学位論文要旨



No 128610
著者(漢字) 卡比力江,吾買尓
著者(英字)
著者(カナ) カビリジャン,ウメル
標題(和) 中国汶川震災復興における復興再建計画に関する研究 : 都江堰市における住宅再建を中心として
標題(洋) Study on Post-Disaster Urban and Rural Recovery Planning in 2008 Wenchuan Earthquake : Focusing on House Rebuilding in Dujianyan City
報告番号 128610
報告番号 甲28610
学位授与日 2012.09.13
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7804号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小出,治
 東京大学 教授 石川,幹子
 東京大学 特任教授 山田,常圭
 東京大学 准教授 加藤,孝明
 東京大学 講師 太田,浩史
内容要旨 要旨を表示する

研究の背景・目的

2008年5月12日,中国改革開放以来最大の"汶川地震"が発生した.中国政府は震災復興を契機に都市と農村の一体化計画を試みようとする.之までは城郷計画の空間,人口移転(集中),土地資源開発利益最大化の視点から見る,汶川地震再建計画に関する研究が行われつつであるが,未だに中国独自の震災復興計画論に関する研究はない.

この研究では,震災復興に一体化計画と土地資源自由流動が導入されたことを踏まえ, 汶川震災復興計画プロセスの全体像を明らかにする.特に,住宅再建における計画手法(空間),権利保護(産権),市場原理,行政ザービスの四大要素が複合する分野において,震災復興計画のメリットとディミリットの方法論について考察し,城郷計画制度の是正と妥当性について検討することを目的として行ったものである.

研究の方法

中国汶川震災復興における復興再建計画に係る住宅再建に四大要素の協働と相互補完の関係を取り込むには,単なる四大要素の組み合わせとその定量化は限界性を持ち,工学的にこれらの知見を得るには困難である.震災前後における中国城郷計画制度背景にある政治的,計画的,経済的,社会的知見を指標化すると共に,頻繁な実態調査に伴い住宅再建分類化,指標化を行い,四大要素を原動力とする復興再建計画の全体像をより細かく実証したものである.

本研究では,このような認識に立ち,3年間震災復興目標の達成を支えられた中央政府,地方政府により計画,経済,行政等特殊な対策の本質とその論理の系譜を分析することにより, 四大要素の協働と相互補完の具体的な関係とその根拠を明らかにし,それにより得られた知見を踏まえ, 中国独自の震災復興計画論を考察することを試みると共に, 汶川住宅再建の実態と課題を明らかにすることとした.

研究の概要

本論文は,各論全体5章と全体をまとめた最終章から成る.以下に5章の概要を示す.

第1章では,震災直前における中国都市と農村の一体化制度改革の実態を城郷計画法,農村土地市場体制の視点から,ケーススタディを踏まえ,その実態を分析した上,以下のことを明らかにした.

1)中国における中華人民共和国城郷計画法(新計画法と省略とする)は従来の都市と農村の二元化構造計画と違い,都市・農村計画の「一体化構造の実現」,「市民参加・専門家参加による都市・農村計画の透明化」,「計画策定プロセス,実施プロセスにおける政治行政行為の制御」にて新規性を持つこと.

新計画法は,現在までの中国の社会・経済発展の状況を踏まえ,都市と農村の社会経済の差異を是正しようとする新しい時代の開く法律と位置づけられる.新計画法では,マネージメント,空間構造,経済・社会発展,いずれの観点からも都市・農村の「一体化」が期待できる.しかし,現在の都市・農村を抜本的に解除するためには,都市・農村,社会保障政策,戸籍政策等もあわせて改革する必要があろうこと.

2)成都市全域計画制度のケーススタディ分析から,その新規性と期待性を以下に評価された.

・全域空間発展戦略である.城鎮計画区域,郷村計画区域,生態環境保護区域境界線を明確化する共に, 農用地保全最低限境界線を抑え,土地資源開発指標の空間的自由流動を法定化している.

・城郷一体化計画管理である.郷村新型社区建設により就地都市化が加速化され,集体建設用地が市場化軌道に入っていた.

・農村地区における公的サービスである.行政,市場,情報等サービスが投入され,郷村土地資源開発の活発化につれ,産権保護を巡る村民自治組織と行政組織の対立が課題となっていた.

第二章では, 中国汶川震災復興再建プロセスの運用原理を中央政府復興計画の政策枠組みの視点から,その指針系譜をまとめるとともに,当該政策が復興再建に与えた影響と効果について以下のことを明らかにした.

