学位論文要旨



No 129058
著者(漢字) チャンサウォン,ナリン
著者(英字)
著者(カナ) チャンサウォン,ナリン
標題(和) 高繰返し周波数光コムを用いた三次元測定機の校正法に関する研究
標題(洋) High-Accuracy Calibration Method of Coordinate Measuring Machine Using High-Frequency Repetition Optical Comb
報告番号 129058
報告番号 甲29058
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7949号
研究科 工学系研究科
専攻 精密機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 教授 松本,弘一
 東京大学 教授 川勝,英樹
 東京大学 教授 香取,秀俊
 東京大学 准教授 三村,秀和
内容要旨 要旨を表示する

本論文では,モードロックファイバーレーザーとファブリー・ペローエタロン(以下FPE)を利用した精密絶対測長システムを提案し,このシステムを利用してブロックゲージ,ステップゲージの寸法測定および三次元測定機(以下CMM)の校正が高精度で,トレーサビリティが確保できる方法を提案している.

CMMの性能を検証するための多くの手法について研究が行われている.ISO(国際標準化機構)規格の現在の評価手法では,物理標準(ブロックゲージ,ステップゲージ,ボールプレートなど)を参照標準として使い,空間的な測定を行うことでCMMの精度を評価している.しかし,大型CMMに対しては,物理的に大型の標準を作ることが難しいために,レーザー干渉計を標準として使うことが適している.一般的なレーザー干渉計は,連続的な発振によるHe-Neレーザーと縞解析技術が用いられるが,この方法では,測定中は測定光路を遮ることがゆるされない.このような制約に対して,モードロックファイバーレーザー(周波数コムレーザー)を利用することは,直接的に長さの国家標準につながり,トレーサビリティが確保できること,周波数コムレーザーの繰り返し周波数は,周波数標準で安定化することで,非常に安定なものが得られるため高精度な測定が実現できること,およびパルス干渉を用いることで,環境の影響を受けにくい絶対測長が可能であることなどの特徴がある.

第1章では,長さ測定の標準について記述し,本論文の目的を述べている.

第2章では,光周波数コムについて,その原理と特徴を理論的に考察し,パルス列の干渉により絶対測長が可能なことを示している.マイケルソン干渉計において,光路差がパルス間隔の整数倍になった場合に干渉パターンを得ることができ,モードロックファイバーレーザーのパルス間隔は,周波数コムレーザーの繰り返し周波数によって決定される.

第3章では,本研究で提案したモードロックファイバーレーザーの繰り返し周波数を高くさせるためFPEを利用する方法を示した.ルビジウムクロックで安定化された,100MHzの繰り返しを持つフェムト秒モードロックレーザーはFPEによって繰り返し周波数を高くすることができる.ここでは,ミラータイプのFPEおよび新たに開発したファイバータイプのFPEの2つの種類のFPEを使用した.ファイバータイプのFPEのフリースペクトラルレンジは,タンデム低コヒーレント干渉計および高精度ステージによって測定できる.さらに,両方のFPEを利用することで広い範囲の周波数とフィネスが選択可能となった.FPEの使用により,モードロックレーザーの繰り返し周波数を変更し,ISOに近い空間間隔でサブマイクロメートル精度のCMMおよび関連する測定に応用できることを示している.

第4章では,提案したモードロックファイバーレーザーとFPEの組み合わせによる絶対測長システムを3つの参照標準器の測長に応用した.まず,一次元的な長さ測定において,市販のcwレーザー干渉測長機と比較することで,提案システムの評価を行った.つぎに,ブロックゲージの寸法測定を行った.一般的にブロックゲージの寸法は,複数の波長のレーザー干渉計によって合成波長を利用した合致法により絶対測定を行う.この方法では,いくつかの波長のレーザーが必要である他に,現場の環境で利用することが困難である.提案システムでは,FPEがブロックゲージの長さに合わせたパルス間隔を持つように選択され,レーザーの繰り返し間隔と干渉パターンからブロックゲージの寸法が瞬時に決定された.

さらに,CMMの校正に使われるステップゲージの測長への適用を行った.ステップゲージの長さは4光路干渉計によって測定されているが,4光路のcw干渉計は光学系の調整が難しく,測定中に光路を遮ることができない制約がある.ファイバータイプの干渉計に基づく,2つのコーナーキューブ反射鏡を利用した新しいダブルパス干渉計システムを,ステップゲージの測定のために設計した.接触式のプロービングシステムのプローブ信号と,周波数コムレーザー干渉信号から絶対寸法が精密に測定できた.

第5章では,モードロックファイバーレーザーをこの論文の最終目標であるCMMの校正へ適用した.ファイバータイプの干渉計は,調整が簡単で,環境の影響を受けにくい.CMMの移動によって干渉信号が得られ,CMMの軸に対して精密な光目盛を与えることができた.

