No | 128510 | |
著者(漢字) | 秋月,百合 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | アキヅキ,ユリ | |
標題(和) | 不妊女性が経験するPositive Social InteractionsおよびNegative Social Interactionsと精神的健康 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128510 | |
報告番号 | 甲28510 | |
学位授与日 | 2012.04.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(保健学) | |
学位記番号 | 博医第3986号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 健康科学・看護学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【緒言】 不妊治療患者(以下、不妊女性)は様々なストレスを経験し、精神的健康が負の影響を受けることが知られている。この要因としては様々考えられるが、なかでも周囲の人々との関係性の影響が大きいと考えられる。本研究では、一方に否定的・非支援的な認知をもたらすような他方の言動や態度を含む社会的相互作用過程をNegative social interactions(NSI)と呼ぶが、NSIが人々の精神的健康にマイナスの影響をもたらすことは社会学分野の多くの先行研究で実証されており、不妊女性においても同様の影響を与えていると考えられる。また、一方に肯定的・支援的との認知をもたらすような他方の言動や態度を含む社会的相互作用過程をPositive social interactions(PSI)と呼ぶが、PSIはNSIとは異なり、人々の精神的健康にプラスの作用を持つことがよく知られており、不妊女性においてもPSIと彼らの精神的健康との関連が示唆されている。しかし、先行研究の多くがNSIおよびPSIを断片的にしか捉えていない点、周囲の人々をひとくくりに測定している点等において限界がある。不妊女性にとって支援的対人環境を構築するには、彼らが経験するPSIおよびNSIをソース別かつ体系的に捉え、それらがどのように不妊女性の精神的健康に影響するかを明らかにする必要がある。 研究1 【研究1-目的】 不妊女性が経験するPSIおよびNSIを測定する尺度を、ソース別(夫、実親、夫の両親、友人・その他)に開発する。 【研究1-方法】 夫PSI(夫との間でのPSI、以下同様)、夫NSI、実親PSI、実親NSI、夫の両親PSI、夫の両親NSI、友人・その他PSI、友人・その他NSIの8つの尺度案を我々の先行研究をもとに作成した。 各尺度の信頼性および妥当性を検討するために、各尺度の質問項目を含む質問紙調査を郵送にて2回実施した。平成22年5~6月に不妊治療経験のある34名を対象にプレテストを、約1ヶ月後にプレテスト参加者のうちの25名にリテストを実施した。 回答者が回答しにくいと申し出た項目、プレテストデータによる因子分析にて第1因子負荷量が0.4未満の項目、プレテスト-リテストの相関係数が0.4未満の項目等を削除基準とし、質問項目を精選した。 【研究1-結果】 削除基準をもとに質問項目を精選した結果、14項目から成る夫PSIは12項目となり、α係数は0.95、12項目から成る夫NSIは9項目となり、α係数は0.90であった。実親PSIは10項目のままであり、α係数は0.94、11項目で作成した実親NSIは7項目となり、α係数は0.89であった。夫の両親PSIは6項目のままであり、α係数は0.97、16項目で構成された夫の両親NSIは11項目となり、α係数は0.93であった。9項目から成る友人・その他PSIは7項目となり、α係数は0.94、15項目で作成した友人・その他NSIは12項目となり、α係数は0.92であった。いずれの尺度も項目削除後の因子分析において、全項目が第1因子負荷量0.4以上であった。 研究2 【研究2-目的】 不妊女性が経験するソース別(夫、実親、夫の両親、友人・その他)PSIおよびNSIの実態、ソース別PSIおよびNSIが彼らの抑うつに与える主効果および交互作用効果を明らかにする。 