・復興計画策定段階における迅速なトップダウン型意識決定による人材派遣制度である.震災評価,新たな耐震基準の見直し,再建計画手順策定等に割れ当てられたこと.

特殊な復興再建財政支援制度である.その内,中央財政援助制度は再建住宅補助金,インフラ.公共施設,城郷建設,防災減災及び生態保護等非経営性復興建設に限られる. 対口資金援助制度は厳重被害地域の公的施設,インフラ施設,再建住宅復興建設等に限定する再建資金投資である.

・汶川震災復興条例(日本の政令に相当する)による復興理念,中央と地方の役割分他,復興事業優先順位,復興資金調達手法等がマニュアル化されている.

・特殊な土地供給措置による復興再建建設用地指標取得手法が供給された.公的資金投資による復興再建城鎮建設用地を迅速に確保すると共に,農民住宅再建資金困難を緩和する効果がある.

・迅速な汶川震災総体計画(法的復興計画)の実施である.その効果は震災復興を切欠に防災減災計画の法定化されている.広域的に城郷計画が導入している.広域空間管制措置を根拠とする城郷建設用地規模と城郷住宅建設規模と城郷土地資源空間調整が確保されている.

第三章では,都江堰市における震災復興計画の施策枠組み,中央政府復興計画の政策枠組みの影響,中心城区構造の再構築の実態を城区住宅再建の視点から,その実現性に支えた城鎮住宅再建施策の系譜をまとめると共に,当該施策が政府型集合再建住宅と自力型集合再建住宅に与えた影響と効果について分析し,以下のことを明らかにした.

・人材派遣の効果により迅速に市域復興再建計画が策定されたこと。特殊な財政支援により当該市公共復興事業プロジェクト資金が援助され,市域構造の再構築が20年前倒しで実現している.

・当初政府は中心城区構造の再構築に当たって,中心城区被害者人口をニュータウン地区に移転させる永久性住宅置換制度を導入した.城郷計画法の公共政策属性の影響を受け,最終は中心城区周辺における政府型集合再建住宅と自力型就地集合再建住宅を法定化されている.

・政府型集合再建住宅とは,震災前所有権と安居住宅の実物交換制度である.中心城区における被害者の78%が当該住宅に入居している.この制度によって旧市街地国有土地資源の再開発が期待できる.公的投資によって居民は新築住宅を得られる.今後は公共政策を進化して居民と政府の対立を緩和でき,市域経済社会発展の効果に期待できると考えられる.

・自力型就地集合再建住宅とは,政府の計画誘導と支援施策等によって自力建設された物である.居民相互合意形成によって利益調整が緩和できている.今後の計画制度改善に重要な意義を持つ.

第四章では,都江堰市における郷村震災復興計画の施策枠組み,震災直前一体化計画構造の影響,農村新型社区,集中安置再建住宅の実態を四大要素の視点から, その実現性を支えた農村住宅再建施策の系譜をまとめると共に,当該施策が政府型統規統建,市場型統規統建,自力型統規自建に与えた影響と効果について分析し,以下のことを明らかにした.

・計画策定段階における計画誘導と住宅再建方式農民選択肢等によって震災前郷村計画が調整された.地域特色或いは産業発展を前提とする永久性安置住宅,新型社区,林盤居住等を同行配慮する永久性農民住宅計画である.震災復興を契機に一体化計画構造が法定化されたと言える.

・農村住宅再建における政府型統規統建は村民集体経済組織と政府の間に行われた集体土地所有権と村民再建住宅との実物交換制度である.政府は国有城鎮建設用地指標増加の公的投資により再建住宅・都市型居住環境を農民に無償供給された.城鎮新区開発,農民住宅開発規制,産業構造調整における土地資源支配権を獲得し,郷鎮政府財政収入増加が期待できる.村民集体経済組織は土地所有権を政府に移管して再建住宅が得られる.この制度により農民生活方式が都市型生活方式へ, 伝統的な生産方式が現代農業生産方式へ転換されている.失地農戸の急ピッチな増加と生活コストの高騰化が進み,低現金生活と二元化社会保障に対する不満が高く,失地農戸持続可能な生活保障が課題となっている.

・農村住宅再建における市場型統規統建では,村域集体経済組織とデベィローパの協議と村民合意を前提とする余剰集体建設用地開発権委譲と再建住宅との実物交換制度である.委譲用地は用途変化により集体建設用地使用権が開発され,その開発利益返還により再建住宅と居住環境整備が農民に無償供給される.計画誘導型による郷鎮地区開発が期待でき, 集体経済組織の成長と農戸就職或いは郷鎮政府財政収入の増加に期待できる.

