学位論文要旨



No 128549
著者(漢字) 中川,龍郎
著者(英字)
著者(カナ) ナカガワ,タツロウ
標題(和) 昆虫のフェロモン受容に関わる分子機構の解析
標題(洋) Studies on a molecular basis underlying pheromone reception in insects
報告番号 128549
報告番号 甲28549
学位授与日 2012.06.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(生命科学)
学位記番号 博創域第806号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 先端生命科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東原,和成
 東京大学 准教授 鈴木,雅京
 東京大学 准教授 尾田,正二
 東京大学 准教授 小嶋,徹也
 東京大学 教授 片岡,宏誌
内容要旨 要旨を表示する

昆虫において、匂いやフェロモンは触角の嗅神経細胞に発現する7回膜貫通型の嗅覚受容体(Olfactory receptors; Ors)によって受容され、それぞれの嗅神経細胞は発現するOrの種類によって異なる匂い感受性および匂い選択性を示す。一般に昆虫はゲノム上に60~340個程度のOr遺伝子を有している。昆虫のOrは種特異性が高いことが知られているが、例外的に全ての昆虫種間で高度に保存されたOr遺伝子が1つ存在し、これはOrco(Olfactory receptor co-receptor)と呼ばれる。ほとんど全ての嗅神経細胞は、1種類の通常のOrとOrcoを共発現しており、これら2つの受容体はヘテロ複合体を形成して樹状突起膜上で匂い・フェロモン活性化型イオンチャネルとして機能する。

昆虫の匂い・フェロモン認識機構を理解するためには、嗅覚系の末梢で機能する嗅覚受容体複合体が1.どのような選択性で匂いやフェロモンを認識し、また2.どのような分子機構でそれらの情報を伝達するのかを明らかにすることが必要不可欠である。そこで本研究では、第1章でアズキノメイガの性フェロモン受容体に着目しリガンドの同定を行った。第2章では昆虫嗅覚受容体を介した嗅覚シグナル伝達機構を詳細に明らかにすることを目指した。

第1章 アズキノメイガ性フェロモン受容体の機能解析

【序論】

アワノメイガ類に属するアズキノメイガ(Ostrinia scapulalis)の雄は、雌から分泌されるE11-14:OAc, Z11-14:OAcの混合物を性フェロモンとして認識し性行動を起こすことが知られている。また、この混合物により引き起こされた性行動は抑制性フェロモンであるZ9-14:OAcにより抑制される。本研究は、アズキノメイガが性フェロモンや抑制性フェロモンを認識する分子機構を明らかにすることを目指した。共同研究者によって、アズキノメイガの成虫の触角から7つの性フェロモン受容体候補遺伝子(OscaOr1, 3-8)、およびOrcoファミリー遺伝子(OscaOrco)がクローニングされた(図1A)。我々はOscaOrが実際に性フェロモン受容体であるか検証するため、アフリカツメガエル卵母細胞を用いて候補受容体の機能解析を行った。

【結果と考察】

・性フェロモン受容体候補の機能解析

アフリカツメガエル卵母細胞に1つのOscaOrおよびOscaOrcoのcRNAを注入し、アズキノメイガの触角において電気応答を引き起こす9種類のフェロモン物質をそれぞれ投与して応答性を電気生理学的に検証した。その結果、アズキノメイガの性フェロモンであるE11-14:OAcと Z11-14:OAcに対してOscaOr3, OscaOr4が強く応答した(図1B)。興味深いことに、OscaOr3, OscaOr4はアズキノメイガの抑制性フェロモンであるZ9-14:OAcにも応答したが、Z9-14:OAcに特異的な受容体は見出されなかった(図1B)。

