学位論文要旨



No 128725
著者(漢字) 山田,和範
著者(英字)
著者(カナ) ヤマダ,カズノリ
標題(和) 抗インフルエンザウイルス薬創製に向けた基礎研究
標題(洋)
報告番号 128725
報告番号 甲28725
学位授与日 2012.09.27
学位種別 課程博士
学位種類 博士(生命科学)
学位記番号 博創域第828号
研究科 新領域創成科学研究科
専攻 メディカルゲノム専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 客員教授 間,陽子
 東京大学 教授 渡邉,俊樹
 東京大学 教授 川口,寧
 東京大学 教授 徳永,勝士
 東京大学 准教授 佐藤,均
内容要旨 要旨を表示する

【背景】

インフルエンザウイルスはオルトミクソ科に属するマイナス一本鎖RNAウイルスであり、その抗原性の違いからA, B およびC型に分けられる。特に、A型インフルエンザウイルスは毎年冬期に流行を繰り返し、全世界で約25-50万人の命を奪う。2009年のブタ由来インフルエンザウイルス (H1N1) によるパンデミックは記憶に新しいが、現在は高病原性トリ由来インフルエンザウイルス (H5N1) によるパンデミックの出来が危惧されている。現在のインフルエンザウイルス対策としては、hemagglutinin (HA) 抗体による感染の予防・軽減、およびオセルタミビルとその誘導体によるneuraminidase (NA) の阻害が挙げられる。しかし、これらの標的タンパク質はウイルスの外殻に存在しており、インフルエンザウイルスが発現させる11種類のタンパク質の中でも特に変異を受け易い。事実、抗体は毎年更新する必要があるし、オセルタミビルに対する薬剤耐性株の出現も報告されている。以上のような背景から、変異の起こりにくい作用点をターゲットにした新規阻害薬の開発が渇望されている。

最近、ウイルス内部タンパク質、viral polymeraseの阻害剤であるfavipiravirが、また、nucleoprotein (NP) を阻害する化合物であるnucleozin、FA-2およびmycalamide誘導体が、そしてpolymerase acidic (PA) と polymerase basic 1 (PB1) の阻害剤が開発されている。これらのタンパク質は、ウイルス粒子中でウイルスRNA (vRNA) を安定に保存するviral ribonucleoprotein (vRNP) 複合体の構成タンパク質である。vRNP複合体は、PA, PB1, polymerase basic 2 (PB2) およびNPから構成される。PAは、C末端を介してPB1と結合し、RNPを構成することにより、タンパク質の安定化、宿主mRNAとの結合、およびエンドヌクレアーゼとして機能することが知られているが、詳細な機能については未だ不明な点が多い。また、NPは非常に多機能なタンパク質であり、ウイルス増殖環の多くのステップに関与している。また、X線構造解析にてほぼ全長に近い立体構造が解かれており、創薬のターゲットとして有用である。NPはその立体構造中にtail-loopと呼ばれる突起状の構造を有し、このtail-loopを他のNPのtail-loop結合ポケットに挿入することで多量体を形成する。現在までに、NPの多量体形成を阻害した結果として生じる単量体NPはvRNAの複製活性を示さなくなることが明らかになっている。そこで、本研究ではこのtail-loop結合ポケットを標的に、バーチャル化合物ライブラリを活用したin silicoスクリーニングによって創薬研究を行った。

