学位論文要旨



No 128474
著者(漢字) 垣内,洋平
著者(英字)
著者(カナ) カキウチ,ヨウヘイ
標題(和) 三次元視覚による認識操作モデルの獲得機能を有するヒューマノイドシステムの研究
標題(洋)
報告番号 128474
報告番号 甲28474
学位授与日 2012.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(情報理工学)
学位記番号 博情第385号
研究科 情報理工学系研究科
専攻 知能機械情報学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 稲葉,雅幸
 東京大学 教授 佐藤,知正
 東京大学 教授 中村,仁彦
 東京大学 教授 広瀬,通孝
 東京大学 教授 國吉,康夫
 東京大学 准教授 岡田,慧
内容要旨 要旨を表示する

本論文は,家庭環境のような様々な種類の家具や道具があり常に新しい物が持ち込まれる環境において,その家具や道具を用いたタスクを行う生活支援を期待されるヒューマノイドロボットによる家具や道具の配置知識,形状知識,操作知識,認識知識について,ロボット自身に獲得させるための三次元視覚機能とモデル獲得機能の構成法を明らかにし,人間が操縦しロボットが環境操作行動を行うと同時に認識操作モデルを獲得してゆくモデル獲得型のヒューマノイドロボットシステムの研究をまとめたものである.

第1章「序論」では,ヒューマノイドロボットの発展と,家庭環境において用いられる研究の背景と目的について述べ,本研究の位置付けを行った.

第2章「三次元視覚による認識操作モデルの獲得と環境認識操作行動の実現」では,ヒューマノイドロボットにおける環境操作を伴う動作の従来の研究における物体のモデル表現と認識操作行動の実現方法について論じている.実環境は変化する環境であり,既知のモデルであっても場所や姿勢が変わり,また,家具の扉や引き出しのように構造が変化するもの,収納されていて最初からは見えていないものなどへ対応するための方法が不可欠となる.ロボットにより得られるセンサデータから環境の形状と操作に必要な知識を得る手法について,過去のロボットにおける教示手法を取り上げて論じた.人間が操作動作の手がかりを与えロボットが手がかりを基にプランニング等により動作を生成することで,そのような変動する環境変化に対応できるロボットへの操作指示の方式について考察している.

ここでは,従来行ってきたモデルベースの手法に用いられる認識操作のためのモデル形式を,ロボットの三次元視覚により得られる情報により構築される幾何形状と,ロボットの操縦による動作実行により得られる操作情報より構築した認識操作モデルとして示している.従来研究にて生活支援行動実現のための高次の作業計画等に使われている環境モデルを,ロボットの操縦により自動構築するシステムについて述べている.

第3 章「色付き点群に基づく三次元視覚機能」では,色付き三次元点群を得るための2眼ステレオカメラと距離画像センサを用いた冗長構成のデバイス構成を用いた,誤対応の無い点群と画像の対応検出手法を示している.色付き点群を得るためのモジュールを,ロボット用非同期通信ソフトウェアフレームワークを用いて構成示した.そのモジュール構成の視覚系と視覚と身体のキャリブレーションを一体化するキャリブレーション手法を示した.色付き点群とは色情報をもつ三次元点群であり,色情報を用いた画像による一般物体認識手法で研究される手法とそれを三次元へ拡張利用できる可能性のある基本的な三次元視覚機能となる.

第4章「三次元視覚機能を用いた物体モデルの獲得と認識」では,ロボットの三次元視覚から得られる点群データの修正追加が可能でデータ量が低減できる手法と,ボクセルグリッドへの投票を用いたモデルと視覚の点群の密度の差を吸収する可動機構を持つ環境内の物体認識と機構の状態推定の処理手法について述べている.

データの保持には点群形式を用い,最大密度を制限することにより保持するデータ量が低減され,かつ,物体の位置合わせなどの計算時にボクセルグリッドを用いた比較手法を用いることでモデル点群と視覚点群の密度の差を吸収し,グリッドサイズを調整することで計算コストを下げることができる手法を示している.

繰り返し最近傍点探索であるICP手法を関節のある物体の位置と関節推定へ拡張したarticulated-ICPの考え方を用い,三次元ボクセルグリッドにモデル点群と視覚点群を投票し占有状態の遷移状況を評価関数として用いることで,オクルージョンを考慮した位置合わせと機構状態の推定が高速に行えるアルゴリズムを示している.

第5章「概略操作指示による環境の操作と認識操作モデルの獲得」では,ロボットに環境操作の手がかりとなる概略操作指示を与え,動作実行時に得られた詳細な情報を基にしてロボットが動作を計画し,計画を操縦者に提示し承認,修正を受けてロボットが環境操作を実行する手法を提案している.

