学位論文要旨



No 128497
著者(漢字) 劉,江偉
著者(英字)
著者(カナ) リュウ,コウイ
標題(和) 絶縁物/酸化亜鉛ヘテロ界面の形成と評価に関する研究
標題(洋) Formation and characterization of insulator/ZnO heterointerfaces
報告番号 128497
報告番号 甲28497
学位授与日 2012.04.19
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7792号
研究科 工学系研究科
専攻 応用化学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 尾嶋,正治
 東京大学 教授 藤岡,洋
 東京大学 教授 霜垣,幸浩
 東京大学 准教授 福村,知昭
 東京大学 准教授 野口,祐二
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、ZnO MISFETをめざした絶縁物/ZnOヘテロ界面の形成および界面化学状態・電子構造、電気特性の評価に関するものである。水熱合成法により大面積で良質な基板が得られるようになったZnOは、広いバンドギャップを持っているため高耐圧パワー素子など電子デバイスへの応用が期待されている。本研究では、ゲート絶縁膜としてエピタキシャル成長可能な窒化膜(GaN, AlN)およびバンドギャップが大きなアモルファス絶縁膜(SiO2, Al2O3)をさまざまな面方位を持つZnO基板上に表面処理を施した後で堆積し、電子状態と電気特性を対応させつつ良好なMOSダイオード特性を得ている。

第1章では研究の背景、目的を述べている。

ZnOはウルツ鉱型の結晶構造であり、3.37 eVの広い直接遷移型バンドギャップを持っている半導体であり、短波長光電子デバイスの理想的な材料として期待されている。さらに、ZnOは高い電子飽和速度と高い臨界電界を持っているため、高出力と高周波特性を併せ持つ電界効果トランジスタ(FET)の作製が可能になる。しかしながら、ZnO薄膜の低い結晶性と高い表面敏感性(表面脆弱性)のため、今まで報告されているZnO薄膜系FETの電気的特性は十分ではないのが現状であった。そこで本研究では、ZnO系MISFETの製造に適する高性能絶縁膜/ZnOのヘテロ界面を形成することを目的とした。エピタキシャル成長が可能な窒化膜(絶縁膜)はパルスレーザー堆積法によって低温成長が可能であり、理想的なMISFET特性が期待出来る。一方、この絶縁膜に欠陥が多く含まれる場合にはむしろアモルファス絶縁膜の方が望ましい。そこで、本研究では酸化物絶縁体としてバンドギャップの大きなSiO2とAl2O3を採り上げ、低温で原子層堆積法によって成長させた。 GaN超薄膜とAlN超薄膜/ZnOのヘテロ界面については、放射光光電子分光による電子バンド構造の決定と電気特性の関係を調べた。さらにアモルファス絶縁膜/ZnOの場合には、各種ZnO表面処理を行った後で、Al2O3とSiO2/ZnOヘテロ界面の電子バンド構造と電気的特性を調べた。さらにAl2O3/ZnOヘテロ界面の特性についてはZnO面方位と電気特性の影響について調べた。

第2章ではZnO 基板へのGaN超薄膜成長とヘテロ界面の放射光光電子分光による解析結果について述べ、c面では界面N-O結合によるバンドベンド効果が大きいことを見出している。

c面およびm面のGaN/ZnOのヘテロ接合の価電子帯バンドオフセットが0.7±0.1および0.9±0.1であることを明らかにした。両者ともタイプIIのバンド構成である。m面のGaN/ZnOヘテロ接合のZnO側は界面ベンドベンドが下向きを示している。一方、負電荷に起因するc面GaN/ZnOヘテロ接合のZnO側は界面バンドベンドが上向きを示しているが、これはN1sスペクトルの解析から明らかになった界面N-O結合の存在が負電荷の形成を起こしたことが示唆された。

