学位論文要旨



No 129230
著者(漢字) 瀬戸,亨一郎
著者(英字)
著者(カナ) セト,コウイチロウ
標題(和) 画像解析による原木材積測定法の開発と年輪紋様の情報化に関する研究
標題(洋)
報告番号 129230
報告番号 甲29230
学位授与日 2013.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第3935号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 稲山,正弘
 東京大学 教授 太田,正光
 東京大学 准教授 信田,聡
 東京大学 准教授 仁多見,俊夫
 東京大学 特任教授 安藤,直人
内容要旨 要旨を表示する

国産材の利用を推進するため原木の流通コストを低減し、林業の採算性を向上させることは緊急の課題である。原木の流通取引において材積計測が必須工程であるが、伐採現場での材積計測システムが確立してないため売主と買主の信頼関係が構築できていない。そのため流通コストのかかる原木市場や共販所等に配送し、依存せねばならないことが、林業の不採算要因の一つとなっている。そこで伐採現場等での材積計測システムを開発・定着化させ、伐採現場から工場等への直送販売体制の構築を推進するためのシステム開発を行った。複数台のデジタルカメラにより、原木の末口面を撮影した画像を三次元認識することにより径級を測定し、図1のように三角測量の原理を応用して材積を計測するシステムである。精度については、人力検知との誤差は5%以内となり、既存の測定機である選木機の精度と比較しても遜色なく、実用化に充分対応できるものであった。なお、材積計算法は日本農林規格(JAS)によるものとした。

この計測システムは、図2のように、小型で可搬性に優れ伐採現場や中間土場や工場等のいかなる場所でも測定可能であり、計測時間やGPSによる測定場所を特定し信頼性の高い集計帳票を発行できる。また、従来原木市場や共販所に頼っていた計測業務を山側が主体性をもって迅速に行える利点がある。材積計測が、いつでも、どこでも、誰でも可能な可搬式システムの開発は、山側に売買の主導権を取り戻させ、原木流通の現状を大きく変化させる可能性がある。測定システムの概略を図3に示した。

また、図4のような原木流通管理システムを構築した。この測定機のデータをクラウド化し、一元管理システムにより、単なる検知業務の合理化だけでなく、測定値を全てデータベース化し、遠隔地の伐採現場毎の作業進捗状況の把握やコスト管理を容易に行えるようになった。

これにより林業現場の生産管理が容易になり、原価管理のしっかりした林業経営を行うための一助となりうる。また、地図上に生産量をプロット出来るため、行政区画毎の素材生産量把握等の統計調査に利用できることもわかった。

次に、図5で示すような材積測定を行うために撮影した原木の木口面の画像データは伐採位置と時間が特定されており、これを利用することにより新たな付加価値を生めないかと考え、木口面の年輪紋様の画像を情報化し、人間の指紋のように個体識別に利用できる可能性について研究した。木材の個体識別法としてICタグやバーコードを添付する方法が研究されているが、これは脱落の心配や加工時に支障が生じる場合があり、年輪という個体の特徴を情報化することにより、確実で経済的な個体認識方法にならないかと考えた。木材の流通は図6に示す通り複雑で広範囲にわたるが、この履歴を表示する技術開発が出来れば、合法性の判別や各種認証材の識別や産地の特定等に応用できる可能性がある。本研究は、そのきっかけとなることを目標とした。

まず、スギ乾燥材の平角材について、図7のようにカットした木口面画像を図8~13のように加工し、91通りについて、同一個体間の年輪紋様の画像と、異なる個体間の年輪紋様の画像の正規化距離を求め、両者を識別する最も良い正規化距離の閾値を求めることにより、同一個体か異なる個体かを識別することが、ある程度可能であることが分かった。(表1)しかし、材の曲がり等により、その閾値の最適値の決定は困難であり、識別能も高くなかった。

この結果を踏まえ、より識別能を上げるために年輪の中心位置を考慮した特定の矩形領域での、画像間の比較(正規化距離の計算)が有効であろうと考えた。つまり得られた木口面の画像から、その年輪中心の位置が特定できれば、その芯部分を中心に、固定された大きさの領域の画像間の比較(正規化距離の計算)を行うことにより、より識別能を上げられるのではないかを検証した。

年輪中心位置を特定する方法として、まずテンプレート・マッチングによる年輪の中心の位置決めを試みた。図14に他の画像からのテンプレート・マッチングによる中心位置の例を示した。しかし、テンプレ-ト画像によるマッチングでは、中心を正確に識別できるレベルではなかった。

次に年輪の中心位置を正しく識別するために、円のハフ変換を用いる方法を用いた。図15にハフ変換法による中心位置の例を示した。その結果、円のハフ変換法がテンプレ-トを用いるより対応性があり、実現可能性が高いことが分かった。