概略操作指示は認識操作モデルの基となる操作部位,操作方法,機構の種類と位置などの情報を示すものである.ロボットへの概略操作指示の与え方としてロボットの三次元視覚から得られた点群にGUIを用いて操作情報を付加する手法と,人間による対象の操作の動作実演の観察による手法を示している.

概略操作指示によって得られた基となる,操作のための把持点,操作方向等の情報等の認識操作モデルへの動作の成否認識手法等の追加,把持部位や機構位置の更新による認識操作モデルの自動獲得と更新が可能となるシステムの構成法を示している.

第6章「外部視覚との連携による変動する環境内の認識操作モデル獲得」では,部屋に固定された外部三次元視覚を導入し,その外部視覚により得られた点群とロボット視覚により得られる点群の位置合わせを行うことで,移動するロボットの環境内の位置を推定することができる.得られたロボットの環境内の位置を用いて,ロボット視覚により認識した物体を外部視覚が管理する環境地図上に配置できるシステムについて述べている.

また,ロボットの動作中の物体認識結果を管理する環境地図を作り,外部視覚により人間などのロボット以外が環境を操作したことを認識することで,変動する環境に対応する行動計画実行のシステムと実験について述べている.

その実験環境において,人間がロボットの観察した三次元情報に対して概略操作指示を行なうことで環境操作行動をロボットに実行させると同時に,ロボットが自律的な行動に必要な認識操作モデルを獲得していくシステムを構築し,ロボットが獲得した環境操作モデルを変動する環境の変動に応じて更新してゆくモデル獲得システムの構成法を実験とともに示している.

第7章「結論」において,本論文を総括し,その成果と貢献,ならびに本論文の先にある課題を挙げ今後の展望を述べた.生活支援を行うヒューマノイドロボットが環境を認識し操作するためのモデルを獲得し物体認識等に用いる手法として,ロボットや環境観察デバイス等の三次元視覚機能を用いて取得する色付き点群を密度が閾値以下になるように統合して保持し,ボクセルグリッドを用いた位置合わせ等のアルゴリズムを用いることで,グリッドサイズの選択することでモデル点群とロボット視覚から得られる点群の密度差を吸収し,計算速度を調整可能な手法を提案している.

この手法は,三次元視覚によるモデル獲得機能と認識機能を構成し,人間によるモデリングを必要としないロボットによる幾何モデル獲得型のシステムの基礎となる手法である.この点群を用いたモデル獲得手法を基本として,ロボットが家具や道具の操作をしなければ見えてこない内部状態や操作の効果を認識操作モデルへ追加更新しながら自動獲得し,家具や道具を含んだ認識された物体を環境地図上に配置した生活支援行動の作業計画に用いるモデル環境を作成できる,モデル知識獲得型のヒューマノイドロボット認識行動システムの構成法を示した.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は,「三次元視覚による認識操作モデルの獲得機能を有するヒューマノイドシステムの研究」と題し,生活支援を期待されるヒューマノイドロボットにおいて,環境や物体の認識と操作のためのモデルを人がデータ記述として与えることで生活支援行動タスクを各種実現できてきているが,そのモデルをロボット自身に獲得させるための三次元視覚機能とモデル獲得機能の構成法を明らかにすることで,認識操作モデル獲得型のヒューマノイドロボットシステムの研究をまとめたものであり,全7章からなる.

第1章「序論」では,ヒューマノイドロボットにおける生活支援の社会的な重要性と要求される機能を示して,本研究の背景と目的,本論文の構成について述べている.

第2章「三次元視覚による認識操作モデルの獲得と環境認識操作行動の実現」では,ヒューマノイドロボットにおける環境操作を伴う動作の従来の研究における物体のモデル表現と認識操作行動の実現方法について論じている.実環境は変化する環境であり,既知のモデルであっても場所や姿勢が変わり,家具の扉や引き出しのように構造が変化するもの,収納されていて最初からは見えていないものなどへ対応するための方法が不可欠となる.ここでは,ロボットにより得られるセンサデータから環境の形状と操作に必要な知識を得る手法について,過去のロボットにおける教示手法を取り上げて論じ,人間が概略動作の手がかりを与えることでそのような環境変化に対応できる方式について考察し,ロボットが持つ知識やプランニングにより動作生成を行う手法について述べている.