・抑制性フェロモンZ9-14:OAcの作用機構の解析

Z9-14:OAcに特異的なOscaOrが存在せず、さらに性フェロモンと同じ2つの受容体OscaOr3とOscaOr4によって受容されるという結果は、Z9-14:OAcが抑制性フェロモンとして機能する理由を十分に説明することができない。ここで、Z9-14:OAcはOscaOr4に対しては極めて弱いアゴニストとして作用することに着目し、Z9-14:OAcは性フェロモン物質の存在下ではアンタゴニストとしての作用を持つ可能性を推定した。この可能性を検証するため、OscaOr4とOscaOrcoを卵母細胞に共発現させ、E11-14:OAcとZ9-14:OAcを混合して投与した。その結果、E11-14:OAcに対する電気応答は混合するZ9-14:OAcの濃度依存的に抑制された(図1C)。

以上、本研究の結果から、アズキノメイガの性フェロモン(E11-14:OAc、Z11-14:OAc)に応答する受容体はOscaOr3およびOscaOr4であることが明らかになった。また、抑制性フェロモンであるZ9-14:OAcは、OscaOr3のアゴニスト、OscaOr4のアンタゴニストであることが示唆され、またZ9-14:OAcに特異的に応答する受容体は見出されなかった。これらの結果から、Z9-14:OAcはOscaOr4発現嗅神経細胞の性フェロモン応答を抑制することにより、アズキノメイガの性行動の抑制を引き起こしているというモデルが推定される。

第2章 昆虫嗅覚受容体複合体を介した嗅覚シグナル伝達機構の解析

【序論】

近年我々は、複合体はそれ自身が匂いやフェロモンによって直接活性化される非選択性陽イオンチャネルであることを明らかにした(Sato et al. Nature. 2008, Wicher et al. Nature. 2008)。しかし、複合体がどのような分子機構によって匂い活性化型チャネルとして機能するかは未だに不明である。具体的には、以下の2つの点が現在議論の的となっている。1つめは、複合体の活性化に環状ヌクレオチドが関与するかという点である。2つめは、複合体のイオン透過に関わる分子機構についてである。そこで本研究ではこれら2つの疑問点を解消し、昆虫嗅覚受容体を介した嗅覚シグナル伝達機構についての議論に決着をつけることを目指した。

【結果と考察】

2-1.昆虫嗅覚受容体の匂い応答における環状ヌクレオチドの役割の解明

・環状ヌクレオチドは昆虫嗅覚受容体複合体に対して細胞外側から作用する

環状ヌクレオチドは細胞内セカンドメッセンジャーとして機能すると予想されていたため、これまで昆虫嗅覚受容体の環状ヌクレオチド感受性は細胞外から膜透過型の環状ヌクレオチドアナログを投与することにより検証されてきた。しかしこれらの報告は、環状ヌクレオチドが細胞外から作用する可能性も示唆している。環状ヌクレオチドの作用部位を検証するため、昆虫嗅覚受容体複合体を発現させた卵母細胞に対して膜非透過型(通常)の環状ヌクレオチド(cGMP, cAMP)を細胞外から投与した。その結果、カイコガ性フェロモン受容体BmOr-1とカイコガOrco受容体BmOrcoを共発現させた細胞はcGMP, cAMPに対して感受性を示した。応答の大きさは、ボンビコールに対する応答と比較して10~20%程度であった。この結果は、BmOr-1-BmOrco複合体に対して環状ヌクレオチドが細胞外側から作用することを示唆する。

・環状ヌクレオチドはBmOr-1側のサブユニットに作用する

次に、環状ヌクレオチドがBmOr-1-BmOrco複合体を構成するサブユニットのうち、BmOr-1、BmOrcoのどちらに結合するか検証した。いくつかの通常のOr(BmOr-1, Or47a, AgOr2)およびOrcoファミリー受容体(BmOrco, Orco, AgOrco)を様々な組み合わせで卵母細胞に発現させ、環状ヌクレオチドに対する感受性の有無を検証した。その結果、環状ヌクレオチド感受性は通常のOr側のサブユニットに依存していることが示唆された。

