学位論文要旨



No 129038
著者(漢字) 朴,炳龍
著者(英字)
著者(カナ) パク,ビョンヨン
標題(和) 低温廃熱を利用するバッチ式デシカント外気処理システムの開発に関する研究
標題(洋)
報告番号 129038
報告番号 甲29038
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7929号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 加藤,信介
 東京大学 教授 大岡,龍三
 東京大学 教授 鹿園, 直毅
 東京大学 准教授 前,真之
 東京工芸大学 教授 義江,龍一郎
内容要旨 要旨を表示する

本論文は「低温廃熱を利用するバッチ式デシカント外気処理システムの開発に関する研究」と題して、業務用建築部門における空調エネルギー削減および快適な室内環境確保を達成するために要求される湿度調節手法の開発について論じたものである。

温室効果ガスの大量排出による地球温暖化、建築分野における省エネルギー化などの地球環境問題(エネルギー観点)に関する、建築の空調分野における取り組みとして、各種熱システムの高効率化、自然エネルギーあるいは廃熱などの積極的な利用する省エネ技術の開発が強く求められている。また、2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震被害による電力供給問題の背景も重なり、節電効果が見込める技術の開発が早急に要求されている。一方、生活環境に目を向けると、室内環境を快適でかつ衛生的に保つために、空調における調湿や換気がますます重要になってきている。高湿状態ではカビや細菌等の微生物が繁殖する危険性が高くなり、冬期低湿状態ではインフルエンザウィルスの感染リスクが高くなると言われている。湿度が適正に制御されないと在室者の健康や快適性に悪い影響を及ぼす。また、建材の変形,断熱材の断熱性劣化,乾燥に伴う亀裂などの原因になる。したがって快適な室内環境は温度のみならず湿度を適正に調節することが必要である。

この課題に対して、建物の省エネルギー性の向上、快適な室内環境の確保を目標とし、潜熱・顕熱分離空調システム(デシカント空調)を土台とした新たな空調システムの開発を研究テーマとしている。以下に博士論文構成を要約する。

第1章では、本研究の研究背景、研究目的および論文の構成を述べる。

第2章では、現在提案されている代表的な調湿方式(加湿・除湿方式)についてそれぞれの動作原理と問題点の解明を行う。特に、乾燥吸着剤を用いたロータ式とバッチ式の問題点を解明する。例えば、ロータ式とバッチ式のデシカントシステムは乾燥吸着剤を再生する過程が原理的に必要となる。ロータ式の具体的な方策は加熱ヒータで空気を間接的に加熱してデシカントロータに吸着された水分を脱着(再生)するというものである。それには,二段階の熱交換が有りエネルギー効率の低下は避けられず、熱の有効利用の面では限界があると言わざるを得ない。近年のバッチ式ヒートポンプデシカントシステムは吸着剤が塗布された熱交換器を用い、ヒートポンプ熱源で吸着剤を直接に再生する。しかし、バッチ式デシカントシステムで低温廃熱を有効利用する事例は少ない。

第3章では、 既往研究の発展形として低温廃熱などの自然エネルギーで駆動するバッチ式デシカント空調システムを提案する。ヒートポンプの冷媒温度より高い範囲の温度で(温水40 ~ 90 ℃)吸着剤を直接に加熱することによって加熱脱着性能の向上を試みている。また、冷水は冷却塔からの冷水を用いて冷却吸着を試みている。

第4章では、 提案システムの技術的適用可能性評価として建築の各換気方式について性能比較を行い、室内温熱環境の改善効果および省エネルギー効果を検討する。提案システムの性能決定因子は大きく分けて、構造による因子、運転条件による因子、物性による因子の3つに分類できる。構造による因子としては、熱交換器の構成材料、 熱交換器大きさ、熱源配管径、フィン厚さ、フィン形状など、 運転条件による因子としては、処理空気入口温湿度、再生空気入口温湿度、処理空気風量、再生空気風量、熱源温度、熱源流量、サーマルサイクルなど、物性による因子としては、吸着等温線、吸着熱、比熱などが考えられる。そこで、本検討では提案システムの技術的適用可能性評価として提案システムの数値解析用簡易モデル(性能推定値利用)を用いてさまざまなパラメータ(室内外温・湿度)によって提案システムの性能把握を行う。

第5章では提案システムの精密な数値解析モデルを作成するために実証実験装置の設計・製作の上、様々条件下において運転データを取得する。まず、「提案システムの構成要素である吸着剤が塗布された水・空気式熱交換器に供給する冷・温水流入温度と流量の変化による水蒸気吸脱着性能の評価実験を行う。また、吸・脱着特性と調湿量の関係および吸脱着完了時間の検討の上、 提案システム連続運転に必要なサイクル時間の最適値も求める。次に、「外気温・湿度の変化による提案システム吸着と脱着を一定のサイクル(交互に繰り返し)で連続運転した場合の空気加熱・水蒸気脱着(加湿)および空気冷却・水蒸気吸着(除湿)性能」の運転データの収集を行う。

第6章では提案システムの性能を評価するための数値解析モデルの作成し実験結果との比較を行い数値解析モデルの妥当性を検証する。また、数値解析モデルを用い、サーマルサイクルの時間変化によるシステムの性能に与える影響に関して感度分析を行う。その結果、サーマルサイクルの時間変動が加湿性能・除湿性能に与える影響について精度よく予測できることを示す。