第3章「色付き点群に基づく三次元視覚機能」では,実環境の認識操作モデルを獲得する上で基本となる三次元視覚機能について,ソフト・ハードの構成,視覚系および身体との相対キャリブレーション法についても述べている.色付き点群とは色情報をもつ三次元点群のことであり,色情報ももつ視覚であり一般物体画像認識手法で研究開発される手法とそれを三次元へ拡張利用できる可能性のある基本的な三次元視覚機能となる.2眼のステレオカメラと距離画像センサを用いた複合デバイスを構成し,冗長な幾何学系から相互のキャリブレーションデータの検証が行なえるハードウェア構造とすることでその構造を活かすキャリブレーションが可能となる.ここでは,非同期通信ソフトウェアフレームワークを用いることで,モジュール構成の視覚系と視覚と身体のキャリブレーションを一体化するキャリブレーション手法を示している.

第4章「三次元視覚機能を用いた物体モデルの獲得と認識」では,幾何形状の保持には点群形式を用い,多視点からの点群を最大密度を制限しながら追加していく手法により,保持するデータ量が低減され追加修正が可能な幾何形状の記録手法を提案し,点群形式で記録された形状に対して,ボクセルグリッドへの投票を用いる認識手法によりモデル点群と視覚点群の密度の差を吸収し,グリッドサイズを調整することで計算コストを下げることができる基本処理について述べている.この処理を基本として,扉や引き出しなどの可動機構を含んだ家具等の物体モデルに対して,家具の位置姿勢と機構の状態を同時に得るために繰り返し最近傍点フィッティングであるICP手法を可動構造体へ拡張したarticulated-ICPの考え方を用い,三次元ボクセルグリッドにモデル点群と視覚点群を投票し占有状態の遷移状況を評価関数とすることで,オクルージョンを考慮した位置合わせと機構状態の推定が高速に行えるアルゴリズムを示している.

これらの点群保持と認識手法は,ロボットの三次元視覚により獲得できる色付き点群によってモデルを構成し,構成したモデルを用いて環境を認識していくモデル獲得型システムの基礎となる点群データの保持方法と環境認識手法となっている.

第5章「概略操作指示による環境の操作と認識操作モデルの獲得」では,環境や物体の形状や配置を認識するモデルだけでなく,それをどのように操作するかを表わす操作モデルの獲得手法として,ロボットに概略操作を提示し,動作実行時にロボットが動作計画のためのモデル情報を更新する手法を提案している.ここでは概略操作の提示方法について論じ,ロボットの三次元視覚から得られた点群を配置したシミュレーション空間において,人がロボットモデルを操作することで対象となる物体の操作モデルを獲得する手法,人間による対象となる物体モデル操作の動作実演による概略操作の獲得手法などを示している.与えられた概略操作を用いてロボット動作が生成され環境操作が実行されるシステムにおいて,並行して操作対象の同一性確認を繰り返し行なうことで,認識操作モデルを獲得し更新でき,合わせて操作のための把持点,操作方向等の情報をもつ認識操作モデルの自動獲得が可能となるシステムの構成法を示している.

第6章「外部視覚との連携による変動する環境内の認識操作モデルの獲得」では,認識操作モデルの獲得機能の基本となる追加更新機能を応用発展する形で,ロボットの他に外部三次元視覚を導入し,その外部視覚により得られた点群とロボット視覚により得られる点群の統合を行い,移動し運動するロボット自体の位置を点群の色情報も利用することで精度を高め,ロボット視覚により認識した物体を外部視覚が管理する部屋モデル地図上に配置できるシステムについて述べている.また,ロボットの認識結果をシンボリック情報として管理可能な環境地図を作ることができ,外部視覚により人などのロボット以外が環境を操作したことを認識することで,変動する環境での行動計画実行のシステムと実験について示している.その実験環境において,人がロボットの観察した三次元情報に対して概略操作指示を行なうことでロボットを操縦し,環境操作行動をロボットに実行させると同時に,ロボットが自律的な行動に必要な認識操作モデルを獲得するシステムを構築し,ロボットが獲得した環境操作モデルを変動する環境の変動に応じて更新するというモデル構築システムの構成法を実験とともに示している.

第7章「結論」では,本論文を総括し,その成果と貢献,ならびに本論文の先にある課題を挙げ,今後の展望を述べている.

以上,これを要するに本論文は,生活支援を行うヒューマノイドロボットが環境を認識し操作するためのモデルを獲得する方法として,三次元視覚により得られる色付点群の空間密度を管理して物体や環境の外表面を表現し,ボクセルグリッドを利用する効率的な手法により認識用モデルの獲得を行なう方法,ならびに,その認識モデルへの操作の手がかりを与えるだけでロボットが自己の操作を通して環境物体の構造とそれに対する操作情報を獲得してゆく方法を示し,操作や移動をしなければ見えてこない構造情報や内部状態等を追加更新しながら自動獲得してゆくモデル知識獲得型のヒューマノイドロボット認識行動システムの構成法を示したもので,知能機械情報学へ貢献するところ少なくない.

よって本論文は博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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