No | 129026 | |
著者(漢字) | 李,承垠 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イ,スンウン | |
標題(和) | 車椅子利用者の外出行動に影響を及ぼす要素及びハンドル型電動車椅子利用者がもつ可能性 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 129026 | |
報告番号 | 甲29026 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7917号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は、車椅子利用者の外出行動及び外出行動に影響を及ぼす環境的要素に着目する。また、車椅子のなかでも新種型であるハンドル型電動車椅子が外出行動に寄与する可能性及び外出行動領域の広がりを探ることを試みるものである。 障がい者が家に閉じこもらず、社会構成員の一人として自立し、活動領域をより広げて生活していくためには、住まい周辺の環境および近隣地域の環境整備が最も重要である。 近年、そういう考え方が広がってきており、バリアフリー環境整備が積極的に行われつつある。 しかし、そういうバリアフリーの環境整備に関する考え方が拡がっているにも関わらず、実際には多くの車椅子利用者が外出行動を行う際にバリアを感じており、そういう環境的な要素によって外出行動に影響を受けている。特に車椅子利用者の場合は、日常的な車椅子の利用による環境的な制限が多いとみられており、そういう生活のなかでの移動や空間利用の制限が彼らの精神的な健康を阻害し、生活の質を落とす要因となると予想されることが背景となっている。 本論文は全7章で構成される。 第1章では、本論文の背景と目的、既往研究、位置づけを明らかにし、研究の構成を示した。 車椅子利用者の外出行動に関する研究に関して、建築分野だけではなく「機械・電子・福祉・土木・建築」の多様な分野の既往研究の考察を行った。本研究では建築の分野で主になっている車椅子利用者を対象とした「避難」や「群集」だけではなく、新種型のハンドル電動車椅子を含めた3種類((1)手動車椅子、(2)ジョイスティック型電動車椅子(以下、J型電動車椅子)、(3)ハンドル型電動車椅子(以下、H型電動車椅子))の車椅子種類ごとの外出行動及び環境評価を扱うものである。 第2章では、車椅子を利用している100名(日本:38名、韓国:62名)を対象とし、インタビュー調査を行った。インタビューの内容は、車椅子の利用状況や外出行動の状況、居場所空間や休憩空間の利用状況及び、住まい周辺の環境評価や人との交流である。 第3章では、3種類((1)手動車椅子(47名)、(2)J型電動車椅子(14名)、(3)H型電動車椅子(39名))の各種の車椅子利用者を対象として、インタビューの内容を中心とし、車椅子利用者の車椅子の利用状況や空間の利用状況、また利用する公共の交通手段を明らかにした。 第4章では、H型電動車椅子利用者の外出行動に関して考察を行った。H型電動車椅子利用者は、既存の車椅子に比べて規格やタイヤが大きく、外部での移動の際に安定感があり、低い段差のバリアが乗り越えられ、足置き場で買い物を運搬するなど多様に使われていることから、日常移動の手段として可能性をもっていることが明らかになった。 第5章では、全種の車椅子利用者に対する外出行動及び空間利用の状況について明らかにした。3種類とも毎日外出行動を行っている車椅子利用者が半数以上であり、手動車椅子とJ型電動車椅子利用者は主に病院のための外出活動を行っている。一方、H型電動車椅子利用者は散歩と人との関わりのための外出活動を行っている。また、外出活動内容については3種類とも基本生活維持のための病院と買い物のための外出活動が多く、それを除くと手動車椅子はセンターの利用、J型電動車椅子利用者は交流、H型電動車椅子利用者は散歩のための外出活動が多い。 第6章では、車椅子利用者の外出行動に影響を及ぼす影響について考察した。その結果、3種類の車椅子のなかで手動車椅子利用者は車椅子がこぎにくいから床面の状態を、J型電動車椅子利用者は倒れる恐れがあるから段差を、H型電動車椅子利用者は利用できない場合があるからトイレを主なバリアとして感じていることがわかかった。また、対象者には外出する際に多目的トイレの情報を確認して外出先を決めるとの意見を持つ人がいることから、トイレの状況によって車椅子利用者の外出行動の領域が狭まる可能性が高く、車椅子利用者の外出活動にトイレが与える影響が大きいことがわかった。 第7章では、H型電動車椅子の利用に対する都市環境のあり方について述べ、今後の課題を示した。車椅子利用者は、車椅子の種類別の利用特性にって外出行動の際のバリア及び、外出行動の拡がりも異なる。特に、H型電動車椅子利用者の場合は、電車を利用して地域社会への外出活動が多く、多様な交通手段を利用して外出行動を行うことから、H型電動車椅子による外出行動がより拡がる可能性があると考えられる。 今後は、高齢による車椅子利用者と先天的や事故による車椅子利用者をまとめた調査により、総合的な外出行動パターンを把握した上での環境評価が必要であると考えられる。また、車椅子利用者が日常的に移動する外出行動の経路を追跡調査によって一層明確にし、彼らが外出しやすい環境のあり方について環境的な提案をすることが求められる。 | |
