学位論文要旨



No 128850
著者(漢字) 横田,明美
著者(英字)
著者(カナ) ヨコタ,アケミ
標題(和) 義務付け訴訟の機能 : 時間の観点からみた行政と司法の役割論
標題(洋)
報告番号 128850
報告番号 甲28850
学位授与日 2013.03.07
学位種別 課程博士
学位種類 博士(法学)
学位記番号 博法第274号
研究科 法学政治学研究科
専攻 総合法政
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 松下,淳一
 東京大学 教授 交告,尚志
 東京大学 教授 山本,隆司
 東京大学 教授 飯田,敬輔
 東京大学 教授 石川,健治
内容要旨 要旨を表示する

平成16年の行政事件訴訟法(行訴法)改正で、義務付け訴訟が明文で導入された。この改正により、従来の議論では訴訟上は別個の制度であると考えられていた取消訴訟・不作為の違法確認訴訟と義務付け訴訟が、申請型義務付け訴訟については提訴要件・本案認容要件のかたちで制度上関連づけられた。これまでの取消訴訟についての違法判断の基準時や判決の拘束力などの論点に関する解釈論の積み重ねは、新しい義務付け訴訟のあり方に適合するものであろうか。いわば取消訴訟に「接ぎ木」された形で制定された申請型義務付け訴訟は、その運用上どのような問題を抱えているのだろうか。本稿では、この改正により生じた問題を具体的な事例から明らかにすると共に、歴史的な経緯も踏まえて義務付け訴訟がどのような機能を担うものであるかを検討した。

第1章「義務付け訴訟裁判例にみる問題点」では、義務付け訴訟が争われた下級審裁判例において現れてきた問題点を明らかにした。問題となった事例は多種にわたり、タクシー事業の運賃認可、障害者居宅支援費、生活保護、外国人の在留特別許可など、適用される実体法のあり方も大きく異なるものであるが、そこで現れた問題点は大きく分けて取消訴訟と義務付け訴訟の関係、判決内容、事実状態・法状態の変動に関して生じていた。

第2章「ドイツにおける義務付け訴訟の成立と発展」では、ドイツで義務付け訴訟制度が成立した1947年から現在にいたるまでの義務付け訴訟制度に関する法規定と学説・判例の変遷を追った。1947年前後に成立し、1960年の連邦行政裁判所法が成立するまでの間に適用されていた法制度は複数存在した。そのうち、イギリス占領地域で適用されていた軍令165号(MRVO165)と、アメリカ占領地域で適用されていた行政裁判法(VGG)は、取消訴訟と義務付け訴訟の関係について異なる考え方を示していた。

MRVO165は取消訴訟と義務付け訴訟が適用される場面を区別し、相互の乗り入れを認めない仕組みを取っていた。ここでは、拒否処分の取消訴訟は単独では成立せず、義務付け訴訟が提起されることになっていた。これに対してVGGでは、原告が提起するのは抗告訴訟であり、拒否処分があった場合の抗告訴訟については、取消と共に義務付けを命じる判決が言い渡された。拒否処分が先行しない不作為の場合には、決定義務付け判決が言い渡された。例外的に、事案の成熟性がある場合のみ、不作為の場合でも義務付け判決が言い渡されるという仕組みであった。また、VGGは新たな証明方法が訴訟係属中に発見された場合、行政過程に差し戻すことができる旨の規定をおいていた。

ところが1954年、連邦行政裁判所はMRVO165とVGGの折衷的な理解を示す判決を下した。この判決が示した理論は拒否処分取消訴訟の地位を相対的に低下させて決定義務付け判決を拒否処分が先行している事例についても適用するものであり、後の連邦行政裁判所法の原型となった。

1960年の連邦行政裁判所法制定後は、裁判所の事案解明責任と事案の成熟性導出義務を梃子にしながら、裁判手続での一回的解決を追及していく流れが大勢を占めた。しかし、1991年改正による「事案解明のための取消」の導入や単独取消訴訟提起を巡る議論、そして決定義務付け判決のあり方を巡る議論など、裁判所による事案解明義務に懐疑的な立場からの揺り戻しも幾度となく生じている。この二つの潮流のなかで、司法と行政の役割分担についてバランスを保ちながら、ドイツの義務付け訴訟制度は運用されている。

