学位論文要旨



No 129035
著者(漢字) 金,翰湜
著者(英字)
著者(カナ) キム,ハンシク
標題(和) 微視的機構に基づくセメント系廃材と二酸化炭素の再資源化・有効利用による資源循環システム
標題(洋)
報告番号 129035
報告番号 甲29035
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7926号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 野口,貴文
 東京大学 教授 野城,智也
 東京大学 教授 腰原,幹雄
 東京大学 准教授 石田,哲也
 東京大学 講師 北垣,亮馬
内容要旨 要旨を表示する

近年,廃コンクリート量の増大による廃コンクリートの再資源化と全世界的解決課題である地球温暖化現象に対する二酸化炭素の削減対策が強く求められている.廃棄物の再資源化として,コンクリート塊を破砕し構造用コンクリート骨材への利用を試みる研究と,その利用に対する規定も公表されているが,まだその使用量が非常に少なくて困難な現象である.その理由としては,再生コンクリートは安価であり廃コンクリートを利用するという点でメリットを持っているが,一般コンクリートに比べ構造的性能が低下するという点と耐久寿命が短縮されるというデメリットを持っている.再生コンクリートの構造的性能と耐久寿命を低下させる最大の要因では,再生骨材の付着ペーストによる空隙率上昇を挙げられる.一般的に,セメントペーストは骨材に比べて多量の空隙を有するし,再生骨材はそのペーストの付着率が増加するほど空隙率が上昇して行く.よって,空隙率の上昇によるコンクリートの圧縮強度低下や劣化抵抗性などが低下する結果になる.このような問題を解決するためには,再生骨材に付着したペーストの空隙を制御できる技術が必要である.このような背景から,本論文では,コンクリートの炭酸化現象に着目し,二酸化炭素の有効利用,セメント系廃材の再資源化手法の開発を目指す.

第1章では,本研究の背景・目的及び特色を整理する.

第2章では,炭酸化反応に基づく二酸化炭素を用いた改質手法における,超微細気泡であるナノバブルの適用可能性に対して検討を行う.ナノバブルの特性に対して既存の文献及び研究に対して開館し,超微細気泡の利用による炭酸水の諸現状に対して実験を行う.それから得られた結果によって,水中での二酸化炭素の液状・気状の平衡及び物質伝達,pHとイオン平衡の各現状を定量化し,本研究への適用を試みる.

第3章では,セメント硬化体を反応場にする炭酸化挙動あたって,炭酸ナノバブル水の利用による炭酸化改質に対して検討を行う.なお,セメント硬化体へ浸透させる二酸化炭素の状態変化(気象,液状)による物質移動特性を検討する.ここでは,セメント硬化体内で空隙水と反応する二酸化炭素の状態及び濃度の変化による炭酸化反応速度を分析し,炭酸ナノバブル水の利用による炭酸化改質手法の有效性に対して検討を行う.また,物質収支に基礎する炭酸化反応による体積変化を定量化し,炭酸化反応による事象をパラメーターとしてシステムに組みこむこととして,炭酸化反応に相互関連して係の体積変化の推定を試みる.

第4章では,物理的触媒作用による炭酸化改質性能向上効果に対して検討を行う.炭酸化反応速度は濃度や温度の反応環境に強く依存するので,反応環境(水中,大気)の変化及び養生方法の変化による改質改善効果に対して,各手法によって変性する材料の諸現状を微視的観点から定量的に分析し,反応環境及び養生方法による改質性能評価を行う.それによって,再生骨材の状態による最適炭酸化改質手法を提案する.

第5章では, 劣化を受けたセメント係材料の修復手法に対して検討を実施する.ここでは,大気中に曝露したセメント係材料が各種環境影響によって劣化された場合,材料を元の状態に近く修復する手法を開発する事である.手法を加えた試料に対して,微視的な観点から定量的に細密に分析し,材料の微細組職と組職を成す構成物質の相互関連を考慮し,実現場に適用可能な形態で修復性能評価を行う.

第6章では,2章から 6章まで検討して来た改質手法における,改質骨材及びそれを用いた改質モルタルへの適用可能性に対して検討を行う.ここでは,改質手法を適用した再生細骨材の自物性評価と,改質再生細骨材を用いたモルタルの力学特性及び耐久特性に対して検討を実施する.また,現時点の複合モデルは初期段階であり,多くの改良店が残っているが,今まで論じた物理化学及び熱力学理論に基づくモデルを既存のシステムに組み合わせて複合材料システムに再構築することとして,セメント係廃材の再利用からライフサイクルまで推測する事が可能な [資源循環システム]の構築に対する糸口に対して論ずる.

