学位論文要旨



No 129053
著者(漢字) 池内,健義
著者(英字)
著者(カナ) イケウチ,カツヨシ
標題(和) 金属薄板・複合材料薄板の成形特性の温度依存性に関する研究
標題(洋)
報告番号 129053
報告番号 甲29053
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7944号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柳本,潤
 東京大学 教授 中尾,政之
 東京大学 教授 吉川,暢宏
 東京大学 教授 横井,秀俊
 東京農工大学 教授 桑原,利彦
内容要旨 要旨を表示する

輸送用機器や大型建設機械,小型精密機器のエネルギー効率向上に寄与する,部材軽量化への要求の高まりを受け,高強度金属薄板および非金属薄板に対する,大量生産が可能で材料の増減がない経済的な成形手法であるプレス成形適用の要求が強まっている.しかし,高強度薄板は一般的に延性が低く,冷間プレス成形の際の過大なスプリングバック,割れといった成形不良や高荷重による金型摩耗等が問題となっていた.また非金属材料,特に繊維強化複合材料の成形については工程が長く複雑であることから,高い部品製造コストが問題となっていた.対応して,金属薄板については金型焼入れを利用したホットスタンピングや温間成形,非金属薄板については熱可塑性樹脂による複合材料(CFRTP)薄板のプレス成形が盛んに研究されている.しかし,いずれについても,スプリングバック・成形途中の変形や荷重の遷移といった成形特性が,曲げ,絞りといったプレス成形時の基本的な変形について系統的に明らかにされておらず,さらにこれらの成形特性の温度依存性については不明な状況にあった.

本論文では,上記課題の解決を目的とし,金属薄板・複合材料薄板の成形特性とその温度依存性を取得する手法の提案を行い,各種高強度金属・複合材料薄板の成形特性とその温度依存性について系統的に検討し,軽量部材成形へ応用できる成形特性の取得を行った.

まず,曲げ・絞りなど実用的な変形で薄板の成形性を評価するための,精密圧縮試験機を使用した計測手法を新規に提案した.このシステムはプロセス条件因子(加工温度,加工速度,成形荷重など)と,製品特性(スプリングバック,強度など)との関連付けを,プレス成形で行われる曲げや絞りといった縮小試験可能な基本的な変形において,試験片や金型の温度履歴や成形荷重の履歴を参照しつつ各種特性を取得できるものである.精密圧縮試験機の有する精密な温度・ストローク制御のほかに,各種変形形態を模した金型の使用や各種材料を使用することで,各種プレス加工を再現することができる.提案と合わせ,本システムを使用した鉄鋼材料のホットスタンピング(熱間プレス成形)について,その精密計測した例を示し,金型材料および内部水冷却,異なる成形速度により幅広い金型冷却条件を再現することができ,得られた試験片から取得した硬さ試験や内部微細組織観察により,異なる冷却条件から異なる機械的特性を持つ製品が得られることが確認できた.

以後,提案した手法を活用し,高強度薄板の成形特性とその温度依存性を取得・調査し,成形温度の上昇とスプリングバック量・成形特性との関係を,広範囲の金属薄板および非金属材料について得た.金属材料で対象としたのはステンレス鋼板,マグネシウム合金AZ31薄板,耐熱ニッケル合金薄板,アルミニウム合金A2024薄板とし,板厚は最少で極薄板ともいえる0.1mmから1.0mmまでの範囲とした.加工温度は各金属の再結晶温度以下の高温域(200℃程度)を中心に室温から600℃程度までの範囲で変化させた.曲げ形状は単純形状でありながら各種プレス加工の基本的な形状になる90度V曲げを用い,それぞれパンチ先端半径が与える成形性の影響についても調査した.成形後試験片のスプリングバック量を計測し比較した結果,成形温度とともに試験片開き角が小さくなり,条件によってはほぼゼロとなっていることが確認できた.また曲げ半径を小さくすることでスプリングバック量をより低い温度でゼロにすることができた.以上の結果は温間での引張強さ低下や曲げひずみ量増大だけでなく,金型形状の相違やそれに伴う曲げ形態および成形荷重の相違によるものと考えられる.またサーボプレスを用いた自動車サイドメンバー部を模した形状の大型成形品実験を行い,V曲げ実験結果と同様の傾向とが得られることを確認した.

