No | 129234 | |
著者(漢字) | 玄,文宏 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ゲン,フミヒロ | |
標題(和) | 改変型インフルエンザワクチン開発に関する基盤研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 129234 | |
報告番号 | 甲29234 | |
学位授与日 | 2013.03.25 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第3939号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 農学国際専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 現在わが国で用いられるインフルエンザワクチンは不活化ワクチンのみであり、皮下接種によるウイルス特異的IgG抗体の血中誘導を主体とするそのワクチン効果は決して満足できるものではない。この主たる原因は、抗原変異の激しいウイルス側にあるとはいえ、理論的に発症予防効果のみに留まり感染予防効果がほとんど期待できない現行ワクチンの改善を望む声は世界的に高まっている。応じて、国内における次世代インフルエンザワクチンとして感染予防効果が期待できる局所分泌型IgA抗体をウイルス侵入門戸である気道粘膜上に誘導する鼻腔接種不活化ワクチンの臨床研究がすでに進行しているが、アジュバント併用による副作用の懸念が指摘される。ワクチン効果を考えた場合、米国で使用される低温馴化型弱毒生ワクチン(FluMist®)の導入が最善であると思われるが、副反応の報告もあり今のところわが国に導入される可能性は低い。 これらの背景から新しいタイプのインフルエンザワクチンの開発が重要課題と認識されるが、その前提条件として現行不活化ワクチンより効果的で、FluMist®より安全なワクチン開発が望まれる。つまり、この視点から考えると、より高度に弱毒化された生ワクチンの開発、あるいは非増殖型(1回感染型)ワクチンの開発を検討することが妥当である。本論文では、新奇の方法によりウイルスの弱毒化を実施しその生ワクチンとしての応用性を評価することを目的とする。さらに、非増殖型(1回感染型)ワクチンの作成法とそのワクチンへの応用についても検討した。 第一章 HA-NA機能バランスを改変したインフルエンザウイルスの作出とワクチン効果 A型ウイルスは表面に赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)をもつ。HAはウイルスのシアル酸レセプターへの結合に関与し、NAはそのシアル酸を消化することでウイルスの遊離を制御する。したがって、HA-NA機能バランスはウイルスの宿主動物における増殖性と病原性を決定する。本章では、野生株とは異なるHA-NA機能バランスをもつ変異株を分離し、その増殖性、病原性を解析した。その結果、変異株はHAレセプター変異株であり、マウスにおいて肺での増殖性の低下により弱毒化していること、感染マウスは強毒株の攻撃に耐過することが明らかとなった。 第二章 9本鎖ゲノムをもつインフルエンザウイルスの作出とワクチン効果 A型ウイルスは8本8種類のRNA分節をゲノムとする。しかし、このゲノムの選択性は絶対的ではなく、ある条件下では9本鎖ゲノムをもつウイルスの作出も可能である。本章では、NS分節がコードする2種類の増殖必須タンパク質、NS1とNS2を別のRNA分節から発現させるようにゲノムを改変した9本鎖ゲノムをもつウイルスの作出に成功した。この改変ウイルスは野生株に比べ著しく増殖性、マウス病原性が低下していた。さらに、攻撃試験によりその優れたワクチン効果が認められた。 第三章 HA膜融合ドメイン欠損性非増殖型インフルエンザウイルスの作出とワクチン効果 A型ウイルスの増殖にはHAの膜融合活性が必要であり、膜融合ドメインを欠損させたウイルスは非感染性である。一方、正常なHAを発現する細胞上でこの非感染性ウイルスを増殖させることは可能である。この改変ウイルスを動物に接種すると一回は細胞に感染しウイルス抗原を発現する。本章では、このHA膜融合ドメインを欠損させた1回感染型ウイルスの作出に成功した。この改変ウイルスは、野生株に比べ増殖性、マウス病原性が低下していた。さらに、攻撃試験によりワクチンとなりうる潜在性が示された。 本研究では、ウイルスHAのレセプター結合部位の改変がウイルスを弱毒化する一つの手段として可能であること、また9本鎖ゲノムをもつウイルスはそれ自体が高度に弱毒されさらに高いワクチン効果があることがわかった。さらに、HA膜融合活性欠損ウイルスが半生ワクチンとして有望であることを明らかにした。総じて、これらの成績は次世代のインフルエンザワクチンを構築するための基礎知見として大いに貢献することが期待できる。特に、未だ実用化されていない高病原性鳥インフルエンザの感染予防ワクチン開発に繋がるブレイクスルーになる可能性を期待する。 | |
