No | 129156 | |
著者(漢字) | 合田,哲 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ゴウダ,サトシ | |
標題(和) | ヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aの機能解析 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 129156 | |
報告番号 | 甲29156 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第8047号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 先端学際工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【目的】 ヌクレオソームを構成するヒストンの側鎖へのメチル基の修飾は、近傍遺伝子の転写を制御することで、癌をはじめとする様々な疾患に関与することが報告されている。また、その修飾は可逆的であり、これまでに哺乳動物細胞でおよそ85種類のヒストンメチル化酵素およびヒストン脱メチル化酵素が同定されている。その中で私が着目したJMJD1A (Jumonji domain containing 1A) は、ヒストンH3のN末端から9番目のリジン (H3K9) に修飾されたメチル基 (me2/me) を特異的に脱メチル化する酵素である。H3K9のメチル化は転写を抑制する修飾であり、JMJD1Aによる脱メチル化反応に基づいて種々の遺伝子の転写が促進されることが報告されている。これまでに、大腸癌細胞株、膀胱癌細胞株、および前立腺癌細胞株を用いて、RNAiによりJMJD1Aを発現抑制することで、細胞増殖抑制効果が認められていることから、JMJD1Aは抗癌剤の標的分子の一つとして注目されている。しかしながら、JMJD1Aの阻害剤創製に際して、詳細な酵素学的知見が報告されていない。そこで私は、JMJD1Aの分子構造と機能の関連性を理解することを目的として、分子生物学的手法を用いた機能解析を行った。 【結果および考察】 ・JMJD1Aのホモ二量体形成評価、および二量体界面の探索 N末端にStrep-FLAG (SF) タグを付加したJMJD1A発現ベクターを構築し、これを293T細胞へ遺伝子導入し、Strepタグを介したアフィニティ精製を行った。精製物をBlue-Native PAGEおよび抗FLAG抗体を用いたイムノブロッティングにより解析したところ、JMJD1Aがホモ二量体を形成することが示唆された。次に、二量体形成を制御している領域を調べる目的で種々のドメイン欠損タンパク質を構築し、完全長のJMJD1Aとの相互作用を免疫沈降法により解析した。その結果、JMJD1Aは酵素活性に必須の領域であるZfおよびJmjCドメインを含む、N末端から623~1321番目のアミノ酸配列を介して二量体形成していることが示唆された。 ・二量体形成と細胞内局在制御の関連性に関する評価 N末端にSFタグを付加した種々のドメイン欠損タンパク質をHeLa細胞に一過的に発現させ、抗FLAG抗体を用いた免疫染色実験により細胞内局在を検証した。その結果、1~306番目のアミノ酸配列によりJMJD1Aの核局在が制御されていることが明らかとなり、核局在と二量体形成が異なる領域で制御されていることが示唆された。そこで次に、二量体形成と細胞内局在の関連性について解析した。N末端にSFタグを付加した1-306欠損変異体 (Δ1-306) と、完全長のJMJD1Aを共発現させ、核画分について抗FLAG抗体を用いたイムノブロッティングによる解析を行った。その結果、Δ1-306を単独で発現させた場合とは異なり、核画分からΔ1-306が検出された。以上の結果から、JMJD1Aは核外で二量体を形成した後に核移行することが示唆された。 ・二量体形成と脱メチル化活性制御の関連性に関する評価 JMJD1Aが酵素活性に必須のドメインを含む領域を介して二量体形成することから、JMJD1Aのホモ二量体形成と脱メチル化活性制御の関連性について検証した。具体的には、一方に活性型 (Wt) 、もう一方に局所変異H1120Yを加えた不活性型 (Mut) を用いたヘテロ二量体 (Wt/Mut) を調製し、その酵素活性について活性型ホモ二量体 (Wt/Wt) と比較した。まず、SFタグ、あるいはmycHAタグをそれぞれN末端に付加したJMJD1A (WtあるいはMut) を293T細胞に共発現させた。細胞を可溶化後、FLAG M2 アガロースによるアフィニティ精製、および抗myc抗体結合ビーズを用いた免疫沈降による二段階精製により、二量体の精製を行った。得られた精製物についてSDS-PAGEおよびCBB染色を行った。濃度既知のBSAを用いて作成した検量線に基づいて、ビーズ上への二量体の固定化量を算出した。次に、二量体結合ビーズを用い、基質としてH3K9me2修飾ペプチドを用いた脱メチル化反応を行った。継時的に反応上清を回収し、MALDI-TOF-MSにより基質および脱メチル化体の相対存在量の継時変化を追跡した。その結果、Wt/MutではWt/Wtに対して、H3K9me2を基質とした二段階の脱メチル化反応産物であるH3K9me0の生成量が著明に減少した。一方、H3K9me1修飾ペプチドを基質とした脱メチル化反応におけるH3K9me0の生成量については、同様の減少は見られなかった。以上の結果から、JMJD1Aホモ二量体の有する二つの活性中心が、H3K9me2を基質とした二段階の脱メチル化反応において協調的な作用を発現していることが示唆された。 【結語】 本研究により、JMJD1Aが酵素活性に必須のドメインを含む領域を介してホモ二量体を形成していることが明らかとなった。そして、二量体形成と細胞内局在制御との関連性の解析により、JMJD1Aは核外で二量体形成した後に核移行することが明らかとなった。さらに、二量体形成と酵素活性制御の関連性解析から、JMJD1Aホモ二量体の有する二つの活性中心の協調的な脱メチル化作用を見出すことに成功した。 | |