第3章「行訴法改正前後の義務付け訴訟を巡る議論」では、平成16年改正の前後に、取消訴訟と義務付け訴訟についていかなる議論が展開されていたのかを検討した。改正前の議論状況では、義務付け訴訟と取消訴訟を同時に提起するという理解は一般的ではなく、取消訴訟を巡る議論は義務付け訴訟の可能性とは無関係に議論されていた。

改正の方向性を決定付けたのは行政訴訟検討会での議論だった。ここで、取消訴訟と義務付け訴訟の制度的関連性が生み出され、例外的に「行政過程に投げ返す仕組み」としての単独取消判決の構想が生まれた。

ところが、第1章で紹介した裁判例で現れてきたような違法判断の基準時を巡る議論は、行政訴訟検討会では十分な議論がなされなかった。そのため、現在においても、取消訴訟と義務付け訴訟では異なる基準時論が展開された改正以前の学説状況が通説的見解として維持されており、一部、実体法に着目する議論が現れ始めているという状況である。

ここまでの検討を踏まえて、ドイツと日本の義務付け訴訟を巡る議論の比較検討を行った。そこから立ち現れてきた視角は、義務付け訴訟の結果として下される判決は、すべて判決後の行政過程を予定していることである。単独取消判決、差戻的判決、義務付け認容判決のいずれにおいても、裁判所がその事案について限界まで審理し、行政過程に事案を戻す作用を有している。そうすると、義務付け訴訟の結果として出てくる判決は、行政過程から司法過程に送られた事案を、もう一度行政過程で審理する途中の通過点とみることができる。

このような義務付け訴訟理解からは、差戻的判決の最低限の要素として要求されている違法性確定とそれ以外の部分の関係を明らかにする必要が生じる。また、行政過程と司法過程を行き来する事案は、常に時間の流れの中にある。どの時点の法状態・事実状態を違法判断の基準時とするかが、裁判例が突きつけてきている課題である。

第4章「時間の観点からみた行政と司法の役割論」では、まず違法確定と救済とを区別する訴訟理論を展開した先行研究を踏まえて、現行法制度を捉え直した際の問題点を明らかにした。違法確定と救済を分離する考えを前提にすると、義務付け訴訟についての判決の多様性をよりよく説明できる。この考え方は、訴訟類型の選択を原告の権利救済のための固定された選択肢として理解するのではなく、違法確定の程度についても、救済内容の確定についても多様な可能性がありうることを導き出すからだ。

取消訴訟と組み合わされて提起される申請型義務付け訴訟の結果として言い渡される判決は、裁判所がその事案について審理出来る限界に応じて、無数の段階を想定可能なグラデーションを描いている。つまり、違法性確定においても、行政庁が当初から理由付記で示した判断の違法に限るのか、それとも義務付けで求められている処分の発給を見据えて全ての違法事由について検討するのかは事案によって異なりうる。さらに、全ての違法事由について検討したとしても、どのような内容の処分を救済として与えるべきなのかは、しばしば裁判所だけでは決することができない。

救済内容の特定にあたっては、原告の意向と行政庁の協力が不可欠である。そして、行政庁の活動が、司法過程での裁判当事者としての振る舞いと行政過程での執行者としての振る舞いとで異なりうる以上、義務付け訴訟における判決は、司法過程での手続を終結させて、行政過程での解決を目指すためにも行われうる。

以上の検討から、本稿が至った結論は、「義務付け訴訟の機能は判決後の円滑な行政過程の遂行を実現するための方向付け、嚮導である」と理解することである。裁判例で現れていた、一見不要に思える付言は、原告と被告行政庁と裁判所の間で行われた審理を経て出てきた裁判所の見解を、判決後に引き続く行政過程においても指針として用いることを狙いとして付された申し渡しとして肯定的に評価されるべきものである。