・環状ヌクレオチドはBmOr-1-BmOrcoのボンビコール応答を抑制する

成虫のカイコガにおいて、触角の嗅感覚子内腔を満たしているリンパ液中に膜透過型のcGMP(db-cGMP)を投与すると、ボンビコールに対する電気応答が抑制される(Redkozubov. Chem Senses. 2000)。この報告に基づき、環状ヌクレオチドが細胞外側からBmOr-1-BmOrco複合体のフェロモン応答を抑制するという仮説を立てた。仮説を検証するため、BmOr-1-BmOrco複合体を発現させた卵母細胞に対してボンビコールとcGMPまたはcAMPを混合して投与した。その結果、cGMP、cAMPの存在下ではBmOr-1-BmOrco発現卵母細胞のボンビコール応答が有意に抑制された(図2)。

以上の結果から、環状ヌクレオチドはBmOr-1-BmOrco複合体のボンビコール応答を細胞外側から抑制する作用を持ち、すなわち複合体のフェロモン応答において細胞内セカンドメッセンジャー以外の役割を担う可能性が示唆された。

2-2.昆虫嗅覚受容体のイオンチャネル活性に関わるアミノ酸部位の同定

・BmOr-1およびBmOrcoの部位特異的変異体のイオン透過能の解析

一般に陽イオンチャネルではGlu、Asp、Tyrがポアを形成しイオンの選択的な透過に関わる。そこで、BmOr-1およびBmOrcoのアミノ酸配列のうちそれぞれ昆虫フェロモン受容体ファミリー、Orcoファミリーの中で保存性が高いGlu、Asp、Tyrを探索した。その結果、BmOr-1の29ヶ所、BmOrcoの54ヶ所のアミノ酸部位が見出された。これらの計83ヶ所のアミノ酸部位をポアを形成するアミノ酸の候補とし、それぞれの部位の点変異体を作製してアフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、変異によるBmOr-1-BmOrco複合体のイオン透過能への影響を電気生理学的に解析した。その結果、BmOr-1、BmOrcoの複数の点変異体(合計13ヶ所)において野生型と異なる電流―電圧関係が測定された。

・BmOr-1-BmOrco複合体のK+のイオン選択性に関わるアミノ酸部位の同定

次に、野生体と異なる電流-電圧関係を示した13種類の点変異体において、イオン選択性が変化しているかをイオン組成交換実験により検証した。その結果、BmOr-1のC末端側の領域の2ヶ所(D299, E356)、BmOrcoのC末端側の領域の1ヶ所(Y464)のアミノ酸部位の点変異体は野生体と有意に異なるイオン選択性(PK / PNa)を示した(図3A,B,C)。この結果からこれら3ヶ所のアミノ酸部位は複合体のポア構造に寄与するアミノ酸である可能性があると考えられた。

本研究の結果は、昆虫嗅覚受容体複合体のポア構造は通常のOrとOrcoの両方のサブユニットにより形成されていることを示唆する。

【結語】

本研究では、新規のリガンド活性化型イオンチャネルである昆虫嗅覚受容体複合体が、匂いに対して応答する際の分子基盤を詳細に解析した。本研究により、昆虫嗅覚受容体複合体には環状ヌクレオチドや抑制性フェロモン物質による活性の調節機構が存在する可能性が示唆された。また、昆虫嗅覚受容体複合体がイオンを透過させる機構には複合体を構成する2種類のサブユニットの複数のアミノ酸が関わる可能性が示唆された。

本研究は、昆虫が匂いやフェロモンを認識する分子基盤の全貌を解明する上で重要な知見を提供するものであり、特に、昆虫嗅覚シグナル伝達機構に関する議論に決着をつけた点で意義深いものである。

【発表論文】

1.Sato K, Pellegrino M, Nakagawa T, Nakagawa T, Vosshall LB, Touhara K. (2008). "Insect olfactory receptors are heteromeric ligand-gated ion channels." Nature 452(7190): 1002-6.

2.Miura N, Nakagawa T, Tatsuki S, Touhara K, Ishikawa Y. (2009). "A male-specific odorant receptor conserved through the evolution of sex pheromones in Ostrinia moth species." Int J Biol Sci 5(4): 319-30.