審査要旨 | 現在わが国で用いられるインフルエンザワクチンは不活化ワクチンのみであり、皮下接種によるウイルス特異的IgG抗体の血中誘導を主体とするそのワクチン効果は決して満足できるものではない。この主たる原因は、抗原変異の激しいウイルス側にあるとはいえ、理論的に発症予防効果のみに留まり感染予防効果がほとんど期待できない現行ワクチンの改善を望む声は世界的に高まっている。応じて、国内における次世代インフルエンザワクチンとして感染予防効果が期待できる局所分泌型IgA抗体をウイルス侵入門戸である気道粘膜上に誘導する鼻腔接種不活化ワクチンの臨床研究がすでに進行しているが、アジュバント併用による副作用の懸念が指摘される。ワクチン効果を考えた場合、米国で使用される低温馴化型弱毒生ワクチン(FluMist®)の導入が最善であると思われるが、副反応の報告もあり今のところわが国に導入される可能性は低い。 これらの背景から新しいタイプのインフルエンザワクチンの開発が重要課題と認識されるが、その前提条件として現行不活化ワクチンより効果的で、FluMist®より安全なワクチン開発が望まれる。つまり、この視点から考えると、より高度に弱毒化された生ワクチンの開発、あるいは非増殖型(1回感染型)ワクチンの開発を検討することが妥当である。本論文では、新規の方法によりウイルスの弱毒化を実施しその生ワクチンとしての応用性を評価することを目的としている。さらに、非増殖型(1回感染型)ワクチンの作成法とそのワクチンへの応用についても検討した。 第1章 HA-NA機能バランスを改変したインフルエンザウイルスの作出とワクチン効果 A型ウイルスは表面に赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)をもつ。HAはウイルスのシアル酸レセプターへの結合に関与し、NAはそのシアル酸を消化することでウイルスの遊離を制御する。したがって、HA-NA機能バランスはウイルスの宿主動物における増殖性と病原性を決定する。本章では、野生株とは異なるHA-NA機能バランスをもつ変異株を分離し、その増殖性、病原性を解析した。その結果、変異株はHAレセプター変異株であり、マウスにおいて肺での増殖性の低下により弱毒化していること、感染マウスは強毒株の攻撃に耐過することが明らかとなった。 第2章 9本鎖ゲノムをもつインフルエンザウイルスの作出とワクチン効果 A型ウイルスは8本8種類のRNA分節をゲノムとする。しかし、このゲノムの選択性は絶対的ではなく、ある条件下では9本鎖ゲノムをもつウイルスの作出も可能である。本章では、NS分節がコードする2種類の増殖必須タンパク質、NS1とNS2を別のRNA分節から発現させるようにゲノムを改変した9本鎖ゲノムをもつウイルスの作出に成功した。この改変ウイルスは野生株に比べ著しく増殖性、マウス病原性が低下していた。さらに、攻撃試験によりその優れたワクチン効果が認められた。 第3章 HA膜融合ドメイン欠損性非増殖型インフルエンザウイルスの作出とワクチン効果 A型ウイルスの増殖にはHAの膜融合活性が必要であり、膜融合ドメインを欠損させたウイルスは非感染性である。一方、正常なHAを発現する細胞上でこの非感染性ウイルスを増殖させることは可能である。この改変ウイルスを動物に接種すると1回は細胞に感染しウイルス抗原を発現する。本章では、このHA膜融合ドメインを欠損させた1回感染型ウイルスの作出に成功した。この改変ウイルスは、野生株に比べ増殖性、マウス病原性が低下していた。さらに、攻撃試験によりワクチンとなりうる潜在性が示された。 以上のように、本論文は、ウイルスHAのレセプター結合部位の改変がウイルスを弱毒化する一つの手段として可能であること、また9本鎖ゲノムをもつウイルスはそれ自体が高度に弱毒されさらに高いワクチン効果があることを示唆している。さらに、HA膜融合活性欠損ウイルスが半生ワクチンとして有望であることを明らかにしている。本論文の成果は、次世代のインフルエンザワクチンを構築するための基礎知見として大いに貢献することが期待できる。特に、未だ実用化されていない高病原性鳥インフルエンザの感染予防ワクチン開発に繋がるブレイクスルーになる可能性を秘めており、獣医学および医学の学術上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として、価値あるものと認めた。 | |
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