学位論文要旨



No 128396
著者(漢字) 伊藤,慎悟
著者(英字)
著者(カナ) イトウ,シンゴ
標題(和) 高βプラズマ加熱検証のための二次元電子温度計測システムの開発
標題(洋)
報告番号 128396
報告番号 甲28396
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(科学)
学位記番号 博創域第755号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 先端エネルギ一工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小野,靖
 東京大学 教授 大崎,博之
 東京大学 教授 根本,孝七
 東京大学 准教授 井,通暁
 東京大学 准教授 小野,亮
内容要旨 要旨を表示する

核融合磁気閉じ込め方式で現在主流のトカマク配位は、経済的性能を表す指標β 値(=熱圧力/磁気圧) の限界がβ = 0:1 程度と経済性に課題がある。対して、球状トカマク(以下ST) は平均β 値が20% 近くに達する例があり、高いβ 値を維持できる可能性がある。

本研究では球状トカマクの加熱法としてプラズマ合体を検証するため、二次元トムソン計測による電子温度計測を実現した。また、球状トカマクを間欠的にぶつけて加熱を行う連続合体法を開発し、上記の電子温度計測結果を基に検証を行った。

この電子温度計測手法として、飛行時間差と往復反射を用いた二次元トムソン散乱電子温度計測システムを開発した。一般的なトムソン散乱計測は多点計測にむいておらず、一次元での計測を対象としたものとなっている。このため、2 次元的測定を行うには、プラズマ中に多数のレーザ経路を設置し、且つ多数の分光装置を用意する必要があり、大がかりな実験施設と費用が必要である。本研究室では、上に述べた困難を軽減する二次元測定法を考案した。その要点は1) 折り返し光学系を用いて複数のYAG レーザビーム経路をプラズマ容器内に設定する、2) レーザ光の飛行時間差を用いてひとつの分光装置で異なるビーム上の散乱点を時間的に分離して測定する。本研究では軸方向3点、計方向3点の計9計測点に集光レンズシステム系を設置し、トムソン散乱光の観測に成功した。本システム多分岐ファイバを用いているため、背景光が一般的なシステムと比較して増加してしまう。このため、これを減少させるための手法として、スリットを用いた背景光カットを行い、背景光によるノイズ原因をショットノイズ由来のランダムノイズと特定した。このため、ランダムノイズを減少させる手法として、また重なりが生じてしまうトムソン散乱信号の波形の分割という二つの側面から、散乱光信号をパスごとに積分計算する計算手法を開発した。これにより、SN 比の観点から以前より優位に電子温度計測を行うことに成功した。また、これらの手法を用いることで二次元電子温度計測を実現し、フラックスコアでのプラズマ合体の電子加熱の影響を検証した。これにより、失われる磁場エネルギーと比較すると、電子加熱に費やされるエネルギーは少なく、現在のサイズでは電子加熱法としては低効率であることがわかった。

プラズマ合体加熱法の検証のため、ST に再度ST を合体させる連続合体法を開発した。連続合体の主要原理であるプラズマ生成法として、平衡磁場コイル等による整流効果を利用することで、コイル電流を振動させるだけで正方向のみのプラズマ電流を持つST の生成及びそれを用いた連続合体に成功した。間欠的なST 合体により, 磁気ヘリシティ及びプラズマ電流、トロイダル磁束の注入に成功し、小さなST によるプラズマ合体でも磁束の閉じ込めは改善し主プラズマへの影響は大きなものとなることが明らかとなった。上記を通じて、今後の球状トカマクへのプラズマ合体法の運用にむけ、間欠的なリコネクションを用いた加熱法や閉じ込めの改善方法への応用といった新たなアプローチを実証したといえる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「高βプラズマ加熱検証のための二次元電子温度計測システムの開発」と題し、レーザ光の飛行時間差と往復反射を用いた2次元トムソン散乱計測法の原理実証を行った。トムソン散乱とはプラズマ中の荷電粒子が入射電磁波(レーザ)を散乱させる現象であり、現在最も信頼できるプラズマ電子温度・密度計測手法として核融合プラズマ研究に重要な役割を果たしている。