この観点から、単独取消判決の拘束力や、義務付け訴訟における訴えの利益、違法判断の基準時についても、実体法の規定の解釈を踏まえて、後に引き続く行政過程で円滑な検討が行われる素地が作られるように解釈されるべきである。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、司法制度改革の一環として行政事件訴訟法(以下「行訴法」)が平成16年法律第84号により改正された際に法定された、いわゆる申請型義務付け訴訟の解釈論上の基本問題を論じるものである。

行政庁が行政処分をすべき旨を命ずる判決を求める義務付け訴訟は、ドイツで戦後長らく法定され、運用されてきた訴訟形式である。しかし、日本で法定された義務付け訴訟の制度は、許認可等の行政処分を求める申請を行い、申請拒否処分を受けるなどした原告が許認可等を求める趣旨の申請型義務付け訴訟と、こうした申請および申請権を前提にしない、いわゆる非申請型(直接型)義務付け訴訟とを分けている。そして、申請型義務付け訴訟については、申請拒否処分取消訴訟等に併合して提起することを求めている。本論文は、このようにドイツ法と異なる日本の申請型義務付け訴訟の特徴を分析し、義務付け訴訟が行政手続との役割分担により段階的に事案処理ないし紛争解決を図る手続であり、義務付け訴訟による判決が後続する行政手続を嚮導するという構造を描き出す。そして、こうした構造に基づく解釈論を提唱するものである。

以下、本論文の要旨を章ごとに述べる。

日本で法定された義務付け訴訟制度の上記のような特徴を提示する序章の後、第1章「義務付け訴訟裁判例にみる問題点」では、行訴法改正後約8年間に下された申請型義務付け訴訟に係る下級審裁判例が、4つの行政分野について分析され、これらの裁判例から、次のような解釈論上の具体的な検討課題が抽出される。第1に、義務付け訴訟から分離して下された申請拒否処分取消判決の拘束力が、再度の申請拒否処分に対してどの範囲で及ぶか、必ずしも明確でない。第2に、原告が内容に幅のある「一定の処分」を求める趣旨の義務付け請求をし、裁判所が内容に幅のある「一定の処分」を命ずる義務付け判決を下す事例があり、注目される。第3に、処分の違法判断の基準時を、申請型義務付け訴訟に関して検討するのみならず、取消訴訟に関しても再考する必要がある。検討の際には、取消しの訴えの利益については処分後の事情を考慮して判断され、その判断は行政実体法の解釈を基準に行われることを、考慮するべきである。

以上の具体的な課題を検討するための基礎として、第2章「ドイツにおける義務付け訴訟の成立と発展」では、義務付け訴訟の母国であるドイツにおける同訴訟の構造をめぐる立法・判例・学説の展開過程を、戦後の各占領地域の法制から行政裁判所法の制定を経て近時の研究動向に至るまでたどる。

第2章第1節では、ドイツで義務付け訴訟が取消訴訟から解放された包括的な事案処理・紛争解決手続として確立する過程が、次のように分析される。ドイツでも、アメリカ占領地域の行政裁判制度は、現在の日本法と形式上は同様に、申請拒否処分取消訴訟に義務付け訴訟を「接ぎ木」した構造であった。さらに、行政庁の不作為に対し何らかの行政処分を行うことを命ずる判決としての「決定義務付け判決(Bescheidungsurteil)」、および、取消訴訟において処分行政庁に事案を差し戻す判決を法定していた。しかし連邦行政裁判所は、第1に、イギリス占領地域で義務付け請求がなされる場合、申請拒否処分取消請求は付随的な意味しか持たず、取消請求も含めて違法判断の基準時は判決時であるとし、第2に、イギリス占領地域でも決定義務付け判決を、行政庁が判決理由中の判断に従って処分を行うように命ずる判決として用い得るとし、第3に、裁判所ができる限り事案を解明し尽くす義務を職権主義から根拠づけて、行政への差戻しは原則として許されないとした。こうした中で1960年に制定された行政裁判所法は、アメリカ占領地域の法制から離れ、取消訴訟に従属させずに義務付け訴訟を法定した。逆に申請拒否処分取消訴訟だけを提起することは、権利保護の必要性がない等の理由から原則として不適法とされる。そして、決定義務付け判決は、学説・判例により、あくまで裁判所の「事案の成熟性導出義務」を前提にして、行政庁の裁量または判断余地などの行政権限ゆえに裁判所の権限に限界が引かれる場合等に限定して用いられることとなった。