非金属材料については,比較的高強度な連続長炭素繊維強化型熱硬化性樹脂薄板(以下「CFRP薄板」)の成形を対象として,提案した手法で成形特性の温度依存性を評価し,さらに成形品の強度を評価した.CFRP薄板の塑性加工については,新規に提案した成形補助板(ダミー薄板)を用い,板内部のひずみ分布を変化させることで可能とするサンドイッチ成形および,ダミー薄板の加熱制御を行い間接的に材料の加熱を行う手法により実現している.成形形状はV曲げに加え,輸送用機器床材への使用を想定した浅絞り形状を用い,成形特性の温度依存性を絞り部高さやスプリングバック量で評価した.ダミー薄板の使用でプレス成形困難なCFRP薄板が成形できるようになり,成形温度を100℃以上とすることでより精度の高い成形が可能であることが確認できた.また高強度金属薄板と同様にサーボプレスを用いた大型成形品実験を長尺のV曲げ形状で行うとともに,成形後試験片強度が不明であることから,試験片断面や内部の観察と合わせ,引張試験片内に浅絞り形状を成形した引張試験を実施し,成形前の90%程度の強度を確保できることを確認した.

本研究は,従来の板材成形実験では行えなかった,温度をはじめとする様々な成形因子の比較を行う試験方法を提案し,また金属材料から非金属材料まで,高強度材料に対し幅広くその成形特性の温度依存性を取得した世界初の試みであり,本研究成果は板成形の高度化や軽量部材成形実現に貢献すると期待される.

審査要旨 要旨を表示する

部材軽量化への要求の高まりを受け,高強度金属薄板あるいは非金属薄板のプレス成形への要求が強まっている.高強度薄板は一般的に延性が低く,冷間プレス成形の際の過大なスプリングバック,割れといった成形不良や高荷重による金型摩耗等が問題となっていた.対応して,金属薄板については金型焼入れを利用したホットスタンピングや温間成形,非金属薄板については熱可塑性樹脂による複合材料(CFRTP)薄板のプレス成形が盛んに研究されている.しかし,いずれについても,スプリングバック・成形途中の変形や荷重の遷移といった成形特性が,曲げ,絞りといったプレス成形時の基本的な変形について系統的に明らかにされておらず,さらにこれらの成形特性の温度依存性については不明な状況にあった.

本論文は,「金属薄板・複合材料薄板の成形特性の温度依存性に関する研究」と題し,金属薄板・複合材料薄板の成形特性とその温度依存性を取得する手法の提案を行い,各種高強度金属・複合材料薄板の成形特性とその温度依存性について系統的に検討している.第1章は序論,第2章は従来の研究のレビューである.第3章では曲げ・絞りなど実用的な変形で薄板の成形性を評価するための,精密圧縮試験機を使用した計測手法を新たに提案した.この手法によれば,素材である薄板の温度履歴や加工速度,冷却速度を変更しつつ試験を行うことができ,荷重,変形過程を試験中にその場で評価でき,さらに試験後の変形形状,金属組織,機械的特性の測定と併せることで,金属薄板・複合材料薄板の成形特性の温度依存性について,広く条件を変更した精密な試験が可能である.第4章,第5章は,提案した手法の実施例である.第4章では,第3章にて提案した手法を活用し,高強度金属薄板の成形特性とその温度依存性を取得・調査し,成形温度の上昇とスプリングバック量・成形特性との関係を,広範囲の金属薄板について得た.第5章では,CFRP薄板の成形を対象として,第3章にて提案した手法で成形特性の温度依存性を評価し,さらに成形品の強度を評価した.連続長炭素繊維強化型熱硬化性樹脂薄板の塑性加工は,新たに提案したダミー薄板を用いたサンドイッチ成形・加熱により実現している.第6章は総括である.

本論文では,金属薄板・複合材料薄板の成形特性の温度依存性を測定する手法を提案した.この新たな物理シミュレーション手法は,様々な薄板への適用が可能であることに鑑み,工学的意義が十分に評価できる.さらに,金属およびCFRP薄板についての一連の測定結果によって成形特性の温度依存性が明らかになったこと,熱硬化性樹脂からなるCFRP(連続繊維強化複合材料)薄板の常温,温間(100℃程度)での成形を,金属薄板を援用したサンドイッチ成形によって実現したことは,工業的意義として評価できる.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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