,章博
内容要旨 要旨を表示する

【序諭】

アロマターゼはアンドロゲンをエストロゲンへと変換する酵素である。アロマターゼ阻害剤はホルモン依存性乳癌の閉経後女性に処方され、副腎などの末梢臓器と癌のアロマターゼを阻害してエストロゲン産生を抑制する。その結果、エストロゲン依存的な細胞増殖が抑えられ、抗腫瘍効果を発揮する。乳癌組織と同様、脳腫瘍においてもアロマターゼの発現元進が確認され、アロマターゼ阻害剤投与により乳癌脳転移が縮小した例も報告されている。今後、アロマターゼ阻害剤の乳癌脳転移への適応拡大が期待される。また、中枢神経系においてもアロマターゼの発現や活性が確認され、局所的に産生されたエストロゲンが神経伝達や神経成長の調節に関与すると考えられている。現在相反する臨床報告があるものの、アロマターゼ阻害剤服用による学習、認知能力の低下などの中枢性副作用も指摘されており、脳内アロマターゼ阻害が要因である可能性もある。アロマターゼ阻害剤の脳内暴露は、血液中での滞留性や血液中・脳中の蛋白結合、血液と脳実質との間の関門である血液脳関門における薬物輸送によって決定される。そこで、本研究は、アロマターゼ阻害剤の中枢移行性および脳内アロマターゼ阻害能に着目し、その中枢移行性を規定する因子を明らかにすることを目的として、以下の研究を行った。本研究では非ステロイド系アロマターゼ阻害剤に注目し、国内で臨床に用いられているanastrozole、letrozole(ともに第3世代型)、開発中止となったvorozole、共同研究先である理化学研究所で現在開発中のcetrozole、TMD-322の5化合物について解析した。

【方法と結果】

1.ヒトアロマターゼに対する阻害能のin vitro評価

Vorozoleを除く4化合物のアロマターゼ阻害能を、ヒトアロマターゼ発現ミクロソームを用いた蛍光基質dibenzylfluoresceinの代謝実験により評価した。IC50はAnastrozoleが最も大きく(13nM)であり、他の化合物のIC50値は1.5~3.6nMであった。

2.アロマターゼ阻害剤の物理化学特性および血中非結合型物分率の測定

アロマターゼ阻害剤のlogP値を、ChemAxonにより構造式から予測した。膜透過性(Papp)をMDCKII細胞の経細胞輸送実験で評価した。血漿中非結合型薬物分率(fp)は、マウス血漿を用いて平衡透析法により求めた。

アロマターゼ阻害剤の物理化学的特性は、5化合物間で類似していた(表1)。医薬品の血液脳関門透過性については分子量および脂溶性が指標となることから、5化合物の単純拡散による血液脳関門透過性はほとんど変わらないことが予想された。今回検討したアロマターゼ阻害剤の中で、特にTMD-322およびvorozoleのfpが小さいことから、invivoでの血液から脳実質内の移行性が低いことが予想された。

3.マウス単回投与後のアロマターゼ阻害剤の脳-血中濃度比の比較

マウス単回静脈内投与後の脳-血漿中濃度比を図1に示す。anastrozoleが他の化合物の1/5~1/10以下と、きわめて小さく、表1から予測される血液脳関門透過性との間に乖離が認められた。また、TMD-322およびvorozoleについては、fpが小さいにも関わらず、他の薬剤と同程度の脳-血漿中濃度比を示すことが明らかとなった。

4.アロマターゼ阻害剤の脳実質細胞内への曝露

医薬品の脳実質内の暴露は、血液脳関門透過性、実質細胞における細胞膜透過性によって決定される(図2)。定常状態では脳-血漿中濃度比は式(1)で示され、血液-脳細胞間液(ISF)間の取り込みクリアランス(PSbiood-ISF)と排出クリアランス(PSISF-biood)との比、脳細胞間液(ISF)-脳実質(parenchyma)間の取り込みクリアランス(PSISF-parenchyma)と排出クリアランス(PSparenchyma-ISF)との比、fp、脳内非結合型薬物分率(fbr)から構成される。