第3章ではZnO 基板へのAlN超薄膜成長とヘテロ界面の放射光光電子分光による解析結果およびMOSダイオード特性について述べ、エピタキシャルAlNゲート絶縁膜ではc、a面で界面バンドベンドは大きく異なるものの、両者ともMOS反転層が得られないことを明らかにしている。

c面とa面のAlN/ZnOのヘテロ接合の価電子帯バンドオフセットが0.4±0.1および0.1±0.1 eVであることを見出した。両者ともタイプIIバンド構成である。a面AlN/ZnOヘテロ接合のZnO側は界面バンドベンドが下向きを示している。しかし、c面AlN/ZnOヘテロ接合のZnO側は界面バンドベンドが上向きを示している。この現象は、AlNとZnOの自発分極の効果によるものとして説明される。そして、単結晶AlN薄膜絶縁膜の場合には成長中に生じた貫通転位(TD)や点欠陥などのため、AlN/ZnO系MIS構造の電気的特性が理想的な挙動からほど遠いことが明らかになった。

そこで第4章において2種類のアモルファス絶縁膜をZnO基板に堆積し、光電子分光とMOSダイオード特性を調べた。その結果、過酸化水素処理をしたm面ZnO基板上に堆積したAl2O3絶縁膜の場合にMOS反転層が得られることを初めて見出している。

アモルファスAl2O3とSiO2の酸化物絶縁体は、ALD法により単結晶m面ZnO基板上に堆積させた。Al/SiO2/ZnOのMOS構造のCV特性において、m面ZnO基板を塩酸エッチング処理した後にSiO2薄膜を堆積するとバンプを示すCV特性は消えて比較的良好な特性が得られた。さらにAl/Al2O3/ZnO(H2O2)系MOS構造がAl/Al2O3/ZnO(CMP)とAl/Al2O3/ZnO(HCl)のMOS構造より優れた電気特性を持っていることを見出した。SiO2とAl2O3/ZnOのバンド構成は、光電子分光によって価電子帯バンドオフセットが1.8±0.2及び0.8±0.2 eVであることを明らかにした。。両方ともタイプIのバンド構成である。SiO2とAl2O3/ZnOの高いバンドオフセットが、MOSFETとしてAl2O3/ZnOとSiO2/ZnOヘテロ界面が優れていることを示している。

第5章において面方位を変えた7種類のZnO基板上にこのAl2O3絶縁膜を堆積してMOSダイオード特性、光電子分光測定を行い、Al-O dangling bondの最も少ない(000-1)面がヒステリシスの無い良好なC-V特性を示し、界面バンドベンドも少ないことと対応することを見出している。

測定電圧が負から正に変わる時には、ZnO系MOS構造による全ての面の中で、Al/Al2O3/m面ZnO MOS構造がフラットバンド電圧の最大値を示した。一方、Al/Al2O3/(000-1) c面ZnO系MIS構造は最小値を示した。電圧が正から負に変わる場合には、ヒステリシスはすべてのサンプルで見られた。面方位のm面ZnOからの角度変化によってAl/Al2O3/ZnO MOS構造のヒステリシス値が大きく変化していることを見出した。Al-O dangling bondの最も少ない(000-1)面がヒステリシスの無い良好なC-V特性を示し、 Al/Al2O3/(000-1) c面ZnO系MOS構造が今まで報告されたZnO系MOS構造のCV曲線よりもはるかに優れていることが分かった。さらに、Al2O3/(000-1) c面ZnOおよびAl2O3/(1-100) m面のバンド構造は光電子分光により調べた。その結果、Al2O3/(1-100)m面ZnOのヘテロ接合のZnO側は界面バンドベンドが下向きのバンドの値が、Al2O3/(000-1) c面のZnO側より小さいことが示されている。これはAl/Al2O3/(000-1) c面ZnOとAl/Al2O3/(1-100) m面ZnO系MIS構造の電気特性と一致している。

第6章では、本論文のまとめと今後の展望が述べられている。

本論文では、単結晶窒化膜とアモルファス酸化物絶縁体は低温でパルスレーザー堆積法法と原子層堆積法によりZnO基板上に成長させており、界面電子バンド構造と電気特性は光電子分光とCVの方法により検討される。窒化絶縁膜/ZnOのヘテロ界面のバンドアライメントの極性影響が明らかにしている。Al/単結晶窒化絶縁膜/ZnO構造の点欠陥のため、電気特性は十分ではないことを分かる。Al/アモルファス酸化物絶縁体/ZnOのMIS構造はAl/単結晶窒化膜/ZnOのヘテロより優れた電気特性を示している。Al/SiO2/m面ZnOおよびAl/Al2O3/m面ZnOの電気特性は、それぞれHClおよびH2O2の表面処理により改善できる。Al/Al2O3/(000-1) c面ZnO系MOS構造が理想な電気特性を持っていることが分かった。

