学位論文要旨



No 128815
著者(漢字) 大平,高之
著者(英字)
著者(カナ) オオヒラ,タカユキ
標題(和) 出芽酵母tRNAにおける序列的な転写後修飾の形成と細胞内輸送に伴う成熟化機構
標題(洋)
報告番号 128815
報告番号 甲28815
学位授与日 2013.02.07
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7891号
研究科 工学系研究科
専攻 化学生命工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 鈴木,勉
 東京大学 教授 菅,裕明
 東京大学 教授 後藤,由季子
 東京大学 准教授 上田,宏
 東京大学 准教授 泊,幸秀
内容要旨 要旨を表示する

【序論】

遺伝子情報をタンパク質へと変換する際にアダプター分子としてはたらくTransfer RNA (tRNA)には転写後に導入された様々なRNA修飾がみられる。これらRNA修飾は、tRNAの立体構造の安定化や、精確なコドン認識、コドン-アンチコドン対合の安定化や翻訳時のフレームシフトの防止、更にはアミノアシルtRNA合成酵素による認識に必要であるなど、様々な働きが知られている。RNA修飾はtRNAの成熟過程において形成されることが知られているが、その詳細な順序や細胞内のどこで形成されるかといったことについては不明瞭な点が多い。tRNAの成熟化は未知の因子を含め多くのタンパク質が関わる複雑な反応であり、tRNAの生合成を解明することは生命の基本原理を理解するための重要な命題である。このような背景から、私は本研究において、出芽酵母tRNA前駆体におけるRNA修飾や末端構造についての詳細な解析を行い、細胞内においてtRNAがどのような経路で成熟化するかを明らかにすることを目的とした。

出芽酵母においてtRNA前駆体(pri-tRNA)は、核内においてRNAポリメラーゼIIIによって転写される(Fig.1)。pri-tRNAの5' 末端leader配列および3' 末端trailer配列は、それぞれRNase PおよびTrz1pによりトリミングされる。次いでCca1pにより、CCA配列が3' 末端に付加され末端が形成される。また、この過程において多数のRNA修飾が導入される。その後、tRNA前駆体は細胞質へと輸送され、細胞質に局在するいくつかの修飾酵素によりさらに修飾が導入される。tRNAのスプライシングはスプライシング装置がミトコンドリア外膜上にあるため、細胞質へ輸送された後に行われる。tRNAのアンチコドン一字目(34位)とその3'隣接塩基(37位)には遺伝暗号の解読に重要な修飾塩基が存在しているが、イントロンは37位と38位の間に挿入されており、これらの修飾が導入されるためには、イントロンが除去される必要がある。したがって、アンチコドンと近傍の修飾塩基は細胞質でイントロンが除去された後に導入される。このようにtRNAは細胞内を移動しながら成熟し、最終的に翻訳装置に用いられると考えられるが、細胞内のどこでどのような順序で修飾が導入されるかについてはほとんど解析がなされていないのが現状である。また、修飾が不完全な前駆体tRNAが翻訳に参加することは翻訳精度の低下を招くことから、最終的に何を以ってtRNAの成熟を認識するかという本質的な問題が残されている。