以下、各パラメータをin vitro試験により求めた。

4.1アロマタ上ゼ阻害剤の脳内蛋白結合

脳内非結合型薬物分率(fbr)は、マウス大脳ホモジネートを用いて平衡透析法により求め、fpと比較した。fpとfbrとの乖離はいずれの化合物でも2倍程度であった(表2)。

4.2アロマターゼ阻害剤の脳内分布容と脳実質内への濃縮率の評価

in vitro脳スライス取り込み実験から、アロマターゼ阻害剤の脳内分布容積(Vd)を推定した。Vdは全薬物濃度基準での脳実質内-脳細胞間液中濃度比(PSISF-parenchyma/(fbr×PSparenchyma-ISF))に相当する。Vdにfbrを乗じることで、脳実質内への濃縮率(PSISF-parenchyma/PSparenchyma-ISF)を推定した。TMD-322は若干低い値を示すものの、他の薬物は1に近い値を示し、アロマターゼ阻害剤の脳実質細胞内へほとんど濃縮されないものと考えられた(表2)。

4.3アロマターゼ阻害剤の血液脳関門を介した能送の寄与

医薬品の血液脳関門透過性における能動的な輸送の寄与の有無について、血液脳関門取り込みクリアランス(PSblood-ISF)と血液脳関門排出クリアランス(PSISF-blood)の比に基づいて推定した。この比が1より大きければ能動的な取り込み機構の寄与が考えられ、1より小さければ能動的な排出機構の寄与が示唆される。

これまでの検討から得た脳-血漿中濃度比、血漿中蛋白結合(fp)、脳内分布容積(Vd)を用いて、式(1)よりPSblood-ISF/PSISF-bloodを求めた(表2)。脳-血漿中濃度比の低いanastrozoleでは、他の薬物と比較して10倍異なり、血液脳関門における能動的な排出輸送が、脳-血漿中濃度比が低い要因と考えられた。他の4剤のPSblood-ISF/PSISF-bloodも1を下回り、能動的排出を受けている可能性が考えられる。

5.マウス脳マイクロダイアリシス法によるアロマターゼ阻害剤の脳内結合型物濃度の測定

マウス脳マイクロダイアリシス法を用いて、anastrozoleの脳内非結合型薬物濃度を測定した。マウスではanastrozoleの血中からの消失は非常に遅いことから、単回静脈内瞬時投与によりanastrozoleを投与し、経時的に血液、透析液を回収し、薬物濃度を測定した。常法に従い、antipyrineを対照化合物として、補正係数を算出した。Anastrozoleの脳内非結合型薬物濃度は速やかに定常状態に達した。非結合型薬物濃度基準の脳-血漿中濃度比(Kp.uu)は0.118±0.037mL/g brainと、やはり1を下回ることから、血液脳関門での能動的な排出機構を受けることが示唆された。

6.in situ脳潅流法による血液脳関門透過性の比較

diazepamを潅流速度の対照化合物として用いて、in situ脳潅流法により血液脳関門透過性を測定した。Anastrozoleの血液脳関門透過性は他の薬剤に比較して小さく、反対にTMD-322はdiazepamと同程度の透過性を示し、完全な潅流速度律速であった。cetrozole、letrozole、vorozoleは同程度の値(~1ml/min/g brain)を示した。

7.血液脳関門に発現するABCトランスポーターのノックアウトマウスにおけるアロマターゼ阻害剤の脳-血漿濃度比ならびにin vitro輸送活性の比較

血液脳関門に発現する排出トランスポーターであるP-glycoprotein(P-gp)、Breast cancerresistance protein(Bcrp)、Multidrug resistance protein4(Mrp4)の各ノックアウトマウスを用いて、脳-血漿中濃度比を評価した。anastrozoleとvorozoleについては、P-gpノックアウトマウスにおいて脳-血漿中濃度比が、野生型マウスに比べて有意に増加した(図3)。このことから、anastrozoleおよびvorozoleについてはP-gpがその中枢移行性を制限することが示唆された。一方で、Bcrp、Mrp4ノックアウトマウスでは、野生型と有意な違いは見られなかった。さらに、P-gp過剰発現MDCKII細胞を用いた経細胞輸送実験においても、mock細胞に比較して、P-gp発現細胞ではanastrozoleにおいて特に顕著な方向性輸送が観察され、vorozoleについても若干の方向性輸送が観察された。他の薬物の経細胞輸送はmock細胞と同程度であり、P-gpによる輸送活性は認められなかった。いずれの薬物においても、BCRP過剰発現MDCKII細胞における経細胞輸送は、mock細胞と同程度であり、BCRPによる輸送活性は認められなかった。これらのin vitroでの結果は、ノックアウトマウスを用いたin vivoでの結果と一致する。

