No | 129034 | |
著者(漢字) | 姜,允敬 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カン,ユンキョン | |
標題(和) | 空調用気化式加湿器のマイクロ波殺菌に関する研究 | |
標題(洋) | Germicidal effect of microwave radiation on microbial contamination of evaporative humidifier in HVAC system | |
報告番号 | 129034 | |
報告番号 | 甲29034 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7925号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 建築学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は、室内における空気質の向上することを最終目的とし、空調用気化式加湿器におけるマクロ波殺菌を提案し、具体的なマイクロ波殺菌手法を検討した。またマイクロ波殺菌手法の実用性を検討した。 本論文は以下のように構成される。 第1章では、本論文の研究背景として、空調システムにおける汚染された微生物の殺菌方法として既往の研究事例について概説した。また、気化式加湿器の問題点を検討するとともに汚染された気化式加湿器のマイクロ波殺菌手法を模索するという本研究の目的を述べた。 第2章では、本研究で用いた手法に関する基礎理論および数値シミュレーション手法について概説した。本研究で用いたマイクロ波および微生物の殺菌について述べ、本研究の理解し安く基礎理論を示した。 第3章では、マイクロ波の殺菌効果を検討するための基礎実験としてマイクロ波による殺菌効果を検討した。また、マイクロ波照射による殺菌メカニズムにつて検討した。マイクロ波の殺菌は熱による効果であることを明らかにしたと共に、菌液(0.9%食塩水)の温度が約60°C以上の条件で殺菌効果が高いことを示した。 第4章では、空調用気化式加湿器におけるマイクロ波の実用性を検討するために加湿器の模型実験装置を製作し、加湿器エレメントの温度がマイクロ波照射により殺菌効果が高かった温度である約60°C以上になる条件を検討した。その結果、マイクロ波照射により加湿器への給水と送風機を稼働させない条件でエレメントの加熱が可能であることが確認された。 第5章では、実大模型装置を用いて第5章で検討した条件の上、微生物の殺菌が可能である条件を検討し、殺菌効果を実験により確認した。その結果、エレメントの上部では温度が高く、殺菌効果も高かったが下部に行くにつれ温度が下がり殺菌効果も低下したことが確認された。 第6章では、マイクロ波照射によるエレメントの不均一な温度分布を解決するためにマイクロ波シミュレーションを用いて実大模型装置の気化式加湿器を再現した。そのため、エレメントンの誘電率を測定し、加湿器内部の電界分布およびエレメントに吸収されたマイクロ波の分布を確認した。また、マイクロ波と熱の連成計算を行い実験結果と比較した。 第7章では、全体のまとめを行い、本研究の成果と今後の課題を示した。 | |
審査要旨 | 本論文は、「Germicidal effect of microwave radiation on microbial contamination of evaporative humidifier in HVAC system (空調用気化式加湿器のマイクロ波殺菌に関する研究)」と題して、室内における空気質の向上することを最終目的とし、空調用気化式加湿器におけるマイクロ波による殺菌手法を提案しその有用性を検討したものである。検討はマイクロ波を用いて空調用気化式加湿器エレメントの微生物汚染を制御する方法について、基礎実験、実大実験、電界シミュレーション解析より行い、具体的なマイクロ波の殺菌手法の有用性並びに今後の課題を論じたものである。 空調システムは温湿度調節及び良好な室内空気質を維持するためのものである。しかしながらこのダクト、加湿器、フィルター等の空調設備の不適切な管理によって真菌及び細菌などの微生物の汚染が進行し、その微生物が建物全体に広がり、空調システム自身が室内空気質を大きく低減する可能性が度々、指摘されている。