【本論】

tRNA一次転写産物(pri-tRNA)の解析

RNA修飾についてこれまでに解析された出芽酵母のtRNA前駆体は既に末端が成熟したものに限られ、このとき多くの修飾が形成されていることが示されている。そこで、一次転写産物にあたるpri-tRNAについて、修飾状態の詳細な解析を行った。解析の対象として、イントロンを有するIsoleucine-tRNA (tRNA(Ile)UAU)を選択した(Fig.2)。出芽酵母の野生株から全RNAを抽出した後、そこからtRNAIleUAUに対し相補的な配列を持つDNAプローブを用い、往復循環クロマトグラフィーによる単離を行った。また、pri-tRNAの3'末端に結合することが知られているLhp1pをエピトープタグ融合タンパク質として過剰発現し、Lhp1p-pri-tRNA複合体を免疫沈降法で単離した。精製したpri-tRNAはRNase AあるいはRNase T1で断片化した後、キャピラリー液体クロマトグラフィー質量分析計(LC/MS)により解析した。修飾断片と未修飾断片のそれぞれのシグナルの強度の和を100とし、それに対する修飾断片の割合から、個々のRNA修飾の導入率を求めたところ、直接精製したpri-tRNAとLhp1pと共沈したpri-tRNAのいずれの場合においても、同様の修飾導入率を示した (Table 1)。10位のN2-methylguanosine (m2G)と37位のN6-threonylcarbamoyladenosine (t6A)を除き、他の修飾塩基は検出されたが、修飾導入率は10%程度から99%とばらつきが見られた。47位のdihydrouridine (D)の導入率が最も高く(99%)、次いで54位の5-methyluridine (T)(78.5-83.3%)で、これに対し58位の1-methyladenosine (m1A)は11-14%と低い導入率であった。この結果は、tRNA修飾が転写とカップルして導入されるものと、転写後に導入されるものに分類できることを示している。tRNA修飾は高次構造を安定化する役割を持つことから、転写中あるいは直後の修飾は、pri-tRNAを安定化し、プロセシング効率を上げている、あるいは分解から保護していることが考えられる。

また、pri-tRNAの5'末端について解析を行ったところ、興味深いことに、5'末端が二リン酸のものが最も多く、次いで三リン酸、極微量のトリメチルグアノシン(TMG)キャップ構造を有するものの存在が確認された(Fig.3)。これまでにtRNA前駆体の5'末端が二リン酸体、あるいはキャップ構造を持つといった報告はない。キャップ構造は分解酵素からの保護や細胞内局在の制御に関わることから、成熟過程のtRNA前駆体を分解から保護している、あるいは未知の局在制御機構が成熟化に関与している可能性が考えられる。

tRNAスプライシング中間体の解析

序論で述べたようにスプライシング直後のtRNAのアンチコドン領域は未修飾であると考えられる。スプライシング後にどのような順序でRNA修飾が形成されるかを調べるため、スプライシング中間体を蓄積する出芽酵母SC893株を用いた。この株はTPT1遺伝子を、Gal10プロモーターで発現制御したものである。Tpt1pはtRNAスプライシング反応の最終段階である37位のリボース2'OH基に生じたリン酸基の脱リン酸を触媒する酵素である。この株をグルコース含有培地で培養し、スプライシング中間体を蓄積させた後、全RNAを抽出した。そこからイントロンを有するtRNA前駆体を全10種類単離した後、LC/MSによる解析を行った。その結果、8か所のRNA修飾[32位の3-methylcytidine (m3C)、34位の2'-O-methylcytidine (Cm)及び2'-O-methyl guanosine (Gm)、37位のt6A、N6-isopentenyladenosine (i6A)、N1-methylguanosine (m1G)、wybutosine (yW)、44位の2'-O-methyluridine (Um)]が未形成であることが判明した。この結果は、これらRNA修飾はスプライシング後に形成されること、37位の2'リン酸基により形成を阻害されていることを示す。

