学位論文要旨



No 128642
著者(漢字) 前島,彩子
著者(英字)
著者(カナ) マエシマ,アヤコ
標題(和) アフリカの都市化にともなうコンクリートブロック造住宅供給のあり方に関する研究 : ザンビア・ルサカ市を事例として
標題(洋)
報告番号 128642
報告番号 甲28642
学位授与日 2012.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7816号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 清家,剛
 東京大学 准教授 城所,哲夫
 東京大学 准教授 大月,敏雄
 東京大学 教授 腰原,幹雄
 東京大学 准教授 藤田,香織
 東京大学 講師 北垣,亮馬
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、都市化がすすむアフリカの都市住宅に焦点をあて、ザンビアの首都ルサカ市における住宅供給のあり方について現地調査に基づいて実態を明らかにし、この中で、コンクリートブロック構造が都市住宅建設に広く用いられている構法であることと、これを下支えする生産体制が都市と深くむすびついている様子を把握した。

世界中で用いられているコンクリートブロック造を地域比較の手がかりとして、他の都市地域における、住宅構法というハードの側面と、生産体制や導入体制といったソフトの側面から、グローバルな要素とローカルな要素が住宅構法に影響をあたえる要因について分析しており、これらの調査に基づいて、アフリカの都市化にともなう住宅供給のあり方について考察したものである。

本論文は6章で構成されている。

第1章においては、研究の背景と目的を述べている。

現在の都市化は、開発途上国で起きている現象である。これまで都市人口が低かったアジア、サブサハラ地域の都市人口の増加が予測される中、新たな都市住宅需要が大きくなっている。こうした都市化に伴い、建築材料、特にセメントの消費も高まっている。現在の都市住宅は、こうした産業の変化の影響のなかでどう捉えられるものなのかについて、サブサハラ都市の今後の都市住宅需要の大きさを鑑みて以下のこと考えるに至った。ある地域へ、新しい技術や材料が導入される際に、その地域に及ぼす構法的、生産流通体制への影響を理解するには、その影響要因に関する枠組みや分析の評価軸を、実態に基づいて設定しておくことが有効である。こうした枠組みをあらかじめ検討することで別の地域や別の材料に関する影響範囲をある程度予測し、問題を共有化することが考えられる。

現在の開発途上国の都市化は、西欧や先進国の経験した都市化とは異なる産業、流通背景をもつものであることを考慮し、本研究では、サブサハラ都市における住宅供給のあり方から、基準や性能といった制度を元に普及させる方法とは異なり、慣習的な手法や個人的な情報のネットワークにより住宅性能を規定するようなあり方を分析対象とする。

第一に、統計資料や文献資料の限られるサブサハラの都市住宅の状況を理解するために、ザンビアの首都、ルサカ市を対象として、都市住宅供給の変遷を明らかにし、現地調査により、その住宅構法の変遷の実態を把握し、それを支える生産供給体制を明らかにする。

第二に、汎用性が高く、世界の広い地域で用いられているコンクリートブロック造構法を比較の手がかりとして、他の都市化地域において、どのように、受容されているか、住宅構法と生産供給体制に着目して分析の枠組みを設定する。

第三に、以上から、コンクリートブロック造住宅の構法的な特性を整理し、特にルサカにおいて

第2章では、統計資料や既往文献を参照し対象都市と対象構法の位置づけを確認した。

今後の都市化は、サブサハラ地域、後発開発途上国といったこれまで都市人口が絶対的に小さかった地域で進むことが予測されている。こうした地域に共通する条件として、スラム人口の大きさやインフォーマル・セクターが大きな経済的役割を占めていること、国際機関による居住改善事業や、近年の民間企業の注目など、国際的な影響と居住事業が密接にかかわっていることがあげられる。また、サブサハラの100万人を超える大都市のほとんどは、旧宗主国によって建設された「植民地都市」であるといった項目を整理した。このなかで、ザンビア・ルサカ特有の条件として、内陸であること、鉱山都市をもつこと、内戦がなかったこと、自然災害の危険性がほとんどないことを挙げた。

コンクリートブロック造は、都市化に伴い消費、供給体制の継続が求められるセメントというグローバルな近代建材を用いる。これが中間財であること、小規模な主体が参加できる生産体制であることから、コンクリートブロック造は多様な地域性をもつものである。また住宅規模で用いられる近代建材、近代構法であるといえる。

第3章では、ザンビアの首都ルサカを対象に、サブサハラの1例としてその都市住宅供給を明らかにした。住宅供給の変遷整理を押さえ、代表的な供給が行われた住宅地における、現在までの居住実態と構法の記録と、これを下支えする生産供給体制について明らかにした。まず、文献資料が得られる公的住宅に関して、植民地時代、社会主義時代、民営化以降に時代を分け、経済、政治、人口を指標とて、住宅供給の変遷を明らかにした。また、制度の実態については、現地の関係者への聞き取りにより、住宅供給に関連した状況を把握した。住宅生産に関しては、代表的な建築材料の製造状況を製作・流通現場の現地調査により実態把握を行った。特に、産業構造の異なる、コンクリートブロックと屋根材に関しては、その生産流通状況について、メーカーへの聞き取りを網羅的に行って実態を把握した。