第7章では、性能評価用数値解析モデルを用いてエネルギーシミュレーション(TRNSYS)により、システムの性能評価を行う。特に、日本の異なる各地域における提案システムの室内環境制御性能、年間負荷削減効果を評価し、提案システムの適用可能性検討を実施する。

第8章では、本研究のまとめ、今後の課題の空調システム性能に影響を与えるパラメータに関する最適化などについて述べる。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「低温廃熱を利用するバッチ式デシカント外気処理システムの開発に関する研究」と題して、業務用建築部門における空調エネルギー削減および快適な室内環境確保を達成するために要求される湿度調節手法の開発について論じたものである。本論文の構成は以下の通りである。

第1章では、本研究の研究背景を説明し研究目的を明確化にした。温室効果ガスの大量排出による地球温暖化、建築分野における省エネルギー化などの地球環境問題(エネルギー観点)に関する、建築の空調分野における取り組みとして、各種熱システムの高効率化、自然エネルギーあるいは廃熱などの積極的な利用する省エネ技術の開発が強く求められている。一方、快適な室内温熱環境を作り出すためには顕熱制御のみならず、潜熱制御も重要である。室内空間が高湿状況になると、カビや細菌等の微生物が生じる危険性が高くなり、在室者の健康や快適性に悪影響を及ぼす。また、建材の変形、断熱材の断熱性劣化、乾燥に伴う亀裂の発生などの問題の原因になる。したがって、快適な室内環境は温度のみならず湿度を適正に調節することが必要である。本研究では二つの問題に着目し、建物の省エネルギー性の向上、快適な室内環境の確保を目標とし、潜熱・顕熱分離空調システム(デシカント空調)を土台とした新たな空調システムの開発を研究テーマとしている。

第2章では、現在提案されている代表的な調湿方式(加湿・除湿方式)についてそれぞれの動作原理と問題点の解明を行っている。特に、乾燥吸着剤を用いたロータ式とバッチ式の問題点を解明している。また、バッチ式デシカントシステムで低温廃熱を有効利用する事例は少ないことをレビューしている。

第3章では、 既往研究の発展形として低温廃熱などの未利用エネルギーで駆動するバッチ式デシカント外気処理システムを提案している。固体吸着剤を用いた提案システムは、ゼオライト系の固体吸着剤を加熱冷却するサーマルサイクルを連続的に行うことにより、継続的に処理空気中の水蒸気を吸・脱着し、除湿もしくは加湿を行う。吸・脱着の過程で液水が現れないので、微生物汚染のリスクを低くすることが可能で有り、衛生的なシステムとなる。また、外調機として使用し外気負荷(潜熱負荷・顕熱負荷)を処理し、それにより、建物の冷・暖房エネルギーの大幅な削減を通じて、エネルギー消費の低減が可能であることを試みている。

第4章では、「提案システムの技術的適用可能性評価」として建築の各換気方式について性能比較を行い、室内温熱環境の改善効果および省エネルギー効果を検討している。特に、提案システムの技術的適用可能性評価として提案システムの数値解析用簡易モデル(性能推定値利用)を用いて提案システムの性能把握を行い、その性能がさまざまなパラメータ(室内外温・湿度)によって大きく異なることを確認した。

第5章では、提案システムの精密な数値解析モデルを作成するために実証実験装置の設計・製作の上、様々条件下において運転データを取得した。実験は「提案システムの構成要素である吸着剤が塗布された水・空気式熱交換器に供給する冷・温水流入温度と流量の変化による水蒸気吸・脱着性能の評価実験を行った。吸・脱着特性と調湿量の関係および吸・脱着完了時間の検討結果から、提案システム連続運転に必要なサーマルサイクル時間の最適値も求めった。また、「外気温・湿度の変化による提案システム吸・脱着を一定のサイクル(交互に繰り返し)で連続運転した場合の空気加熱・水蒸気脱着(加湿)および空気冷却・水蒸気吸着(除湿)性能」の運転データの収集を行った。

第6章では、提案システムの性能を評価するための数値解析モデルを作成し実験結果との比較を行い数値解析モデルの妥当性を検証している。なお、数値解析モデルを用い、サーマルサイクルの時間変化によるシステムの性能に与える影響に関して感度分析を行った。その結果、サーマルサイクルの時間変動が加湿性能・除湿性能に与える影響について精度よく予測することを確認している。

第7章では、日本の異なる気候を持つ各地域(札幌、松本、東京、鹿児島の4地域)で各換気方式と提案システムの導入する事務室ビルを検討対象にして性能評価用数値解析モデルを用いて室内環境制御性能、年間負荷の解析を行った。その結果、寒冷地域に既存の換気方式と提案システムを併用することで同量の外気負荷および室内負荷に対したシステムの高効率化が図られ、エネルギー消費量削減につながる結果が確認されている。

第8章において本論文の総括を示し、併せて今後の研究課題を示して結論とした。

以上を総括すると、本論文では低温廃熱を利用するバッチ式デシカント外気処理システムの開発と性能評価のため、数値解析手法を用いて提案システムの適用可能性を検討した。第一に提案システムの数値解析用簡易モデルを用いて技術的適用可能性評価し、第二に提案システムの性能評価用解析モデルを開発し実験結果との比較検証により妥当性を確認した。また、日本の異なる各地域における提案システムの室内環境制御性能、エネルギー削減のポテンシャルを検討している。現状の湿度調節システムの課題に対し工学の見地から実用レベルの対策を提示し、シミュレーションモデルおよび実証実験により検証した点が評価に値する。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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