No | 129070 | |
著者(漢字) | 梅村,悠 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ウメムラ,ユタカ | |
標題(和) | 微小重力環境における沸騰を伴う熱流動現象の研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 129070 | |
報告番号 | 甲29070 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第7961号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 航空宇宙工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 宇宙開発利用の進展に伴い,宇宙機の推進機関や軌道上構造物の熱管理機器など,地上とは異なる重力環境で,気液二相流を利用する場面が増えつつある.これらの熱管理機器を構成する液体貯蔵容器や熱交換器の内部では,しばしば沸騰を伴う気液共存系となるが,軌道上の微小重力環境では,浮力の効果が消失し,代わって界面張力と濡れ性の影響が相対的に卓越するため,気液二相流の流動様式と熱伝達特性が地上の場合と大きく異なることが知られている.軌道上で運用される熱管理機器の信頼性を向上させ,同時に開発コストと運用リスクを低減させるためには,その設計・計画段階から沸騰二相流の挙動を適切に予測する技術が求められている.しかし,微小重力環境における沸騰二相流の熱伝達特性を予測する実験的知見の蓄積は十分ではなく,対応する数値流体解析技術も未成熟で,例えば,液体ロケット上段エンジンの再着火前冷却(予冷)に配分される無効推薬量及びその流量の決定についても,未だ的確な指針が得られていない. これらの課題に対し,本論文では,微小重力環境に対応した低ボンド数かつ低ウェーバー数条件における沸騰二相流を対象として,界面張力と相変化を適切に考慮できる数値流体解析手法を新たに提案し,その有効性を検証している. 論文の第1章では,本研究の背景を述べ,その有効性を検証している. 第2章では,界面張力が支配的となる条件における沸騰二相流を分析するためには,流動場を非定常な自由表面流として捉えることが重要であるとの認識を示したうえで,二相流体に対する質量と運動及び内部エネルギの式を,温度と圧力を変数とする形式に変換し,相変化に伴う体積沸出と潜熱の項を明示した支配方程式を導いている. 第3章では,支配方程式の離散化にあたり,界面の合体分裂を容易に扱える界面捕獲法を採用する方針を説明している.また,各計算格子点の中間(スタッガード)位置に体積沸出を集中配置し,気液界面を挟んだ熱流束の不連続と潜熱の関係を満足するように,界面単位面積当たりの相変化質量を算出するという,新たな相変化モデルが提案されている. 第4章では,提案した相変化モデルを実装した数値解析手法によって,界面が大変形するダム崩壊を解いた場合においても体積保存が問題無く行えること,一次元ステファン問題及び球形気泡の成長問題により相変化量が正しく見積もられることを確認している. 第5章では,固体伝熱面近傍で気泡が成長と離脱を反復する沸騰現象を解析し,界面張力と濡れ性の影響を含め,気泡の成長速度,形状,離脱周期について定量的に実験と良く一致する結果を得ることに成功している. 第6章では,透明な伝熱毛細管を用いた,低ボンド数かつ低ウェーバー数条件における管内沸騰二相流の観察実験結果を述べた後,それに対応した数値解析を試みている.自由表面流と固体伝熱を連成して解くことにより,スラグ状の気泡の急成長と伝熱管の表面温度分布が,数値解析でも良く再現されることを示した上で,管の内壁面上に形成される液膜が,熱伝達に対して支配的であることを確認している. 第7章は結論であり,本研究で得られた知見をまとめている. 以上を要するに,本論文は,自由表面流の数値解析に適用できる相変化モデルを新たに提案し,低ボンド数かつ低ウェーバー数条件における沸騰二相流への適用可能性を示したものである.この成果は宇宙環境における熱流動管理技術を構築するための一つの基盤を確立したもので,航空宇宙工学及び伝熱工学上貢献するところが大きい. | |
審査要旨 | 修士(工学) 梅村悠提出の論文は、「微小重力環境における沸騰を伴う熱流動現象の研究」と題し、本文7章および付録から成っている。 宇宙開発利用の進展に伴い、宇宙機の推進機関や軌道上構造物の熱管理機器など、地上とは異なる重力環境で、気液二相流を利用する場面が増えつつある。これらの熱管理機器を構成する液体貯蔵容器や熱交換器の内部では、しばしば沸騰を伴う気液共存系となるが、軌道上の微小重力環境では、浮力の効果が消失し、代わって界面張力と濡れ性の影響が相対的に卓越するため、気液二相流の流動様式と熱伝達特性が地上の場合と大きく異なることが知られている。軌道上で運用される熱管理機器の信頼性を向上させ、同時に開発コストと運用リスクを低減するためには、その設計・計画段階から沸騰二相流の挙動を適切に予測する技術が求められている。しかし、微小重力環境における沸騰二相流の熱伝達特性を予測する実験的知見の蓄積は十分ではなく、対応する数値流体解析技術も未成熟で、例えば、液体ロケット上段エンジンの再着火前冷却(予冷)に配分される無効推進薬量およびその流量の決定についても、未だ的確な指針が得られていない。 これらの課題に対し、本論文では、微小重力環境に対応した低ボンド数かつ低ウェバー数条件における沸騰二相流を対象として、界面張力と相変化を適切に考慮できる数値流体解析手法を新たに提案し、その有効性を検証している。 論文の第1章では、本研究の背景を述べ、その目的と新規性を説明している。 第2章では、界面張力が支配的となる条件における沸騰二相流を分析するためには、流動場を非定常な自由表面流として捉えることが重要であるとの認識を示したうえで、二相流体に対する質量と運動量および内部エネルギーの式を、温度と圧力を変数とする形式に変換し、相変化に伴う体積湧出と潜熱の項を明示した支配方程式を導いている。 第3章では、支配方程式の離散化にあたり、界面の合体分裂を容易に扱える界面捕獲法を採用する方針を説明している。また、各計算格子点の中間(スタッガード)位置に体積湧出を集中配置し、気液界面を挟んだ熱流束の不連続と潜熱の関係を満足するように、界面単位面積当たりの相変化質量を算出するという、新たな相変化モデルが提案されている。 第4章では、一次元ステファン問題および球形気泡の成長問題により、提案した相変化モデルの妥当性を確認したうえで、固体伝熱面近傍で気泡が成長と離脱を反復する沸騰現象を解析し、界面張力と濡れ性の効果も含め、気泡の成長速度、形状、離脱周期について定量的に実験と良く一致する結果を得ることに成功している。 第5章では、局所的な気泡成長の初期段階と大域的な流動場との相互干渉が小さな場合について、加熱度を引数とするサブグリッドの気泡成長モデルを追加することで、数値解析の定量的妥当性を大きく損なうことなく、比較的大きな計算領域を対象とした計算を、効率的に実行できることを実証している。 第6章では、透明な電熱毛細管を用いた、低ボンド数かつ低ウェーバー数条件における管内沸騰二相流の観察実験結果を述べた後、それに対応した数値解析を試みている。自由表面流と固体伝熱を連成して解くことにより、気泡の急成長と電熱管の表面温度分布が、数値解析でも良く再現されることを示したうえで、管の内壁面上に形成される液膜が、熱伝達に対して支配的であることを確認している。 第7章は結論であり、本研究で得られた知見をまとめている。 以上を要するに、本論文は、自由表面流の数値解析に適用できる相変化モデルを新たに提案し、低ボンド数かつ低ウェーバー数条件における沸騰二相流への適用可能性を示したものである。その成果は宇宙環境における熱流体管理技術を構築するための一つの基盤を確立したものと評価され、航空宇宙工学上貢献するところが大きい。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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