以上,本研究では,モードロックファイバーレーザーとFPEによる高精度絶対測長システムを提案した.このシステムでは,日本の国家標準から実用標準への直接的なトレーサビリティを確保することができた.この新しい測定システムは,ブロックゲージ測定,ステップゲージ測定およびものづくり産業で重要なCMM校正システムに応用することができ,開発したシステムの有用性を示した.

審査要旨 要旨を表示する

本論文では,モードロックファイバーレーザーとファブリー・ペローエタロン(以下FPE)を利用した精密絶対測長システムを提案し,このシステムを利用してブロックゲージ,ステップゲージの寸法測定および三次元測定機(以下CMM)の校正が高精度で,トレーサビリティが確保できる方法を提案している.

CMMの性能を検証するための多くの手法について研究が行われている.ISO(国際標準化機構)規格の現在の評価手法では,物理標準(ブロックゲージ,ステップゲージ,ボールプレートなど)を参照標準として使い,空間的な測定を行うことでCMMの精度を評価している.しかし,大型CMMに対しては,物理的に大型の標準を作ることが難しいために,レーザー干渉計を標準として使うことが適している.一般的なレーザー干渉計は,連続的な発振によるHe-Neレーザーと縞解析技術が用いられるが,この方法では,測定中は測定光路を遮ることがゆるされない.このような制約に対して,モードロックファイバーレーザー(周波数コムレーザー)を利用することは,直接的に長さの国家標準につながり,トレーサビリティが確保できること,周波数コムレーザーの繰り返し周波数は,周波数標準で安定化することで,非常に安定なものが得られるため高精度な測定が実現できること,およびパルス干渉を用いることで,環境の影響を受けにくい絶対測長が可能であることなどの特徴がある.

第1章では,長さ測定の標準について記述し,本論文の目的を述べている.

第2章では,光周波数コムについて,その原理と特徴を理論的に考察し,パルス列の干渉により絶対測長が可能なことを示している.マイケルソン干渉計において,光路差がパルス間隔の整数倍になった場合に干渉パターンを得ることができ,モードロックファイバーレーザーのパルス間隔は,周波数コムレーザーの繰り返し周波数によって決定される.

第3章では,本研究で提案したモードロックファイバーレーザーの繰り返し周波数を高くさせるためFPEを利用する方法を示した.ルビジウムクロックで安定化された,100MHzの繰り返しを持つフェムト秒モードロックレーザーはFPEによって繰り返し周波数を高くすることができる.ここでは,ミラータイプのFPEおよび新たに開発したファイバータイプのFPEの2つの種類のFPEを使用した.ファイバータイプのFPEのフリースペクトラルレンジは,タンデム低コヒーレント干渉計および高精度ステージによって測定できる.さらに,両方のFPEを利用することで広い範囲の周波数とフィネスが選択可能となった.FPEの使用により,モードロックレーザーの繰り返し周波数を変更し,ISOに近い空間間隔でサブマイクロメートル精度のCMMおよび関連する測定に応用できることを示している.

第4章では,提案したモードロックファイバーレーザーとFPEの組み合わせによる絶対測長システムを3つの参照標準器の測長に応用した.まず,一次元的な長さ測定において,市販のcwレーザー干渉測長機と比較することで,提案システムの評価を行った.つぎに,ブロックゲージの寸法測定を行った.一般的にブロックゲージの寸法は,複数の波長のレーザー干渉計によって合成波長を利用した合致法により絶対測定を行う.この方法では,いくつかの波長のレーザーが必要である他に,現場の環境で利用することが困難である.提案システムでは,FPEがブロックゲージの長さに合わせたパルス間隔を持つように選択され,レーザーの繰り返し間隔と干渉パターンからブロックゲージの寸法が瞬時に決定された.

さらに,CMMの校正に使われるステップゲージの測長への適用を行った.ステップゲージの長さは4光路干渉計によって測定されているが,4光路のcw干渉計は光学系の調整が難しく,測定中に光路を遮ることができない制約がある.ファイバータイプの干渉計に基づく,2つのコーナーキューブ反射鏡を利用した新しいダブルパス干渉計システムを,ステップゲージの測定のために設計した.接触式のプロービングシステムのプローブ信号と,周波数コムレーザー干渉信号から絶対寸法が精密に測定できた.

第5章では,モードロックファイバーレーザーをこの論文の最終目標であるCMMの校正へ適用した.ファイバータイプの干渉計は,調整が簡単で,環境の影響を受けにくい.CMMの移動によって干渉信号が得られ,CMMの軸に対して精密な光目盛を与えることができた.

以上,本研究では,モードロックファイバーレーザーとFPEによる高精度絶対測長システムを提案した.このシステムでは,日本の国家標準から実用標準への直接的なトレーサビリティを確保することができた.この新しい測定システムは,ブロックゲージ測定,ステップゲージ測定およびものづくり産業で重要なCMM校正システムに応用することができ,開発したシステムの有用性を示した.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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