【研究2-方法】 1.研究期間と研究対象 医療機関Aに通院する不妊女性患者300名を対象に、平成22年11月から平成23年1月にデータ収集を行った。 2.データ収集方法 質問紙調査を行った。外来で院長より患者へアンケート一式を手渡してもらい、参加に同意した患者に郵送でアンケート冊子を返送してもらった。 3.使用した変数 個人属性、不妊および治療特性、治療に関する負担感などをたずねた。主たる説明変数として研究1で作成した8つの尺度(夫PSI、夫NSI、実親PSI、実親NSI、夫の両親PSI、夫の両親NSI、友人・その他PSI、友人・その他NSI)を用いた。友人・その他PSIおよびNSIの理論的得点範囲は1~3、その他の尺度の理論的得点範囲は1~4であり、いずれも得点が高いほど経験が高いことを意味する。従属変数として抑うつの評価尺度であるCES-D(the Center for Epidemiologic Studies depression Scale)の日本語版を使用した。 4.分析方法 SPSSver.17を用い、個人属性や不妊治療特性、ソース別PSI、ソース別NSIおよびCES-Dの記述統計を算出した。ソース別PSIおよびNSIのCES-Dに対する主効果を確認するために、「年齢」「初診からの期間」等の13の共変量と各PSIおよびNSI尺度を個別に投入した重回帰分析を実施した。また同一ソースにおけるPSIとNSIの交互作用、ソース間NSIの交互作用、ソース間PSIの交互作用をみるために、重回帰分析を行った。 5.倫理的配慮 淑徳大学看護学部の倫理審査委員会の承認(N10-002)を得て実施した。調査協力依頼書を用い調査の趣旨や匿名性の保持等について説明した。 【研究2-結果】 206名から回答を得た(回収率68.7%)。 対象者の年齢は36.4±4.4(平均±SD、以下同様)歳で、結婚期間(満年)は5.3±3.3であった。平均不妊年数は約4年、初診からの年数平均は約2.8年であり、自分のみに不妊原因がある人が40.4%と最も多く、現在の不妊治療内容は体外受精が47.1%と最も多かった。 CES-D得点は13.19±9.56であった。不妊女性のPSI経験は、夫PSIで3.30±0.57、実親PSIで2.88±0.94、夫の両親PSIで2.07±1.14、友人・その他PSIで2.05±0.60であった。一方NSIでは、夫NSIで1.37±0.47、実親NSIで1.59±0.59、夫の両親NSIで1.49±0.69、友人・その他NSIで1.23±0.33であった。 重回帰分析によるソース別PSIのCES-Dに対する主効果は、いずれのソースにおいても有意な負の関連はみられなかったが、夫PSI(β=-0.136, p=0.057)または友人・その他PSI(β=-0.173, p=0.067)を経験している不妊女性ほど、低い抑うつ傾向が示された。NSIについては、夫NSI(β=0.165, p=0.018)、夫の両親NSI(β=0.141, p=0.041)、友人・その他NSI(β=0.220, p=0.002)と抑うつの間に有意な正の関連が認められ、NSIを経験する女性ほど抑うつが高かった。 交互作用については、夫NSIと夫の両親NSIの交互作用のみがCES-Dに対し有意な関連を示した(β=0.206、p=0.007)。夫NSIが低い人では、夫の両親NSIは抑うつを高めなかったが、夫NSIが高い人においては夫の両親NSIが抑うつを高め、夫NSIおよび夫の両親NSIともに高い人が特段高い抑うつを示した。 【考察】 研究1の結果から、項目削除後の因子分析において、いずれの尺度も1因子構造を示し、α係数は0.90前後であり、テスト-リテスト相関係数はすべて0.4以上であったことから、一定の妥当性と信頼性が確認できた使用可能な尺度群と考えられる。 研究2の結果から、概して不妊女性のNSI経験はPSI経験よりも少ない傾向がみとめられた。抑うつとの関連については、PSIはいずれのソースにおいても抑うつと有意な負の関連を示さなかったが、NSIは実親をのぞく友人・その他、夫、夫の両親において抑うつと有意な正の関連を示し、NSI経験が高い女性ほど高い抑うつ傾向を示したことから、PSIとNSIは不妊女性の精神的健康への影響の仕方が異なり、さらにはソースによって異なることが示唆された。 