学位論文要旨



No 129098
著者(漢字) 渡辺,晃生
著者(英字)
著者(カナ) ワタナベ,アキオ
標題(和) 対話型進化計算におけるユーザ負担を考慮した解探索アルゴリズムの設計
標題(洋)
報告番号 129098
報告番号 甲29098
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第7989号
研究科 工学系研究科
専攻 電気系工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 伊庭,斉志
 東京大学 教授 石塚,満
 東京大学 教授 森川,博之
 東京大学 教授 峯松,信明
 東京大学 准教授 鶴岡,慶雅
 東京大学 講師 ボッレーガラ,ダヌシカ
内容要旨 要旨を表示する

対話型進化計算(Interactive Evolutionary Computation :IEC)は人間の主観的評価を最適化計算に用いることで、計算機だけでは解くことが難しい問題、例えば作曲や作画等を行うことが出来る手法である。IECでは従来、集団探索の一種であるGAや差分進化などが解探索アルゴリズムとして用いられてきた。このような集団探索の手法は1点探索と比べ、局所的最適解に陥ることを避けるメリットがある一方で、解の収束に時間がかかるデメリットを持っている。IECを用いて解探索を行う対話型環境では解に対するユーザの評価が必要となるため、評価にかかるユーザ負担を考慮し、少ない計算量で良い解を発見する必要がある。この状況下で従来の集団探索を用いて大域的最適解を目指す手法は必ずしも適切でなく、場合によって1点探索よりも見つかる解が悪くなる。そこで本研究ではまず、用いることのできる計算量の少ない対話型環境において集団探索と1点探索の比較を行い、どのような条件でどちらの探索アルゴリズムが良いかを明確にし、その結果を踏まえた上で本研究の主目的である対話型環境に向けた解探索アルゴリズムを設計する。この論文では集団探索と1点探索の両方を用いて解探索アルゴリズムを構成し、性能の評価と2つの探索手法の切り替えタイミングへのロバストネスの検証を、ベンチマークを用いて行う。その後、ユーザによる入力をきっかけに任意のタイミングで手法を切り替えるという実装で提案手法を用いたSwarm Chemistryの動きパラメータ最適化に応用したプログラムを作成し、集団探索のみの場合と比較して提案手法は有意に解に対する満足度が高まることを確認する。また、探索領域の適切な設定はスムーズな解探索を行う上で重要である。もし可能な探索空間が広すぎれば最適解の発見が遅くなり、逆に狭すぎれば最適解そのものが空間に存在しない可能性が高まる。特にIECはユーザの好みなどの抽象的で個人差のある対象を扱う性質上、適切な設定は困難となる。この問題に対処するため、他のユーザの結果を利用して探索領域の拡張・限定を行う手法を提案する。この効果検証に関しては、数学的ベンチマーク及び配色を用いた感情表現タスクへの応用を用いる。結果として配色タスクでは有意差が見られないものの、平均的な解への評価は良くなる傾向が見られる。さらに、タスクに対するユーザの知識を最大限に利用するため、マニュアルに一部のパラメータを固定する機能を追加し、専門的知識を持ったユーザを想定した遺伝子ネットワーク設計への応用プログラムを用いた効果検証を行う。そしてこれらの事実からIECの応用プログラムに関しては、少ない計算量を考慮したアルゴリズム設計、探索領域の適切な設計、ユーザ知識の利用という3つのポイントを考慮するべきであることを明らかにする。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「対話型進化計算におけるユーザ負担を考慮した解探索アルゴリズムの設計」と題し7章からなり,人間の主観的評価を必要とする対話型進化計算における解探索アルゴリズムの設計を行い,探索領域の制約を考慮した適切な手法を提案し,数学的ベンチマークと実応用の両面において有効性を示している.

第1章は序論であり,研究背景と目的が述べられ,対話型進化計算における従来の解探索アルゴリズムが持つ問題に触れると共に,対話型環境に特化したアルゴリズム設計の必要性について述べている.

第2章においては,対話型環境と非対話型環境の違いと,既存の進化計算の対話型環境に向けた改良に関して述べている.まず進化計算の設計ポリシーについて説明し,それを対話型環境に用いた際に起こりうる問題に関して考察している.対話型環境の特殊性を基に,対比較ベース対話型差分進化における解の絶対評価値の推定手法を考案し,解探索に利用することを試みている.さらにこの推定値を用いることにより,Artificial Bee Colonyアルゴリズムの対比較インタフェースへの導入に成功している.またこれらのアルゴリズムを用いた数学的ベンチマークによる実験から,良い解周りの探索を重視すべきであると結論付けている.

第3章では,まず対話型環境を想定した評価回数における解探索性能に関して進化計算と1点局所探索の比較を行い,それぞれの特徴を明らかにしている.その結果を踏まえ,探索序盤に進化計算を,探索後半に1点局所探索を用いることにより,良い解周りの探索を重視したアルゴリズムを構成している.また切り替えタイミングに対するロバストネスについても数学的ベンチマークを用いて検証している.さらに,提案する2段階探索アルゴリズムをSwarm Chemistryへ応用し,進化計算のみを用いた場合と比較することによって実応用における提案手法の有効性を確認している.

第4章においては,解の探索領域の自動的な設定手法に関して述べる.従来,探索領域の設定は事前にシステム設計者によって行われていたが,設定の根拠は無い場合が多い.しかしながら探索領域の広さは有効な解の発見確率に大きく影響するため,適切な設定が望まれる.そこで,他のユーザのシステム利用結果を入力として解探索領域を再構成する仕組みを提案する.これは前章で提案したアルゴリズムに適用可能である.さらに探索領域が適切に学習されているかを配色による感情表現タスクを用いて検証し,同時にIECにおける発想支援の効果についても検証を行っている.

第5章では,タスクに対するユーザの知識の効果的な利用方法について議論している.すなわち,ユーザがパラメータの一部を固定する,進化計算から1点局所探索への切り替えタイミングを決める,という2つの操作をシステムに追加することによる効果について検証している.このとき,前章における解探索領域の調整がユーザにより部分的に行われる.ここでは合成生物学分野に関する応用システムを実装し,生物学研究者の知識を活かした遺伝子ネットワークの設計を可能にしている.

第6章においては,本論文の提案するIECシステムの創造性に関して述べられている.次に,IECシステムを評価する方法論についても考察されている.また,より一般的な機械学習の手法と本研究の違いについても説明されている.さらに今後の展望として探索領域の設定手法の拡張可能性を述べている.

最後に,第7章において本論文全体がまとめられている.

なお,本論文の一部は共同研究によって行われたものであるが,論文提出者が主体となって提案及び実験・分析・検証を行ったもので,論文提出者の寄与が十分であると判断する.

以上これを要するに本論文は,人間の評価を必要とする対話型進化計算環境における適切な解探索手法や探索領域の設定手法を提案し,数学的ベンチマーク及び様々な実応用において有効性を示したものであり,情報学の発展に貢献するところ少なくない.

したがって,博士(工学)の学位を授与できると認める.

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