核移行を必要とするyWの形成

Phenylalanine-tRNA (tRNA(Phe))の37位に存在するyWは非常に嵩高いRNA修飾で、コドン解読において正確な読み枠の維持に関与する(Fig.4A)。その生合成は核局在のメチレースであるTrm5pによるm1Gの形成に始まり、引き続き細胞質に局在するTYWタンパク質群(Tyw1p, Tyw2p, Tyw3p, Tyw4p)による連続的な反応によって形成されることが当研究室の先行研究により明らかになっている(Fig.4B) 。Trm5pが核局在であること、スプライシング直後のtRNA(Phe)ではyWは未形成であることから、yWの形成にはスプライシング後のtRNA(Phe)が一度核移行する必要があると考えられる。近年、出芽酵母において成熟したtRNAが栄養飢餓ストレス状況下で核に蓄積することや、通常の培養条件で核-細胞質間を行き来していることが示された。私は、この核移行がtRNA前駆体の輸送、つまりyWの生合成に関わっているのではないかと考え、これを実証することにした。まず、栄養飢餓ストレスを利用し、スプライシング後のtRNAを核に蓄積させることで、m1Gを持つtRNAPheの量が増加するかどうかの解析を行った。出芽酵母野生株をSC培地(最少完全培地)で前培養を行い、対数増殖の初期段階でグルコースを含まないSC培地に植え継ぎ、栄養飢餓ストレスを与えた。この細胞から単離したtRNA(Phe)についてLC/MSによる解析を行ったところ、ストレスを1時間与えた時点でm1Gに由来するピークが観測されるようになり、このピークはストレスを与えた時間とともに徐々に増大することが判明した(Fig.5)。また、私は研究の過程で偶然、核内でtRNA前駆体の3'trailer配列を切断する酵素Trz1pとtRNAが強く相互作用することを見出し、核内でTrz1pに結合しているtRNA(Phe)を精製し解析したところ、m1Gに由来するピークが観測された。これら結果は37位のm1G 化にはスプライシング後のtRNA(Phe)の核移行が関与しているという本研究の仮説を強く支持する。

さらにTrm5pによるm1Gの形成が核内で行われていることを実証するため、Trm5pにHIVのRevタンパク質の核外移行シグナル(NES)を付加し強制的に細胞質に局在化するように改変した株(TRM5-NES-GFP)を作成し(Fig.6A)、この株に栄養飢餓ストレスを与え、その時のtRNA(Phe)について解析を行った。その結果、予想通りm1Gを有するtRNAPhe前駆体の蓄積は少なくなっていることが観察された(Fig.6B)。これはTrm5pが細胞質へと移ったことで、yWは核移行せずとも細胞質で形成されるようになったためと考えられる。以上の結果は、tRNAの成熟過程において、前駆体が核-細胞質間を輸送されることで、RNA修飾が形成されることを示した最初の知見である(Fig.7)。

【結論】

本研究による様々な成熟段階のtRNA前駆体の解析から、RNA修飾はtRNAの成熟過程初期からスプライシング後にかけて段階的に形成されていることが示された。これはtRNAの成熟化が細胞内局在と密接に関わりながら段階的に行われる厳密に制御された機構であることを示している。また、pri-tRNAがキャップ構造を有していたことや成熟過程のtRNA(Phe)が核移行していたことから、tRNAの成熟化機構が、これまで考えられていたものに比べ、複雑かつ多様な因子が関与する機構である可能性が示唆された。

今後は、tRNA成熟化において本研究により見出された現象がどれだけ重要なのかについて、そして、tRNA成熟体と前駆体とを識別する機構があるのかといった点について解析を行い、より詳細なtRNAの動態を明らかにしたい。

Fig.1出芽酵母におけるtRNAの成熟化の慨略図.出芽酵母のtRNAは細胞内を移動しながら段階的に成熟する.

Fig.2出芽酵母tRNA(Ile)UAUの成熟体(左)とpri・RNA(Ile)UAU(右)の二次構造。矢印はスプライシングサイトを示す。イントロンは小文字で表した。

Fig.3pri-tRNA(Ile)UAUの5'末端の角孕析。上から5'末端が三リン酸(pppGAAAAUp)、ニリン酸(ppGAAAAUp)、TMG(TMGpppGAAAAUp)のRNA断片についてのマスクロマトグラムを示す。それぞれのグラフの縦軸は5'禾端がニリン酸のRNA断片の強度を100とし、それに対する割合で表している。TMGキャップを持つ断片は矢印で示した位置に検出された。

Table 1 tRNA(Ile)UAU([おけるRNA修飾の導入率(%) 修飾断片/(修飾断片+未修飾断片)

Fig.4(A)出芽酵母tRNA(Phe)の成熟体(左)と核外移行を阻害したときに蓄積する前駆体(右)の二次構造。37位は四角で囲った。矢印はスプライシングサイトを示す。イントロンは小文字で表した。(B)yWの生合成。G、m1G、imG・14及びyWの構造式を示す。反応を触媒する酵素の遺伝子名を矢印の下に示した。

