学位論文要旨



No 128697
著者(漢字) 荻野,晴之
著者(英字)
著者(カナ) オギノ,ハルユキ
標題(和) 平常時および緊急時における放射性表面汚染の放射線防護体系に関する研究
標題(洋) Studies on Radiation Protection Systems for Radioactive Surface Contamination Under Normal and Emergency Conditions
報告番号 128697
報告番号 甲28697
学位授与日 2012.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博士第7871号
研究科 工学系研究科
専攻 原子力国際専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 小佐古,敏荘
 東京大学 教授 上坂,充
 東京大学 教授 高橋,浩之
 東京大学 准教授 飯本,武志
 日本原子力研究開発機構 次長 大越,実
内容要旨 要旨を表示する

原子力エネルギー利用の発展に伴い、表面汚染物の取扱いの重要性が増しているが、放射線学的な位置付けは必ずしも明確にされていない。

本研究は、「平常時および緊急時における放射性表面汚染の放射線防護体系に関する研究」と題し、平常時の原子力施設等における物品搬出基準と、福島原子力発電所事故後の緊急時に講じられた除染スクリーニング基準について、放射線防護体系における位置付けを論じた。そのための手法として、確率論的手法を適用した独自の表面汚染被ばく線量評価手法を開発し、表面汚染クリアランスレベルを核種別に計算した。また、発電用軽水炉の代表的な表面汚染物の核種組成比を用いて相対重要度を評価し、実用的なクリアランス判断方法に関する提言を行った。さらに同手法を用いて、除染スクリーニング基準に相当する被ばく線量を評価し、介入免除レベル以下に相当することを明らかとした。

上記の成果により、平常時および緊急時における表面汚染基準の放射線防護体系における位置付けが明確化され、今後のより合理的な放射線防護体系の発展に貢献することが期待できる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、放射性表面汚染に対して極小のリスクマネジメントの考え方を展開し、平常時の原子力施設における物品搬出と緊急時の除染スクリーニングについて放射線防護体系における位置付けを放射線学的に論じることを目的とした論文である。それに対応して確率論的手法を適用した独自の表面汚染被ばく線量評価手法を開発し、合理的な表面汚染クリアランスレベルの提案と、福島事故後に講じられた除染スクリーニングレベルの検証を達成している。

第一章では、放射線防護基準策定に係る国際機関の活動、極小のリスクマネジメントである免除やクリアランスの考え方、福島第一発電所事故後の現況をそれぞれまとめた。結果、最新の放射線防護の知見を反映した表面汚染基準の設定の必要性をふまえ研究の目的を設定している。

第二章では、国際放射線防護委員会が勧告した放射線防護の原則を基軸に、低線量放射線被ばくに対するリスクマネジメントの考え方を展開した。さらに、国際原子力機関が示した安全基準の国内関連法令への取り入れ状況を示した。体積汚染については最新の科学的知見を反映した放射線防護体系が導入されたものの、放射性表面汚染については従前のまま放置され検討が未成熟であるという問題点を指摘した。

第三章では、現行の表面汚染基準の根拠とされている、1960年代に考えられ適用されたフェアバーンモデルの問題点を明らかにした。それに対応する最新の放射線防護の知見を反映した表面汚染クリアランスレベル算出の必要性を示した。また、原子力施設における日常的な物品搬出を取り上げ、表面汚染クリアランスの概念適用の有用性、成立性を示した。

第四章では、決定論的線量評価手法を独自に開発し、表面汚染クリアランスレベルを導出しそれを提示した。第1節では、線量規準、被ばくシナリオ、核種選定、線量評価方法を示した。第2節では、総放射能量でクリアランスを判断する実用的な新たな方法を示した。第3節では、確率論的手法を適用し、表面汚染クリアランスレベルの算出に用いる被ばくシナリオやパラメータ設定の妥当性を検討し検証した。第4節では、日本における典型的な沸騰水型(BWR)、加圧水型(PWR)、ガス冷却炉(GCR)の各原子力発電所から発生する表面汚染物の核種組成比を用いて、表面汚染クリアランスの判断に用いる評価対象核種の選定方法を論じた。γ線を放出する核種を測定することで他の核種の推定を行い、全体として表面汚染クリアランスを判断することが可能であることを実用的に示した。

第五章では、緊急時における放射性表面汚染の除染スクリーニング基準について論じた。具体例として、福島第一発電所事故後に講じられた除染スクリーニングレベルの妥当性を放射線学的に検証した。表面汚染サーベイメータのカウント数でのみ与えられた除染スクリーニング基準に相当する表面汚染密度の妥当性について検討した。放射性ヨウ素と放射性セシウムの存在比を代表的な5ケースとし、表面汚染物や人体に直接沈着した放射性物質からの被ばく線量を独自の線量評価手法によって評価した。その結果、除染スクリーニング基準に相当する皮膚汚染が継続したとしても、皮膚は確定的影響の発生からは十分に防護されることが明らかになった。さらに、当該スクリーニング基準では、表面汚染物から受ける全身の年間実効線量が1 mSv以下であり、緊急時の放射線防護体系における介入免除レベル以下に相当することを示した。

第六章では、本研究で得られた成果を以下のように総括した。極小のリスクマネジメントとして提示され考察された免除やクリアランスのようなリスクベースドアプローチと比較すると、放出線種に応じた密度基準である現行の表面汚染基準は再構築の必要がある。本論文で提案した代表的な核種毎の表面汚染クリアランスレベルの算出方式とその結果に基づけば、放射線管理区域からの物品搬出には、新たな概念として表面汚染クリアランスという位置付けを付与できる。福島事故後に測定器の最大カウント数として暫定的に設定された除染スクリーニング基準についても、介入免除レベル以下に相当することが判明した。この種の誘導された実用的なレベル選定は、緊急時における普遍的な放射線防護体系およびリスクマネジメントの観点から、妥当な措置である。

本論文で得られた知見により、平常時および緊急時における表面汚染基準の放射線防護体系における位置付けの明確化が図られ、新たな提言ができた。また、その実場での適用の有効性が検証された。ここでの成果は、今後のより合理的な放射線防護体系の発展に貢献することが期待できる。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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