・農村住宅再建における自力型統規自建では,村域内部合意形成と計画誘導型による自建住宅である.公的サービスによって再建資金調達と産権再登録が行われた.小型集中建設により生活スタイルが転換され,農村文化景観保全が守られている.基本農業生産方式を維持している。農民達と政府の対立問題が低く,計画誘導による基本農業型産業の拡大が期待できる.

第五章では, 四大要素の複合性の視点から,震災復興計画のメリットとディミリットを考察し, 城郷計画制度の是正と妥当性について検討することを行った.その結果を以下のことを明らかになった.

・市場原理の視点から見るメリットとは,公的再建プロジェクト援助資金により地方政府再建財政負担の50%以上が減少された.地方政府は土地所有権と実物交換(再建住宅)制度により土地資源自由流動支配権を獲得し,その土地市場利益により公的再建投資リスクを緩和する.被害者は震災前産権(所有権或いは使用権)を資本化して再建住宅を獲得している.産権登録制度により被害者,デベロッパ,政府の産権(物権)が明確にし,多様な利益権限が法定的保障されたと言える.ディミリットとは,被害者を迅速に再建住宅に誘導できる.国有城鎮建設用地の増加と集体土地市場化開発の傾向が強く,開発利益最大化を巡る三大利益主体の対立による社会安定悪化の恐れがあり,法人化土地市場価格評価体制の構築が必要となる.

・計画手法の視点から見るメリットとは,迅速な人材派遣により法的震災復興計画(総体計画,住宅再建計画,計画設計等)が目標通り策定された.広域城鎮計画区域,郷村計画区域,生態計画区域の境界線を明確にし,広域的インフラ・公共施設,城郷住宅再建計画等が法定化された.被害者或いは専門家の参加或いは知情権を受け入れ,城郷空間調整に効果を与えた.一体化計画構造が実現された.震災復興を契機に防災減災計画が全国的普及されつつある.ディミリットとは, 再建資金調達は被害者或いは政府の共通な目的だったため,大規模な集中居住区開発が可能だった.今後は居民産権意識が高めるにつれ,市街地再開発・農村地区開発に関わる三大利益主体の合意形成が課題となる.この課題に対し西方国家の住民参加型計画制度の応用性を考えられる.

・農民住宅再建集中開発模式を契機に中国改革開放以降初めて,集体建設用地市場体制が構築され,土地資源の自由市場流動が実現された.農村居住区における建築密度或いは容積率を高めることにより成り立っている.新型社区により就地都市化が進化される一方,農村文化景観が失われている.農村地区保全管理を強化する必要性があると考えられる.

・現代農業産業戦略により農用地規模化の効果が見られた.その本質的要素とは大規模な農民集中居住区建設にある.今後現代農業産業の実現に財政負担が課題となるため,農民集体経済組織を主とする現代農業共同体を育成することを有効な産業戦略ではないか考えられる.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は2008年に発生した中国汶川地震の復興計画に焦点をあて、結果として早期に復興した要因を分析する中で、直前に制定された都市と農村の一体化計画が大きな役割を果たしたことを明確にした。また、都市と農村の一体化計画は単に都市計画上の手法としてだけでなく、2元化した都市と農村を1元化し、3農問題といわれる農村部の貧困化を解決する政策でもあることが明らかになった。特に、土地の所有が国(都市)と農村(農村共同体)に2元化された中で統一的に発展を行うにはこの2元化体制を解消する必要がある。その解消の手段を土地の流動化に着目し分析を行った。

本論文は,各論全体5章と全体をまとめた最終章から成る。第1章では,震災直前における中国都市と農村の一体化制度改革の実態を城郷計画法,農村土地市場体制の視点から,ケーススタディを踏まえ,その実態を分析した上,以下のことを明らかにした.