Fig.5グルコース欠乏による栄養飢餓ストレスを与えた時のtRNA(Phe)のLC/MSによる解析

tRNA(Phe)ヌクレオシド解析(A)とRNAフラグメント解析(B)。(A)単離したtRNA(Phe)をヌクレアーゼP1とBAPで処理tRNA(Phe)により解析を行った結果。左はm/zについて、右はm/z838にっいてのマスクロマトグラムを示しており、それぞれメチルル化されたグアニンの塩基の分子量、yWpAの分子量に相当する。m1Gに由来するピー一クは矢印で示した。(B)単離したtRNA(Phe)をRNaseAで断片化しLC/MSにより解析を行った結果。左はm1Gを、右はyWを37位に持っRNA断片に相当する分子量についてのマスクロマトグラム。左図の縦軸は右図のyWの値を100として表している。

Fig.6 Trm5pの細胞質局在化による影響

(A)TRM5-GFP株とTRM5・NES・GFP株におけるTrm5pの局在。(B)4時間のグルコース欠乏による栄養飢餓ストレスを与えた時のTRM5-GFP株とTRM5-NES-GFP株から単離したそれぞれのtRNA(Phe)についてヌクレオシド解析を行った結果。矢印はm1Gのピークを示す。

Fig.7 tRNA(Phe)の成熟化モデル

tRNA(Phe)前駆体は核内で末端が形成され、また多くのRNA修飾が導入される。その後細胞質へと輸送された後、スプライシングされる。その結果生じたアンチコドン領域が未修飾の前駆体は再び核へと移行し、Trm5pにより37位がm1G化される。そして再び細胞質へと輸送され、細胞質に局在するTywタンパク質群によってyWが形成される。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、出芽酵母tRNAの成熟化過程において、RNA修飾が序列的に形成されることを明らかにしたものである。特に、tRNAの細胞内輸送がRNAの修飾形成に関わるという概念を発見し、その分子機構を探究したものである。

トランスファーRNA(tRNA)は、遺伝暗号とアミノ酸を対応させるアダプター分子である。tRNAは転写後に様々な修飾が施されて成熟する。これらの修飾はtRNAの立体構造の安定化や、遺伝暗号の解読に重要な役割を担っている。これまで出芽酵母におけるtRNAの成熟化は核内において完了すると考えられてきたが、多くのRNA修飾酵素が細胞質に局在していることや、tRNAのスプライシング装置が細胞質にあることから、tRNAの成熟化は細胞内をダイナミックに移動しながら行われる複雑な機構であることが示唆されてきた。しかし、tRNAの修飾が成熟過程のどのタイミングで、細胞内のどこで形成されるのか、また修飾形成に順序があるのかといったことについては、ほとんど解析がなされていなかった。このような背景から、論文提出者である大平高之君は本論文において、tRNAの成熟化とRNA修飾の関係を明らかにするため、出芽酵母tRNAの成熟過程における様々な前駆体のRNA修飾について解析を行った。

本論第一章では、定常状態において微量に存在するtRNA前駆体の単離精製と解析結果について記述されている。当研究室で開発された往復循環クロマトグラフィー法を駆使することにより、細胞内に存在する様々なtRNA前駆体を精製することに成功した。次に、各前駆体に含まれるRNA修飾を、キャピラリー液体クロマトグラフィー質量分析法(RNAマススペクトロメトリー)を用い解析を行った。出芽酵母の定常状態におけるtRNA前駆体についての解析例はこの研究が初めてであり、高く評価できる点である。イソロイシンtRNA (tRNA(Ile)UAU) の一次転写産物およびいくつかの前駆体について解析を行った結果、成熟過程初期の前駆体ではRNA修飾によって修飾率に差があることを示しており、その傾向からRNA修飾には転写直後に形成されるもの、転写後徐々に形成されるもの、スプライシング後に形成させるものの3種類に分類できることを明らかにした。この結果は、tRNAの成熟化過程においてRNA修飾は序列的に形成されていることを示している。また、転写直後に形成されるRNA修飾は、その後のプロセシング反応を促進し効率的な成熟化に寄与している可能性について洞察している。

