学位論文要旨



No 128779
著者(漢字) 李,嘉碧
著者(英字) LEE,Ka-Pik
著者(カナ) リ,カピック
標題(和) スーパーカミオカンデで観測された大気ニュートリノのデータを用いたニュートリノの質量階層性の研究
標題(洋) Study of the neutrino mass hierarchy with the atmospheric neutrino data observed in Super-Kamiokande
報告番号 128779
報告番号 甲28779
学位授与日 2012.11.26
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5888号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 横山,順一
 東京大学 教授 齋藤,直人
 東京大学 准教授 大谷,航
 東京大学 准教授 伊部,昌宏
 東京大学 教授 駒宮,幸男
内容要旨 要旨を表示する

This thesis presents the full three flavor neutrino oscillation analysis carried out with Super-Kamiokande atmospheric neutrino data in order to obtain information on the mass hierarchy for the first time. The entire set of oscillation parameters, which include two mass differences Δm2(12) and Δm2(32), three mixing angles θ(12), θ(23), θ(13), and the CP phase parameter δCP, and the mass hierarchies are considered. This is the first study to probe the mass hierarchy with neutrino and anti-neutrino enriched event samples from the Super-Kamiokande atmospheric neutrino data.

Super-Kamiokande is a 50 kton water Cherenkov detector which started taking data since 1996. All the observed data of atmospheric neutrino through running periods SK-I, SK-II, SK-III and SK-IV collected from 1996 to 2012 are used in this analysis.

Data selection is summarized in this thesis. The separation of neutrino and anti-neutrino enriched samples with likelihood method is also presented.

Sensitivity study shows that the newly developed neutrino and anti-neutrino enriched samples help to improve the sensitivity on mass hierarchy and other oscillation parameters. The analysis are carried out for both cases of free θ(13) and fixed θ(13). In case of fixed θ(13), inverted hierarchy is slightly favoured with significance Δχ2 (=χ2 (min) (NH) - χ2 (min) (IH)) of 1.2, which is still low to draw a conclusion for the mass hierarchy. It is expected that the mass hierarchy can be constrained with atmospheric neutrinos with longer exposure time or larger detector size in future experiments.

審査要旨 要旨を表示する

ニュートリノが有限の質量を持ち、世代間混合が起こっているということは、わが国が誇る偉大な実験的発見である。次なる課題は、各世代のニュートリノ質量の値と世代間の混合角を実験的に決定することである。そのためにニュートリノ振動のさまざまな解析がこれまでなされてきた。本論文は、なかでも3世代のニュートリノ振動を全て取り入れ、大気ニュートリノのニュートリノイベントと反ニュートリノイベントを弁別した世界で最初の研究である。

本論文は7章からなり、各章の構成は以下の通りである。

第1章はイントロダクションであり、ニュートリノ振動の理論的基礎と太陽ニュートリノ、大気ニュートリノ、原子炉ニュートリノのこれまでの観測結果が、ニュートリノ振動のパラメタ、すなわち質量自乗の差と混合角への制限としてまとめられている。第2章では本論文で使用したスーパーカミオカンデ検出器の作動原理と概要が述べられている。第3章は本論文が検出対象としている、宇宙線を起源とする大気ニュートリノのフラックスの推定と検出器のニュートリノ検出数のシミュレーション結果の報告に宛てられている。第4章では検出器のゲインとエネルギーの校正が詳細に述べられている。そして、第5章では、観測データからいかにしてバックグラウンドを除き、所期のニュートリノイベントだけを取り出すかについて、述べられている。ここまではスーパーカミオカンデ検出器の長い歴史の上に立った記述である。

第6章において、いよいよ本論文の真骨頂であるニュートリノ振動の解析が述べられている。まずGeV以下とそれ以上のエネルギーのイベントに分類し、後者についてはニュートリノイベントと反ニュートリノイベントを弁別する新解析が詳細に述べられている。ニュートリノイベントの方が反ニュートリノイベントよりもチェレンコフ光のリングの数や崩壊電子の数が多いことから識別可能なのである。また、系等誤差についてもこれまで使われていたものを慎重に再検討し、一部についてはこれをアップデートした。

ニュートリノ振動のパラメタとしては、各世代の質量が、荷電レプトン同様世代を追うごとに増加する順階層の場合と、逆転が見られる逆階層の場合の双方について解析を行った。

結果としては、逆階層の場合の方が順階層の場合よりもχ自乗にして1.2だけ良い値を取ること、混合角θ23については他の実験と整合的な結果を得たこと、CP破れの角度については有意な結果が得られなかったことが結論された。この結果は、スーパーカミオカンデ検出器では十分な結果は得られないが、今後ハイパーカミオカンデのようなより大きな検出器が実現した暁には、本論文で開発された方法を用いることにより、ニュートリノ質量に対し、さらなる情報が得られることを意味するものである。

なお、本論文の内容は今後共同研究として刊行されるが、論文提出者が中心となって行ったものであり、本委員会は同人の貢献を大と認めた。

さらに、本学博士に相応しい学識を持っているかを口頭にて試問したが、その結果審査員全員一致にて合格と認定した。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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