3.Tanaka K, Uda Y, Ono Y, Nakagawa T, Suwa M, Yamaoka R, Touhara K. (2009). "Highly selective tuning of a silkworm olfactory receptor to a key mulberry leaf volatile." Curr Biol 19(11): 881-90.

4.Miura N, Nakagawa T, Touhara K, Ishikawa Y. (2010). "Broadly and narrowly tuned odorant receptors are involved in female sex pheromone reception in Ostrinia moths." Insect Biochem Mol Biol 40(1): 64-73.

5.Iwabu M, Yamauchi T, Okada-Iwabu M, Sato K, Nakagawa T, Funata M, Yamaguchi M, Namiki S, Nakayama R, Tabata M, Ogata H, Kubota N, Takamoto I, Hayashi YK, Yamauchi N, Waki H, Fukayama M, Nishino I, Tokuyama K, Ueki K, Oike Y, Ishii S, Hirose K, Shimizu T, Touhara K, Kadowaki T. (2010). "Adiponectin and AdipoR1 regulate PGC-1alpha and mitochondria by Ca(2+) and AMPK/SIRT1." Nature 464(7293): 1313-9.

6.Nakagawa T, Pellegrino M, Sato K, Vosshall LB, Touhara K. "Amino acid residues contributing to function of the heteromeric insect olfactory receptor complex." PLoS ONE 7(3): e32372

図1 アズキノケイガ性フェロモン候補受容体の機能解析

(A)昆虫フェロモン受容体およびOrco受容体の系統樹。(B)(左)OscaOr3+OscaOrco、OscaOr4+OscaOrco発現卵母細胞の代表的な応答波形。各フェロモン物質は10pMで投与した。(右)E11-14:0Ac、Z11-14:0Ac、Z9-14:0Acに対するOscaOr3、OscaOr4の用量一作用曲線。(C)OscaOr4+OscaOrco発現卵母細胞にE11-14:0AcおよびZ9-14:0Acを混合して投与した応答波形(左)および応答値のまとめ(右)。性フェロモン応答は抑制性フェロモンの濃度依存的に抑制された。*PくO.05,Mann-Whitney's U-test, n=4。

図2 環状ヌクレオチドはBmOr-1-BmOrco複合体のボンビコール応答を非競合的に抑制する

(A)BmOr-1+BmOrco発現卵母細胞の代表的な応答波形。矢尻および長方形はそれぞれ1μMボンピコールおよび100μMcGMPの投与を示す。破線内はcGMPによるボンピコール応答の抑制を示す。(B)環状ヌクレオチドによるボンピコール応答の抑制のまとめ。***p<0001,unpairedStudent's t-test,n=3-4。(C)cAMPによるボンビコール応答の濃度依存的な抑制。(D)環状ヌクレオチド存在下、非存在下でのボンピコール応答の用量一作用曲線。(E}環状ヌクレオチドによるBmOr-1-BmOrcoの抑制を示すモデル図。

図3 BmOr-1D299N,E356QおよびBmOrco Y464Aの点変異によるイオン選択性への影響

(A)変異導入部位の模式図。(B)Na(+)溶液(実線)、K(+)溶液(破線)における野生体および各変異体の電流一電圧関係。{C)各変異体のイオン透過率比(P(K)/P(Na))のまとめ。*pく0.05,**pく0.01 vs WT,unpaired Student's t-test(n=5-8)

審査要旨 要旨を表示する

昆虫において、匂いやフェロモンは触角の嗅神経細胞に発現する7回膜貫通型の嗅覚受容体(Olfactory receptor; Or)によって受容される。昆虫嗅覚受容体はヘテロ複合体を形成し、リガンド活性化型イオンチャネルとして機能する。昆虫の匂い・フェロモン認識機構を理解するためには、嗅覚系の末梢で機能する嗅覚受容体複合体が どのような選択性で匂いやフェロモンを認識し、どのような分子機構でそれらの情報を伝達するのかを明らかにすることが必要不可欠である。本研究では、第1章でアズキノメイガの性フェロモン受容体に着目し、リガンドの同定と選択性の解析を行った。第2章では昆虫嗅覚受容体を介したシグナル伝達機構を詳細に明らかにすることを目指し、昆虫嗅覚受容体の匂い応答における環状ヌクレオチドの役割の解明と、昆虫嗅覚受容体のイオンチャネル活性に関わるアミノ酸部位の同定を行った。