通常、tRNAの成熟化は5'リーダー配列、3'トレーラー配列の除去がなされ、その後、細胞質へ輸送された後に、ミトコンドリアの外膜上でスプライシング反応が生じ、イントロンの除去がなされることが知られている。しかし解析の過程で、提出者は5'リーダー配列が結合しイントロンが除去されたtRNA前駆体(Spliced pre-tRNA)を発見した。この構造からtRNA前駆体が、5'リーダー配列が除去される前に細胞質へ輸送される未知の成熟化経路が存在する可能性が示された。実際に5'リーダー配列の除去に必須な遺伝子(pop4)を発現抑制すると、Spliced pre-tRNAが蓄積することから、Spliced pre-tRNAは最終的に成熟する前駆体であることが判明した。さらに、5'末端の詳細な解析から、Spliced pre-tRNAにはトリメチルグアノシンキャップ(TMGキャップ)と未知のキャップ構造(Xキャップ)が形成されていることが明らかになった。これまでにRNAポリメラーゼIIIの転写産物にキャップ構造が見つかった例はなく、この結果はこの分野において強いインパクトを与える知見である。これらのキャップ構造が、Spliced pre-tRNAの細胞内輸送および成熟化機構に関与すると考えられる。

第二章では、スプライシング後に形成されるRNA修飾について記述されている。tRNA前駆体にあるイントロンはアンチコドンの37位と38位の間に挿入されており、いくつかの修飾酵素の基質認識を妨げることが知られている。本章では、全部で10種あるイントロンを持つtRNA前駆体におけるRNA修飾について調べており、合計14種のRNA修飾が未形成であり、その多くが翻訳精度に関わるアンチコドンおよびその近傍に形成されるものであることを明らかにしている。この結果は、スプライシング後のRNA修飾の形成が生存上極めて重要なプロセスであることを示している。

第三章では、細胞質でスプライシングされたtRNAがアンチコドン近傍の修飾を受けるために、核移行する必要性について記述されている。ワイブトシン(yW)はフェニルアラニンtRNA(tRNA(Phe))の37位に存在する嵩高い修飾塩基(グアノシンの誘導体)であり、5つの酵素群(Trm5p, Tyw1p, Tyw2p, Tyw3p, Tyw4p)によって段階的に形成されることが、当研究室の先行研究で明らかになっている。tRNA(Phe)にはアンチコドンループにイントロンが存在し、yWは細胞質でイントロンがスプライシングされた後に形成されることが知られている。この修飾形成の第一段階はグアノシンの1位のメチル化であり、その反応を触媒するTrm5pは核に局在している。したがって、Trm5pによるメチル化修飾はスプライシング後のtRNA(Phe)前駆体が一旦核へと輸送される必要がある。実際に、3つの条件を用いて、核に蓄積させたtRNA(Phe)前駆体を解析したところ、37位にはN1-メチルグアノシンが形成されていることが示された。また、Trm5pに核外移行シグナルを融合し、強制的に細胞質へミスローカライズさせたところ、N1-メチルグアノシンの量が顕著に減少した。これらの結果は、tRNAの成熟過程において、細胞質から核への逆行性の移行がRNAの修飾形成に必須であることを示している。また、Trm5pと同様に核に局在するRNA修飾酵素もいくつかあることから、tRNAの成熟化過程でtRNAが細胞質から核への逆行性の移行が一般的な現象なのではないかと論じている。

以上に示されたように、様々なtRNA前駆体の詳細な解析から、tRNAの成熟化過程においてRNA修飾が序列的に形成されること、tRNAの成熟化過程には5'末端の修飾やtRNA前駆体の細胞内輸送が絡んでいるという新規の概念が示された。

以上の研究成果は、論文提出者が主体となって行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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