学位論文要旨



No 128663
著者(漢字) 吴,琛曦
著者(英字)
著者(カナ) ゴ,チンギ
標題(和) サービスモデルによる航空サービスマネジメントに関する研究
標題(洋)
報告番号 128663
報告番号 甲28663
学位授与日 2012.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7837号
研究科 工学系研究科
専攻 システム創成学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 青山,和浩
 東京大学 教授 古田,一雄
 東京大学 教授 吉村,忍
 東京大学 教授 太田,順
 東京大学 准教授 西野,成昭
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、航空サービスマネジメントを支援するためのサービスシステムの開発とそれに基づいた航空サービスマネジメント手法の提案に関する研究を纏めたものである。

近年、航空業界では航空自由化や運賃自由化などによって競争が激化しており、航空会社が航空サービスを高品質に維持しながら、コスト削減や収益の最大化に努めている。収益最大化に務める経営部門や高品質提供に努めるオペレーション部門の計画との整合性を持たせるためには、何段階もの調整作業が必要である。しかしながら、航空サービスに関わる大量の要素が複雑に絡み合っているため、他部門との擦り合わせが困難で、需要変動、天候不順や機材故障などのイレギュラーによって、計画が崩れ、航空サービスを高水準の品質に維持し提供することが困難になる。またそのマネジメントは属人的な業務で、熟練者の暗黙的経験や知識によるところが大きく、管理者の負担が年々増えつつある。

本論文は、サービスモデルに基づき、航空サービスか関わる各要素と要素間の関係を整理し、航空サービスのモデル化を提案している。さらに、航空サービスモデルに基づき、コスト削減や収益最大化、高品質な航空サービスの提供を目的とした航空サービスマネジメントの手法を提案している。航空サービスマネジメントは収益最大化のレベニューマネジメントと高品質維持のためのオペレーションマネジメントに分解整理できる。またこれらのマネジメントに対する計算機支援が望まれる背景も考慮し、次のように研究課題を設定する。

航空サービスのモデル化においては、航空サービスおよび各サブサービスのモデル化と、計算機が理解可能な情報モデルによる記述を課題として整理している。また、航空サービスマネジメントにおいては、顧客行動に基づく需要予測によるレベニューマネジメント手法とリスケジューリングによるオペレーションマネジメント手法を提案し、多視点の定量評価を可能とすることによって、管理者の意思決定を支援することを課題としている。

また航空サービスマネジメントの一連の試行錯誤プロセスのPDCAサイクルを、計画(Plan)、分析・シミュレーション(Do)、定量評価(Check)、およびマネジメント(Act)によって定義する。そのプロセスの繰り返しによって、航空サービスマネジメントが行われる。

本論文は全7章で構成されている。

第1章では、本研究の背景について述べた。航空サービスとそれにおけるマネジメントを分析し、本研究の用件を整理し、研究目的とアプローチについて述べた。

第2章では、航空サービスのモデル化、航空サービスマネジメントの関連研究について述べた。サービスモデルに関する既存研究では、上流から下流へのプロセスフローによってサービスの機能構造が展開されるが、航空サービスを構成する各サブサービスが複雑に絡み合っているため、各サブサービス間の整合性の確保や情報の伝達を考慮する必要がある。また計算機が理解且つ管理可能なグラフモデルで記述することで、計算機支援によりサービスモデルに基づく定量的なシミュレーション、分析評価が可能になる。航空サービスを統合的なサービスモデルで表現することによって、航空サービスマネジメントに関する各視点の既存研究を統合したモデルで議論することができる。

第3章では、本研究で提案する航空サービスマネジメントシステムについて述べる。まずサービスモデルの観点から、本研究のベースとなっている航空サービスを提供者である航空会社と受給者である顧客によって定義し、簡易モデル化を行う。また航空会社の要素をブレイクダウンし、航空サービスを輸送サービス、運航サービス、整備サービスの3つのサブサービスに分け、それぞれのサブサービスにおける要素を整理し、各サブサービスのモデル化を行う。またサブサービス間の関係を整理することによって、3つのサブサービスの共通要素である機材を通して、各サブサービス間の整合性を確保し、本研究における航空サービス詳細モデルを表現する。次に、航空サービスモデルを計算機が理解かつ管理可能な情報モデルに落とし込み、多視点による航空サービスマネジメント支援システムを構築する。支援システムでは、必要な視点に応じて、航空サービスモデルから、要素を取り出し、ビューを構成しマネジメントすることができる。最後に航空サービスモデルと航空サービスマネジメントとの関連性を示し、航空サービスマネジメントシステムを用いた航空サービスマネジメントについて述べる。