8.臨床投与量での脳内アロマターゼ阻害能の推定

マウスにおける非結合型脳-血漿中薬物濃度比と臨床投与量での血漿中非結合型薬物濃度を利用し、脳内のアロマターゼ阻害活性を推定した。脳内アロマターゼ阻害能は、anastrozole、letrozoleともに末梢組織でのアロマターゼ阻害能に劣るものの、letrozoleでは現在の投与量で十分脳内アロマターゼも阻害することが可能である。

【まとめと考察】

本研究から、アロマターゼ阻害剤は分子量、脂溶性などの物理化学的特性が類似しているにも関わらず、anastrozoleの中枢移行性が他の4化合物と比較して1/10程度小さいことが示された。血漿中、脳内の非結合型薬物分率や脳実質細胞における薬物輸送を測定した結果、特にanastrozoleで顕著であるものの、いずれの薬物も血液脳関門において能動的な排出輸送を受けることが示唆された。anastrozole、vorozoleについては、P-gpにより一部説明されるものの、anastrozoleはP-gpノックアウトマウスにおいても、完全に脳-血漿濃度比が回復しないこと、他の3剤については既知排出トランスポーター(P-gp、Bcrp、Mrp4)では説明できないことから、他のトランスポーターが排出輸送に関与していることも考えられ、分子論の解明に向けてさらに解析することが必要である。In vitroアロマターゼ阻害能に基づくと、letrozoleについては現行の投与量でも脳内アロマターゼを十分阻害することが予想され、乳癌脳転移への利用も期待される。すでに共同研究者の理研分子イメージング研究科学センターの渡辺恭良先生のグループはcetrozole、TMD-322はPET分子プローブ化も完了しており、ヒトへの臨床試験の実施も計画されている。プローブ分子の脳内動態の解析により、本研究成果の妥当性の検証ならびにヒト脳内動態を規定する要因の解明にも繋がるものと期待される。

表1アロマターゼ阻害剤の物理化学的特性および血漿中非結合型薬物分率

図1アロマターゼ阻害剤の脳-血漿中濃度比

図2血液と脳実質細胞との間の物質交換の模式図

表2アロマターゼ阻害剤の脳内の曝露に関連したパラメータ

図3野生型、Bcrp(-/-)、P-gp(-/-)マウスにおける脳-血漿中濃度比

審査要旨 要旨を表示する

アロマターゼ(P450arom、CYP19A1)はアンドロゲンをエストロゲンへと変換する酵素であり、その阻害剤はホルモン依存性乳癌の閉経後女性に処方され、脂肪などの末梢臓器と癌のアロマターゼを阻害してエストロゲン産生を抑制する。その結果、エストロゲン依存的な細胞増殖が抑えられ、抗腫瘍効果を発揮する。アロマターゼ阻害剤はtamoxifenと比較して予後が良好であり、再発予防効果にも優れるため、閉経後乳癌のホルモン療法の第一選択薬となっている。乳癌組織と同様、脳腫瘍においてもアロマターゼの発現亢進が確認され、アロマターゼ阻害剤投与により乳癌脳転移が縮小した例も報告され、今後アロマターゼ阻害剤の乳癌脳転移への適応拡大が期待される。また、中枢神経系においてもアロマターゼの発現や活性が確認され、局所的に産生されたエストロゲンが神経伝達や神経成長の調節に関与すると考えられている。現在相反する臨床報告があるものの、アロマターゼ阻害剤服用による学習、認知能力の低下などの中枢性副作用も指摘されている。したがって、現在のアロマターゼ阻害剤を用いた抗がん治療、さらには脳内アロマターゼを副作用標的と捉えた今後の薬物治療のあり方を考える上で、アロマターゼ阻害剤の脳内曝露に基づいて、臨床投与量における脳脳内アロマターゼ阻害能を定量的に予測することは大変重要な課題である。アロマターゼ阻害剤の脳内曝露は、血液中での滞留性や血液中・脳中での蛋白結合、血液と脳実質との間の関門である血液脳関門における薬物輸送によって決定される。申請者は、アロマターゼを競合的に阻害すう非ステロイド系アロマターゼ阻害剤に注目し、国内で臨床に用いられているanastrozole、letrozole(ともに第3世代型)、開発中止となったvorozole、共同研究先である理化学研究所で現在開発中のcetrozole、TMD-322の5化合物を選択し、その中枢移行性を規定する因子を明らかにし、ヒト脳内におけるアロマターゼ阻害能を予測することを目的として、以下の研究を行った。