1)中国における中華人民共和国城郷計画法(新計画法と省略とする)は従来の都市と農村の二元化構造計画と違い,都市・農村計画の「一体化構造の実現」,「市民参加・専門家参加による都市・農村計画の透明化」,「計画策定プロセス,実施プロセスにおける政治行政行為の制御」にて新規性を持つこと。

2)成都市全域計画制度のケーススタディ分析から,その新規性と期待性が評価された。

第2章では, 中国汶川震災復興再建プロセスの運用原理を中央政府復興計画の政策枠組みの視点から,その指針系譜をまとめるとともに,当該政策が復興再建に与えた影響と効果について以下のことを明らかにした。復興計画策定段階における迅速なトップダウン型意識決定による人材派遣制度であり、震災評価,新たな耐震基準の見直し,再建計画手順策定等に人材が割れ当てられたこと。特殊な復興再建財政支援制度であった。その内,中央財政援助制度は再建住宅補助金,インフラ.公共施設,城郷建設,防災減災及び生態保護等非経営性復興建設に限られたものであった。対口資金援助制度は厳重被害地域の公的施設,インフラ施設,再建住宅復興建設等に限定する再建資金投資であった。

第3章では,都江堰市における震災復興計画の施策枠組み,中央政府復興計画の政策枠組みの影響,中心城区構造の再構築の実態を城区住宅再建の視点から,その実現性に支えた城鎮住宅再建施策の系譜をまとめると共に,当該施策が政府型集合再建住宅と自力型集合再建住宅に与えた影響と効果について分析し,以下のことを明らかにした.

・人材派遣の効果により迅速に市域復興再建計画が策定されたこと。特殊な財政支援により当該市公共復興事業プロジェクト資金が援助され,市域構造の再構築が20年前倒しで実現している。当初政府は中心城区構造の再構築に当たって,中心城区被害者人口をニュータウン地区に移転させる永久性住宅置換制度を導入したが、城郷計画法の公共政策属性の影響を受け,最終は中心城区周辺における政府型集合再建住宅と自力型就地集合再建住宅を法定化されている。政府型集合再建住宅とは,震災前所有権と安居住宅の実物交換制度であり、中心城区における被害者の78%が当該住宅に入居している。この制度によって旧市街地国有土地資源の再開発が期待でき、公的投資によって居民は新築住宅が得られた。今後は公共政策を進化して居民と政府の対立を緩和でき,市域経済社会発展の効果に期待できると考えられる。

第4章では,都江堰市における郷村震災復興計画の施策枠組み,震災直前一体化計画構造の影響,農村新型社区,集中安置再建住宅の実態を四大要素の視点から, その実現性を支えた農村住宅再建施策の系譜をまとめると共に,当該施策が政府型統規統建,市場型統規統建,自力型統規自建に与えた影響と効果について分析し,以下のことを明らかにした.計画策定段階における計画誘導と住宅再建方式農民選択肢等によって震災前郷村計画が調整された。地域特色或いは産業発展を前提とする永久性安置住宅,新型社区,林盤居住等を同行配慮する永久性農民住宅計画であった。震災復興を契機に一体化計画構造が法定化されたと言える.

第5章では, 四大要素の複合性の視点から,震災復興計画の短所と長所を考察し, 城郷計画制度の是正と妥当性について検討することを行った.その結果を以下のことを明らかになった.

・市場原理の視点から見ると長所は,公的再建プロジェクト援助資金により地方政府再建財政負担の50%以上が減少されたこと。地方政府は土地所有権と実物交換(再建住宅)制度により土地資源自由流動支配権を獲得し,その土地市場利益により公的再建投資リスクが緩和された。被害者は震災前産権(所有権或いは使用権)を資本化して再建住宅を獲得している.産権登録制度により被害者,デベロッパ,政府の産権(物権)が明確にし,多様な利益権限が法定的保障されたと言える.短所とは,被害者を迅速に再建住宅に誘導できるが、国有城鎮建設用地の増加と集体土地市場化開発の傾向が強くなり,開発利益最大化を巡る三大利益主体の対立による社会安定悪化の恐れがあり,法人化土地市場価格評価体制の構築が必要となる.

第6章はまとめである。震災直前に制定された城郷計画法により都市部への農民の移住により住宅再建をなし得た。ただし、市場化の馴染まない郊外の多くの農村部は自力復興によった。農村の解体が産権の確立によりもたらされ、一部は新農村として改変されたものの、大部分が農民でも都市人でもない中間的存在を増加させた。この復興過程において従前期待されていた大規模な変化が中小規模に縮小し、中心部での現地復興への傾向の増加などの変化がみられた。この復興過程の分析は現地の復興を詳細に膨大な資料を基に行われ、かつ多量のヒアリングとアンケートによりもたらされたものであり、有意義な研究である。また、この農村の変化は将来の中国全土での変化の試行としてあり、その評価・結果は大きな影響をもたらすものと思われる。この意味でも本論文の価値は高いものと思われる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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