第4章では、顧客視点のレベニューマネジメントについて述べる。レベニューマネジメントは、第3章で述べた航空サービス簡易モデルに基づき、需要予測による収益の最大化を図る。それを有効に行うには、需要予測の正確さが重要で、従来の統計的処理では変化する環境に対応しきれない。本研究では顧客の行動特徴に着目して、行動特徴によって顧客の意思決定プロセスを表現している。顧客の行動特徴に基づく購買行動シミュレーションの定量結果を参照しながら、航空券販売戦略変更・座席管理・フライトスケジュール調整によって表現されるレベニューマネジメントを行う。その試行錯誤プロセスのPDCAサイクルは、航空サービスの計画(Plan)、購買行動シミュレーション(Do)、定量評価(Check)、マネジメント(Act)によって表現する。

・航空サービスを計画する(Plan)

航空サービスを計画する。但し、本研究ではマネジメントしやすいように、初期入力の航空サービスは過去のデータベースから類似したものを用いる。

・購買行動シミュレーション(Do)

まず、顧客のクラスター分析を行い、需要と合わせて各顧客のエージェントを生成する。顧客が自分の行動特徴に従い、航空券を購入する。最終的に各顧客が航空券を購入するか航空サービスの利用を諦めるかの2つの行動に辿る。すべての顧客行動が終わるまでシミュレーションが続く。

・定量評価(Check)

顧客購買行動シミュレーション結果を、空席数・売上・ロードファクター・クラスター構成・ブッキングカーブ・ギブアップ数の項目で定量評価する。

・マネジメント(Act)

定量評価結果を参考し、航空券の販売戦略調整、座席管理とフライトスケジュールにおけるマネジメントを行い、航空会社の全体収益最大化を図る。

第5章では、航空会社視点のオペレーションマネジメントについて述べる。オペレーションマネジメントは、第3章で述べた航空サービス詳細モデルに基づき、リスケジューリングを考慮して高品質な航空サービスの提供を図る。そのプロセスは、天候不順や機材故障などのイレギュラーを予想し、提案する手法を用いて、各サブサービスにおけるリスケジューリングを行う。その定量結果を参考し、航空サービスのスケジュールを調整する。また実際のイレギュラーが起きた時にも、同様な手法で高品質な航空サービスの提供を図る。提案する手法は、サービスの機能であるフライトやメンテナンス間の時間と場所の制約条件に着目し、フライトリンク候補によってリスケジューリングを表現する。管理者が各サブサービスにフライトリンク候補を追加することで自分の意志決定を表現し、計算機によるネットワーク分析などの支援によって、オペレーションマネジメントを行う。その試行錯誤プロセスのPDCAサイクルは、フライトスケジュールの計画(Plan)、予想・実際のイレギュラーによるリスケジューリング(Do)、定量評価(Check)、マネジメント(Act)によって表現する。

・フライトスケジュールを計画する(Plan)

フライトスケジュールを計画する。但し、本研究ではマネジメントしやすいように、初期入力のフライトスケジュールは過去のデータベースから類似したものを用いる。

・予想・実際のイレギュラーによるリスケジューリング(Do)

まず、イレギュラーの情報を入力する。計画の場合は予想イレギュラーを、当日は実際イレギュラーを用いる。本研究ではフライトやメンテナンス間の時間と場所の制約条件に着目し、リンクによってリスケジューリングを表現する。管理者が各サブサービスにリンクを追加することで自分の意志決定を表現し、計算機によるネットワーク分析により実行可能なフライトスケジュールを作成する。

・定量評価(Check)

リスケジューリング結果を、遅延時間・コスト・顧客満足度の項目で定量評価する。

・マネジメント(Act)

定量評価結果を参考し、フライトスケジュールを調整することで高品質な航空サービスを提供する。

第6章では、本研究の有効性を確認するために、提案した航空サービスモデルに基づく航空サービスマネジメント支援システムのプロトタイプシステムを構築した。これに現実の航空サービスのデータを適用し、提案するレベニューマネジメントやオペレーションマネジメントの手法を用いて、航空サービスのマネジメント過程を示した。またそのマネジメントが有効であることを示した。

