No | 128673 | |
著者(漢字) | 金,昊俊 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | キム,ホジュン | |
標題(和) | 高密度スペクトラムセンシングの設計と実装に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 128673 | |
報告番号 | 甲28673 | |
学位授与日 | 2012.09.27 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7847号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気系工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年,無線通信デバイスの急増により,周波数の逼迫が懸念されている.その一方で,割り当てられているものの,効率的に利用されてない周波数帯が多く存在するという指摘がある.周波数資源の有効利用に向けては,周波数の再割り当てやダイナミックスペクトラムアクセス (DSA)の導入が考えられている.周波数の再割り当てやDSAを効率的に導入するには,周波数の利用状況を把握する必要がある. これに向け,本論文では,広帯域にわたり長時間・高密度で周波数の利用状況を測定する高密度スペクトラムセンシングの設計と実装を示す.高密度スペクトラムセンシングでは,多数のスペクトラムセンサを分散配置することで,複数地点での同時測定が可能となる. 高密度スペクトラムセンシングに向けての本論文の貢献は3つである.1つ目は,センサの高密度配置に向け,低コストスペクトラムセンサの設計と実装を行い,その有効性を示したことである.2つ目は,ハードウェアコストの増大なしに,必要な周波数分解能を確保しながら掃引時間を短縮する動的RBW方式を提案し,その有効性を示したことである.3つ目は,設計したスペクトラムセンサを複数台用いて実測実験を行い,実環境において空間的な周波数の利用状況を把握できることを示したことである. 本論文は以下のように構成される. 第1章では,本研究の位置づけ,意義,目的について総括的に述べた後,本論文で示す低コストスペクトラムセンサ,動的RBW方式,そして屋外実験について概要を述べる. 第2章では,高密度スペクトラムセンシングの必要性,全体システム,そして課題について詳述する.従来研究では同時測定を行う地点数が少ないことから,空間的に変化する周波数の利用状況の把握に限界がある.本論文では,空間的に変化する周波数の利用状況の把握に向け,多数のスペクトラムセンサを分散配置する高密度スペクトラムセンシングを示す.高密度スペクトラムセンシングの実現に向けては,センサのコストと測定精度が課題である.従来のスペクトラムセンシングでは高コストなスペクトラムアナライザをセンサとして用いるため,量的拡大が困難であり,同時運用台数は数台程度にとどまっている.一方,スペクトラムセンシングにおいては測定精度も重要である.測定精度はスペクトラムセンサの掃引時間,周波数分解能,そしてノイズフロアに依存する.時間により変化する周波数の利用状況を高い精度で測定するには,掃引時間を短くすることが求められる.掃引時間を短くするには,周波数分解能を決定するRBW (Resolution Band Width)を広く取り,1回の掃引に必要な測定回数を減らすことが有効である.このため,掃引時間と,周波数分解能およびノイズフロアはトレードオフ関係にある. 第3章では,高密度スペクトラムセンシングに向けた低コストスペクトラムセンサの設計を示し,動的RBW方式を提案する.まず,必要な機能とコストを考慮した低コストスペクトラムセンサの設計と実装を示す.スペクトラムセンサは,様々な無線システムを測定するため,多様なRBWを用いて広帯域を測定する機能が求められる.これに向け,本設計では,高周波部品が1チップ化され安価なTVチューナIC,複数のバンドパスフィルタ,そしてMCU (Micro Controller Unit)を用いることで,数百m間隔の配置も想定した,低コストなスペクトラムセンサを実現する.次に,掃引時間と周波数分解能のトレードオフを考慮し,適切な周波数分解能を確保しながら掃引時間の短縮を実現する動的RBW方式を提案する.従来のスペクトラムセンシングでは,RBWを固定するか測定周波数を数個の区間に分けて周期的にRBWを切り替えている.これに対して,動的RBW方式では,掃引中に帯域毎のRBWを動的に可変することで,掃引を高速化する.具体的には,数MHz程度の,広い帯域幅で掃引を始める.掃引中,電波が検出された帯域においては,チャネルの占有帯域幅などを含む周波数の割り当て情報を基に,より狭いRBWに切り替えて測定を行う.その後,狭いRBWを用いる帯域で電波が検出されなくなった場合,再度広いRBWに切り替える.なお,掃引時間とノイズフロアのトレードオフ関係に関しては,高密度に分散配置されたセンサの協調センシングを用いて解決する. 