【方法】

In silicoシミュレーションは、300万個を超える化合物ライブラリZINCよりAutoDock (ver. 3.05) にて行った。In silicoスクリーニングで得られた化合物は、セカンドスクリーニングとしてウイルス株Influenza A/Wilson-Smith N (WSN) /33 (H1N1) をMadin-Darby canine kidney (MDCK) 細胞に感染させてプラークアッセイを行った。細胞毒性試験として、MDCK細胞を用いたwater soluble tetrazolium salt-1 (WST-1) アッセイを行った。化合物の正常な細胞周期およびアポトーシスに与える影響をフローサイトメトリーおよびcaspase-3アッセイにて解析した。化合物のNP多量体形成阻害能は、COS-7細胞にNP/pCAGGSおよびNP-FLAG/pCAGGSを共発現させ、その細胞抽出液、anti-FLAG抗体ビーズおよび化合物 (50 μM) を一晩転倒攪拌後に、NPおよびNP-FLAG複合体を沈降させてSDS-PAGEにて解析した。また、NP-FLAG/pCAGGSを導入したCOS-7細胞の細胞抽出液、anti-FLAG抗体ビーズにて精製したNPおよび化合物 (50 μM) を反応後にHPLCにて解析した。タンパク質および化合物の結合実験は、光親和型固定化法にて化合物を結合させたアガロースビーズによるタンパク質-化合物共沈降法により解析した。化合物の濃度依存的なウイルス阻害効果をinfluenza A/WSN/33 (H1N1), A/Puerto Rico/8/1934 (H1N1), A/Udorn/307/1972 (H3N2), A/Sydney/5/1997 (H3N2), A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007 (H5N1) 株を用いて解析した。ミニゲノムアッセイは、PA/pCAGGS, PB1/pCAGGS, PB2/pCAGGS, NP/pCAGGSおよびvRNA-luciferase/pPOLIを293T細胞に共導入し、48時間後にルシフェラーゼの蛍光を測定した。PAの全長構造のab initio予測はI-TASSER (ver. 1.1) にて、得られた全長構造の構造緩和はcosgene (ver. 4.204) によるmolecular dynamics (MD) 法にて、PA全長構造における化合物結合ポケットの予測はPOCASA (ver. 1.0) にて、NPのtail-loopとPA全長構造のドッキングはZDOCK (ver. 3.02) にて、化合物とPAのドッキングはsievgene (ver. 4.204) にて行った。

【結果・考察】

In silicoスクリーニング・プラークアッセイによるTHC19の同定

300万個の化合物より、既知のインフルエンザウイルス阻害薬、amantadine, oseltamivirおよびribavirinが共通に有するパラメーター (分子量; 150~350 g/mol、 水素結合供与体; 3以下、水素結合受容体; 6以下、XLogP3; -2~4) にて300万個の化合物を約85000個にフィルタリングした。これらの化合物についてNPのtail-loop結合ポケットにおける自由エネルギーをシミュレーションし、結合エネルギーが-11.5 kcal/mol以下の1052化合物を選定した。

次に、結合エネルギーの高い順に340化合物をプラークアッセイにて2次スクリーニングしたところ、プラーク数を約70%以上阻害する7種の化合物を同定した。これらの化合物の細胞毒性能をWST-1アッセイにより解析したところ、THC19のみが細胞毒性を示さなかった。THC19のhalf-maximal cytotoxic concentration (CC50) は200 μM以上であった。次に、MDCK細胞にTHC19を添加して48時間後にフローサイトメトリーおよびcaspase-3アッセイを行った結果、THC19は正常細胞の細胞周期およびアポトーシスに影響を与えないことが示された。さらに、プラークアッセイにて濃度依存的なウイルス阻害効果を解析したところ、プラーク数の減退におけるhalf-maximal inhibitory concentration (IC50) は35.6 μM、形成するプラーク面積におけるIC50は41.1 μMであった。

THC19とNPの相互作用解析

THC19によるNPの多量体形成阻害能の有無を解析した。まず、NP/pCAGGSおよびNP-FLAG/pCAGGS発現ベクターを共導入したCOS-7細胞の細胞抽出液に、THC19 (50 μM) またはDMSO、およびanti-FLAG抗体ビーズを添加して反応させてNPおよびNP-FLAG複合体を沈降させた。沈降したNP-FLAGに対するNPの割合は、THC19添加群およびコントロール群において差異が認められなかった。次に、HPLCにより解析した。HPLC 解析において、NP (4 μM) は溶液中で9量体または10量体、および単量体のスペクトルを示した。そこに、THC19 (50 μM) を添加してもスペクトルは変化しなかった。以上の2つの結果から、THC19はNPの多量体形成を阻害しないことが示された。