これらは高性能ZnO MOSFETの開発に大きく貢献する知見である。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、ZnO MISFETをめざした絶縁物/ZnOヘテロ界面の形成および界面化学状態・電子構造、電気特性の評価に関するものである。水熱合成法により大面積で良質な基板が得られるようになったZnOは、広いバンドギャップを持っているため高耐圧パワー素子など電子デバイスへの応用が期待されている。本研究では、ゲート絶縁膜としてエピタキシャル成長可能な窒化膜(GaN, AlN)およびバンドギャップが大きなアモルファス絶縁膜(SiO2, Al2O3)をさまざまな面方位を持つZnO基板上に表面処理を施した後で堆積し、電子状態と電気特性を対応させつつ良好なMOSダイオード特性を得ている。

第1章では研究の背景、目的を述べている。

ZnOはウルツ鉱型の結晶構造であり、3.37 eVの広い直接遷移型バンドギャップを持っている半導体であり、短波長光電子デバイスの理想的な材料として期待されている。さらに、ZnOは高い電子飽和速度と高い臨界電界を持っているため、高出力と高周波特性を併せ持つ電界効果トランジスタ(FET)の作製が可能になる。しかしながら、ZnO薄膜の低い結晶性と高い表面敏感性(表面脆弱性)のため、今まで報告されているZnO薄膜系FETの電気的特性は十分ではないのが現状であった。そこで本研究では、ZnO系MISFETの製造に適する高性能絶縁膜/ZnOのヘテロ界面を形成することを目的とした。エピタキシャル成長が可能な窒化膜(絶縁膜)はパルスレーザー堆積法によって低温成長が可能であり、理想的なMISFET特性が期待出来る。一方、この絶縁膜に欠陥が多く含まれる場合にはむしろアモルファス絶縁膜の方が望ましい。そこで、本研究では酸化物絶縁体としてバンドギャップの大きなSiO2とAl2O3を採り上げ、低温で原子層堆積法によって成長させた。 GaN超薄膜とAlN超薄膜/ZnOのヘテロ界面については、放射光光電子分光による電子バンド構造の決定と電気特性の関係を調べた。さらにアモルファス絶縁膜/ZnOの場合には、各種ZnO表面処理を行った後で、Al2O3とSiO2/ZnOヘテロ界面の電子バンド構造と電気的特性を調べた。さらにAl2O3/ZnOヘテロ界面の特性についてはZnO面方位と電気特性の影響について調べた。

第2章ではZnO 基板へのGaN超薄膜成長とヘテロ界面の放射光光電子分光による解析結果について述べ、c面では界面N-O結合によるバンドベンド効果が大きいことを見出している。

c面およびm面のGaN/ZnOのヘテロ接合の価電子帯バンドオフセットが0.7±0.1および0.9±0.1であることを明らかにした。両者ともタイプIIのバンド構成である。m面のGaN/ZnOヘテロ接合のZnO側は界面ベンドベンドが下向きを示している。一方、負電荷に起因するc面GaN/ZnOヘテロ接合のZnO側は界面バンドベンドが上向きを示しているが、これはN1sスペクトルの解析から明らかになった界面N-O結合の存在が負電荷の形成を起こしたことが示唆された。

第3章ではZnO 基板へのAlN超薄膜成長とヘテロ界面の放射光光電子分光による解析結果およびMOSダイオード特性について述べ、エピタキシャルAlNゲート絶縁膜ではc、a面で界面バンドベンドは大きく異なるものの、両者ともMOS反転層が得られないことを明らかにしている。

c面とa面のAlN/ZnOのヘテロ接合の価電子帯バンドオフセットが0.4±0.1および0.1±0.1 eVであることを見出した。両者ともタイプIIバンド構成である。a面AlN/ZnOヘテロ接合のZnO側は界面バンドベンドが下向きを示している。しかし、c面AlN/ZnOヘテロ接合のZnO側は界面バンドベンドが上向きを示している。この現象は、AlNとZnOの自発分極の効果によるものとして説明される。そして、単結晶AlN薄膜絶縁膜の場合には成長中に生じた貫通転位(TD)や点欠陥などのため、AlN/ZnO系MIS構造の電気的特性が理想的な挙動からほど遠いことが明らかになった。

