No | 129149 | |
著者(漢字) | 山根,祥吾 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ヤマネ,ショウゴ | |
標題(和) | 刺激に応答する光機能性液晶材料 | |
標題(洋) | Stimuli-Responsive Photo-Functional Liquid-Crystalline Materials | |
報告番号 | 129149 | |
報告番号 | 甲29149 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第8040号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 化学生命工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 有機機能材料の物性は分子の集合状態に強く依存するため、自己組織性材料を用いて機能部位の集合状態を精密に制御することは材料の高機能化のために重要である。液晶は、結晶の秩序性と液体の流動性を併せ持つ自己組織性機能材料であるため、液晶を用いることは集合構造を制御するための手段として注目されている。中でも広いπ共役部位を有する有機材料は発光特性や電荷輸送特性を有することから、液晶性を付与することでより優れた機能を示す材料として注目を集めている。加えて液晶は動的な特性を有する材料であることから、より精密に光機能性液晶の集合構造を制御することで、液晶の動的な特性を利用した刺激応答性発光材料が開発できる。これまでに、発光性分子の両端にアミド部位を有するかさ高いデンドロンを導入することで、発光性液晶の外部刺激によるミセルキュービック-カラムナー液晶相相転移に伴う発光特性のスイッチングが達成されている。一方、層状の自己集合構造を形成するスメクチック液晶は一般に前述のカラムナー液晶と比較して配向処理が容易であることから、液晶の異方性を利用したデバイス作製がより容易にできると考えられている。そのため、π共役分子に刺激応答性およびスメクチック液晶性を付与するための分子設計指針を確立することができれば、センシングデバイス、メモリーデバイス等への応用に向けた課題解決の手段を新たに提案できると期待されている。ここで、本論文ではスメクチック液晶に着目し、刺激応答性を示す新規光機能性液晶材料について述べている。第一章では、以上の本研究に至るまでの背景と本研究における目的を概説している。 第二章では、熱的刺激に応答して層構造が変化し、それに伴い発光特性が変化するスメクチック液晶材料について述べている。分子設計指針として、発光特性を有する広いπ共役分子の両末端に、極性・非極性部位を有するかさ高いメソゲン部位を導入することを提案している。この分子設計に基づいて合成された分子が、温度変化によるスメクチック-スメクチック液晶相相転移を示す事を報告している。X線回折測定の結果から、低温領域ではモノレイヤー構造を、高温領域では分子が互いに入り組んだ層構造を形成していることを明らかにしている。この相転移が起こる原因について、低温領域では分子が棒状に近い形状をとり、発光部位の両末端に導入されたメソゲン部位の極性・非極性部位のナノ相分離を駆動力としたモノレイヤー構造を形成し、高温領域では分子がダンベル状に近い形状をとり、分子が互いに入り組んだ層構造がより安定になるためであると考察している。最適な発光部位を選択することで、その相転移に伴って発光特性が変化する液晶材料が得られることが示されている。この光機能性液晶をポリイミド配向膜を用いて一軸に配向させることで、偏光発光特性を示す素子が得られる事を報告している。冷却過程においてこの素子が偏光発光特性を維持したままその発光色を変化することを見出している。 第三章では、機械的刺激および熱的刺激に応答して発光特性が変化する光機能性スメクチック液晶について述べている。分子設計指針として、発光部位に分子間の強い相互作用を阻害し得る、ねじれた構造を有するビアントリルを導入することを提案している。メソゲン部位をビアントリル部位の両末端に二本ずつ導入したスメクチック液晶が、ネマチック液晶相を発現する温度でアニールすることでスメクチック液晶相に相転移し、発光色が緑色に変化することを見出している。この緑色発光は室温に冷却しても保たれており、緑色発光を示す状態のサンプルに機械的刺激を印加することで、発光色が青緑色に変化することを報告している。X線回折測定および吸収スペクトル測定から、機械的刺激により化合物の層構造が変化し、発光部位の分子間相互作用の強度が変化したことが発光色変化の原因であると考察している。加えて機械的刺激を印加した後の化合物を加熱することで、等方相状態を経ることなく再び緑色発光を示すことを見出している。さらに、メソゲン部位の体積を変化させることで発光部位とメソゲン部位の体積バランスが発光特性および刺激応答性に与える影響について考察している。メソゲン部位の体積が大きいほど、発光部位の相互作用が阻害されることに加え、メソゲン部位を発光部位の両末端に三本ずつ導入した化合物はメカノクロミック発光特性を示さないことを報告している。発光部位が相互作用する集合構造を形成させ、機械的刺激によりその相互作用を乱すことでメカノクロミック発光特性を示すことから、導入するメソゲンの本数を変えることにより、同じ発光部位を用いてもある程度メカノクロミック発光特性を制御することが可能であると述べている。 