続いて、NPとTHC19との結合をTHC19ビーズにより解析した。THC19ビーズに精製NPを反応させ沈降後にSDS-PAGEで解析した結果、THC19ビーズによってNPの沈降が起こらなかった事から、THC19はNPに結合しないことが示唆された。

以上の結果から、THC19の作用点はNPではないことが示された。

THC19とその誘導体の様々な株におけるウイルス阻害能の解析

THC19のA/Puerto Rico/8/1934 (H1N1), A/Udorn/307/1972 (H3N2), A/Sydney/5/1997 (H3N2), A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007 (H5N1) におけるIC50を解析した。THC19のA/ Puerto Rico /8/1934 (H1N1), A/Sydney/5/1997 (H3N2), A/duck/Hokkaido/Vac-3/2007 (H5N1) に対するIC50は、それぞれ30.7, 44.7および39.8 μMであった。一方、A/Udorn/307/1972 (H3N2) に対しては、90 μMでもウイルス阻害効果を示さなかった。次に、合計10個の種誘導体を作製し、ウイルス阻害効果を解析したが、THC19よりウイルス阻害能の高い化合物は得られなかった。一方、THC19構造中における1,2,3,4-tetrahydrocarbazole環への置換基の導入は化合物のウイルス阻害効果を下げること、また、propyl piperidine側鎖への置換基の導入で化合物の毒性が上昇することが明らかになった。

THC19の作用点の解析

THC19の作用点の解析を行った。まず、ウイルス感染後の異なる時間にTHC19を添加して、感染12時間後に回収したウイルスの増殖能をプラークアッセイにて調べた。THC19を添加する時間がウイルス接種後0-2時間の場合に最も顕著にウイルス増殖を阻害した。以上から、THC19はウイルス再集合や出芽の段階ではなく、ウイルス増殖環における比較的早い段階に作用点を持つことが明らかになった。

ミニゲノムアッセイにて、THC19のウイルスRNAの転写複製活性阻害能を解析したところ、THC19は濃度依存的にルシフェラーゼ活性を低下させた。以上より、THC19の作用点は、感染初期であり、インフルエンザウイルスの転写複製活性に関わるコンポーネント、PA, PB1, PB2, NP、であることが示唆された。

THC19の耐性株A/Udorn/307/1972 (H3N2) とIC50が35.6 μMを示したA/WSN/33 (H1N1) のRNP複合体の4つのコンポーネントPA, PB1, PB2, NPを交換してミニゲノムアッセイを行った (図1)。その結果、A/Udorn/307/1972 (H3N2) をバッググラウンドにPAのみをA/WSN/33 (H1N1) 由来のものに交換した場合にのみ、全てのコンポーネントがA/WSN/33 (H1N1) 由来の場合と同程度までルシフェラーゼ活性が低下した。以上の結果より、THC19の作用点は転写複製に関わる4つのコンポーネントの中のPAであることが明らかとなった。

シミュレーションを活用したTHC19とPAの相互作用解析

そこで、THC19のPA構造中における作用部位をin silicoシミュレーションにて解析した。現在までに、PAの全長構造が解明されていないため、I-TASSERにて、PAの全長構造の予測を行った。I-TASSERはタンパク質の一次構造よりab initioにて三次構造を予測できるツールであり、critical assessment of protein structure prediction (CASP) 10にて最も優れた構造予測能を示している。のI-TASSERにより予測した構造候補は現在までに解かれているPA構造 (PDB ID; 2W69, PDB ID; 2ZNL) を正確にサンプリングしていた (図2A)。次に、本構造をMD法にて構造緩和した後に、POCASAにて化合物の結合ポケットの予測を行ったところ、T123, P265, Y393, N412, E692を中心としたポケット構造を得た (図2B)。さらに、本研究における本来のスクリーニングターゲットであったNPのtail-loop と予測したPA全長構造とのタンパク質間におけるドッキングをZDOCKにて行った。その結果、tail-loopは前述のPA構造中のE692を中心とした化合物結合ポケットとドッキングした (図2C)。そこで、当ポケットにおけるTHC19のドッキング (図2D)による結合エネルギーとNPのtail-loop結合ポケットにおけるTHC19のドッキングによる結合エネルギーを比較した。Sievgeneにてドッキングを行ったが、PAの予測結合ポケットとTHC19との結合エネルギーが-3.18 kcal/mol、NPのtail-loop結合ポケットとTHC19との結合エネルギーが-2.85 kcal/molと算出された。以上の結果は、THC19は、NPのtail-loop結合ポケットより、PAのE692を中心とした予測結合ポケットに、より強く結合することを示している。