第一章では、 アズキノメイガの成虫の触角から単離された7つの性フェロモン受容体候補遺伝子(OscaOr1, 3-8)の機能解析をおこなった。その結果、アズキノメイガの性フェロモン(E11-14:OAc、Z11-14:OAc)に応答する受容体は、OscaOr3およびOscaOr4であることが明らかになった。抑制性フェロモンであるZ9-14:OAcは、OscaOr3のアゴニスト、OscaOr4のアンタゴニストであることが示唆された。Z9-14:OAcに特異的に応答する受容体は見出されなかった。これらの結果から、Z9-14:OAcはOscaOr4発現嗅神経細胞の性フェロモン応答を抑制することにより、アズキノメイガの性行動の抑制を引き起こしているというモデルが推定される。

第二章のセクション1では、昆虫嗅覚受容体の匂い応答における環状ヌクレオチドの役割の解明をおこなった。カイコガ性フェロモン受容体BmOr-1とカイコガOrco受容体BmOrcoを共発現させた細胞は、cGMP, cAMPに対して弱いながらも感受性を示すことを見出した。一方、cGMP, cAMPの存在下ではBmOr-1-BmOrco発現卵母細胞のボンビコール応答が非競合的に抑制された。つまり、環状ヌクレオチドは、BmOr-1-BmOrcoに対して弱いアゴニスト活性をもつ一方、ボンビコール応答に対してアンタゴニストとして作用することがわかった。環状ヌクレオチドは、細胞の外側からBmOr-1側のサブユニットに結合する可能性が示唆された。以上の結果から、環状ヌクレオチドはBmOr-1-BmOrco複合体のボンビコール応答を細胞外から抑制する作用を持つ可能性が示唆された。

第二章のセクション2では、昆虫嗅覚受容体複合体のイオン透過機構についての詳細な解析をおこなった。実際に解析する分子として、BmOr-1とBmOrcoの受容体複合体を用いた。一般に陽イオンチャネルのポアには、Glu, AspまたはTyrのアミノ酸が存在するが、昆虫嗅覚受容体複合体も陽イオンチャネルであることから、複合体のポアにはGlu, AspまたはTyrが存在すると予想した。そこで、BmOr-1とBmOrcoに存在するGlu, Asp, Tyr計83カ所の点変異体を作製して、アフリカツメガエル卵母細胞に発現させ、複合体のイオン透過能への影響を電気生理学的に解析した結果、BmOr-1の2つのアミノ酸およびBmOrcoの1つのアミノ酸への点変異により、複合体のイオン透過能に影響が生じることを見出した。この結果より、昆虫嗅覚受容体複合体のポアは、通常のOrとOrcoの両方のサブユニットで形成されているということが実証された。

以上、本研究では、カイコとアズキノメイガの性フェロモン受容体を対象に、フェロモン選択性を解析し、活性化と抑制の両方が存在することを明らかにし、さらに、部位特異的変異体の解析により、受容体複合体の両方のサブユニットが、イオン透過させるポア構造を作るのに貢献していることを示し、数年来の昆虫嗅覚受容体のチャネル機構をめぐる論争に決着をつけたもので、学術的に意義深い。

なお、本論文第一章は、三浦奈美、田付貞洋、石川幸男との共同研究、第二章のセクション2は、Maurizio Pellegrino, Leslie B. Vosshallとの共同研究であるが、本論文では、引用しない限りはすべて論文提出者が行った実験を記載しており、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

論文提出者は、本審査において、口頭発表を明快におこない、質疑応答に適確に答えた。また、博士論文は、英文で書かれており、審査員全員の共通コメントとして、わかりやすく理路整然と説得力ある形で書かれているという評価があった。

以上の結果、博士(生命科学)の学位を授与できると認める。

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