審査要旨 | 本論文は、ヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aの特徴的な分子構造であるホモ二量体形成と、機能の関連性を理解することを目的として、分子生物学的手法に基づく解析を行った論文である。 ヌクレオソームを構成するヒストンの側鎖へのメチル基の修飾は、近傍遺伝子の転写を制御することで、癌をはじめとする様々な疾患に関与することが報告されている。また、その修飾は可逆的であり、これまでに哺乳動物細胞でおよそ85種類のヒストンメチル化酵素およびヒストン脱メチル化酵素が同定されている。その中でJMJD1A (Jumonji domain containing 1A) は、ヒストンH3のN末端から9番目のリジン (H3K9) に修飾されたメチル基 (me2/me) を特異的に脱メチル化する酵素である。H3K9のメチル化は転写を抑制する修飾であり、JMJD1Aによる脱メチル化反応に基づいて種々の遺伝子の転写が促進されることが報告されている。これまでに、大腸癌細胞株、膀胱癌細胞株、および前立腺癌細胞株を用いて、RNAiによりJMJD1Aを発現抑制することで、細胞増殖抑制効果が認められていることから、JMJD1Aは抗癌剤の標的分子の一つとして注目されている。しかしながら、その詳細な酵素学的知見は報告されていない。JMJD1Aの特徴的な分子構造であるホモ二量体形成と機能の関連性を理解することは、JMJD1Aの生体内における役割を明らかにする上で必要不可欠であるとともに、JMJD1Aを標的とした抗癌剤創製研究への展開のためにも大変意義のある研究である。 第1章は序論であり、JMJD1Aの生体内における機能、癌との関連性、および構造と酵素学的機能に関する先行研究について概説し、本研究の目的と意義を述べている。 第2章では、リコンビナントJMJD1Aを精製し、Blue-Native PAGEおよび免疫沈降法を用いた解析結果に基づき、JMJD1Aがホモ二量体を形成していることを示している。 第3章では、種々のドメイン欠損蛋白質を用いた免疫沈降実験により、触媒活性に必須の領域が二量体界面に含まれていることを明らかにしている。この結果に基づき、次章以降では、ホモ二量体形成という特徴的な分子構造と機能との関連性の解析を行っている。 第4章では、ホモ二量体形成と細胞内局在の関連性に関する解析を行っている。ドメイン欠損蛋白質を用いた免疫染色実験により、JMJD1Aの局在が、二量体界面と異なるN末端領域により制御されていることを明らかにした。続いて、核移行制御領域を欠損した蛋白質が、完全長JMJD1A共存下で核移行することを見出し、JMJD1Aは細胞質で二量体形成した後に核に移行することを明らかにした。 第5章では、JMJD1Aが酵素活性に必須のドメインを含む領域を介して二量体形成することから、ホモ二量体形成と酵素活性制御の関連性に関する解析を行っている。一方に活性型 (Wt) 、もう一方に局所変異H1120Yを加えた不活性型 (Mut) を用いたヘテロ二量体 (Wt/Mut) を二段階精製により調製し、ビーズに固定化した状態で、活性型ホモ二量体 (Wt/Wt) と酵素活性を比較している。二段階精製により得られた二量体の定量化に際しては、濃度既知であるBSA蛋白質のCBB染色像を基にした定量化手法の確立に成功している。本手法では、BSAの検量線が良好な線形性を示し、再現性の高い定量手法であることを示している。次に、二量体結合ビーズを用い、基質としてH3K9me2修飾ペプチドを用いた脱メチル化反応を行った。継時的に反応上清を回収し、MALDI-TOF-MSにより基質および脱メチル化体の相対存在量の継時変化を追跡した。その結果、Wt/MutではWt/Wtに対して、H3K9me2を基質とした二段階の脱メチル化反応産物であるH3K9me0の生成量が著明に減少した。一方、H3K9me1修飾ペプチドを基質とした脱メチル化反応におけるH3K9me0の生成量については、同様の減少は見られなかった。以上の結果から、JMJD1Aホモ二量体の有する二つの活性中心が、H3K9me2を基質とした二段階の脱メチル化反応において協調的な作用を発現していることを示した。 第6章では、本論文の総括と展望を述べている。 以上、本論文はJMJD1Aの二量体形成と機能の関連性について分子生物学的手法を用いて証明したものであり、これらの成果は細胞内におけるJMJD1Aの役割を明らかにする上での重要な手がかりであるとともに、JMJD1A阻害剤創製における分子設計においても有用な知見である。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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