第4章では,設計した低コストスペクトラムセンサと,動的RBW方式の有効性の評価を示す.まず,設計したスペクトラムセンサの実験評価を行った結果,信号測定の精度は市販の高性能なスペクトラムアナライザより劣るものの,周波数確度,最大入力レベル,ノイズフロア,そして掃引時間などから,高密度スペクトラムセンシングに向けては有効利用できることが示される.次に,周波数が占有された時間の割合を意味する占有率を測定,市販のスペクトラムアナライザと比較する.本センサは,周波数の利用状況が変化する帯域においては,占有率の測定精度が落ちるものの,RBWを可変し掃引時間を高速化する動的RBW方式を用いることで,測定精度を向上できる.時間的に利用状況が変化する帯域の測定精度を向上させる動的RBW方式の有効性を示すために,散発的な電波の発射が行われる帯域に対して,異なるRBWで占有率を測定する.その結果,チャネルの占有帯域幅が広い帯域ではRBWを広く取ることで,占有率の測定精度が向上できることが示される. 第5章では,設計した複数台のスペクトラムセンサを用いて実測実験を行う.具体的には,設計した低コストスペクトラムセンサ8台を東京都内へ分散配置し,ウェブ上でコマンドの設定や収集命令を可能にする.このような同時多地点測定の実験を行うことで,本システムを用いて,実環境における周波数の利用状況が場所によって異なることを確認できることを示す.また,実測実験の結果から,周辺のセンサからの測定データを共有することで,RBWを広く取ることによるノイズフロア増加の影響を最小化し,動的RBW方式を実現できることを述べる. 第6章では,本研究の成果についてまとめる. | |
審査要旨 | 本論文は,「高密度スペクトラムセンシングの設計と実装に関する研究」と題し,周波数の利用状況の高密度測定に関して論じたものである.高密度測定を実現する低コストスペクトラムセンサの設計と,時間的に変化する信号の測定精度を向上する動的RBW (Resolution Band Width)方式とを論じた後.空間的な周波数の利用状況を屋外実験で評価している. 第1章は序論であり,本研究の位置づけ,意義,目的について述べている.高密度スペクトラムセンシングにおけるセンサの低コスト化と掃引時間の短縮の重要性について述べ,本論文の構成と各章の目的を示している. 第2章では,空間的に変化する周波数の利用状況の把握に向けての従来研究を示し,本研究の位置づけを明確にしている.本研究は,スペクトラムセンサを高密度に配置し同時測定を行うもので,低コストスペクトラムセンサの設計とともに,時間的に変化する信号の測定精度の向上のために掃引時間の短縮が必要であることを述べている.また,テレビ帯域以外でのホワイトスペースの利用可能性を明らかにするためには,高密度スペクトラムセンシングによる周波数利用状況の時空間分析が必要となることをも述べている. 第3章では,高密度スペクトラムセンシングに向けたスペクトラムセンサの低コスト化と,動的RBW方式とを示している.まず,必要な機能とコストを考慮した低コストスペクトラムセンサの設計と実装を示している.本センサに必要な機能は広帯域にわたる電力測定であり,高周波部品が1チップ化されたTVチューナICを用いて実現していることが特徴である.設計したスペクトラムセンサの周波数確度,最大入力レベル,ノイズフロア,掃引時間の信号測定精度の実験評価を行い,電波の有無を判断する目的に有効であることを示している.次に,掃引時間と周波数分解能のトレードオフを考慮し,適切な周波数分解能を確保しながら掃引時間の短縮を実現する動的RBW方式を示している.動的RBW方式は,電波の有無の測定結果と周波数の割り当て情報に基づいて,帯域毎のRBWを掃引中に可変にするものである. 第4章では,設計した複数台のスペクトラムセンサを用いて実測実験を行っている.具体的には,設計した低コストスペクトラムセンサ7台を東京都内に配置し,ウェブ上でコマンドの設定や収集命令を可能にしている.このような同時多地点測定の実験を行うことで,実環境における周波数の利用状況の空間的な変動を測定できることを示している.また,テレビ帯域以外の帯域における空間的,時間的な周波数利用状況を測定し,テレビ帯域以外の帯域においてもホワイトスペースが利用できる可能性を示唆している. 第5章は論文全体を総括しており,本論文の成果をまとめるとともに,高密度スペクトラムセンシングのスケーラビリティについての課題,および今後の研究の方向性について述べている. 以上,これを要するに,本論文はスペクトラムセンシングにおいて高密度かつ高精度な測定を実現するためのスペクトラムセンサの設計と動的RBW方式の提案を行い,屋外実測実験を通して高密度スペクトラムセンシングの有効性を実証したものであり,電子情報工学上寄与するところが少なくない. よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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