第2章第2節では、こうした完全審査・一回的紛争解決を原則とする義務付け訴訟の理解に対し、支配的ではないものの、ドイツでも段階的紛争解決を指向する次のような立法・判例・学説が分析される。第1に、申請拒否処分取消訴訟のみの提起も、処分権主義を根拠に肯定する学説がある。第2に、行政裁判所法の改正により、取消訴訟において裁判所が事案を解明し尽くさずに行政庁に差し戻す趣旨の取消判決が法定された。しかし学説は、裁判所が行政処分を取り消す権限の限界および処分権主義を理由に、こうした差戻判決は行政処分に違法性がなければ下し得ないと論じる。そのため、差戻判決は通常の取消判決と変わらないことになり、活用されていない。さらに連邦行政裁判所は、義務付け訴訟においては差戻判決では権利救済に資さない等として、この制度を義務付け訴訟に類推適用することを否定する。第3に、決定義務付け判決は、判例上、行政庁が特別な手続・組織により判断を行う場合や、特殊な事案解明を要する場合にも適用される。ただし、その範囲は明確でなく、また限定されている。学説には、「正しい理由による行政行為の発令を求める請求権」を決定義務付け判決の対象と観念することにより、決定義務付け訴訟の活用を説き、裁判所の事案成熟性導出義務を緩和する見解もある。

第3章「行訴法改正前後の義務付け訴訟を巡る議論」では、ドイツでの行政裁判所法制定以前とも以後とも異なり、日本では、段階的な事案処理ないし紛争解決の観点から、取消訴訟と義務付け訴訟とを「接ぎ木」する制度が意識的に選択されたこと、しかし残された課題があることが分析される。日本における義務付け訴訟制度の立案過程では、特定行為義務付け判決まで目指すことが事案処理・紛争解決の効率性の点から適切でない場合が、明確に認識されていた。そして、判決するだけの成熟性がないにもかかわらず終局判決は下せない、形成訴訟に一部判決を観念することは難しい等の考慮により、取消請求という別個の請求を併合する案が、裁判官により示され、採用された。行政庁が効果裁量により決定すべき部分を留保して、幅のある「一定の処分」を義務付ける判決の可能性も承認された。しかし、申請拒否処分の理由の他、それ以外の申請拒否事由の一部まで裁判所が判断し、残りの判断を行政庁に求める場合や、申請拒否処分後に事情が変化した場合に、どのような判決ができるかは明らかにされず、制度に「取りこぼし」が残されている。やはり立案時に検討課題として残された違法判断の基準時については、ドイツでも義務付け訴訟に関し一律に判決時とせず、行政実体法により判断する見解が有力化しているが、日本でも、取消訴訟、義務付け訴訟とも実体法を基準に考える説が現れている。

以上の考察をもとに、第3章小括、第4章「時間の観点からみた行政と司法の役割分担論」および終章では、日本の義務付け訴訟が、行政庁に事案を差し戻し、後続する行政手続を嚮導することにより、段階的な紛争解決を図る性格を有するという、筆者の考え方が次のように説かれる。義務付け訴訟と併合提起される申請拒否処分取消訴訟における取消判決には、同取消訴訟が単独で提起される場合とは異なり、申請拒否処分の違法性のみならず、他の申請拒否事由の不存在(行政庁が「一定の処分」をしないことの違法性)の確定、さらに、引き続く行政庁の判断のための指針の提示を、含ませることができる。義務付け判決も、「一定の処分」に幅があり得るのみならず、特定行為の義務付けに見えても、行政庁による付款の付加や手続・時期の調整等の余地を残しており、引き続く行政庁の判断に対し指針を提示する意味を含む。このように義務付け訴訟の判決は、違法性の確定と行政過程への指針の提示とを、多様な幅で含むものと捉えられる。義務付け訴訟における違法判断の基準時については、行政実体法の解釈により、処分時を基準に申請拒否処分の違法性の確定を求める訴えの利益を広く認めるとともに、判決時までの事情の変化を考慮することが許される場合には、事案を行政過程に差し戻す趣旨の判決を下すことも認める、という議論の方向が示される。