【アロマターゼ阻害剤の物理化学的特性の比較】

これまでの医薬品の物性に基づく血液脳関門透過性の予測系に関する種々の検討から、単純拡散による血液脳関門透過性は、水素結合ポテンシャル、分子量、脂溶性に依存することが示唆されている。本研究で用いた5化合物はいずれの化合物も中性化合物で、分子量も280から320、程度、脂溶性を示すlogP値も3前後と、化合物間で大きな違いは見られなかった。したがって、化合物間で単純拡散による血液脳関門透過性は大きく変わらないことが予想された。申請者が5化合物の膜透過性についてMDCKII細胞の経細胞輸送実験で評価したところ、化合物間で膜透過性はほとんど変わらず、その違いはせいぜい2倍以内であった。これは物性に基づく予測値と一致していた。る。

【マウスにおけるアロマターゼ阻害剤の中枢移行性および各諸要因の評価】

ICRマウスにアロマターゼ阻害剤を静脈内投与し、in vivoにおける中枢移行性を評価した。

アロマターゼ阻害剤の脳-血漿中濃度比は、anastrozoleが他の薬物の1/10程度(0.030mL/g brain)と著しく低い値を示すのに対し、他の薬物についてはいずれも0.185~0.487mL/g brain4mL/gbrain前後と同程度であった。定常状態の脳-血漿中濃度比は、血液-脳細胞間液(ISF)間の取り込みクリアランス(PSblood-ISF)と排出クリアランス(PSISF-blood)との比、脳細胞間液(ISF)-脳実質(parenchyma)間の取り込みクリアランス(PSISF-parenchyma)と排出クリアランス(PSparenchyma-ISF)との比、血漿中非結合型薬物分率(fp)、脳内非結合型薬物分率(fbr)から構成される。TMD-322およびvorozoleのfpは他の薬剤に比べて小さいにも関わらず、in vivoでは同程度定度の脳-血漿中濃度比を示したす。これは大脳ホモジネートを用いて平衡透析法により求めたfbrが、fpと同程度であったことで説明されたる。脳内分布容積はマウス脳スライス取り込み実験により測定した。脳実質への濃縮率(PSISF-parenchyma/PSparenchyma-ISF)は脳内分布容積とfbrの積により求められ、いずれの化合物も濃縮率はO.5~1に近くであり、脳実質細胞内への濃縮あるいは能動的な排出はないものと考えられた。上記実験で測定した脳-血漿中濃度比、fp、fbrおよび脳実質内への濃縮率から、血液脳関門における薬物輸送に関わるPSblood-ISFとPSISF-bloodの比が求められる。いずれの化合物に関してもPSblood-ISFとPSISF-bloodの比はが1を下回り、特にanastrozoleについては、この値が0.03ととりわけ小さく、血液脳関門での排出輸送が大きく寄与していることが示唆された。この点について、マウス脳マイクロダイアリシス法で検証した。脳細胞間液中濃度を測定したところ、anastrozoleの脳細胞間液中濃度は静脈内投与後すみやかに定常状態に達し、た。血漿中非結合型薬物濃度のに比較して、脳細胞間液中濃度は10分の1程度であった。り、anastrozoleの脳実質への移行が著しく制限されていることが裏付けられた。