第四章では、異種の発光分子を混合することで、より大きな発光色の変化を示すメカノクロミック発光材料について述べている。前章で用いた両端に二本ずつメソゲン部位を有するビアントリル誘導体に、添加物としてペリレンビスイミド誘導体を添加した混合物について報告している。両者をモル比80 : 20で混合した混合物は、ビアントリル誘導体が等方相を示す温度においてペリレンビスイミド誘導体の固体が相分離しており、均一に複合化していないことを確認している。この状態から室温に急冷し、85度に加熱した後再び室温に冷却した混合物は青緑色の発光を示す一方、これに機械的刺激を印加することで、発光色が赤色に変化することを見出している。吸収スペクトル測定により、機械的刺激印加後は固体状態で相分離しているペリレンビスイミド誘導体の割合が減少したことを明らかにしている。固体状態を示すペリレンビスイミド誘導体の一部がビアントリル誘導体中に溶解したことが示唆されている。また、X線回折測定、電子顕微鏡観察により、両者の集合構造および相溶性が機械的刺激印加前後において変化していると考察している。 以上、本論文では外部刺激によって発光部位の集合状態が変化することで材料全体の発光特性が変化するスメクチック液晶材料の開発について述べている。これらの結果は、センサー・メモリ等への応用のみならず、π共役分子の集合状態を精緻に制御することが必要な有機エレクトロニクス分野にも新たな指針を与えるものであると期待される。 | |
審査要旨 | 有機機能材料の物性は分子の集合状態に強く依存するため、自己組織性材料を用いて機能部位の集合状態を精密に制御することは材料の高機能化のために重要である。液晶は、結晶の秩序性と液体の流動性を併せ持つ自己組織性機能材料であるため、液晶を用いることは集合構造を制御するための手段として注目されている。中でも広いπ共役部位を有する有機材料は発光特性や電荷輸送特性を有することから、液晶性を付与することでより優れた機能を示す材料として注目を集めている。本研究では光機能に着目して、π共役部位を導入したスメクチック液晶の集合構造制御に基づく発光特性の制御と刺激応答性を示す新規光機能性液晶材料の合成と機能について述べており、五章で構成されている。 第一章では、以上の本研究に至るまでの背景と本研究における目的を概説している。 第二章では、熱的刺激に応答して層構造が変化し、それに伴い発光特性が変化するスメクチック液晶材料の合成と機能について述べている。分子設計指針として、発光特性を有する広いπ共役分子の両末端に、極性・非極性部位を有するかさ高いメソゲン部位を導入することを提案している。この分子設計に基づいて合成された分子が、温度変化によるスメクチック-スメクチック液晶相相転移を示す事を報告している。最適な発光部位を選択することで、その相転移に伴ってエキシマー発光とモノマー発光の割合が変化し、発光特性が変化することが示されている。加えて、適切な置換基を発光部位に導入することで、エキシマーの構造を制御可能であることを見出している。また、この光機能性液晶をポリイミド配向膜を用いて一軸に配向させることで、偏光発光特性を示す素子が得られる事を報告している。冷却過程においてこの素子が偏光発光特性を維持したまま発光色を変化させることが可能であることが述べられている。 第三章では、機械的刺激および熱的刺激に応答して発光特性が変化する光機能性スメクチック液晶について述べている。分子間の相互作用を弱めるため、ねじれた構造を有するビアントリル部位を発光部位に導入することを提案している。メソゲン部位を発光部位の両末端に二本ずつ導入した分子が、高温でアニールすることで、発光色が青緑色から緑色に変化することを報告している。この緑色発光を示す状態のサンプルに対して室温において機械的刺激を印加することで、発光色が青緑色に変化することを見出している。加えて機械的刺激を印加した後の化合物を加熱することで、等方相状態を経ることなく再び緑色発光を示すことを報告している。さらに、メソゲン部位の体積を変化させることで、同じ発光部位を用いてもある程度メカノクロミック発光特性を制御することが可能であることを見出している。 第四章では、異種の発光分子を混合することによる、発光のより大きな長波長シフトを示すメカノクロミック発光材料の作製について述べている。前章で用いた両端に二本ずつメソゲン部位を有するビアントリル誘導体に、添加物としてペリレンビスイミド誘導体を添加した混合物について報告している。両者を適当な割合で混合した混合物は、ビアントリル誘導体が等方相を示す温度においてペリレンビスイミド誘導体の固体が相分離していることを確認している。この状態から急冷、加熱処理をした後再び室温に冷却した混合物は青緑色の発光を示す一方、これに機械的刺激を印加することで、発光色が赤色に変化することを見出している。 第五章は結言であり、第四章までの研究結果を総括し、今後の展望について述べている。 以上、本論文では外部刺激によって発光部位の集合状態が変化することで材料全体の発光特性が変化するスメクチック液晶材料の開発について述べている。これらの研究は、センサー・メモリ等への応用のみならず、超分子化学や光化学の分野に広く貢献するものである。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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