第7章では、プロトタイプシステムの実行例により、本研究で提案する航空サービスのモデル化およびマネジメント手法の有効性が示された。しかしながら、航空サービスのモデル化やマネジメントの過程において、管理者の試行錯誤による作業が少なくないことから、管理者の行動も考慮した航空サービスモデルが望ましい。今後の展望として、ロバストな航空サービスの設計が期待される。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、一般的なサービスモデルの概念に基づき、航空サービスが関わる各要素と要素間の関係を整理し、航空サービスのモデル化を提案している。さらに、コスト削減や収益最大化、高品質な航空サービスの提供を目的とした航空サービスマネジメントの手法を具体的に提案している。本論文は全7章で構成されている。

第1章では、航空サービスとそのマネジメントの現状を分析し、本研究の用件を整理し、研究目的とアプローチについて述べている。

第2章では、航空サービスのモデル化、航空サービスマネジメントの関連研究について整理している。航空サービスを構成する各サブサービスが複雑に絡み合っているため、各サブサービス間の整合性の確保や情報の伝達を考慮する必要性を指摘し、計算機が理解でき、管理可能なグラフモデルで記述することで、計算機支援によりサービスモデルに基づく定量的なシミュレーション、分析評価を可能とすることを提案している。航空サービスを統合的なサービスモデルで表現することによって、航空サービスマネジメントに関する各視点の既存研究を統合したモデルを提案している。

第3章では、本研究で提案する航空サービスマネジメントシステムについて述べている。サービスモデルの観点から、本研究のベースとなっている航空サービスを提供者である航空会社と受給者である顧客によって定義し、基本モデルのモデル化を検討している。また航空会社の要素をブレイクダウンし、航空サービスを輸送サービス、運航サービス、整備サービスの3つのサブサービスに分け、各サブサービスにおける要素を整理し、モデル化を提案している。またサブサービス間の関係を整理することによって、3つのサブサービスの共通要素である航空機材を通して、各サブサービス間の整合性を確保し、本研究における航空サービス詳細モデルを表現している。次に、航空サービスモデルを計算機が理解かつ管理可能な情報モデルに落とし込み、多視点による航空サービスマネジメント支援システムを構築している。支援システムでは、必要な視点に応じて、航空サービスモデルから、要素を取り出し、ビューを構成しマネジメントすることができることを示している。最後に航空サービスモデルと航空サービスマネジメントとの関連性を示し、航空サービスマネジメントシステムを用いた航空サービスマネジメントについて述べている。

第4章では、顧客視点のレベニューマネジメントについて述べている。第3章で述べた航空サービス基本モデルに基づき、需要予測による収益の最大化を図ることができるレベニューマネジメントを提案している。顧客の行動特徴に着目して、行動特徴によって顧客の意思決定プロセスを表現し、顧客の行動特徴に基づく購買行動シミュレーションの定量結果を参照しながら、航空券販売戦略変更・座席管理・フライトスケジュール調整によって表現されるマネジメント手法と支援システムを提案している。

第5章では、航空会社視点のオペレーションマネジメントについて述べている。第3章で述べた航空サービス詳細モデルに基づき、リスケジューリングを考慮して高品質な航空サービスを提供できるオペレーションマネジメントを提案している。具体的には、天候不順や機材故障などのイレギュラーを予想し、提案する手法を用いて、各サブサービスにおけるリスケジューリングを行うプロセスを整理し、コストや顧客満足度などの定量値を参照し、航空サービスのスケジュールを調整する手法である。この手法を実現化するために、サービスの機能であるフライトやメンテナンス間の時間と場所の制約条件に着目し、フライトやメンテナンスから構成されるネットワークに対してフライトリンク候補を指定し、ネットワーク分析手法を活用したリスケジューリング手法をモデル化している。

第6章では、本研究の有効性を確認するために、提案した航空サービスモデルに基づく航空サービスマネジメント支援システムのプロトタイプシステムに関して述べている。これに現実の航空サービスのデータを適用し、提案するレベニューマネジメントやオペレーションマネジメントの手法を用いて、航空サービスのマネジメント過程を具体的に示している。同時に、提案のマネジメントが有効であることを議論している。

第7章では、本論文の結論を述べており、プロトタイプシステムの実行例を踏まえて、本研究で提案する航空サービスのモデル化およびマネジメント手法の有効性を議論している。航空サービス自体のモデル、及びそのマネジメント業務の整理に基づくモデル化によって航空サービスが体系的に整理されている。その整理に基づき航空サービスのマネジメントを支援するシステムが構築可能であることが具体的に示されている。これらの研究成果は、高品質な航空サービスの設計を展開する上で貴重な示唆を与える論文として評価できる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク