学位論文要旨



No 128957
著者(漢字) 横澤,孝章
著者(英字)
著者(カナ) ヨコザワ,タカアキ
標題(和) スーパーカミオカンデ-IVを用いた精密太陽ニュートリノ測定
標題(洋) Precision solar neutrino measurements with Super-Kamiokande-IV
報告番号 128957
報告番号 甲28957
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(理学)
学位記番号 博理第5934号
研究科 理学系研究科
専攻 物理学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 佐川,宏行
 東京大学 教授 寺澤,敏夫
 東京大学 准教授 川本,辰男
 東京大学 特任教授 柳田,勉
 東京大学 准教授 瀧田,正人
内容要旨 要旨を表示する

Super-Kamiokande検出器(以下SK検出器)は、岐阜県飛騨市神岡町の地下1,000mに設置された巨大水チェレンコフ検出器である。2008年9月にフロントエンドエレクトロニクスとオンラインシステムを一新しSK-IVフェーズとしての観測を開始した。本論文ではSK-IV実効観測時間1069.3日のデータを用いて解析を行った。

太陽ニュートリノは太陽内部の核反応によって生成され、SK検出器ではppチェーンより生成される比較的エネルギーの高い8B太陽ニュートリノ(<14.06MeV)を観測している。本論文では、太陽ニュートリノスペクトルの歪み、昼夜の太陽ニュートリノフラックスの相違の観点から、太陽ニュートリノ振動の物質効果(Mikheyev-Smirnov-Wolfenstein効果,MSW効果)の直接観測を目指した。

水循環システムの改良により、検出器中心部における低バックグランド化を実現し、これまで解析が困難であった低エネルギー領域(<4.0MeV(kinetic electron energy))での解析が可能となった。また検出器較正によって得られた精密な水質の位置依存性を、検出器シミュレーションに導入することにより、解析における系統誤差、特にエネルギースケールの方向依存性による系統誤差を大幅に削減することに成功した。

SK-IVフェーズにおける8B太陽ニュートリノフラックスの全系統誤差を±1.7%と見積もった。この値は、これまでのフェーズ(SK-I=+3.5/-3.2%、SK-III=±2.2%)に比べてもっともよく、最も精密な8B太陽ニュートリノフラックス2.34±0.03(統計誤差)±0.04(系統誤差)[106/cm2/s]を導出することができた。

すべてのSKフェーズで得られた結果と他の太陽ニュートリノ観測実験の結果を用いてニュートリノ振動解析を行い、sin2(θ12)=0.310+0.014/-0.015、Δm221=4.86+1.44/-0.52 という振動パラメータを得た(太陽ν振動解析結果)。また、太陽ニュートリノ観測実験の結果、KamLAND原子炉ニュートリノ結果を含めた振動解析により、sin2(θ12)=0.304±0.013、Δm221=7.44+0.20/-0.19という振動パラメータを得た(太陽ν+原子炉ν振動解析結果)。

すべてのSKフェーズにおける観測された太陽ニュートリノスペクトルを用いて、上記で得られた振動パラメータにおけるMSW効果で期待されるスペクトルの歪みと、歪みが観測されなかったと仮定した場合に期待されるスペクトルでフィット解析を行い、カイ二乗の値を計算した。結果、それぞれの期待されるスペクトルに対して79.02(太陽ν振動解析結果で期待されるスペクトル)、76.54(太陽ν+原子炉ν振動解析結果で期待されるスペクトル)、75.29(歪みが観測されなかったと仮定した場合に期待されるスペクトル)という値が得られ、スペクトルの歪みが観測されなかった場合に期待されるスペクトルのほうがMSW効果で期待されるスペクトルの歪みより1.1-1.9シグマで優位であるという結果が得られた。

昼夜の太陽ニュートリノフラックの相違を見積もるにあたり、day/night amplitude fitと呼ばれる手法を導入し、さらに上記したエネルギースケールの系統誤差を削減したことにより、すべてのSKフェーズにおけるデータを用いて、ADN=(day-night)/0.5(day+night)=-2.8±1.1(統計誤差)±0.5(系統誤差)[%]と得ることができ、2.3シグマの優位性で昼夜の太陽ニュートリノフラックスの相違を観測することができた。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は11章からなる。第1章は序論であり、本研究の背景および動機について述べている。第2章では標準太陽モデル、ニュートリノ振動、MSW(Mikheyev-Smirnov-Wolfenstein)効果と太陽ニュートリノ実験の最近の結果について述べている。第3章ではスーパーカミオカンデ(Super-Kamiokande: SK)実験装置について述べている。第4章では太陽ニュートリノイベント再構成について、第5章では実験装置の較正について述べている。第6章ではデータ解析について、第7章では系統的誤差について述べている。第8章ではSK-IVの太陽ニュートリノ解析について述べている。第9章では、SK-I、II、III、とIVを統合した解析結果を述べている。第10章では議論を行い、最後に第11章で結論を述べている。

SK検出器は、岐阜県飛騨市神岡町の地下1,000mに設置された巨大水チェレンコフ検出器である。本論文ではSK-IVの実効観測時間1069.3日のデータを用いて解析を行っている。SK検出器では8B太陽ニュートリノ(<14.06MeV)を観測しており、本論文では、太陽ニュートリノスペクトルの歪み、昼夜の太陽ニュートリノフラックスの相違から、太陽ニュートリノ振動の物質効果(MSW効果)の直接観測を目指した。

水循環システムの改良により、検出器中心部における低バックグランド化を実現し、これまで解析が困難であった 電子の運動エネルギーで4.0 MeV未満のエネルギー領域での解析が可能となった。また検出器較正で得られた精密な水質の位置依存性を、検出器シミュレーションに導入して、解析における系統誤差、特にエネルギースケールの方向依存性による系統誤差を大幅に削減した。

SK-IVフェーズにおける8B太陽ニュートリノフラックスの全系統誤差をこれまでのフェーズ(SK-I=+3.5/-3.2%、SK-III=±2.2%)より小さい、±1.7%と見積もった。これにより最も精密な8B太陽ニュートリノフラックス2.34±0.03(stat.)±0.04(syst.)[106/cm2/s]を測定した。

振動パラメータに関して、すべてのSKフェーズと他の太陽ニュートリノ観測実験の結果を用いて、

という結果を得た。また、太陽ニュートリノ観測実験とKamLAND原子炉ニュートリノ結果を用いて、

という結果を得た。

SK-I,II,III,IVで観測された太陽ニュートリノスペクトルに関して、上記で得られた振動パラメータにおけるMSW効果で期待されるスペクトルよりもスペクトルの歪みが観測されないと仮定した場合に期待されるスペクトルの合い具合の方が1.1-1.9σで優位であった。

昼夜の太陽ニュートリノフラックの相違を測定するため、day/night amplitude fitと呼ばれる手法を導入し、SK-I,II,III,IVのデータを用いて、

という結果を得、2.3σの優位性で昼夜の太陽ニュートリノフラックスの相違を観測した。

太陽ニュートリノスペクトルの歪みおよび昼夜の太陽ニュートリノフラックスの相違の測定は、データ収集系の改善やバックグランドの低減などさらなる改良の余地があり、今後の観測あるいは将来の実験によって統計的かつ系統的に精度の高い測定へとつながるものであると期待される。

なお、本論文はSK実験グループの共同実験であるが、論文提出者が主体となって解析を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。

したがって、博士(理学)の学位を授与できると認める。

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