以上のシミュレーション解析より、PAの全長構造中に、本研究の当初のターゲットであったNPのtail-loop結合ポケットに非常に類似した結合ポケットが存在し、それとTHC19との結合レベルは、NPのポケットより強いという可能性が示された。

【総括】

300万を超える化合物ライブラリから、in silicoスクリーニングにてウイルス阻害効果を有する化合物THC19を同定した。ミニゲノムアッセイ、化合物添加時間の差を利用したプラークアッセイ、コンポーネントをスワップしたミニゲノムアッセイ等の解析を行うことで、THC19のウイルス阻害効果のターゲットはNPではなく、PAであることが明らかになった。この結果は、ab initio構造予測法にて得られたPAの全長構造を用いたシミュレーション解析によっても裏付けられた。即ち、PAにはNPの結合ポケットに似た構造が存在する可能性があることが初めて示された。今後は、本研究で予測されたPAの全長構造に対する最適化研究によりウイルス阻害効果が優れた誘導体の取得、それとPAとの結合を実際の結合実験により立証する予定である。さらに、NPなどのウイルスタンパク質と比較して、PAの機能は未だ不明な点が多いため、THC19はPAの機能を解明する有用なツールとなり得ることが期待される。

図1.コンポーネントを交換したミニゲノムアッセイ

□; コントロール群 (DMSO) ■; THC19添加群 (40 μM)

図2.A. PAの予測構造、B.予測結合ポケット、

C. NPのTail-loopとのドッキング、D. THC19とのドッキング

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、インフルエンザウイルスに対する創薬研究について述べられている。

インフルエンザウイルスは再興感染症として注目されている人畜共通感染症である。2009年には、新型H1N1インフルエンザウイルスが発生し社会的大問題となり、また、H5N1高病原性鳥インフルエンザウイルス由来の新型インフルエンザウイルス出現が、国際的に大きく懸念されている。しかし、インフルエンザウイルスはその変異の速さから、主な予防・治療法であるワクチンの効力が完全とはいえず、また、既存の抗インフルエンザ薬はウイルス粒子表面の蛋白質であるM2およびノイラミニダーゼを標的にしているため、耐性ウイルスが生じ易いという欠点を持っている。そこで、変異の起こりにくい作用点をターゲットにした新規阻害薬の開発が渇望されている。そこで本研究では、表面抗原と異なり変異が起こりにくいインフルエンザウイルスの中でも高度に保存されている内部タンパクNucleoprotein (NP)に着目した。NPはその立体構造中にtail-loopと呼ばれる突起状の構造を有し、このtail-loopを他のNPのtail-loop結合ポケットに挿入することで多量体を形成する。現在までに、NPの多量体形成を阻害した結果生じる単量体NPはvRNAの複製活性を示さなくなることが明らかになっている。そこで、本研究ではこのtail-loop結合ポケットを標的に、in silicoスクリーニングを行い、インフルエンザウイルス阻害能を持つ化合物の獲得を目指した。

300万を超える化合物ライブラリから、AutoDock (version. 3.05) を用いたin silicoシミュレーションにより、NPのtail-loop結合ポケットに高い結合エネルギーを有する1052化合物を選定した。次に、結合エネルギーの高い順に336化合物をプラークアッセイにて2次スクリーニングしたところ、プラーク数を約70%以上阻害する7種の化合物を同定した。これらの化合物の細胞毒性能をWST-1アッセイにより解析したところ、THC19のみが細胞毒性を示さなかった。No.19のHalf-maximal cytotoxic concentration (CC50) は200 μM以上であった。続いて、MDCK細胞にNo.19を添加して48時間後にフローサイトメトリーおよびcaspase-3アッセイを行った結果、No.19は正常細胞の細胞周期およびアポトーシスに影響を与えないことが示された。さらに、プラークアッセイによりNo.19は濃度依存的にウイルス増殖能を阻害することを明らかにした。プラーク数の減退におけるHalf-maximal inhibitory concentration (IC50) は35.6 μM、形成するプラーク面積におけるIC50は41.1 μMであった。本化合物、1-(3,4-dihydro-1H-carbazol-9 (2H)-yl)-3-(piperidin-1-yl) propan-2-olは1,2,3,4-tetrahydrocarbazole piperidineの誘導体であるため、THC19と名付けた。