その中でも気化式加湿器は常に多湿で湿潤な状態であるため真菌および細菌に汚染されやすい空調設備の1つとなっている。気化式加湿器は水中の無機質をエアロゾル化させない特徴を有しており、加湿のための温度が常温ですむため、蒸気式加湿器より省エネである。このため近年その採用例が大きく増えている。一方、気化式加湿器の加湿水は常温の水道水などが用いられるため、水の清浄度を維持するために注意を払う必要がある。加湿水の高い清浄度が確保されたにも関わらず、必ずしも加湿水自身には減菌作用を持たせない場合にはエレメント表面での微生物による汚染の可能性が指摘されている。さらには、気化式加湿器エレメントの表面での微生物汚染が深刻になるとその汚染物質が下流の空気中へ飛散する可能性もある。 これまでの空調システム内の有害微生物に対する殺菌方法は紫外線殺菌装置による表面付着菌の殺菌法、オゾンによる殺菌法、温水による殺菌法などが提案されてきた。しかし、紫外線殺菌は表面では効果があるが、紫外線が届かない加湿器エレメントの内部などにおいてはその効果が期待できない。また、オゾンによる殺菌については一般的に高濃度で使用されるため、呼吸器と目に刺激を与えるなど人体へのリスクがある。さらに、温水による殺菌はボイラー及び温水配管など付属設備が必要となる。マイクロ波殺菌は誘電加熱による殺菌方法であり、より省エネルギーにかつコンパクトな付属設備で済む可能性がある。本論文ではこうした利点が見込まれるマイクロ波加熱により加湿器エレメントの殺菌を提案し、その有用性ならびに現状での課題点を明らかにしている。 研究の第1段階である「基礎実験」は、マイクロ波による殺菌効果を基礎実験により検証している。また、マイクロ波照射による殺菌メカニズムにつて検討し、マイクロ波の殺菌効果はマイクロ波照射により生じた熱による効果であることを明らかにしている。さらには、この加熱温度が60℃以上となる場合に有効な殺菌が行われることを確認している。 研究の第2段階である「実大実験」は、空調用気化式加湿器におけるマイクロ波の実用性を検証している。実大模型の実験装置を用いて加湿器エレメントの含水率、マイクロ波の出力および照射時間の違いによる殺菌効果の差異、加湿器エレメント表面の温度変化および温度分布について検討した。その結果、マイクロ波照射により加湿器への給水と送風機を稼働させない条件でエレメントの加熱が可能であり、加湿器エレメントが湿潤状態で殺菌効果が高いことを確認している。しかし、加湿器エレメントに不均一な温度分布が生じ、温度が低い部分は殺菌効果が低下された結果を示し、マイクロ波殺菌を実用化する際、この点が課題になることを示している。 研究の第3段階である「電界シミュレーション解析」は、マイクロ波加熱による加湿器エレメントの不均一な温度分布の原因を解明するため、数値解析による電界シミュレーションを用いて検討を行っている。シミュレーションでは実大模型装置を再現し、加湿器内部の電界分布および加湿器エレメントに吸収されたマイクロ波の分布を解析した。また、含水率によるエレメントへのマイクロ波の浸透深さを解析した。この電界シミュレーションにより、実現象がある程度、再現されるもののその対応は不十分であることを明らかにした。これは、マイクロ波加熱による水蒸気や液水移動と、水蒸気、液水移動による電波吸収率の変化などが複雑に絡み合い、電界シミュレーションのみでは現象を十分に把握できないことが原因としている。加熱による水蒸気や液水移動は、加湿器エレメントの放射や対流による伝熱性状も影響することから、こうした現象を解明するには電界シミュレーションと熱輸送、湿気、液水輸送もモデル化した検討が今後、必要になることを明らかにした。 以上、本論文は空調システムの気化式加湿器を対象してマイクロ波照射による殺菌手法について基礎実験、実大実験、シミュレーションにより検討しており、その有効性を明らかにするとともにその実用化に向けた課題を抽出している。検討は、空調システムにおいてこれまでほとんど検討がなされていない分野であり、新しい試みで基礎的に有益な技術情報を提供すると考えられる。 よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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