本結果では夫NSIと夫の両親NSIの抑うつに対する交互作用が認められ、夫NSIと夫の両親NSIの両方を経験する女性において特段高い抑うつレベルを示した。このことから、不妊女性にとって夫NSIと夫の両親NSIの両者を経験することは、彼らの精神的健康がより大きな負の影響を受けることが示唆された。 【結論】 不妊女性が経験するPSIおよびNSIと抑うつとの関連をソース別に明らかにするために、研究1では、夫、実親、夫の両親、友人・その他別のPSIおよびNSI尺度の開発を試みた。それらの尺度を用いて、研究2では不妊女性の抑うつとの関連を数量的に明らかにした。その結果、いずれのソースにおいてもPSIの不妊女性の抑うつに対する有意な負の関連はみとめられなかったが、NSIにおいては、実親をのぞく友人・その他、夫、夫の両親において有意な関連がみられ、NSI経験が高いほど抑うつが高くなる傾向が認められた。また、不妊女性の抑うつに対する夫NSIと夫の両親NSIの交互作用がみとめられ、夫NSIおよび夫の両親NSIともに高い人がとりわけ高い抑うつを示した。これらのことから、PSIは不妊女性の精神的健康に大きな影響を与えないが、NSIは彼らの精神的健康の阻害要因となることが示唆され、とりわけ夫と夫の両親とのNSIを同時に経験することは、彼らの精神的健康の悪化を増幅させる可能性があることが示唆された。周囲の人々が不妊女性とかかわる際には、ソーシャルサポートを提供するだけでなくNSIを引き起こさないようかかわることが重要であり、このことが可能となるよう、保健医療従事者が不妊女性と周囲の人々との関係を調整し、かつ一般の人々に不妊症患者への理解を促すことの重要性が示唆された。 | |
審査要旨 | 本研究は、不妊治療患者(不妊女性)が経験するPositive social interactions(PSI)およびNegative social interactions(NSI)をソース別(夫、実親、夫の両親、友人・その他)に測定する尺度を開発し、それらと不妊女性の精神的健康との関連を明らかにすることを目的に行われたものであり、以下の結果を得ている。 まず不妊女性を対象とした2回の質問紙調査(研究1)において、不妊女性が経験するPSIおよびNSIをソース別に測定する尺度(夫PSI、夫NSI、実親PSI、実親NSI、夫の両親PSI、夫の両親NSI、友人・その他PSI、友人・その他NSI)の開発を試みた。項目削除基準をもとに項目の精選を行った結果、いずれの尺度も1因子構造であり、α係数やテスト-リテスト相関係数の結果から、一定の信頼性と妥当性のある使用可能な尺度であることが確認できた。 次に不妊女性を対象とした質問紙調査(研究2)において、ソース別PSIおよびNSIの不妊女性の抑うつに対する主効果を重回帰分析にて検討した。その結果、いずれのソースのPSIも抑うつと有意な負の関連を示さなかったが、NSIについては、実親をのぞく友人・その他NSI、夫NSI、夫の両親NSIにおいて抑うつと有意な正の関連を示し、NSIを経験している女性ほど高い抑うつ傾向が示された。ソース別PSIおよびNSIの交互作用については、夫NSIと夫の両親NSIにおいて抑うつへの交互作用効果が認められ、夫NSI低群では夫の両親NSIは抑うつを高めなかったが、夫NSI高群においては夫の両親NSIが抑うつを高め、夫NSIおよび夫の両親NSIともに高い不妊女性が特段高い抑うつ傾向を示した。 以上、本論文では、不妊女性が経験するPSIおよびNSIをソース別に測定するための、一定の信頼性と妥当性が確認された使用可能な尺度群を開発した。そしてそれらと不妊女性の抑うつとの関連を検討し、抑うつへの影響の仕方はPSIとNSIでは異なり、さらにはソースによって異なることを明らかにし、NSIは不妊女性の精神的健康における阻害要因となりうることを示唆した。本研究は、不妊女性が経験するPSIおよびNSIと彼らの精神的健康との関連についてソース別、体系的かつ数量的に実証を試みた初めての研究であり、保健医療分野において、不妊女性のための支援的な対人環境のあり方を検討する上での貴重な知見となり得ると考えられることから、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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