No | 128427 | |
著者(漢字) | 千葉,崇 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チバ,タカシ | |
標題(和) | タフォノミーを踏まえた珪藻群集解析にもとづく完新世における関東地方内湾およびカザフスタン・半乾燥域バルハシ湖の古水深復元 | |
標題(洋) | Reconstruction of Holocene water depth changes in inner bay areas in Kanto, Japan and in a hemiarid lake of Balkhash, Kazakhstan based on diatom assemblages and their taphonomy | |
報告番号 | 128427 | |
報告番号 | 甲28427 | |
学位授与日 | 2012.03.22 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(環境学) | |
学位記番号 | 博創域第786号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 自然環境学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 第1章において最近の社会と科学との関わりを踏まえて,環境学の目指す,地球科学スケールで起こる自然環境の変遷,現象についての詳細な復元の必要性と,それらを踏まえ本研究の目的と意義を論じた. 第2章では,珪藻研究についてのこれまでのまとめを行い,本研究が行う浅い干潟,内湾,湖沼といった浅い水環境の珪藻分析及びタフォノミーの研究についてこれまでに明らかになってきたこと,及びこれからの課題を論じた. 第3章では,千葉県小櫃川河口干潟を対象として,現世干潟の珪藻の分布とタフォノミーを明らかにし,潮間帯上部では珪藻がどのように分布し,遺骸になった後どのように堆積物に固定されていくのかを明らかにした. そしてそれを踏まえて,新たな環境指標種の設定と異地性種の認定を行った. 第4章では現世の浅い内湾である三浦半島の江奈湾において珪藻の生態を詳しく調べ,水深と珪藻の分布について論じ,珪藻が種ごとに特有の水深に分布していることを明らかにした.またそれを踏まえ,珪藻による水深ごとの環境区分を設定した.また,内湾県境におけるタフォノミーについて検討し,内湾環境での異地性遺骸の識別を行った. 第5章では第3章,第4章の成果を踏まえて,三浦半島江奈湾で採取されたジオスライサー試料に対して珪藻分析を行い,過去4000年間に起こった古水深の変化を復元することから地震性隆起・沈降過程を明らかにした.そして津波堆積物の識別も行い,関東地震の再来周期を論じた. 第6章は中央アジア,半乾燥域に位置するバルハシ湖の湖底堆積物から産出した珪藻を対象として湖の湖水位復元を現世環境と比較することで行い,過去2000年間における乾燥・湿潤変動とそれらを引き起こした原因を明らかにした. 第7章では以上の総合考察を行い,本研究の成果を総合的に考察しまとめた. | |
審査要旨 | 本論文は8章で構成されており、地球上に普遍的に分布する植物プランクトンである珪藻の遺骸群集を用いた古環境の復元をテーマとしており、とくに珪藻の化石化プロセス(タフォノミー)を踏まえた検討を行うことによって、復元精度が向上することを例示した実証的な研究となっている。 第1章では、自然環境変遷を詳細に復元することの必要性と意義を述べ、それらを踏まえた研究の意義と目的を論じている。 第2章では、珪藻研究史についてのこれまでのまとめを行い、本研究が行う干潟、内湾、湖沼といった浅い水環境の珪藻分析及びタフォノミーの研究についての課題を論じている。 第3章では、千葉県小櫃川河口干潟を対象として、現世干潟の珪藻の分布とタフォノミーを珪藻殻サイズと底質粒度組成を季節ごとに比較することから明らかにしている。とくに、潮間帯上部における珪藻の分布と堆積物に固定されていくプロセスを解明し、新たな環境指標種の設定と異地性種の認定を行っている。 第4章では現世の浅い内湾である三浦半島の江奈湾において珪藻の生態を詳しく調べ、珪藻が種ごとに特有の水深に分布していることを明らかにして、珪藻による水深ごとの環境区分を設定している。さらに、遺骸の分布と殻の保存度から内湾環境におけるタフォノミーについて検討し、異地性遺骸の識別法を示している。 第5章では第3章、第4章の成果を踏まえて、三浦半島江奈湾で採取されたジオスライサー試料に対して珪藻分析及び粒度分析を行い、過去4000年間に起こった古水深の変化を詳細に復元することを通じて、地震性隆起・沈降過程を明らかにしている。さらに津波堆積物の識別を行い、関東地震による津波の再来時期について論じている。また、地震性の隆起・沈降とは別に、弥生の小海退に対比しうるイベントを見出している。 第6章は中央アジア、半乾燥域に位置するバルハシ湖の湖底堆積物から産出した珪藻を対象として湖の湖水位復元を行っている。とくに過去百数十年間に関して、湖水位の観測記録と比較することで珪藻遺骸群集による復元精度を検証し、高精度であることを示している。さらに貝形虫化石、花粉、化学組成、粒度などの指標と湖水位変動を総合的に考察し、過去2000年間における乾燥・湿潤変動とそれらを引き起こした原因を明らかにしている。また、珪藻殻のタフォノミーを踏まえると、殻の溶解の程度も湖水位変動の指標となることを示している。 第7章では第6章までの研究成果を総合的に考察している。内湾や塩湖など水深の浅い水域においても珪藻は古水深の指標となること、これまで10 mオーダーで論じられてきた水深の変化について、タフォノミーを適切に評価することによって、10 mよりも微細なオーダーでの水深変化の復元が可能となること、そうした知見を基に数十~数百年スケールで起こる環境の微変動の抽出が可能であることを論じている。 このように本研究は、現生の珪藻群集とそれらの生息環境の対応関係を解明し、珪藻が化石化するプロセス(タフォノミー)を検討したうえで、古環境を復元することによって、従来よりも高精度かつ信頼性の高い古環境像が得られることを例証している。とくに、内湾の潮下帯から潮間帯にかけての古水深復元手法を吟味し、海溝型地震に伴う地殻変動や津波堆積を検出する方法を開発している。また乾燥地域の閉塞湖の水位変動を塩性底生珪藻の出現頻度変動によって解読することに成功しており、オリジナリテイを認めることができる。 なお、本論文第4章から8章は、佐竹健治、島崎邦彦、金 幸隆、遠藤邦彦、増渕和夫、須貝俊彦との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。したがって、博士(環境学)の学位を授与できると認める。 | |
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