第7章では,本研究で得られた以上の成果を統べる.

審査要旨 要旨を表示する

金翰湜氏から提出された「微視的機構に基づくセメント系廃材と二酸化炭素の再資源化・有効利用による資源循環システム」は、将来問題となることが予想されるセメント系建設廃材の再資源化技術に加えて、地球温暖化物質である二酸化炭素をセメント系建設廃材の再資源化において有効利用する技術を開発したものである。これまで、廃コンクリートに代表されるセメント系廃材のリサイクルは、リサイクルされた製品の品質が元の製品よりも劣ることになるカスケードリサイクルか、または、膨大なエネルギーをかけることで元の製品と同等の品質を有するリサイクル製品を産出するリサイクルのどちらかであった。現状、コスト面から、路盤材としてのカスケードリサイクルが廃コンクリートリサイクルの主流となっているが、将来、路盤材の需要が減少することが予想されており、廃コンクリートを再度コンクリート用骨材として利用するための技術開発が必要となっている。このような背景の下、本研究は、コンクリートの中性化による強度増大現象または脆弱化現象に着目し、強制的に低品質の再生細骨材を中性化することで、強度・耐久性上の弱点となる空隙部を炭酸カルシウムによって充填・強化するか、または細骨材に付着したセメント水和物を分解・除去するかによって、再生細骨材の品質改善を図ったものである。

本研究は7つの章で構成されている。

第1章では、本研究の背景、目的、範囲、既往の技術・研究の中での本研究の位置づけなどが的確に述べられている。

第2章では、本研究での中心技術として用いられている炭酸ナノバブル水の特性に関する既往研究について考察がなされるとともに、本研究における再生細骨材の品質向上方策としての適用可能性に関して体系的な実験がなされ、炭酸ナノバブル水中における二酸化炭素の気液平衡状態、二酸化炭素の移動現象、イオン平衡に及ぼすpHの影響など、炭酸ナノバブルの物理化学的特性および流体力学的特性に関する定量的な知見が得られており、再生細骨材の品質向上を図る上で必要となる炭酸ナノバブル水の条件を明らかにしている。

第3章では、二酸化炭素の状態の違い、すなわち気体状態、液体状態および炭酸ナノバブル状態の違いによるセメント硬化体の炭酸化反応および炭酸化進行速度の違いが合理的かつ体系的な実験によって検討され、既往の研究を参考にするとともに、得られた実験結果に基づいて、炭酸化現象のモデル化がなされており、炭酸ナノバブル水を再生細骨材の品質向上に適用するに際して基礎となる普遍的な知見が見出されている。

第4章では、セメント硬化体の炭酸化反応およびそれに影響を及ぼす各種要因に関する微視的な観点からの検討が合理的かつ体系的な実験を通じてなされており、炭酸化反応によるセメント硬化体の物理化学的状態、結晶構造および空隙構造の変化に及ぼす炭酸濃度の違い、気中・水中環境の違い、pHの違いなどの影響が明らかにされており、それに基づいて、再生細骨材の最適な炭酸化改質手法が提案されている。

第5章では、自然環境下で炭酸化し脆弱化したセメント硬化体に水酸化カルシウムを供給することで、セメント硬化体の性能回復を図る手法を構築することを目的として、合理的かつ体系的な実験がなされ、水酸化カルシウムの供給によるCSHゲルの生成および空隙の充填が図られることが明らかにされており、再生細骨材の品質改善に有効な実用技術になり得ることが見出されている。

第6章では、第2章から第5章までにおいて検討してきた再生細骨材の品質改善手法を実際の再生細骨材に適用するとともに、物理的な処理も加えた上で再生細骨材の品質改善が試みられ、さらに、モルタルを用いてその効果を確認するための合理的かつ体系的な実験がなされている。その結果、本研究で提案する改質手法を適用することによって、再生細骨材に付着しているセメント硬化体が減少し、再生細骨材の密度が増大するとともに吸水率が減少すること、改質した再生細骨材を用いたモルタルでは圧縮強度が増大するとともに乾燥収縮が減少することを見出している。

第7章では、本論文の結論と今後の課題が要領よくまとめられている。

以上のように、本論文には、その目的・意義は明確に示されており、適確な手法を用いて研究が進められるとともに、提案技術の実用化に際しての留意事項も示されており、将来における再生骨材を用いたコンクリートの普及に大いに資する示唆的な成果が得られている。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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