学位論文要旨



No 128925
著者(漢字) 白,雪
著者(英字) BAI,XUE
著者(カナ) バイ,シュエ
標題(和) 10-12の感度によるレプトンフレーバーを破る崩壊μ+→e+γの探索
標題(洋) Search for the Lepton Flavor Violating Decay μ+→e+γ With A Sensitivity of 10-12
報告番号 128925
報告番号 甲28925
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5902号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 徳宿,克夫
 東京大学 准教授 横山,将志
 東京大学 教授 坂本,宏
 東京大学 教授 梶田,隆章
 東京大学 教授 諸井,健夫
内容要旨 要旨を表示する

The MEG experiment is a precise rare decay search designed to observe μ+ →e+γ or lack thereof as a sensitive low energy probe of new physics. In this thesis we present an updated result using the data taken in 2010, which correspond to 1.1×10(14) muon decays in the stopping target.

The previous preliminary result based on the 2009 data gave a higher than expected upper limit of 1.5 ×10(−11) at 90% C.L. with a few possible events in the signal region[1] [2][3]. To examine this result, we analyzed the 2010 data which has twice higher statistical sensitivity than the 2009 data. In addition, we improved several aspects of calibration and analysis such as detector alignment, implementation of correlations in position observables, improved magnetic field map and improved likelihood analysis. We applied these improvements to the 2009 data and confirmed that the result remained essentially unchanged.

We adopted a "blind analysis" and a maximum likelihood fit. After unblinding the signal region, the number of of μ+ →e+γ decay events in the data sample is extracted by a maximum likelihood fit. A 90% confidence interval is then constructed using the Feldman-Cousins technique. We evaluated an expected sensitivity of the 2010 data to be 2.2 ×10(−12) by toy Monte Carlo experiment, which was also confirmed by analysis of the side band data. All the analysis is done by hiding the signal region until probability density functions for a likelihood fit are settled upon.

The obtained result is consistent with a null hypothesis and we set an upper limit on the branching ratio

for the 2010 data and

for the combined data of 2009 and 2010.

This result exceeds the previous world's best limit of 1.2 ×10(−11) set by the MEGA experiment[4].

[1] Ryu Sawada. Analysis of the MEG experiment to search for μ+ → e+γ decays. In PoS (ICHEP 2010), page 263, Paris, 2010.[2]Alessandro Massimo Baldini. Rare lepton and k-meson decays. In PoS (ICHEP 2010), page 528, Paris, 2010.[3]Y. Nishimura. A Search for the Decay μ+ → e+γ Using a High-Resolution Liquid Xenon Gamma-Ray Detector. PhD thesis, University of Tokyo, 2010.[4]M.L. Books and others. New limit for the family-number non-conserving decay μ+ → e+γ. Phys. Rev. Lett., 83:1521, 1999.
審査要旨 要旨を表示する

本論文は10章からなる。第1章は序章でありこの研究の背景が簡潔に述べられている。第2章ではさらに詳しくこの研究の理論的・実験的背景を説明し、第3章はこの研究を進めるための実験装置の説明にあてられ、第4章では、論文提出者が主に使用する2010年に収集したデータに関する説明にあてられている。第5-7章で、データ解析の詳細が記述されている。第8章でその解析での新たな改良点とその評価を行っている。第9章が、この論文の結果となる重要な章で、μ+粒子が陽電子と光子に崩壊する事象が有意に観測されなかったことからその崩壊比に関して、世界でもっとも厳しい上限値を出している。その上で、第10章ではこの探索に関しての今後の展望を議論している。

本論文の主眼は、μ+粒子が陽電子と光子に崩壊するという事象の探索である。 通常ミュー粒子は陽電子とミュー・ニュートリノと電子・ニュートリノの3体に崩壊し、ミュー粒子からミュー・ニュートリノへとレプトンフレーバーがよく保存されていることが実験的にわかっている。しかし、フレーバーが保存する理論的な強い根拠はなく、実際標準模型を超える理論では、世代を超えてミュー粒子が電子と光子に崩壊する可能性が論じられている。

これまでの実験ではこの分岐比は1.2×10(-11)以下であることが分かっており、それをさらに1桁以上よい精度での探索を目指して、国際共同実験MEGが提案され、スイスのPSI研究所で実験が行われている。この崩壊過程を発見できた場合は、素粒子物理学において全く新しい地平が出現し、重要な結果となる。この実験の鍵は、2体崩壊して出てくる陽電子と光子をいかに精度よく測定できるかである。特に、複数事象が重なりあったものを一つの事象として見てしまう効果をどれだけ抑えられるかが重要になる。2つの高性能検出器の発明が必要であり、一つは光子の測定器(液体キセノン検出器)で、もう一つは陽電子の検出器であった。

既に、2009年のデータについて暫定的な解析が発表されており、そこでは角度はややずれているものの、この2体崩壊に近い事象が数個存在した。

論文提案者は、液体キセノン検出器の運転・較正を進め、この実験の遂行にあたって大きな貢献をしつつ、解析の改良を行い、2010年に収集したデータをもとに解析を進めた。解析の改良では、特に測定器間の相互位置の精査、陽電子のトラッキングの改良、そして取得事象から分岐比を算出する上での最尤法の改善などを進めた。

論文提案者はまず、2009年のデータの再解析を行った。上記の改良によりバックグランド事象を低減することに成功したが、最終的な、μ+→e+γ事象の分岐比の上限値の値は暫定結果とほぼ変わらないことを示した。その上で、2010年のデータ解析を、まず信号領域を隠した状態で進め(Blind analysis)、周辺の事象の分布が理解できた後に信号領域の事象分布を調べた。2010年のデータは2009年に収集したデータの約2倍の量がある。解析の結果は、有意なμ+→e+γ事象が観測されなかったので、これによりμ+→e+γ事象の分岐比の上限を、2010年のデータ単独、及び2009年と2010年のデータを総合した場合の両方で求めた。後者の上限は2.4×10(-12)(90% confidence level)となり、過去の実験の上限より1桁近い改善となった。

本論文は、国際共同実験グループMEGでの共同研究であるが、この研究に関しては論文提出者が主体となって進めている。得られた結果は、この崩壊過程に対する一番厳しい上限をあたえることとなり、素粒子の標準理論を超える模型を作るにあたって大きな制限となり、非常に重要な結果を導き出した。

以上により論文提出者の寄与が十分であると判断し、したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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