【アロマターゼ阻害剤の血液脳関門を介した輸送の評価】

in situ脳灌流法により測定した血液脳関門透過性においても、他の4化合物が良好な透過性を示すのに対して、anastrozoleは5化合物の中で、突出して低い値(0.110mL/g brain)を示した。初期取り込み過程からanastrozoleの中枢移行性が制限されていることが分かった。マウス脳マイクロダイアリシス法で脳細胞間液中濃度を測定したところ、anastrozoleの脳細胞間液中濃度はすみやかに定常状態に達した。血漿中非結合型薬物濃度に比較して、脳細胞間液中濃度は10分の1程度であり、anastrozoleの脳実質への移行が著しく制限されていることが裏付けられた。

血液脳関門にはABCトランスポーターP-gp、Bcrp、Mrp4が発現しており、その能動的なくみ出しにより種々薬物の中枢移行性を抑制していることが知られている。ヒトP-gp発現MDCKIIでは、コントロール細胞に比較してanastrozole、vorozoleについて有意な方向性経細胞輸送が観察され、これら化合物はP-gp基質となることがin vitroで確認された。さらに、in vivoでの寄与率を推定するため、P-gpノックアウトマウスで脳-血漿中濃度比を測定した。P-gpノックアウトマウスにおいて、anastrozoleの脳-血漿濃度比(Kp,brain)は野生型マウスの5.4倍に、vorozoleのKp,brainは2.3倍に増加したことから、これらの薬物は血液脳関門でP-gpによる能動的排出輸送を受けることが明らかとなった。Vorozoleと異なり、anastrozoleはP-gpノックアウトマウスにおいても、そのKp,brainは依然として1を下回ることから、P-gp以外のトランスポーターによるくみ出しを受けることも示唆されたている。letrozole、cetrozole、TMD-322はヒトP-gp、BCRP発現MDCKIIにおいて、コントロール細胞に対して有意な方向性経細胞輸送が観察されず、またP-gp、BcrpノックアウトマウスにおけるKp,brainは野生型マウスと同程度であった。Mrp4ノックアウトマウスにおいても、アロマターゼ阻害剤のKp,brainはすべて野生型マウスと同程度であった。Cetrozole、letrozoleとTMD-322においてはいずれの化合物においても、これら既知排出トランスポーターの関与は限定的であるものと考えられたる。

【ヒト臨床投与量での末梢および脳内アロマターゼ阻害能の評価】

マウスでの脳実質内への濃縮率をヒトと同等であると仮定して、申請者は、市販薬であるanastrozoleならびにletrozoleで、末梢・脳内アロマターゼ阻害能を比較した。どちらの薬物も末梢臓器に比較して、脳内アロマターゼ阻害能は弱かったい。しかし、letrozoleの現行の投与量では脳細胞間液中濃度は十分に脳内アロマターゼを阻害する濃度に達しているおり、letrozole服用時には脳内アロマターゼによる中枢作用が抑制されることが期待される。

以上、本研究から、アロマターゼ阻害剤は分子量、脂溶性などの物理化学的特性が類似しているが、血液脳関門における排出輸送の受け方は異なり、その結果として異なる細胞間液-血漿中濃度比を示すことを明らかにした。Anastrozoleは他の4化合物と比較して、特に顕著な能動的な排出を受けるうけることが示唆され、これはP-gpによる能動的な排出くみ出しによるものであることが結論づけられた。他の44化合物についても、anastrozdeほどではないものの、能動的な排出くみ出しを受けることが示唆され、vorozoleについてはanastrozole同様、P-gpによる能動的な排出によるものと結論づけられたものの、。残りの3化合物他の薬物については、既知排出トランスポーター(P-gp、Bcrp、Mrp4)ではその排出輸送を説明できないことから、他のトランスポーターの関与が考えられる。In vitroアロマターゼ阻害能に基づくと、letrozoleについては現行の投与量でも脳内アロマターゼを十分阻害することが予想され、乳癌脳転移への利用も期待される。本研究では、申請者は、アロマターゼ阻害剤間での中枢移行性の違いを見出し、さらにそのような違いを規定する因子を明らかにした。アロマターゼ阻害剤間のこのような違いを利用することで、治療目的(末梢臓器でのアロマターゼ阻害、乳がんの脳転移など中枢神経系でのアロマターゼ阻害)に応じて合わせたアロマターゼ阻害剤の投与量設計や薬剤の選択が可能となり、患者のquality of lifeの向上に貢献するものである。以上を考慮し、博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

UTokyo Repositoryリンク