第1章「序論」では核融合開発におけるトムソン散乱計測の役割と原理その多点計測技術の進展を紹介し、従来の1次元分布計測装置を複数並べた数点かつ高コストな2次元計測例しかないので、本研究では低コスト2次元トムソン計測システムの提案・開発を目指すという研究目的を述べた。

第2章「実験装置概要」ではプラズマ合体実験装置TS-4について、今後のTS-4プロジェクトでは1.磁気再結合現象による電子加熱機構の解明、2.球状トカマク(ST)のプラズマ圧力分布計測などでトムソン散乱の2次元空間分布計測が必要になる点を述べている。

第3章「飛行時間差と往復反射を用いたトムソン散乱計測システムの概要」では、本研究の独創的な点である1.レーザ光の飛行時間差(TOF)と2.往復回反射を利用したトムソン散乱計測法を提案し、次に原理実証のための計測システムの詳細を述べた。YAGレーザの基本波を用い、TS-4装置の中心導体に沿う軸方向3点をレーザ光のTOFと往復反射を用いて計測し、レーザ光飛行時間差を稼ぐため、15m以上のビーム経路長を第1,2計測点間、第2,3計測点間に設けた。光ファイバー束は3計測点(将来的は5点)からの散乱光を1つのポリクロメーター(分光装置)に入射するため集光レンズ側は5本、ポリクロメーター側は1本に束ねられたポリクロメーターでは、種類の干渉フィルターにより散乱光を分光し、アバランシェ・フォトダイオード(APD)により検出している。

第4章「飛行時間差及び往復時間差を用いた二次元トムソン散乱計測」では、レーザ光のTOFと往復反射を用いたトムソン散乱計測の原理実証を行った。3計測点からのラマン/レイリー散乱光信号が設計通り50nsの時間間隔を持って計測され、2つの波長チャンネルにおいてトムソン散乱光を計測した。最終的にSTプラズマの磁気軸付近の3x3の計測点において電子温度15[eV], 電子密度5×1019[m-3]程度の2次元分布を計測した。また、2次元トムソン散乱計測を、1)合体加熱中のSTプラズマ、2)センターソレノイドコイルでオーム加熱中のSTプラズマに適用し、前者では電流シートにピークした2次元電子温度分布、後者では一様に加熱された2次元電子温度分布を観測し、理論に合致する旨を述べている。

第5章「連続合体法を用いた球状トカマク合体」ではTS-4球状トカマク実験装置に軸上の両端に小型ポロイダル(PF)コイルを設置し、その電流を連続的に振動させることにより、間欠的にSTを生成し、間欠的に電流駆動、加熱を行う新アイデアを検証した。PFコイル電流を振動させると、シャフラノフの平衡を満たす極性の時だけ、STが生成される(自然の整流作用)ことを見出した。電源容量で決定される2回のST生成、合体に成功した。合体による連続的な電子加熱にめどをつけたものの、電源容量の上限から連続合体による電子加熱を実証するには至らなかった。

第6章では「結論」では、YAGレーザビームがプラズマ中を3度通過する3x3計測システムにより、提案した2次元トムソン散乱計測の有効性を実証し、現時点においても他の大型装置に適用が十分に適用可能であることを述べると共に、合体による電流シートにピークした加熱とセンターソレノイドコイルによる一様な加熱を2次元計測によって明らかにした。また、PFコイル電流を振動させるだけでプラズマの自然の整流作用により、STが間欠的・連続的に生成・合体でき、電流駆動とプラズマ加熱の両面から有望であることを結論した。

以上要するに、トムソン散乱計測を経済的に空間2次元に拡張する方法としてレーザ光の飛行時間差と往復回反射を利用した2次元トムソン散乱計測手法、合体加熱・電流駆動を定常化する方法として連続合体を提案・実証したことは、核融合プラズマ分野において先駆的成果といえ、今後、大型装置への適用が期待される。大型装置のトムソン散乱計測システムの多くは1次元の多点計測であるので本研究が提案する計測手法を取り入れることにより低コストで計測の2次元化を実現する可能性が大きく、先端エネルギー工学、特にプラズマ工学、核融合工学に貢献するところが多い。よって本論文は博士(科学)の学位請求論文として合格と認められる。

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