そこで第4章において2種類のアモルファス絶縁膜をZnO基板に堆積し、光電子分光とMOSダイオード特性を調べた。その結果、過酸化水素処理をしたm面ZnO基板上に堆積したAl2O3絶縁膜の場合にMOS反転層が得られることを初めて見出している。

アモルファスAl2O3とSiO2の酸化物絶縁体は、ALD法により単結晶m面ZnO基板上に堆積させた。Al/SiO2/ZnOのMOS構造のCV特性において、m面ZnO基板を塩酸エッチング処理した後にSiO2薄膜を堆積するとバンプを示すCV特性は消えて比較的良好な特性が得られた。さらにAl/Al2O3/ZnO(H2O2)系MOS構造がAl/Al2O3/ZnO(CMP)とAl/Al2O3/ZnO(HCl)のMOS構造より優れた電気特性を持っていることを見出した。SiO2とAl2O3/ZnOのバンド構成は、光電子分光によって価電子帯バンドオフセットが1.8±0.2及び0.8±0.2 eVであることを明らかにした。。両方ともタイプIのバンド構成である。SiO2とAl2O3/ZnOの高いバンドオフセットが、MOSFETとしてAl2O3/ZnOとSiO2/ZnOヘテロ界面が優れていることを示している。

第5章において面方位を変えた7種類のZnO基板上にこのAl2O3絶縁膜を堆積してMOSダイオード特性、光電子分光測定を行い、Al-O dangling bondの最も少ない(000-1)面がヒステリシスの無い良好なC-V特性を示し、界面バンドベンドも少ないことと対応することを見出している。

測定電圧が負から正に変わる時には、ZnO系MOS構造による全ての面の中で、Al/Al2O3/m面ZnO MOS構造がフラットバンド電圧の最大値を示した。一方、Al/Al2O3/(000-1) c面ZnO系MIS構造は最小値を示した。電圧が正から負に変わる場合には、ヒステリシスはすべてのサンプルで見られた。面方位のm面ZnOからの角度変化によってAl/Al2O3/ZnO MOS構造のヒステリシス値が大きく変化していることを見出した。Al-O dangling bondの最も少ない(000-1)面がヒステリシスの無い良好なC-V特性を示し、 Al/Al2O3/(000-1) c面ZnO系MOS構造が今まで報告されたZnO系MOS構造のCV曲線よりもはるかに優れていることが分かった。さらに、Al2O3/(000-1) c面ZnOおよびAl2O3/(1-100) m面のバンド構造は光電子分光により調べた。その結果、Al2O3/(1-100)m面ZnOのヘテロ接合のZnO側は界面バンドベンドが下向きのバンドの値が、Al2O3/(000-1) c面のZnO側より小さいことが示されている。これはAl/Al2O3/(000-1) c面ZnOとAl/Al2O3/(1-100) m面ZnO系MIS構造の電気特性と一致している。

第6章では、本論文のまとめと今後の展望が述べられている。

本論文では、単結晶窒化膜とアモルファス酸化物絶縁体は低温でパルスレーザー堆積法法と原子層堆積法によりZnO基板上に成長させており、界面電子バンド構造と電気特性は光電子分光とCVの方法により検討される。窒化絶縁膜/ZnOのヘテロ界面のバンドアライメントの極性影響が明らかにしている。Al/単結晶窒化絶縁膜/ZnO構造の点欠陥のため、電気特性は十分ではないことを分かる。Al/アモルファス酸化物絶縁体/ZnOのMIS構造はAl/単結晶窒化膜/ZnOのヘテロより優れた電気特性を示している。Al/SiO2/m面ZnOおよびAl/Al2O3/m面ZnOの電気特性は、それぞれHClおよびH2O2の表面処理により改善できる。Al/Al2O3/(000-1) c面ZnO系MOS構造が理想な電気特性を持っていることが分かった。

これらは高性能ZnO MOSFETの開発に大きく貢献する知見である。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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