学位論文要旨



No 129094
著者(漢字) 丸山,智史
著者(英字)
著者(カナ) マルヤマ,サトシ
標題(和) MEMS静電アクチュエータの時分割駆動・変位計測インターフェース回路に関する研究
標題(洋) A Study on Interface Circuits for Time-Multiplexed Drive and Displacement Measurement of MEMS Electrostatic Actuators
報告番号 129094
報告番号 甲29094
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7985号
研究科 工学系研究科
専攻 電気系工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 年吉,洋
 東京大学 教授 藤田,博之
 東京大学 准教授 池田,誠
 東京大学 准教授 河野,崇
 東京大学 准教授 三田,吉郎
 東京大学 准教授 日暮,栄治
内容要旨 要旨を表示する

本論文は、「MEMS静電アクチュエータの時分割駆動・変位計測インターフェース回路に関する研究」と題し、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems、微小電気機械システム)型静電駆動アクチュエータの制御方法として、駆動電圧の印加と静電容量検出によるアクチュエータ変位の読み取りをパルス電圧列の時分割で行う新たな電気回路を提案し、実際に0.35μmおよび0.6μm設計ルールによるCMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)集積回路として設計・製作し、光ファイバ通信用のMEMS静電駆動ミラーを対象に制御性の評価を実施したものであり、研究分野の背景、パルス幅変調電圧によるMEMSアクチュエータ変位出力の発生、時分割駆動・変位検出インターフェース回路の設計手法、回路評価実験結果、性能の考察、および結論に関する全6章を日本語で報告したものである。

第1章は「序論」であり、本研究の背景技術について述べている。まず、従来のMEMS分野における各種マイクロアクチュエータの原理と応用について背景技術を述べた後に、当該分野で急速に技術が拡充しつつある、マイクロメカニズムとその駆動・制御回路を融合した集積化MEMS技術の必要性について述べている。とくに、集積回路設計者がMEMS設計を容易に実施するための汎用インターフェース回路の必要性について述べるとともに、本論文の目的と研究の意義、本研究の位置づけ、論文構成について説明している。

第2章は「MEMS静電アクチュエータの駆動・変位検出に関する理論」であり、本研究の制御対象である静電駆動アクチュエータを電気的2端子素子としてモデル化する手法について述べている。とくに、静電アクチュエータを平行平板モデルとして取り扱い、駆動電圧と変位の関係を定式化するとともに、実際に本研究で測定対象とする回転型のトーションミラー静電駆動機構へのモデル拡張方法を記述している。また、静電駆動アクチュエータに特有なプルイン現象、負のバネ定数効果、チャージアップ等の現象を説明し、これらの特徴を利用した駆動方法として、パルス幅変調によるアクチュエータ出力の制御方法を提案している。具体的には、二端子素子としてのMEMS静電駆動アクチュエータの変位出力、高速動作特性を劣化させずに実時間で変位を計測するための手法として、静電駆動アクチュエータに蓄積した電荷を、その機械的共振周波数以上のサンプリング速度で高速でモニタする新たな駆動・変位検出回路を提案している。さらに、この駆動手法の有効性を検証するために、光ファイバ通信に使われている静電駆動型のマイクロミラーを用いて、パルス幅変調により、ミラー角度をアナログ制御できることを実験的に示した。

第3章は「パストランジスタ回路による駆動・変位検出」であり、バースト電圧パルス列を静電駆動アクチュエータに時分割方式で印加し、また、アクチュエータの充放電電圧を高速でモニタするための電気回路をプリント基板を用いたパストランジスタ回路として設計・製作・評価した結果について述べている。特に、静電駆動型マイクロアクチュエータの静電容量は、通常フェムト・ファラッド程度と非常に小さいことから、プリント基板などを用いたディスクリート回路構成では、その浮遊容量の影響が非常に大きく、高精度の変位検出が困難であると述べており、本論文の第4章で説明している駆動・変位検出回路の集積回路化の必要性を示している。

第4章は「時分割駆動・変位計測インターフェース回路の集積化」であり、第3章の結果を受けて、静電駆動MEMSアクチュエータを駆動するためのバースト電圧パルス列を時分割で印加するインターフェース回路を0.35μmおよび0.6μm設計ルールのCMOS回路として設計する手法と、予想される回路特性について述べるとともに、実際に試作した回路の電気的特性の測定結果と、このインターフェース回路を用いてMEMS静電駆動ミラーを駆動した実験結果について述べている。