そこで二値化した画像を円のハフ変換法により、年輪の中心位置を自動判定し、その位置を中心とした矩形領域間の正規化距離を測定することにより、91通りについて年輪紋様による材の個体認識を試みた。領域を補正する前の正規化距離と誤判別率の結果を表1に、補正後の結果を表2に示した。補正前の最適誤判別率は23%で閾値53であったが、補正後の最適誤判別率は2%で閾値は55であった。誤判別率向上のためにハフ変換法による中心位置を自動判別し、その位置を中心とした矩形領域での正規化距離の測定による個体識別法の有効性を確認した。また、年輪画像情報化による個体識別の実現ための予想される注意点や課題と対策についてまとめた。

図1 三角測量の原理

図2 測定の様子

図3 測定システムの概略

図4 原木流通管理システム

図5 測定画面の写真

図6 木材の流通

図7 7ヶ所カット位置

図8トリミング

図9グレー化

図10画素の縮小

図11平滑化

図12引下げ

図13引上げ

図14 他の画像からのテンプレートの例

図15 ハフ変換による中心位置

表1 補正前の正規化距離による誤判別確率

表2 補正後の正規化距離による誤判別確率

審査要旨 要旨を表示する

国産材の利用を推進するため原木の流通コストを低減し、林業の採算性を向上させることは重要な課題である。原木の流通取引において材積計測は必須工程であるが、伐採現場における材積計測システムは確立しておらず、売主と買主の数量確認を行う上での信頼関係は十分には構築できていない。そのため流通コストのかかる原木市場や共販所等に配送し、そこでの計測結果に依存しなければならないことが、林業の不採算要因の一つとなっている。本研究では、問題の解決に向けて第1章で伐採現場等での材積計測システムを開発するとともに、第2章で得られた木材木口面のデーターから年輪紋様の画像を情報化し、個体識別への利用可能性を検討している。

第1章の材積計測システムの開発では、伐採現場から工場等への直送販売体制の構築を推進するために伐採現場での材積を測定できるシステムを開発した。開発した計測機械は、複数(2台)のデジタルカメラにより、原木の末口面を撮影した画像を3次元認識することにより径級を測定し、長さを掛けて材積計測を行うことにしている。材積計算法は日本農林規格(JAS)に準拠している。この計測システムの開発にあたっては、カメラレンズの補正値を算出して補正を行うことやストロボ撮影の効果、画像処理等を検討し、木口面の汚れや枝葉による誤計測の可能性を考慮した。測定器は測定部とコンピューターおよびスタンドで構成され、小型で可搬性に優れることに留意し、伐採現場や中間土場や工場等のいかなる場所でも測定可能であることを実現している。測定精度については、本システムと人力検知との誤差は 5%以内となり、さらに既存の測定機である選木機での測定結果と比較しても遜色なく、実用化に充分対応できることを明らかにした。伐採現場で材積が数値化されると言うことは、計測した時間や GPS による測定場所を記録することができ、信頼性の高い集計帳票を発行できることにつながる可能性が高い。また、従来原木市場や共販所に頼っていた計測業務を山側が主体性をもって迅速に行える利点がある。材積計測をいつでも、どこでも、誰でも可能にする可搬式システムの開発は、伐採現場から数量の把握を行うことによって、原木流通の管理システムを再構築し、径級を測定する検知業務の合理化と、伐採現場での作業進捗状況の把握、コスト管理が容易になることにつながることを期待している。さらに開発されたシステムの導入効果としては、林業現場の生産管理が容易になり、原価管理のしっかりした林業経営を行うための一助となり得ること。また、地図上に生産量をプロットすることにより、行政区画毎の素材生産量把握等の統計調査にも利用できることが明らかにされている。

第2章では木材のトレーサビリティを向上させるため個々の年輪紋様を情報化し、人の指紋のように個体認識に利用する可能性を検討している。個体の異なる2つの画像の正規化距離に着目したところ、同一材であっても曲がり程度の誤差が正規化距離に影響を与えることが明らかになった。次いで、年輪の中心位置を捉えるためにテンプレートマッチング法とハフ変換法を試みている。テンプレートマッチング法の場合は、年輪の中心から大きく外れる場合があったが、ハフ変換法では大きく外れることが少なく、外れても閾値の異なる複数点の計算結果に対し、多数決や、重心位置のアルゴリズムを用いることにより、大きな誤りを避けることができることを明らかにした。この結果、ハフ変換法の方が年輪の位置を決める アルゴリズムとして、より有効であると考えられた。すなわち、画像の正規化距離を用いて同一性を判断する手法では、ハフ変換距離を用いて年輪の中心位置周辺の矩形領域での画像を用いることで判別の確率が上がり、個体識別に有効であると結論付けられている。最も誤判別の少ない正規化距離の閾値は55となっている。結果からの考察、ならびに課題が整理され、1.木材木口の経年変化による割れ、ひび等にいかに対応するか、2.矩形の情報の上下左右の位置関係のマッチングを考慮に入れること、3.対象となる被写体木口の写真の平行性、4.マッチングに必要な最低解像度の数値化、5.節や傷などのパターン情報の活用などが挙げられている。

以上本論文は、林業の伐採現場での材積計測システムを開発し、その有用性と応用の可能性を考察するとともに、得られた木材木口面のデーターをトレーサビリティ向上に役立たせることを試みたもので、新しい研究手法で実践したことが高く評価され、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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