審査要旨 | 車椅子利用者の外出行動に影響を及ぼす要素及びハンドル型電動車椅子がもつ可能性 本論文は、車椅子利用者の外出行動及び外出行動に影響を及ぼす環境的要素に着目し、実態を把握し、車椅子のなかでも新種型であるハンドル型電動車椅子が外出行動に寄与する可能性及び外出行動領域の広がりを探ることを試みるものである。 障がい者が家に閉じこもらず、社会構成員の一人として自立し、活動領域をより広げて生活していくため、バリアフリー環境整備が積極的に行われつつある。しかし実際には多くの車椅子利用者が外出行動の際にバリアを感じていて外出行動に影響を受けている。特に車椅子利用者の場合、日常的な利用時の環境的な制限が多く、そのような移動や空間利用の制限が精神的な健康を阻害し生活の質を落とす要因となっていると予想される現状が研究の背景となっている。 本論文は全7章で構成される。 第1章では、本論文の背景と目的、既往研究、位置づけ、研究の構成を示した。 本論文では車椅子利用者を対象として安全や避難時の問題ではなく、行動範囲や認識、居場所といった見地を含め、新種型のハンドル型電動車椅子を含めた、(1)手動車椅子、(2)ジョイスティック型(以下、J型)電動車椅子、(3)ハンドル型(以下、H型)電動車椅子の3種類の車椅子の種類ごとの外出行動及び環境評価を扱った。 第2章では、車椅子を利用している100名(日本:38名、韓国:62名)を対象とし、車椅子の利用状況や外出行動の状況、居場所空間や休憩空間の利用状況及び、住まい周辺の環境評価や人との交流について行ったインタビュー調査についてまとめた。 第3章では、3種類の各種の車椅子利用者(手動車椅子:47名、J型電動車椅子:14名、H型電動車椅子:39名)を対象としたインタビューの内容を中心とし、車椅子利用者の車椅子や空間の利用状況、また利用する公共の交通手段を明らかにした。 第4章では、H型電動車椅子利用者の外出行動に関して考察を行った。H型電動車椅子利用者は、既存の車椅子に比べて規格やタイヤが大きく、外部での移動の際に安定感があり、低い段差のバリアが乗り越えられ、足置き場で買い物を運搬するなど多様に使われていることから、日常移動の手段として可能性をもっていることを明らかにした。 第5章では、全種の車椅子利用者に対する外出行動及び空間利用の状況について明らかにした。3種類とも毎日外出行動を行っている車椅子利用者が半数以上であり、手動車椅子とJ型電動車椅子利用者は主に病院のための外出活動を行い、一方、H型電動車椅子利用者は散歩と人との関わりのための外出活動を行っていることを明らかにした。また、外出活動内容については3種類とも基本生活維持のための病院と買い物のための外出活動が多く、それを除くと手動車椅子はセンターの利用、J型電動車椅子利用者は交流、H型電動車椅子利用者は散歩のための外出活動が多いことを明らかにした。 第6章では、車椅子利用者の外出行動に影響を及ぼす影響について考察した。3種類の車椅子のなかで手動車椅子利用者は車椅子がこぎにくいので床面の状態を、J型電動車椅子利用者は倒れる恐れがあるので段差を、H型電動車椅子利用者は利用できない場合があるのでトイレを主なバリアとして感じていることを明らかにした。また、対象者のなかで、外出する際に多目的トイレの情報を確認して外出先を決めるとの意見があったことから、トイレの状況によって車椅子利用者の外出行動の領域が狭まる可能性が高く、車椅子利用者の外出活動にトイレが与える影響が大きいことを示した。 第7章では、H型電動車椅子の利用に対する都市環境のあり方について述べ、今後の課題を示した。車椅子利用者は、種類別の利用特性によって外出行動の際のバリア及び、外出行動の拡がりも異なり、特に、H型電動車椅子利用者の場合は、電車を利用して地域社会への外出活動が多く、多様な交通手段を利用して外出行動を行うことから、H型電動車椅子によって外出行動がより拡がる可能性があることを明らかにした。 以上のように本論文は、車いすの種類と外出行動の関係について、実態から、車椅子利用者の外出行動に影響を及ぼす要素及びハンドル型電動車椅子がもつ外出行動に対する可能性を明らかにした。 今後の車椅子を利用する障がい者・高齢者のための空間計画、及び車椅子の意義と役割を考える上で重要な知見を与えるもので、建築計画学の発展に大いなる寄与となりうるものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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