第5章は「考察」であり、本論文が提案した時分割駆動・変位計測インターフェース回路に関して、駆動電圧、応答速度、負荷としてのMEMS静電容量の観点から、本方式の適用可能領域に関して理論的な考察を述べるとともに、回路の浮遊容量の影響、ノイズやチャージ・メモリ効果、消費電力に関する定量的な検証を行っている。

第6章は「結論」であり、本論文で示した成果を総括している。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、「MEMS静電アクチュエータの時分割駆動・変位計測インターフェース回路に関する研究」と題し、MEMS技術(Micro Electro Mechanical Systems Technology)で製作した静電駆動型マイクロアクチュエータを電気的二端子素子として捉え、その電気的駆動のために一定波高のパルス幅変調電圧を時分割で間歇的に印加し、かつ、マイクロアクチュエータの機械的応答よりも極めて短い時間で静電容量変化を検出することで、アクチュエータ駆動変位に極力影響を与えずに変位を測定するインターフェース回路に関して理論的、実験的に検証したものであり、全6章から構成されている。

第1章は「序論」であり、本研究の背景技術について述べている。特に、MEMS分野におけるマイクロアクチュエータの原理と応用先について述べた後に、その駆動・制御のためにアクチュエータと回路を融合した集積化MEMSの重要性について説明している。また、その実現のためには、集積回路設計者から見てMEMSデバイスを扱いやすくするための回路とMEMSの統合設計法、および、汎用インターフェース回路が必要であることを指摘し、本論文の目的と研究の意義、位置づけ、論文構成について述べている。

第2章は「MEMS静電アクチュエータの駆動・変位検出に関する理論」であり、本研究の制御対象である静電駆動アクチュエータを電気的二端子素子としてとらえ、電気回路シミュレータ上で等価回路モデル化する手法について述べている。特に、静電アクチュエータに特有のプルイン現象、負のバネ定数効果、チャージアップ等の非線形現象を説明し、これらの特長を利用したアクチュエータ制御方法として、その駆動端子を駆動電源と変位検出回路の間で高速で切り替えることで、駆動と変位検出を時分割方式で行う新たな方法を提案している。また、一定波高値電圧の電圧を用いてアクチュエータのアナログ変位出力を制御する手法として、駆動電圧をパルス幅変調する方法を提案し、実際に光ファイバ通信用の可変減衰器に実用化されている静電駆動マイクロミラーを用いて、ミラー角度のアナログ制御が可能であることを実験的に示している。

第3章は「静電マイクロアクチュエータのための駆動・変位検出」であり、パルス幅変調したバースト電圧を静電駆動アクチュエータに印加し、その充放電現象を高速でモニタするための回路を設計・製作・評価した結果について述べている。特に、静電駆動型マイクロアクチュエータの静電容量変化分はフェムト・ファラド程度と非常に小さいことから、MEMSチップと測定回路の浮遊容量の影響を受けやすいことを指摘し、集積化MEMS型の検出回路の必要性について述べている。

第4章は「時分割静電アクチュエータの駆動・容量検出に関する実験的検証」であり、第3章の結果を受けて静電駆動マイクロアクチュエータの駆動と変位検出を行うためのインターフェース回路を0.35ミクロン、および、0.6ミクロン・ルールのCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)回路として設計する手法と、予想される回路特性について述べるとともに、実際に試作した回路の電気的特性と、この回路を用いて静電駆動マイクロミラーを駆動した実験結果について述べている。

第5章は「考察」であり、本論文が提案した時分割駆動・変位計測インターフェース回路に関して、駆動電圧範囲、応答速度、MEMSアクチュエータの静電容量性負荷の観点から、本方式の適用可能領域に関して理論的な考察を深めるとともに、回路の浮遊容量の影響、ノイズやチャージ・メモリ効果の影響、消費電力等に関する定量的な検証を行っている。

第6章は「結論」であり、本論文で示した成果を総括している。

以上これを要するに、本論文はMEMS静電駆動アクチュエータを電気的二端子素子としてとらえ、駆動電圧の印加と変位の測定を同一端子を用いて時分割で行う汎用性のある新たなインターフェース回路を提案し、電子回路シミュレータ上の等価回路モデルを用いてその実現可能性と有効性を理論的に示すとともに、実際にCMOS技術を用いて設計・製作した回路を静電駆動マイクロミラーに応用して実証しており、集積化MEMSアクチュエータの新たな制御方式を提示した点において電気工学に貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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