以下、本論文の評価に移る。本論文の意義は、次の3点にあると考えられる。

第1に、本論文は、特有の形態をもつ日本の申請型義務付け訴訟の法的性質を、骨太に明らかにすることに成功している。申請型義務付け訴訟は、その立法後10年を経過しておらず、下級審で活用され始めているものの、最高裁判所の重要な判断は未だ下されていないという流動的な時期にある。そのような中で、本論文は、下級審裁判例からさまざまな問題を丹念に掘り起こした上で、日独の議論に広く目を配り、手がかりを拾い出して、一つの義務付け訴訟像に結実させ、解釈論上の問題群に対し一貫した視座から解答を与えている。このように本論文は、筆者の構想力とそれを実現する手腕を示すとともに、日本型の義務付け訴訟を本格的に論じた先駆的な研究としての意義を有する。

第2に、包括的・一回的な紛争解決・事案処理の手続という文脈が強調されがちなドイツの義務付け訴訟について、本論文は、立法・判例・学説の歴史を丁寧にたどることにより、取消訴訟に従属する訴訟という形式から、段階的な紛争解決・事案処理の手続へという、もう一つの議論の文脈を浮かび上がらせている。後者の文脈がこれだけ本格的に研究されることは稀であり、この点でも本論文は、義務付け訴訟をめぐる議論に厚みを与える意義を有する。

第3に、本論文が提示した段階的な紛争解決・事案処理の手続という観点は、義務付け訴訟を超えて、行政訴訟一般、さらには民事訴訟の処分権主義、訴訟物、弁論手続、判決効等の基本問題の再考を促すものであり、幅広い展開可能性をもつと評価できる。

もっとも、本論文にも問題点がないではない。

第1に、第3章小括以降の論旨の詰めがやや甘い。すなわち、義務付け訴訟において判決で確定される「違法性」とは何か、それは「行政過程を嚮導する」判決の効果といかなる関係に立つか、また、多様な「差戻判決」の余地が行訴法の解釈論としてどのように根拠づけられるか、それが裁判所の裁量に委ねられるとすると、裁判所の裁量はどのように根拠づけられるか、という点が十分明らかにされていない。行政裁量に対する裁判所の審査権限の限界と、行政手続・訴訟手続間の適切な役割分担という「差戻し」の理由の区別が、第3章の途中から曖昧になっていること、および、申請型義務付け訴訟における取消判決と義務付け判決とが、「差戻し」として括られる一方、両者の性質の異なる面に十分注意が払われていないことも、こうした問題点に関わる。もっとも、本論文の趣旨は、まずは義務付け訴訟の法的性質を明快に描き出すことにあり、以上の詰めの問題は、次の段階の研究課題と位置づけられよう。

第2に、考察が立法論に及んでおらず、そのことが、序論で提示された問題の一部が今後の検討課題として残されたことの一因になっている。また、本論文のテーマに関係する理由の差替えおよび違法判断の基準時の問題について、従来の議論を咀嚼して筆者の考え方を整然と提示するには至っていない。もっとも、前者の点は、問題を安易に立法論に解消しない姿勢の表れと見ることもできる。後者の点についていえば、これらのテーマは、それぞれ独立の論文のテーマになり得るものであり、本論文で論じ尽くすことを求めるのは、いささか過剰な要求であろう。

第3に、ドイツ語の訳出がぎこちない箇所が散見される。引用文献の選択や文章表現にも、今少しの慎重さが求められる。もっとも、そのことにより本論文の論旨が損われるには至っていない。

以上から、本論文は、その筆者が自立した研究者としての高度な研究能力を有することを示すものであることはもとより、学界の発展に大きく貢献する特に優秀な論文であり、本論文は博士(法学)の学位を授与するにふさわしいと判定する。

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