以上から、ルサカのCB住宅供給を以下の3段階に分けて把握した。

・旧宗主国により、住宅パッケージとしてのマスハウジングが1950年代に導入され、英国の寸法体系に影響をうけたと考えられる大型で性能の高いコンクリートブロックが導入された。

・独立後の都市への人口流入に対して、1970年代に世界銀行による、居住改善が行われ、現地の土、砂を用いた簡略化されたセメントブロックが未計画居住地に導入された。

・1996年の民主化以降、国内外の大小の民間企業による住宅供給では、数多くの大小の主体がコンクリートブロック製造、コンクリートブロック造住宅に関わっている。

この3段階の住宅供給の居住実態を確認するために、それぞれの時代に対象となった住宅地で住戸調査と住民へ住宅生産供給体制に関する聞き取り調査を行った。増改築の状況を含めた構法的な建物実態と生産供給体制を明らかにし、従来の計画を背景に、新たな都市人口の受け入れ状況を確認した。

第4章では、3章で把握したルサカのコンクリートブロック造住宅を、建物の実在状況や製造手法、生産供給体制あり方が、他の地域と比較して、どのように位置づけられるものなのか、コンクリートブロック造を手掛かりとして体系的に捉えることを考え、地域的特性を分析するための枠組みの設定につながる指標の抽出を行った。

まず、CB造建築が成熟していると考えられる先進国を対象に、地域的な要素を抽出した。CBの発明がなされた米英、その後独自の発展をとげた独日を対象に、規格の相異がみられる項目、その要因を確認した。日本に関してはさらに掘り下げ、発展段階において、変化がみられた項目の確認も行った。ここから、「CB利用の段階」「材料・構法」における違いを把握した。これを参照し、サブサハラよりは情報にアクセスがしやすく、都市化も進んでいるアジアの開発途上国を対象に、ジャカルタとマニラにおいて現地調査を行い、先進国でみられた状況との比較から、新たに、生産供給体制の把握、産業や在来構法といった文化的側面を与条件として加えた。

第5章では、4章で整理した、コンクリートブロック造地域性の表出する項目を、分析の枠組として、「与条件」、「CB利用の段階」、「材料・構法」、「生産供給体制に関わる主体」によって設定し、これに基づいてルサカ、ジャカルタ、マニラの状況を分析した。

以上から、CB造のセミ・グローバルと呼べるような、グローバルな技術とローカルな適応した近代住宅構法のあり方を明らかにした。

最後に2章でまとめたサブサハラの状況と、3章でまとめたルサカの居住実態に関する状況を考慮して、ルサカの住宅供給のあり方、として、材料・構法、生産供給体制、既存の住宅地状況、都市計画・土地利用に関して考察を行い、ルサカの特性を整理した。ルサカでは、最初のマスハウジングにおいてCB造が導入され、他の都市住宅の様式は制度的なしばりもあり、発達しなかった。材料、構法において、受けいれやすい条件もそろっていたことから、現在までほとんどの住宅がCB造で供給されている。住み手が関係する部門の影響が大きく、また、生産、施工、設計部門は個別に独立して存在しているため仕事の分節が明快になっており、住み手がこれらをつなぐ役割を担っていることをまとめた。こうした状況に結びつく要因として、穏やかな気象条件による建物へ構造的要求性能の低さ、1層規模の住宅が多いこと、住宅構法が土着のアドベ造とかわらない、壁厚さに期待した組積造であることにより、慣習的に計画や施工に関する知識が存在していること、これは未計画居住地の住宅生産体制として受け継がれてきた可能性、小規模主体が参入しやすいコンクリートブロック製造業は、現地に適合した産業形態であることなどが影響していると考察した。住み手が住宅建設を理解しやすいルサカでは、メーカーの参入の優位性、サービスの価値が理解されにくい状況である。

第6章においては、本論文で得られた知見とこれを用いた研究の展開可能性について述べている。

CB造住宅が、近代住宅構法として世界の広い地域の都市に普及し、同時に地域的な様相を残しているという構法的な特徴をハードとソフトな側面から明らかにした。

今後の展開に関して2つのことを挙げた。ルサカ市の状況から、サブサハラの都市に共有される視点を挙げ、ルサカに類似したコンクリートブロック造住宅の存在が考えられる都市を挙げた。二つ目は、コンクリートブロック造を近代住宅構法の世界的な広まりとしてとらえることの可能性として、他の近代構法で建設される住宅よりも対象とする都市の生活を反映したものとして整理できる点を挙げた。