THC19がNPの多量体形成能を阻害するかを解析した。まず、NP/pCAGGSおよびNP-Flag/pCAGGS発現ベクターを共導入したCOS-7細胞の細胞抽出液に、THC19 またはDMSO、およびanti-Flag抗体ビーズを添加して反応させてNPおよびNP-Flag複合体を沈降させた。沈降したNP-Flagに対するNPの割合は、THC19添加群およびコントロール群において差異が認められなかった。次に、HPLCにより解析した。HPLC 解析において、NPは溶液中で9量体または10量体、および単量体のスペクトルを示すが、THC19 を添加してもスペクトルは変化しなかった。以上の2つの結果から、THC19はNPの多量体形成を阻害しない可能性が示された。続いて、NPとTHC19との結合をTHC19ビーズにより確認した。THC19ビーズに精製NPを反応させ沈降後にSDS-PAGEで解析した結果、THC19ビーズによってNPの沈降が起こらなかった事から、THC19はNPに結合しないことが示唆された。以上の結果から、THC19の作用点はNPではないことが示された。

THC19の作用点の解析へと進んだ。まず、化合物添加時間の差を利用したプラークアッセイにてTHC19のウイルス増殖阻害はウイルス生活環における比較的早期の段階で起こっていることが明らかとなった。そこで、感染初期におこる転写活性を測定するミニゲノムアッセイを行ったところ、THC19は濃度依存的にウイルスの転写・複製能を阻害した。以上より、THC19の作用点は、感染初期であり、インフルエンザウイルスの転写複製活性に関わるコンポーネント、PA, PB1, PB2またはNPであることが示唆された。続いて、THC19の耐性株A/Udorn/307/1972 (H3N2) とIC50が35.6 μMを示したA/WSN/33 (H1N1) のRNP複合体の4つのコンポーネントPA, PB1, PB2, NPを交換してミニゲノムアッセイを行った。その結果、THC19のウイルス阻害効果の標的はNPではなく、polymerase acidic (PA) であることが明らかになった。

NPを標的にしてスクリーニングをしたにもかかわらずPAの阻害薬が取得された理由をin silicoシミュレーションにて追求した。まず、ab initio構造予測法にて未同定のPAの全長構造を計算した。この予測構造中における化合物結合ポケットを予測し、さらにドッキングスコアを計算して、THC19が結合する可能性が高い部位を絞り込んだ。続いて、THC19とNPのtail-loopとのドッキングシミュレーションを行ない、THC19のドッキングスコアとNPのtail-loop結合ポケットに対するそれを比較したところ、THC19はNPよりPAにより強く結合することが示された。また、THC19の誘導体を用いた実際の感染阻害実験によるウイルス増殖阻害能とドッキングシミュレーションによるPAとの結合スコアもよく一致した。以上の結果から、PAにはNPの結合ポケットに似た構造が存在し、その部位にTHC19が結合している可能性が示された。PAに対する阻害剤は数少なく、また、PA自体の機能は未だ完全には解明されていない為、THC19はPAの機能を探る為の、更にはウイルス阻害に向けた基礎研究を進める為の有用な研究上のツールになり得ると考えられる。

なお、本論文は、古山浩子、萩原恭二、上田敦史、佐々木裕、金刺進之介、上野竜樹、中村寛則、桑田一夫、清水一史、鈴木正昭、間陽子との共同研究であるが、論文提出者が主体となって分析及び検証を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(生命科学)の学位を授与できると認める。

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