学位論文要旨



No 128787
著者(漢字) アリ,デラクシャニ
著者(英字)
著者(カナ) アリ,デラクシャニ
標題(和) 複雑形状をした埋設配管と地盤との動的相互作用に関する模型振動実験
標題(洋) Shaking Model Tests on Interaction between Soil and Embedded Lifelines of Complex Geometry
報告番号 128787
報告番号 甲28787
学位授与日 2012.12.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7887号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 東畑,郁生
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 教授 塩原,等
 東京大学 准教授 市村,強
 東京大学 准教授 内村,太郎
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、地下駅や重要施設の埋設ライフラインの耐震性の研究を目的として、模型を用いた振動台実験を行い、その結果を考察したものである。砂質の模型地盤中に直線、エルボー(曲がり)、分岐管など様々な形状の管模型を埋設し、さらに近傍に重量構造物を設置し、地盤と構造物の相互作用を考察した。結果によれば、管の最大曲げモーメントは剛性の大きい接続部の近傍で発生するのに対し、管と地盤との相互作用力(土圧)は、管の自由端に近づいた地点で発生する。また応答変位法で使われる地盤バネ係数は、地版のひずみの依存するとともに、比較的微小なひずみ領域では、周波数にも依存することが見出された。また重量構造物近傍では、その縁端部の近くで大きな管変形が生ずることが見出された。これらは地中管の配置計画において安全性の考慮に有意義な知見である。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、"Shaking model tests on interaction between soil and embedded lifelines of complex geometry"と題し、地盤耐震工學における災害軽減技術の開発を目的とした研究の報告である。その内容は、砂質地盤模型中にさまざまな配置形状の埋設管を設置し、これを振動台で加振し、管に発生する変形や曲げモーメント、地盤と管との間の動的相互作用力を計測し、それらの分布や大小を考察しようとするものである。従来の耐震設計では、地中構造物と地盤とを仮想的なバネで接続し、バネの支点に地震動に相当する強制変位を入力して地中構造物の応答を検証する手法(応答変位法)が使われてきた。ただバネの定数はきわめて経験的な方法で決定されており、実際との関係は不明なままであった。この点を考慮して本研究では、バネの性質と管の配置形状(直線、曲がり、分岐など)との関係をも考究した。

本論文は6章からなっている。以下に、それぞれの内容を説明する。

第1章は、研究の目的と位置づけを簡潔に説明している。

第2章は、都市の地下トンネルなどにおいて過去に発生した地震被害、そして現象論的解釈や設計における地震作用の取り扱いをまとめている。

第3章は、模型実験の実施方法についての説明である。模型実験の諸元を記述しているほか、相似則を引用して、この模型に対応する実構造物とはどのようなものなのか、についても触れた。ただし実験として有意義なデータを取得することが第一の目的であるため、実構造物の諸元について複雑な議論を行うことには意味が少ない。模型が実物に比べて小型であることは、次のような方法で考慮に入れた。まず振動が13ヘルツを主としており、実地震より時間スケールを短くしている。また砂地盤を実際よりゆる詰めで造り、低応力下でも実地盤と同様のダイレイタンシー特性を備えるようにした。これらに対して加速度のレベルは実地震と同じであり、地盤の受けるダメージを等価とした。地中に重量構造物を設置する実験ではコンクリート塊を準備し、これと砂地盤との間の摩擦係数も測定した。管の材料としては、研究の前半ではPVC(塩ビ)管をソケット接合して使用した。しかしこの管は剛性が高めで振動実験によって発生するひずみが小さく、それを微分して側方土圧を推定することが容易ではなかった。またソケット接合の剛性も不安定であった。そこで後半では、剛性が小さめで可撓性に富み、ガス管に実用されているPE(ポリエチレン)管と溶接継ぎ手を採用した。

第4章では、合計21回の振動実験の結果を紹介している。

第5章は、実験結果の考察である。管に生ずる加速度や変位、および曲げモーメントの計測値の考察に加え、曲げモーメントを2階微分して得られるはずの側方土圧の求め方に困難があったことを説明している。具体的には、管周辺の土が管とともに振動することによる付加質量の影響を除去して初めて、妥当な土圧データが得られた。また、一様な地盤に設置した直管にも曲げモーメントが生じる原因について考察し、管の地盤とは剛性や質量密度が異なるため、結果として地盤の応答が不均質になることを挙げている。主な成果を列挙すると、次のようになる。

1)曲げモーメントの最大値発生位置は、必ずしも管長の中央部分ではない。

2)曲管に作用する曲げモーメントは、管の正面に位置する土塊質量、すなわち慣性力の大小に影響される。

3)管表面の摩擦が大きい場合の方が管軸方向ひずみが小さいのは、大きな摩擦によって地盤と管とが一体となって振動するからであろう。

4)また、管路の途中に剛性の大きい接続部があると、最大曲げモーメントもその近傍で発生する。

5)管と地盤との相互作用力(土圧)は、管の自由端に近づいた地点で最大値となる。

6)応答変位法で使われる地盤バネ係数は、地盤のひずみに依存する。

7)土のひずみが比較的微小なとき、地盤バネ係数は、周波数にも依存する。

8)本研究で使用した重量埋設構造物は、周辺地盤より振動しやすい。するとその近傍は、構造物の慣性力の影響を受けやすく、その縁端部の近くで大きな管変形が生ずる。

これらの実験的知見は、地中管の配置計画において安全性の考慮に有意義である。

第6章は全体の結論および今後の課題である。

以上をまとめると、本論文の研究は、地中構造物の地震時挙動の解明という目的を模型実験という手法によって実施したものであり、地盤耐震工學に新知識を加え、当該學術の発展への貢献が大きい。よって本論文は博士(工學)の學位請求論文として合格と認められる。

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