本研究では、サブサハラの住宅供給をとらえるための最初の1事例として、ルサカを対象として、サブサハラに展開できる視点の考察によってサブサハラの住宅供給の一面を明らかにした。今後はこうした事例調査を積み重ねて、より多面的なサブサハラの住宅供給の理解に結び付けたいと考えている。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「アフリカの都市化にともなうコンクリートブロック造住宅供給のあり方に関する研究―ザンビア・ルサカ市を事例として―」と題し、都市化がすすむアフリカの都市住宅に焦点をあて、ザンビアの首都ルサカ市における住宅供給のあり方について現地調査に基づいて実態を明らかにし、この中で、コンクリートブロック造が都市住宅建設に広く用いられている構法であることと、これを下支えする生産体制と深くむすびついている様子を把握している。さらに世界中で用いられているコンクリートブロック造を都市住宅の供給体制の地域比較の手がかりとしてとらえ、いくつかの地域での調査を通じて住宅構法としてのハードの側面と、生産体制や導入体制といったソフトの側面から、住宅構法に影響をあたえる要因について分析している。その上で、コンクリートブロック造の分析から得られた評価方法に基づいて、ルサカにおける住宅供給のあり方について考察したものである。

第1章では、本論文で取り組む研究の背景と目的について述べている。現在開発途上国で起きている都市化の現状の中で、住宅供給について考えることの重要性と、供給の一端を担うコンクリートブロック造の特徴について述べ、こうした地域の都市住宅供給を取り上げる意味と、コンクリートブロック造を切り口として調査する意義について説明したうえで、本論の構成及び用語の定義について述べている。

第2章では、統計資料や既往文献を参照し、研究の対象とした都市および構法の位置づけを整理している。対象としているザンビア・ルサカは今後の都市化がすすむ地域に共通する条件をそなえつつ、内陸であることや鉱山都市をもつことなどの特有の条件もあるということ、コンクリートブロック造は、セメントというグローバルな近代建材を用いている一方で、小規模な主体が参加できる生産体制であることから、多様な地域性をもつ構法であることを明らかにしている。これらから、研究対象の位置づけを行い、3章以降の分析の前提条件を整えている。

第3章では、対象としたザンビアの首都ルサカの都市住宅供給の実態を、現地調査を中心に明らかにしている。まず住宅供給の時代的な変遷を把握し、代表的な供給が行われた住宅地における現在までの居住の実態、住宅の構法、これらの生産供給体制について、文献調査及び現地調査などによって明らかにした。また代表的な住宅の構法について、それらの製作・流通現場の現地調査により実態把握を行い、その中でコンクリートブロックと屋根材に関しては、その生産流通状況について、詳細な実態を把握した。これらの調査分析から、ルサカのコンクリートブロック造による住宅供給の実態を把握している。

第4章では、3章のルサカの調査から重要な構法として取り上げたコンクリートブロック造に着目して、住宅供給の地域的特性を分析するための枠組みの設定につながる指標の抽出を行っている。まずコンクリートブロック造が既に普及している先進国を対象に導入段階、普及段階、地域性への対応などのこれまでの変遷の調査を行い、技術として評価するための要素を抽出した。さらにルサカと比較するために、ある程度都市化がすすんでいるアジアの開発途上国の中からジャカルタとマニラをとりあげ、コンクリートブロック造の現地調査を行い、先進国の調査では把握できなかった生産供給体制、産業や在来構法といった追加の評価項目を抽出して、分析の枠組を設定している。

第5章では、4章で設定したコンクリートブロック造を評価する項目にしたがい、研究対象としているルサカおよび比較対象としているジャカルタ、マニラの状況を分析した。これを通じて、コンクリートブロック造による各地での住宅供給の特徴を明らかにしている。また、技術としてのグローバルな共通点とローカルに適応した点を明らかにすることで、コンクリートブロック造そのものの特徴についても明らかにしている。さらに、2章、3章でまとめたルサカの住宅供給の実態の分析を考慮して、ルサカの住宅供給のあり方に対して、材料・構法、生産供給体制、既存の住宅地状況、都市計画・土地利用について評価し、考察を行っている。

第6章は結論であり、本論文で得られた知見とこれを用いた研究の展開可能性について述べている。

以上のように本論文において、都市化のすすむザンビア・ルサカの実態を丁寧に捉えながら、そこで供給される住宅の構法と生産供給体制に着目し、その中でも特徴的なコンクリートブロック造をとおして、都市化がすすむ地域での住宅供給のあり方を捉える評価の枠組を提示している。このような実態調査に基づく住宅供給のあり方の分析、およびその構法の評価の枠組の提示は、建築構法、建築生産の分野の発展に大いなる寄与をなしうるものである。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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